Data3.Letter
とある街にて。降りしきる雨の中、ある人をひたすら探し続ける者達がいた。「アーク」の調査隊である。
ある人とは、数日前突如として行方知れずとなった、エデン博士だ。エデン博士の反応が出たこの街を、ずっと前から調べているのである。
エデン博士は一向に見つからない。だがこの時、調査隊はある違和感を感じていた。
それは、エネミーが全く出現しなかったことである。どのエリアに行っても必ずエネミーはいるというのに、何故ここだけ見つからないのだろう?そんな不安に駆られつつあった。
だが実際、調査隊にとっては好都合だった。余計な戦闘が無いからである。一応調査隊の中には何人か戦闘員がいるが、今回は安全だった。
あれから2,3時間は経っただろうか。そんな時に、調査隊の1人があるものを見つけた。
「これは…!!おい、誰か来てくれ!!」
声に応じて、隊員達が集まる。彼らはその【あるもの】を見た瞬間…表情が固まった。
「す、すぐに本部に連絡を!」
「了解!!」
この場はあっという間に騒ぎ出す。彼らが見たもの、それは…。
無残な姿に変わり果てた、エデン博士だった。
「こんな事になるとは…。もう少し早く手立てを講ずるべきだったか…。」
アーク本部基地、会議室にて。落胆した口調でそう言ったのは、アークの総司令だった。
エデン博士の死体が見つかってから2日後、アークの主要メンバーが全員集まっての会議が行われていた。
その場には俺も呼ばれてはいたが…隊員は呼ばなくてもいいだろう。そう話したが「まあ一応代表として、みたいですよ。」とアリサに言われ、今に至る。
「エデン博士の死については、いくつか疑問が。」
そう言ったのは、エデン博士のガードマンだった。
「エデン博士は、普段外に出るときは私達ガードを必ず1人は連れていくのですが…、その日に限って呼び出しがなかったんです。」
「ガードは、10人位いるって聞いたことあるけど、その人達にも呼び出しがなかったって事?」
「ええ。しかも、ガードは研究室にもいるんです。それなのに何故…。」
だいぶ悩んでいるようにも見えた。これからどうなるのかは分からんが、その前にこの出来事だ、何とか片付けなければ。
「…死体検査についてはどうなっている?」
俺は隣にいた、検査員の隊長である女…クレハに話を訊く。
「進展ナシってところね。まだ始まったばかりだから、よく分からない…あら?」
クレハが何かに気付く。すると、いきなりドアが開いた。
「会議中申し訳ございません!総司令に見てもらいたいものが…!」
「私に…?何かあったのか。」
ドアを開けたのは検査員だろう。そして、そいつの手には布で包まれた、何かが握られていた。
「はい…エデン博士の死体を調べてみたら…こんなものが。」
そう言って検査員は布を取り始める。そこにあったのは、血に染まったデータチップだった。
「こ…これは一体…?!」
「調べたところ、恐らく音声データではないかと…とにかく、機材を持ってきます!」
そういって検査員は部屋を飛び出した。
「相変わらず、騒がしいわね。」
クレハがのんきに呟く。おいおい、こんなのでいいのか?そう思っているうちに機材が運ばれてくる。
「上手く再生できるかしら…。」
「血で染まっていたからな。多少、ノイズは入るんじゃないか?」
「…それもそうね。」
そして、音声が流れ始めた。案の定ノイズは入ってはいたが、ほとんどは聞き取れる。
音声は以下のように続いた。
『アークの諸君…。まず、謝っておきたい事がある。私は禁忌を犯してしまった…。あるエネミーを研究していたときに、私はエネミーをアークの兵器として扱う事を考えた。当然他の者たちは反対した。だが…危険なものだと分かっていても…どうしても実現させたかったのだ。ずっと1人で研究し続けた結果、ついに私は試作版を完成させた。その試作版は他のエネミーを捕食し、強化する能力を持っている。しかし…その試作版も他のエネミー同様の凶暴性を持ち、そのまま外へと逃げた…。もう分かっただろう、ここから先は。私は1つ、頼みたい事がある。あのエネミーを始末してほしい。私はもう今は、逃げる事しか出来ないんだ…。』
音声が途切れる。どうやらここまでらしい。
会議室には静けさだけが残っていた。エデン博士の言葉が衝撃的過ぎて、誰も何も言えなかったのだ。
そして、この沈黙をぶち破ったのは、総司令だった。
「トワ、ここに残っていろ。後の者は退室してもらいたい。」
そう言った後、俺と総司令以外は全員出ていくこととなった。そして、話が始まる。
「トワ、君がここに残ってもらった理由…分かるな?」
「はい。エネミーの討伐ですね。」
「そうだ。今夜出発し、出来れば始末してもらいたい。その時のメンバーは君が決めてくれ。」
「了解。」
その後、俺は会議室から出た。
夜、俺達はエデン博士の死体が見つかったあの街にいた。
「ねえ、本当にこんな場所にいるのかしら?さっき話してくれたやつ。」
そうルキナが尋ねてくる。やつというのは討伐するエネミーのことだ。
俺は昼間のうちに出来るだけ多くの隊員を集めた。その数ざっと30人程度。その中には成績の優秀だったC級隊員も混ざっている。
今は5,6人のグループに分かれてあのエネミーを探している。
「トワさんも大変ッスね。いきなり任務の隊長になるなんて。」
「そのうちお前も来るときはある。気を抜くなよ、ロニ。」
その時、向こう側から誰かが走ってくる音がした。
「!スーか。何があった?」
「エネミーが見つかったみたいです!アリサさんから連絡がありました。」
「分かった。今行く。」
そうして、俺達4人はその見つかった場所へと向かった。
見つかった場所に到着すると、他の隊員が戦闘態勢をとっているのが目に見えた。そして、もう1つ目に飛び込んできたのは異様な光景。
「な…何なんだ、あれ…。」
エネミーがエネミーを…喰らっていた。やはりあれが、試作版のエネミーなのだろう。
だが、こんなことでひるんでいる時間はない。
「いくぞ…皆。」
そして、戦いのときが始まる。