プロローグ
ープロローグー
パタパタパタ…!
『高度3000フィート上空、要救助者を発見。レンジャーは、ホイスト降下して下の状況を確認してください』
その日のメインパイロットであるベテランの藤本はヘリ機内後方にいるレンジャーの永井に少し顔を向けて言った。
『了解。こちらからも沢付近に要救助者を確認。これより降下する』
永井もそう応えて降下するための準備を始めた。
パタパタパタ…。
一見、平和そうに見えるこの世の中にも時としてこんな不幸なことがあるのかと地獄のような思いをしている人もいるのだろう。
楽しく出掛けたハズの登山で、最悪の事態になる。
地上の登山者らの目には、永井らが搭乗しているヘリは青々とした森の上空を優雅に気持ちよく飛んでいるように映っているのだろうなと永井は思った。
『そろそろ降りますか』
柳がヘリのドアを開きホイストを緩めて永井の方に差し出した。
永井はホイストを受け取り、ハーネスから伸びるスペルジカ(確保するための短いスリング様のもの)をそれに結着した。
そして、自分の装備品をもう一度確認した。
何度も救助経験がある永井でも、その時の現場は一度きり、絶対に失敗は許されないのだ。
ハーネスにカラビナ、テープスリング、そして要救助者を救出するためのエバックハーネスを携行した。
よし、と頷きホイストマンの柳と目を合わせる。
『中州の近くに大きめの平たい岩があるので、そこに降ろしましょう』
柳が言った。
『了解』
続いて藤本。
『了解。R1は降下準備よし』
永井がヘリから降下を開始した。