勝ち鬨
主塔方面。
主塔と幕壁までの距離がおよそ2m。一番狭くなっている場所。
崩れた幕壁の下部から、主塔に向かって沼小鬼がわらわらと這い出してくるのが見える。
《石壁》
先ほどと同様に、崩れた幕壁の隙間めがけて石壁を走らせる。数匹を巻き添えに穴を塞いでいくが、それより早くなだれ込んできた沼小鬼が石壁の左右に溢れる。
主塔側へは7匹。
「ギャッ!」
イシルウェさんが沼小鬼を射抜く。
「グェェ!」「ギャェッ!」
続けざまに走射で2匹に矢を命中させ絶命させる。
あんな小さい的に走りながら弓を射るとか、ハーフエルフマジすげー。
目の前で射殺される仲間を目の当たりにし、続くはずの後続が途切れて動揺している残りの沼小鬼を、武装した住民たちに包囲されていくのが見える。
壁側の沼小鬼8匹ほど。突如石壁が目の前に現れて進む方向を遮られた形になり、必然的にこちらに押し寄せるが、まだ崩れた幕壁の穴を塞ぎきれていない。
ガキッ!!
ッ!
間に合わないと思った瞬間、醸造者のドワーフたちが手斧で沼小鬼を押しとどめる。
「フンッ!」
沼小鬼の小さな体が、こちらも小柄なドワーフの怪力で押し返される。しかし彼らの信条である『数こそ力』により、後続の沼小鬼がはじき返されてきた仲間を生きた盾にして、ゲタゲタ笑いながら更にこちらへ突進してくる。
《石壁》
ドワーフと沼小鬼の間にできたわずかな隙間、両者の間に3mほどの高さで石壁を顕現させ、そのまま押し返すように、沼小鬼の側に厚みを増していく。
「ギャウギャウ! ススめねェゾ!!」
「グギャァア、オスな! オスんじゃネェ! コロすぞ!!」
「ク、クルシィュャッガギュャッ」
幕壁と石壁の隙間が狭くなっていくたびに悲鳴と怒号が聞こえて来るが、そのまま幕壁が崩れない程度に石壁を押し込んでいく。
ブチブチャブチッガキガキゴギャゴギャブチブチブチッブチュパキャ!
くぐもった嗚咽と声にならない叫び、固いものと柔らかいものが一緒くたに潰れていく音が混ざり合いながら響く。
「オオゥ、こりゃぁまたえげつないのぅ」
虚をつかれたような声で眉間にしわを寄せながらドワーフがつぶやく。
「あいつらは敵だ」
まあな、と合図地を打つドワーフたちと周囲を警戒する。向こうもどうやら終わったようで、槍で地面に縫いあわされ、もう反撃どころか動くこともままならない敵を執拗に攻撃しながら、興奮した様子で住民が鬨を咄と揚げている。
「「応ォォォーーーーッ!!」」
ああ、勇猛鼓舞で、気持ちが高ぶってるのか。まあ、それがなくてもほとんどが初陣だし、沸き立つのもわからないでもない。でもまだ終わってないよ?
アホほど顕現させた石壁の周辺を、(同じような髭ばかりで)名前を聞いたはずだが、全く思い出せないドワーフのおっさんたちに警護されながら壁の修復を急ぐ。
崩れ方が壁の下部から徐々にだったおかげで、沼鬼の侵入に至らなかったのは正直助かった。もし侵入されてたらと考えるとゾッとする。周辺ではまだ泥粘漿の排除作業が続いているようだが、幕壁の周辺にはもう姿は見えない。さっさと壁の補修を終わらせて南側に向かわないと。
「南壁崩壊! 敵の増援が侵入!」
イシルウェさんが声を張り上げる。
南壁?!
あそこは川に一部接しているけど、かなり分厚く強固に壁を設置したんですがそれは!
今回はちょいと神の手を
歌う月26
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
移住希望者:5名
エルフ(5)
死亡:人間1名
詳細は別紙にて
住民総数:149
内訳:
招来者:5
人間:106
ドワーフ:9
エルフ:6
吸血鬼:4
ハーフエルフ:3
ダークエルフ:3
熊猫人:2
人狼:2
猫人:2
白虎人:1
龍人:1
白熊人:1
ドヴェルグ:1
戦狼人:1
半竜人:1
以上




