モーニング・オブ・ザ・リヴィングデッド
New World 1日目
視界が晴れ、俺は【はじまりの土地】へ戻った。
主塔になる予定のベランダ付平屋建て【はじまりの砦】が見える。
ただ、ブロックじゃない。
まじ石造りのベランダ付き平屋建ての砦。(一部土壁)
俺が作ったとは思えないほどしっかりしているし味も出てる。主塔と呼ぶにはほど遠い平屋なのは変わらないけど。
周りを見渡す。
目に飛び込んでくる世界も全てブロックではなく現実だ。
もしくはリアルなゲームか。
すげーな最近の無料アプリ。これがVRか。
「イヤ違う、落ち着け。うん、落ち着こう。」
自分に言い聞かせてみるが、全く落ち着く気配がない。心臓がバクバクしてる。
周囲を確認するも、ただ眺めているだけで情報として頭の中に落とし込めていないのがわかる。感覚はあるけど目に飛び込んでくるのはゲームだったはずの世界が、リアルな風景に置き換わってしまっているから。
オープンスペースどこいった。
まずは状況を確認しよう。
ニワトリとヒツジはいるが、周辺に魔物はいない。
……いや居た。子供のゾンビだ。
しゃがんで何かしている。
ああコイツ、ニワトリを喰ってやがる。生きたまま。
ヤバイ、吐きそう。
…………夢中で食らいついているおかげで、こちらには気がついていない。
距離は少しある。
吐きそうなのを必死に抑え、ゆっくりと、刺激しないよう、ゾンビから距離をとるように、少し大回りしながら砦に近づく。
一歩ごと草を踏む音が大きく響くような気がする。
思った以上に遠く感じる。
半分ほど砦に近づいたところで、ヤツの意識がこちらに向く。
顔をグリンと回し、目を見開く。
食い散らかしたニワトリを放り投げ、歯を剥き出しにしてこちらに走ってくる。
同時に俺も走る。
「アグゥアーーーーーーーーー!」
心臓が張り裂けそうなくらい脈を打っている。
空気抵抗ってこんなにあったっけ?
装備している防具がガシャガシャ音を立てる。
足は向こうの方が早い。
だが間に合わない距離じゃないはずだ。
砦の扉に手が届く。
よし、間に合った。
扉をすばやく開き、体を滑り込ませる。そして激しく閉める。
ガンッ!
間一髪で子供ゾンビが扉に激しくぶつかる。
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
両手で扉を押さえながら、ゾンビの侵入を食い止める。
バカジャネーノバカジャネーノバカジャネーノ!
ふざけんな! シャレにならねーよ!
どうすんだよコレ!
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
扉を叩く激しい振動とともに、甲高い声が扉一枚挟んだ向こう側から聞こえる。
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
ゾンビは扉を叩くばかりで外開きの扉が開く様子はないが、扉には鍵がない。
ってか、これ引っ張られたらアウトだろ。
それに扉は木製だ。いつ壊れるかもわからない。
どうすればいい?どうする。どうする。
自問自答ばかりで、頭が全く回らない。
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
女神の言葉を思い出す。
「もう死んで復活とかもできないし!」
くそ。
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
自分の手を見てみる。
ブロックではない現実の手が見える。握ったり閉じたりしてみる。
本物だな。これで襲われたら、今度こそ死ぬのかな。
そういえばアイテムは?
腰のあたりに視線を向けるが特に何も持っていない。
ガンガンガン。
「ウヴァーーーー!」
うるせーよ!くそ、インベントリは?。
心で考えた瞬間、持っているアイテムリストが頭の中に流れ込む。
石の剣、と心の中で考えたら右手に石の剣が現れた!
キタコレ!
うぉ!かっこいー。いや違う。そんな場合じゃない。
これでやりあうか?
でも、今度も噛まれてゾンビにならない保証なんてない。
土のブロックは?
そう考えたら、石の剣が消え、土のブロックが中空に現れた。
よし!
扉が破壊されても大丈夫なように、少しずつ入り口全体を塞いでしまおう。
そう考えていると、宙に浮いた土の塊が、ぐにゃりと形を変える。おおっ!?
自在か?
ぐにゃりと変形する土で、扉を覆っていく。
固定化したいと思うと、重さが加わり固定化される。
ただ土のブロック一つ分のためか、広い範囲を塞ごうとすると厚みがなくなる。
ある程度塞いでから、また土ブロックを取り出しさらに塞いでいく。
しばらくして、入り口全体を土壁で覆うことができた。
外ではまだ、扉を叩く音とうめき声が聞こえる。
ただその声と音は、さっきよりも少し小さく聞こえるようになった。