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トンネルの成長かんさつ記ろくノート⑦

 1月7日(木) 晴れ


 やった! トンネルが、昨日よりも、すごく大きくなっている!

 昨日は、トイレットペーパーのしんくらいの穴だったのに、今日おきて見たら、もう、サッカーボールがらくらく通りぬけられる大きさになっていた。おととい見たたけしのトンネルよりも、ずっと大きい。もっとも、たけしのトンネルだって、この二日で、さらに大きく成長しているだろうけど。でも、きっと、昨日までよりも、差はちぢまっているはずだ。

 たけしのトンネルに追いつけるように、今日も、あのはい材おき場から、お供えにするためのパイプ管とタイヤを、たくさん拾ってきた。トンネルの大きさきょうそうは、おそらく、あのはい材おき場を知っているたけしと、けんじとぼくとの三人が、一位あらそいをすることになるだろう。まけないぞ!


 今日、トンネルのむこうには、たくさんの小さなテントがある。色とりどりの、ハンカチで作ったような、三角のテントだ。テントのまわりには、布でできているように見える木や、リボンでできているように見える花が、たくさんはえていて、地面は、茶色いところも、緑のところも、白っぽいところも、まるでフェルトみたいだ。そこには、人間みたいな物も、動物みたいな物もいるけど、それは、だいたい、ジュースの缶くらいの大きさで、毛糸であんだぬいぐるみみたいなすがたをしている。どうやら、今日トンネルのむこうにあるのは、毛糸のぬいぐるみたちがくらしている、町のようだ。

 毛糸のぬいぐるみの人間は、みんな、とおくからトンネルを見るだけで、なかなかトンネルに近づこうとしない。でも、ぼくが、ちょっとトンネルのそばからはなれたあと、また戻ってきてみると、一人の毛糸のぬいぐるみが、馬の毛糸のぬいぐるみといっしょに、トンネルのまん中あたりまで、入ってきていた。チャンスだと思って、トンネルに手をつっこんで、毛糸のぬいぐるみをつかまえようとした。でも、毛糸の人間のほうは、にげてしまって、毛糸の馬のしっぽだけ、なんとかつかむことができた。だけど、毛糸の馬も、しっぽをつかまれてもにげようとして、それでも、ぼくがしっぽの先をはなさずにいたから、毛糸の馬は、しっぽの先から、するすると毛糸がほどけていった。

 トンネルのむこうに戻った馬は、体が半分くらい、ほどけてしまっていた。半分になった馬のまわりで、毛糸の人間たちが、馬のほどけた毛糸を、つなひきみたいに、みんなでぐいぐい引っぱった。ぼくも、トンネルのこっちから毛糸を引っぱったけど、長い時間、そうやって引っぱりあいっこしたあと、ついにむこうの力に負けて、毛糸をはなしてしまった。

 毛糸の人間は、ほどけた馬の体を、するすると、ぜんぶトンネルのむこうにたぐりよせた。そして、ほどけた毛糸をあんで、半分になった馬の体を、もとどおりにあみ直しはじめた。

 そのあと、毛糸のぬいぐるみたちは、ぜんぜんトンネルの近くにこなくなってしまった。トンネルの中に、めいっぱいうでをつっこんでも、毛糸のぬいぐるみたちがいるところまでは、もうとどかなかった。もうちょっとでつかまえられたのに、おしい。

 トンネルのむこうの世界の生き物は、なかなかつかまえるのがむずかしい。でも、うでが入るくらい大きなトンネルになったから、今日は、本当にもうちょっとのところだった。このちょうしで、トンネルを大きくしていけば、もうすぐ、ぼくが通れる大きさのトンネルになるだろう。そうなったら、トンネルをくぐって、トンネルのむこうの世界に行って、そこに住んでいる生き物を、つかまえることができる。それなら、かんたんにつかまえられるかもしれない。はやく、トンネルがそのくらい大きく育つように、お供えをいっぱいあげなければ。


 ところで、トンネルが大きくなって、そろそろ、自分の部屋においておくのが、じゃまになってきた。つくえの上におくと、トンネルをどかさないと、そのうしろのものが見えないし、ゆかにおくと、ときどき、トンネルにつまづいて、ころびそうになる。トンネルにあげるお供えも、量がふえたから、消えてしまうまでの間、かなりじゃまだ。

 それに、こんなに大きくなってしまったら、お母さんが、勝手に部屋にそうじに入ってきたときに、ぜったい見つかってしまう。お母さんは、「大きくなる物は、うっかり育てたら、あとで場所をとるようになって、大変なんだから」と言って、カキやモモの種だって、うえさせてくれない。だから、ないしょでトンネルを育てていたことがばれたら、お母さんは、きっとおこるにちがいない。

 そこで、これからは、トンネルを物おきの中で、こっそり育てることにした。うちの物おきは、いろんな物が入っていて、ごちゃごちゃしているけど、それでもまだ、トンネルもそのお供えも、じゅうぶん入る場所があった。

 これで、今よりトンネルがもっと大きくなっても、だいじょうぶだ。


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