スワンプスライム
目の前で蠢く黒い地面。
多分これが泥粘漿だ。
インベントリからマグマを取り出し、黒い泥にめがけて放り投げると、泡立つような低い異音。
「ヴヴォッ」
マグマの熱で蒸発し、残りは雨で冷やされ一緒に固まる。
「こっちにもいます!」
イシルウェさんが叫ぶ。
ゴットホルトがいた周辺が一番黒く広がっているが、周囲の壁にはまだいくつも黒い影が見える。よく見ると、周りの壁も徐々に崩れ始めている。
敵の侵入経路はおそらく川。
泥粘漿は流れてしまうため水流のある川を渡らないが、沼鬼と沼小鬼は苦にしない。
主塔横の幕壁は川に直接面している上に、主塔増築計画もあって、二重城壁を整備していない。
外塁の整備を優先したのが仇になったか。
「泥粘漿だ、足元に気をつけろ!」
暗くなった砦内では雨が激しさを増し、足元がぬかるんでいる。
泥粘漿は素早く動くことはないが、踏んだり時折身を震わせて飛び散る強酸性の泥で武器や防具が溶ける。
激しい雨音のせいで声も通りにくいが、よく通るヴァレッタ聖歌隊の歌声のおかげで怯えの気持ちが吹き飛ぶ。
「【ヴァイス】!」
突然、後ろにいたあんちゃんが叫びだした。
叫んだかと思ったら突然手を振り広げ、踊りながら虚空を叩き出す。
なんだろう、ものすごく心配になる。大丈夫かな。
叩いた虚空から浮かぶ光るエフェクト。
それとともに、白地に赤と黒を基調とした和装の3人組ユニット、【ヴァイス】の子供たちが詠唱と共に踊りだす。
ああ、リズムゲーか。
その直後、【ヴァイス】の詠唱であぶり出された泥粘漿が、砦の内部のあちこちで淡く光り出す。
「泥粘漿です!」
ぎゃー、泥粘漿大杉。
雨で流れて広がったのか、砦の内部は水たまりにプカプカ漂ったり、ぬかるみの中で蠢いている泥粘漿で溢れかえっていた。
救いは個体自体が全て小さめというところか。
「訓練通りに! 焼けた鉄棒で泥粘漿に対応させろ」
熱した鉄棒を使い、住民たちがわらわら対応する。
沼鬼に焼石弾丸は効果がなかったが、泥粘漿対策に、松明や熱した鉄棒・石棒をドワーフに用意させてある。
ただこの雨で松明は使えない。地面がかなりぬかるんでいる中、水たまりに熱した棒を突っ込む対応でどこまで効果が出るものやら……。
ひとまずそちらは任せて、こっちは壁の下の泥粘漿をなんとかしないと。
あんちゃんにマグマ攻撃を手伝ってもらいたかったが、【ヴァイス】の指揮?で忙しそうだ。
激しい雨が目に入る。
(俺だけじゃないが)ずぶ濡れになりながら、インベントリからマグマを取り出しては泥粘漿に投げつけ、仕舞っては地面を石壁で補強していくという、まどろっこしくも地道な作業。
投げつけたマグマが雨のおかげで一瞬で冷やされて、一部が黒曜石に変化していく。
インベントリには膨大な量のマグマをストックしてあるから、気にせずにどんどん放り投げていく。
あの黒曜石、かなり固そうだな。後で採取しておかないと。
最初に崩れた箇所から幕壁の端までの泥粘漿を片付け、壁下の補強も完了。
壁の向こうからは、複数の魔物唸り声が聞こえてくる。
いるよ、壁のすぐ向こう側に。
崩れさえしなければ問題ない。
急いで逆側の壁下で蠢いている泥粘漿にマグマを投げつけていく。
もう少しで二重城壁部分の補修完了、というところで一気に幕壁の下部が崩れだす。
おぅ、時間切れ。
間に合わなかったですか。
そこでふと脳裏に浮かぶ「内壁を増築する方が早かったのでは?」という考えを頭から追い出すアフターカーニバル。
歌う月20
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
移住希望者:2名
人間(1)
戦狼人(1)
死亡:人間1名
詳細は別紙にて
住民総数:143
内訳:
招来者:5
人間:106
ドワーフ:9
吸血鬼:4
ハーフエルフ:3
ダークエルフ:3
熊猫人:2
人狼:2
猫人:2
白虎人:1
龍人:1
白熊人:1
エルフ:1
ドヴェルグ:1
戦狼人:1
以上




