1話
始めて魔法を見たのは戦場だった。
その時、私は傭兵として国境沿いにある砦を攻めていたのを覚えている。
傭兵と言っても、村の口減らしで売られてすぐだったので戦い方も知らなければろくな装備もしていなかった。剣一本に普段着のまま戦場にいた私は竜の巣に放り込まれた鼠のように怯えていた。
手足が震え奥歯は鳴り続けていた。
辺りには悲鳴、奇声、罵声、怒声、剣のぶつかる音、肉を割る音、何かが潰れる音、さまざまな音が混ざり合い、私にはそれが何か生き物の鼓動のような遠吠えのようなものに聞こえ、どこか現実離れした世界に迷い込んでしまったような心境であった。
地面には死体がころがり、空からは矢が降って来る。
迫りくる敵兵は恐怖そのものだった。
戦いの中、記憶はひどく曖昧だった。
どこをどう動いたのか、気が付くと私は林の中にいた。
砦から外れた場所にある林だった。
私は戦場から逃げ出したのだ。
その林から私は魔法を見た。
それは宙に浮く火の玉だった。
空気を焼きながら、数十の火の玉が矢のように飛んでいる。
地が燃えた。
木が燃えた。
空気が燃えた。
鉄が燃えた。
人が燃えた。
火の玉は一つ一つに意思のあるかのような動きで、逃げ惑う兵を追い炭にした。
私は燃える木々の陰からただその光景を見ていた。
戦場に立っていたとき感じた恐怖や焦燥は嘘のように消えていた。
燃える味方の姿をただただ眺めていた。
ただただその光景を……