守護者
前回までのあらすじ
「城門塔ブルクトーアの外、人狼隊ヘルハウンズと沼鬼スワンプトロル3体が交戦中!」
崩れた壁の中から這い出してくる沼鬼。
その恐ろしい姿を近い距離で見たおかげで、全身の肌が粟立つ。
前回市庁舎一階で遭遇した時の方が至近距離だったが、あの時は死の予感みたいなもので感覚が麻痺していた。
今回は沼鬼という、異形な存在そのものに嫌悪と恐怖心を抱いているのを感じる。
その姿を例えるなら、両生類のヌメヌメした鱗肌と、鰐のような凶悪さを持った体毛のない爬虫類系ゴリラ。
実際の(といっても動画とかで見た限りだけど)、鰐もゴリラも熊もかなり素早いから、その違いだけは救いかも知れない。
ただ鈍いとはいえ、そのスライドの大きい歩幅で追いかけられたら、逃げ切れるかどうか怪しいところではある。もちろん試したいとも思わない。
壁の向こう側の人狼隊が激しく気になるのを紛らわせるように、くだらない妄想で現実逃避を試みるが当然何の解決にもならない。
溜息を吐きつつも、まずは目の前の敵をなんとかしよう。
「行け!」
俺を囲むように従っていたクッコロ騎士団の前衛、赤い鬣のヴァハと暗い金髪のフォードラの腰を手で押し、「散開して挟み込め」と指示するように、嗾ける。
即座に駆け出した二人は、崩れた壁に手を掛け、穴から這い出そうとしている沼鬼の目の前で左右に分かれる。
目の前で素早く左右に散開するヴァハとフォードラの動きに翻弄され、さらに左右の死角から攻撃を受けた沼鬼は、どちらに対応していいのか判断する余裕も、手にしていた棍棒を振り回す暇も与えられず、左右からの斬撃で苦痛の声を上げる。
「グギャァァァァアア」
俺の胴体よりはるかに太いその右腕は、棍棒とともに切り落とされ、裂かれた醜い腹からは、内臓がズルりとはみ出し、バシャバシャと音を立てながら地面に流れ落ちる。
そして切り裂かれた腹から、周囲に広がる悪臭。
失った右腕と残った左手で、溢れる内臓を押しとどめようとしてバランスを崩し膝をつく沼鬼。
驚異の再生能力も間に合わず、ゆっくりと意識を失うように、その醜い巨体は大きな音を立てて泥濘に沈んでいく。
よし!
崩れ落ちた沼鬼の首をヴァハが切り落とし完全に絶命させ、その横ではフォードラが、穴の向こう側を警戒しながら安全確認。
近づく間、インベントリから狼重鉱槍を取り出し、左右の呪鳥 ネヴァンと青みがかった金髪バンヴァに投擲用として渡していたが、後続の姿はなし。
報告では外に3体だったはずだが、侵入を試みた個体は1体だけということか。
ということは、残る2体の沼鬼はまだ外で交戦中と。
「ふうっ」
見ていただけだが、気がつけば無意識のうちに息を殺していた。
深呼吸をして息を整えつつも、歩みをさらに早める、というよりもどちらかといえば、左右の巨人に遅れないように。
こちらが前衛に交流するより早く、安全確認していたフォードラが、雄叫びをあげながら穴の向こうへ駆け出し、その後をヴァハがすぐさま続く。
「剣虎兵が合流したようです」
使い魔の戦鴉がもたらした情報をネヴァンが伝えてくる。
ネヴァンと使い魔は会話ではなく、ニュアンスを共有できるらしく、詳細は伝わらない。
吉報に聞こえるその情報とは裏腹な、前衛の動きにちぐはぐな印象を感じる。
ヤダヤダ。
「急ぐぞ」
後衛二人を先導させ、安全確保の後に崩れた壁をくぐり外に出る。
外には激しい悪臭が充満していた。
周辺を見渡すと、すでに幕壁の外で行われていた戦闘は終了していた。
外門砦から伸びる橋の袂には、今突撃していった前衛二人と、その足元に倒れる沼鬼。
その奥には、こちらも倒れた沼鬼に、未だ食らいついている二頭の剣虎。
報告通りなら、外の敵はこれで全てのはず。
そのさらに奥、壁と川に挟まれ狭くなった南端、何かを守るように仁王立ちの人狼隊の子供たちと、その後ろで動かないルフを抱きかかえ、泣いている五虎退の姿が視界に飛び込む。
幕壁外側 イメージ
終わりゆく月 23
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
死亡:
人間 1名
ドヴェルグ 1名
詳細は別紙にて
住民総数:150
内訳:
招来者:6
人間:106
ドワーフ:9
エルフ:6
吸血鬼:4
ハーフエルフ:4
ダークエルフ:3
熊猫人:2
人狼:3
猫人:2
白虎人:1
龍人:1
白熊人:1
戦狼人:1
半竜人:1
以上




