村人と剣士
見張り塔を降りて入り口を空ける。
ゾンビの死体やら血やらは、周囲の土とまとめて回収して少し離れた場所に埋めた。
墓地というわけでもないのだけれど、埋葬して墓石のようなものを置いて。
若い時はそれほどでもなかったと思うのだが、自分が親になってから、子供の事故とか死亡のニュースを見聞きすると異常に恐怖を感じるようになっていた。
それなのにゾンビとはいえ、自分で手をくだす羽目になるとは。
いつまでも感傷に浸ってもいられない。
ひとまず、南の谷側から川沿いに3m程度の土塁を設置していく。
珍しく川を泳ぐ魔物が見当たらなかったので、主塔を中心に周囲を土塁で囲うことができた。
城塞というよりもモット&ベイリー(丘と包囲地)、いやただの中庭か。
ゲームの時と違い、1日の時間が通常に戻っていた。
太陽も丸く、まだ昼を少し過ぎたあたりか。
喉が渇いた。
三角岬あたりの土塁に穴を開けて水を引き込む。
東崖あたりも水を引いて、水堀にしてやろうか。
そんなことを考えながら煮沸もせずに、川の水を飲む。
一息つく。
まずいな、イヤ水はうまい。
喉も渇くし腹も減る。
食料の確保をしないとマジで詰むぞ。
一旦、主塔に戻って、インベントリやらチェストやらを確認しよう。
あとは屋上菜園も。
中庭には、ニワトリが二羽、ヒツジが一頭いるが、最後の手段か。
主塔に足を向けようとすると、対岸から悲鳴と怒号が聞こえてくる。
心臓が早鐘を打つ。
ジャンプして足元にブロックを置く「バベルの塔」を試す。
うまくいったが、5つも重ねたところでキュッとなる。ゲームの時は全く平気だったのに。
ブロックの上に立ち、対岸を確認する。
村人風の男女が数名、子供もいる。あとは、剣士か。
殿でゾンビ達から村人を守りつつ、森を抜けてこようとしている。
主塔が見えたのか、こちらにほぼ一直線に逃げてくる。
ゾンビの数は見える範囲で4体。
向こう岸まで川幅が一番狭いところを探す、10mちょいってところか。
「バベルの塔」を降り、川幅狭くなっている付近の土塁に入り口をつくる。
「こっちへ!」
先頭の男性が気がつき、方向を変える。
こちらは、土ブロックで幅2ブロックの橋をつくり、向こう岸に渡る。
インベントリから、土を取り出し、先ほどの10トンファルガッターと同じものを中空に創り出す。
少し横にずれ、橋に村人達を誘導する。
男の後ろには、女性と子供が二人。夫婦だろうか。
男性が女性と子供を先に渡らせる。
「気をつけて」
言葉が通じるかわからなかったが、確かに女性が
「ありがとう!」と言った。
後を追うように、男性も頭を下げながら渡って行った。
あとは剣士とゾンビが4体、いや10体近く引き連れてきている。
やばいな。
と思ったが、剣士を追いかけてきたのは1体だけで、他は森の木陰から出てこない。
出てきたゾンビは体を燃やしながら、追いかけてくる。
こっちでも燃えるんだw
燃え上がるゾンビを剣士が斬り伏せて、こちらに向かってくる。
剣士は燃えなかったな。俺は燃えたのに。
「助かった!」
そう言いながら橋を渡る。
10トンファルガッターの出番はなさそうなので、インベントリにしまいながら俺も橋を渡り、橋の土ブロックを回収していく。
ゾンビは木陰からこちらを遠巻きに見ている。
渡ってくる様子はなさそうだ。
土塁を塞ぎ、一息つく。
「助かりました、ありがとうございます」
村人の男性が声をかけてきた。




