失ったもの。
その時は突然訪れた。
凛は持病を持っていた。前例はなく、おそらく治らないと言われ、20歳まで持たないだろうとも言われていた。涼には言っていなかった。心配をかけたくなかったし、そのせいでフられるのも嫌だった。それに、いままで普通に過ごしてきた。病気なんて忘れるくらいに、みんなと同じような、健康的な生活を。
だがある日。
凛は体に違和感を覚えた。視界が霞んで見える。しばらくすれば治るだろうと思っていたが数日経っても治らない。それどころか、酷くなる一方だった。病院へ行った。
持病の症状だと言われた。治療の施しようがない、治すのは無理だ。このまま見えなくなって行くだろう、と。凛は医者が驚くほどすんなり受け入れた。いつかその時が来ると心のどこかでわかっていた。
凛は涼に話すことを決意した。
「ねぇ涼。落ち着いて聞いて?」
そして時間をかけてゆっくりと全てを話した。涼は驚いた。いままで何事もなく笑っていた凛がそんなことを抱えていたなんて知りもしなかったから。
「わたし…目が、見えなくなるかもしれない。それでも一緒にいてくれる?」
凛は嫌だと言うと思っていたし言って欲しかった。迷惑をかけたくないから。でも涼は言わなかった。
「当たり前だ。ごめんな、気付いてあげられなくて。辛かっただろ?」
凛は泣いた。決して辛かったわけじゃない、悲しかったわけでもない。それでも涙が止まらなかった。涼の優しさが、嬉しかった。
それからしばらくして凛の目は見えなくなった。だがそれだけでは終わらなかった。今度は酷い耳鳴りがした。目のこともあったため今回はすぐに病院へ行った。やはり持病からだった。すぐに耳も聞こえなくなっていった。
涼は辛かった。凛一人で大きな問題を抱えていることが。そして何もできない自分や医者に苛立ちもした。それでも凛は弱音ひとつ吐くことはなかった。いつも笑顔で、そばにいてくれる。真っ暗でなにも見えないはずなのに。聞こえなくて怖いはずなのに。それでも笑顔を絶やさなかった。凛はときどき涼に聞いた。
「いま、どんな音を聞いているの?」
聞かれるたび心臓が締め付けられた。答えたって凛はなにも聞こえない。答える代わりに凛をそっと抱きしめた。そして悟られないように泣いた。
それからしばらくはなにもなくいつも通りの日々を送った。でも、ある日突然凛が倒れた。
「凛‼︎」
涼は勢い良く病室に入った。凛はベッドで眠っている。ときどき苦しそうに呻きながらも息をしていた。涼は凛のそばにいきそっと手を握りしめた。
「りょ、う…?」
凛が目を開けていた。目を覚ましたようだ。
「凛、凛…‼︎そうだよ、オレだよ!」
そう言っても凛には聞こえていない。それでも必死に語りかけた。
「ごめんな…、なんもしれやれなくて。ずっとお前が好きだよ。だから、死ぬな…凛…!」
聞こえてはいない。でも涼の想いが届いたのかもしれない。凛はそっと口を開いた。
「涼…わたしね、涼が大好き…。でもね、たぶん…もう…もたないんだ。だから…最後に一つだけ、伝えたい…。」
そして凛はいままでで一番の笑顔で言った。
「ありがとう。」
それが凛の最後の言葉だった。そして一筋の光る粒を流し眠るように目を閉じた、笑顔のまま。
ピー、ピー、ピー、ピー…
凛の命の終わりを告げる音が鳴り響く。
「凛…、目を覚ましてよ…!」
涼はその場に泣き崩れた。
「ああああぁぁぁぁ…っ‼︎」
涼の叫び声と無機質な機会音だけがただただこだましていた。
その後、涼はまるで別人のようになってしまった。まるで死んでしまったかのような目をしていた。
だが、ある日を境に涼は姿を消した。
姿を消す一番最後にあった友人に、
眩しいくらいの笑顔とメッセージを残して。
「凛が、呼んでるんだ。淋しいって、言ってるんだ。だから、オレは逝くよ。みんなに伝えて、いままで…ありがとう。」
初の短編の物語だと思います。
面白く仕上がってるといいなぁ。
耳が聞こえなくなったのになんで喋ってんの?とか矛盾はたくさんありますがそれは
スルーで…
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