Data1 . Ark
風が吹き荒れている。俺はいつまでここにいればいいんだ?
ここには今、俺以外誰もいない。あるとすれば血まみれになったエネミーの残骸だけだ。原型はもう無くなっている。
今俺がいるこの…元都市には、エネミーが所狭しといた。だが、今はもういない。俺がこの手で全滅させたからだ。これで少しは落ち着くだろう。
そう思っていたとき、耳に内蔵されたスピーカーから声が聞こえた。
『待たせてしまって申し訳ありませんでした‼緊急で他の隊員のオペレーションをしていたので…。それで、そっちは大丈夫でしたか?』
「問題ない。エネミーの情報をくれ。」
『今は、出現率0%です。一度本部に戻って来て下さいね、トワさん。』
そう言って、通信が切れた。これでやっと戻れそうだ。
改めて、俺の名前はトワ。そして、エネミー殲滅組織「アーク」に所属するアンドロイドだ。
時刻が16時を少し過ぎた頃、俺は「アーク」の本部基地に戻った。そして、それと同時にドタドタという音が聴こえてくる。
「お帰りなさい。トワさん。」
音を立てていた張本人が、そのことを気にしないかのように、微笑みながら言った。
「アリサか…。廊下を歩くときは静かにな。」
「えへへ。でも、無事に戻ってきて良かったです。」
俺がアリサと呼んだこの女は、クローンで「アーク」のオペレーターである。
「アーク」は基本、戦闘員はアンドロイド、オペレーターなどのサポートの係りはクローンといった割振りになっている。その理由は単純で、「アンドロイドは大破しても問題ないが、クローンは死んだらどうにもならない。」からである。
話はアリサとの会話に戻る。
「そういえば、緊急で他の隊員にあたっていたって言っていたな。何かあったのか。」
「新人隊員の機体が、エネミーの攻撃で大破したんです。その場にいた隊員に、退散の連絡をしていました。」
…どうも腑に落ちなかった。俺たちアンドロイドは、拳銃やマシンガンなどといった銃火器を、基本として扱っている。何故大破したのかを訊いた。
「なんか、調子に乗ったって言ってましたよ。」
「ハァ?どういうことだ。」
「入隊試験の成績が少し良かったのを理由に、近接用の武具を使ってたみたいなんです。」
「そいつは…、新人って言っていたな…。そんな奴がどうしてそれを?」
「そこまではまだ分かんないです。でも、数週間前にいくつか近接用武具が無くなっていたっていう情報がありました。」
「それが関連してしていると思っているのか?」
「…おそらくは。」
呆れてものが言えなかった。この組織も随分とナメられたものだと、俺は思っていた。
一度アリサと別れ、俺は休憩所へと向かった。この場所は普段は、隊員やサポートの面々の出入りが激しいが、今回はやけに少なく感じた。
椅子に腰かけた直後、「トワ。」と俺を呼ぶ女の声がした。振り返るとそこには、見慣れた奴が立っていた。
「随分息が上がっているようね。あんまり無理しないようにしなさいよ。」
「分かっている。余計な口を出さないでもらおうか。」
「強がってるわね。フフフ…。」
この女の名はルキナ。俺の同僚であり、そして幼馴染である。同じ研究所で、3日ほど目覚めるときが違っているこそあるが、幼馴染であることは間違いないだろう。
「そーいえば、なんか新人の子が大破した状態で担ぎ込まれてきたけど…。なんか知ってる?」
「ああ…アレか。アリサから話を聴いた。」
そうして、俺はルキナにその出来事をすべて話した。くだらん事だと思いつつも、最初から最後までを。
話終わり、ルキナの様子を見ると、こいつは腹をかかえて大爆笑していた。
「なるほど、要はそいつは自分はやれるってとこ見せたかったのね。…フフッ。」
「近接用武具はA級隊員の特権なんだがな…。扱いを間違えれば自分の首を絞めることになる。」
「まあ、あんたは一応武具は銃剣型だし…、後輩たちにとってはいい手本よ。」
「その代わり頭使わなければ駄目だ。俺にもアレはまだ扱いきれん。」
「…あんたが言うセリフ?」
ちょうどそのとき、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。どうやら休息もここまでらしい。
俺とルキナは、オペレーター室へと向かった。
…嵐の前の静けさとはこういうことだったのだろうか。俺たちはその後、思いもよらぬ出来事を目の当たりにすることとなる。