例の白い部屋
New World 0日目
「おまたせー! New World実装したよー」
いつものお気楽な声とともに、甘い香りが漂ってくる。
「それは銀盃花の香り。私についた添え名、銀盃花よ。」
緑の草原に、白い小さな花が咲き乱れ、見渡す限り銀盃花で埋め尽くされている。
そして、目の前には絶世の美女が立っていた…………
ということはなく、代わりにグルグル眼鏡でボサボサな三つ編みのちんちくりんな少女が寝転がっていた。
ちなみにブロックではなく、細部までリアル。スウェットの毛玉まで再現。久しぶりにちゃんとした人間だ。いや神様か。
「うぇっ!? マジで???」
寝転がっていた少女が素っ頓狂な声を出して立ち上がる。
「……えーと、ウェヌス様、ですよね?」
「ちょっと今忙しいから話しかけないで!」
「あ、はい」
なにやら中空に両手をわたわた振り回しながら、
「カタカタカタ、ターン」とか口走っている白いスウェットの少女をしばらく見守る。生暖かく。
「もう、いいや」
あ、何かを諦めたらしいw
「ホントはね、トイレに居ながらでも3Dホログラムで、女神の正装をした私が投影されるはずだったんだけど、何かバグったみたい、ああ、そうそう私が銀盃花のウェヌスよ」
「そんなことより、俺は帰れそうなんですか?」
「無理、だって私が帰れないし」
グルグル眼鏡でボサボサな三つ編みのちんちくりんなウェー様は、再び涅槃のポーズに戻りながら絶望の言葉を吐き捨てた。
バカジャネーノ?
「バカジャネーノ?」
「心の声だだ漏れだよ」
「申し訳ございません」
だだ漏れさせたんだよ。
「ところで俺の砦とか見当たらないんですが、ここがNew Worldってやつですか?」
「んーと、ここはアレ、女神とかとファーストコンタクトとかする場所。ほら、あるでしょ。異世界転生モノでトラックに轢かれて最初に来たりするとこ」
「へー、ここはブロックじゃないんですね。」
久しぶりにブロックじゃない自分の手を見ながら誰となくつぶやく。
「ここだけじゃなくて、向こうに戻ってもブロックじゃないよ」
「向こうって妻と子どもがいる場所じゃなくて、【はじまりの土地】ですよね?」
「そうだよ、もう色々大変だったよ。ネットに落ちてるありったけのMOD(改造データ)組み合わせて作ったから、多分ちょーおもしろいと思うよ!もう死んで復活とかもできないし!」
「バカジャネーノ?!」
「いやいやw ふつー死ぬでしょ。ゲームじゃないんだからさwww」
「いやいやw 今までゲームだったよね。この後、直下掘りしてマグマダイブアイテム全ロスとか、作った村人が全てゾンビになってたとかの「あるある」を色々やる予定だったのに」
「このゲームやったことないんだよね?」
「それはともかく、本当に帰れないんですよね」
「んー、そうね。全く手がないわけじゃないわ」
お、帰れそうな御言葉キタコレ。先に言えや、駄女神。
「ワタクシは何をすれば、元の世界に帰れるのでしょうか。」
「ヒロインの私を落とせば帰れるわよ」
「バカジャネーノ?」
「他に罵倒の言葉知らないのw」
「いや俺、落とし神とかじゃないんで。 っていうかギャルゲとかやったことないんですよ。あ、プ○ンセス○ーカーで娘と結婚したことならありますけど」
「マジキモイ」
「いやいやいや、スウェットのぐるぐる眼鏡に言われたくないわw」
そう言い返すと、目の前のちびっこがムッとしながら立ち上がり、魔法少女の変身シーンばりの秒数とコマ数を使いながら、まばゆく光り出す。
「ジャジャーン、これでどうよ!」
そこには『ああ、○○様』で神様が着ていそうな、少し露出度高めの格好をした絶世の美女がいた。
涅槃のポーズで寝転がって。
変身の時立ち上がってたよねw
「んー、他に方法はないですかね?」
とりあえず、変身シーンはスルーしておく。
「ないわね」
バーカバーカ。
「……えーと、ちなみに落とすって具体的に何すればいいんすかね? 結婚とか?」
「ああ、そういうんじゃないわよ、私が勇者だと認めればクリアできるわ」
「じゃあ俺勇者なんで。お願いします」
「あんたのどこが勇者よ。でも多分大丈夫よ。とりあえずこの後、ニートな日本人を56万人くらい根こそぎこっちの世界に呼び寄せるから。その中に一人くらい勇者現れるでしょwww」
やめて差し上げてw
「じゃあ、あんたも頑張ってね。期待はしてないけどー」(カタカタカタ、ターン)
「ちょw おまwww」
そうして俺は、エンターキーを叩く音とともに【はじまりの土地】に戻った。




