トンネルの成長かんさつ記ろくノート⑤
1月5日(火) くもり、ときどき雨
トンネルの直径が、十円玉より少し大きいくらいになって、ついに種のはばよりも大きくなったので、種の部分はぜんぶトンネルの穴にけずられて、完全になくなってしまった。だから今、トンネルは、まわりに何もなくて、ただ穴だけしかのこっていない。穴だけになったので、トンネルに指をかけて持ち上げてみても、もうぜんぜん重さをかんじない。穴だけになったトンネルは、横から見ても上から見ても、そこにはまったく何もないように見えて、前から見たときだけ、トンネルの穴があることがわかる。
今日、トンネルのむこうには、らくがきがある。えんぴつや、色えんぴつで書いたみたいな、ぐちゃぐちゃの線が、いっぱい空中にういているのだ。そのらくがきの線は、えんぴつも色えんぴつもどこにもないのに、線だけで、勝手にどんどんのびていた。でも、と中で、小さな犬みたいなのがやってきて、空中にういているらくがきの線を、ゴシゴシと食べはじめた。ゴシゴシ食べる、というのは、その小さな犬が、消しゴムにそっくりの見ためで、らくがきの線に口をおしつけて、ゴシゴシと、こするようにして線を消していたのが、まるで、線を食べているように見えたからだ。
昨日よういしておいたピンセットを使って、その消しゴムの犬を、つかまえてやろうとしたけど、うまくいかなくて、にげられてしまった。そのかわり、ピンセットの先に、消しかすがくっついてきた。それで、よく考えたら、これって、消しゴム犬のウンチなんじゃじゃないかと思って、くさくはないけど、ちょっといやだったので、その消しかすはトンネルの中にほうりこんで、もどしておいた。
午後から、たけしの家にあつまって、みんなでトンネルを見せあいっこした。
たけしのトンネルだけ、ほかのにくらべてすごく大きく育っていて、おどろいた。たけしのトンネルは、もう、にぎりこぶし二つくらいなら、らくらく入る大きさの穴になっているのだ。
たけし以外のやつのトンネルは、だいたいどれも、おんなじくらいの大きさに育っていた。でも、おんなじ大きさのトンネルでも、トンネルの先にある世界は、それぞれちがっているようだった。トンネルがつながる世界は、トンネルの大きさだけじゃなく、さいしょの種によっても、いろいろちがってくるものなんだろうか。みんなのいろんなトンネルがのぞけて、今日は、とてもたのしかった。
でも、たけしのトンネルだけあんなに大きく育っていて、正直くやしい。どうしたら、そんなにトンネルがよく育つのかと、たけしに聞いてみたけど、「これは、きょうそうだからな。ライバルに、トンネルがよく育つひけつなんて、教えられるわけないだろ」と言って、教えてくれなかった。ちくしょう、友だちがいのないやつめ。
たぶん、たけしは、トンネルに、よっぽどいいお供えをあげているんだと思う。そのお供えがなんなのか、知りたいものだ。
今日のお供えは、また、手作りの筒にした。あと、夕食につかったちくわが冷ぞう庫にのこっていたので、それもこっそりもらって、トンネルにあげた。