崩落
晦冥広がる雨闇の血溜まりの中。
ずぶ濡れになりながら、ザシャくんに覆いかぶさるように首筋に噛みつくゴットホルトさん。
なんで?!
いや、今は理由なんてどうでもいい。
インベントリの狼重鉱槍を顕現させながらゴットホルトさんに近づき、手元が狂わないように背中を踏みつけ動きを止める。
穂先ではなく柄尻をゴットホルトさんの顎の付け根に添え、ザシャくんに当たらないように、斜め上から勢いをつけ顎関節を砕く。
ゴグッ!!
思っているよりこもった音が響く。
関節が砕かれ顎が片方外れた状態、力が入らなくなっても甘嚙みをするように、ザシャくんの首筋から離れようとしない。
暴れる二人の間に差し入れた槍をテコにしてゴットホルトの巨軀をひっくり返すと、力なく石壁の方へ転がる。
「誰か来てくれ!」
叫びながらザシャくんを引きずり寄せる。
「ゴボッ……」
自分で左首筋を抑えているが、圧迫しようにも傷口が広すぎて血が止まらない。治癒の奇跡を使おうとしているのか、動く口元からはいつもの詠唱ではなく、漏れる空気と血液が混ざった濁音が響く。
口からもどす黒い血が溢れ、苦痛に歪んだ顔が俺を見上げる。
肩口から頸動脈あたりにかけて広がる傷口からはおびただしい量の血が溢れだしている。
インベントリから出した布を何枚当てても全く止血できない様子を見ながら、浮かんでは消える「もうダメだ」と言うネガティブな未来を無理やり思考の外に追い出す。
「誰か! イーライ神父をっ!」
雨音が激しさを増し、叫ぶ声がかき消される。
「バァンさまっ!」
異変を察知してくれたのか、モットーくんが主塔から飛び出してくる。
大丈夫、これで絶対に助かる。絶対に。
転がるゴットホルトの方に視線を戻す。
顎が砕かれた痛みを感じているようには見えないが、漆黒の深淵を思わせる両目からは、黒い涙が流れているようにも見える。
だが表情は虚ろで感情を読み取ることができない。
重い体を制御できず、緩慢な動きで石壁を背にしながらこちらに向かって起き上がろうとしている。
そのぬかるんだ足元からは、ガラガラと音を立てながら幕壁の一部が崩れ出す様子が見える。
ああ、そうだ。
あの時、主塔から外を見た時に感じた違和感の正体。
あれはゴットホルトがいたからじゃない。
幕壁の石壁が動いたのが目に映ったんだ。
崩れる幕壁の隙間からは、沼小鬼の黄色く光る目がこちらを覗いている。
歌う月15
住人数についての報告
報告者:モットー ドリュアス
移住希望者:5名
人間(5)
死亡:人間2名
詳細は別紙にて
住民総数:137
内訳:
招来者:5
人間:102
ドワーフ:8
吸血鬼:4
ハーフエルフ:3
ダークエルフ:3
熊猫人:2
人狼:2
猫人:2
白虎人:1
龍人:1
白熊人:1
エルフ:1
ドヴェルグ:1
以上




