デブリーフィング
「大勝利ですね!」
あんちゃんのバカっぽい声が響く。あの(よく言えば)ポジティブ思考にはなんども助けられてる。
「バカは放っておいて、第一回考えても無駄かもしれないけど敵の考えてることを考えたり対応を反省したりする会議を始めまーす」
なぜか進行している興里にみんなが頷く。俺も。そしてあんちゃんも。
「なんでもいいからとりあえず言語化してー。何が役に立つかわからないからねー」
とりあえず、残務処理でぐったりしながら周りに丸投げして椅子に体を投げ出す。本当は机に突っ伏したいほど疲れてるけど、そうしたらたぶん寝る。我慢。
「目的がわからないですよね」
「目的があるかどうかすら怪しいですよ」
「仲間を食べてましたね」
「組織的な攻撃は皆無でしたが、事前偵察と侵攻退却には意図があるように感じました」
「戦意喪失による退却ではなかったな」
「ゴブリンとトロールって仲間なの?」
「共生関係にあると言われていますし、大元を辿ればエルフやゴブリン、コボルトとも同源とも言われています」
「アレと一緒にされるのは不愉快だ」
「侵攻前の数日間に感じていた違和感を考えると、意図がないと言う方が不自然だと思います」
「でもあいつら馬鹿よ」
「戦争目的の定番といえば食料に資源に領土、あとは名誉とか宗教?」
「お腹空きました」
「個体が増えすぎて食糧不足とか?」
「ウェヌス様に敵対しているという線はあるかもしれませんね」
当然のことながら、魔物が何を考えているかなんてわかるはずもない。会議ってのは踊るけど進まないものとはいえ、どこにヒントがあるかわからない。
朗報が一つ。
小烏丸の腕がいいのか、刀剣の性能差かはわからないが、追撃戦で小烏丸の一太刀が殿の泥鬼の腕を切り落としたらしい。
「その腕がこちらです」
世界の料理ショーのグラ◯ム・カーみたいに泥鬼の腕をテーブルに出すんじゃねーよ。グロいわ。
なんで持ってきたし。あと出したし。
「そういえばトロールの腕って生えてくるの?」
「火で傷口を焼かれない限り、時間はかかりますが欠損部位を再生させられます」
うわぁーやだな。
まあこれで、魔法が付与された武器じゃなくても倒せることがわかった。
神話によくある、古い神には石や青銅製の武器が効かず、質の良い鉄素材の武器が必要、みたいな認識でいいんじゃないかな、多分。
アルフォンスさんとゴットホルトさんの容態は、よく言えば悪化しない程度に安定しているが未だ完治する様子は見えない。
「私の力が足りず申し訳ありません」
俯く司祭のイーライさんの言葉にザシャくんが独り言つ。
「神父様がいらっしゃらなければ今頃二人は……、僕にもっと力があれば」
「今回の件は、そもそも俺の判断ミスだ。二人とも気にやむ必要は全くない」
今回のことで痛感したのは、自分で何もかもやりすぎたということ。
特に戦闘では誰かを司令官にしないと俺の脳みそが焼き切れる。あと精神的に耐えられない。
戦闘を指揮するってことは、場合によっては100人を助けるために5人を捨てるとかしろってことだろ。あるいは作戦遂行のために部隊を捨て駒にするとか。自分が楽する方法を考えないと、絶対どこかで取り返しのつかないことをしでかす。
どっかの俺Tueeeチートが何とかしてくれよ。
テンプレなら、あんちゃんか興里が国王とかに利用されないように、すごいチートを隠していてハーレム作ってどっか旅に出て料理チートとかしちゃう。いや、助けてよ。
むしろ俺が逃げ出したい。
魔物相手に政治が絡まないのは救いかもしれないけど、とにかくやらかす前にいろいろ整備(責任転嫁)していかないと。
閑話休題。
共通の敵というのはやはり効果的な様で、人間側の人狼へのわだかまりが戦闘前より薄くなった気がする。
特に護衛の二人を助けたという、非常にわかりやすく受け入れられやすい英雄的行為は一瞬で拡散し、吟遊詩人でもいれば、叙事詩が奏でられる勢いで戦勝会は盛り上がっている。
救世主願望だっけ? いや違うな。英雄主義でいいのか。
つい先日のいざこざや冷たい視線を浴びせたのを忘れたわけじゃないだろうけど、よくもまあそんな熱い手のひら返しを、とか思わないでもないけど、まあどうでもいいや。
その他議題とは関係のない内容、住民による軍事訓練の必要性や、協会設置の要望やら市庁舎の再建案、住宅不足による住民同士のいざこざ、防衛線の再整備に敵情把握、周辺の生き残り捜索の必要性などなどに話が拡散していったので、それらは別の機会に議題を設けるということにして散会。
というか眠い。もう寝ていいんだよね?