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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
手にした夢の果てに
40/49

突入~その3~

アクセスして下さっている皆様、いつもありがとうございます。


今回も拙作を楽しんで頂けましたら幸いです。

「ええいッ! キリがない!」

 苛立ちを腹の底から吐き出すように吠え、炎を両手から打ち上げるシャルロッテ。天へ駆け昇る炎は、真っ直ぐに降ってきていた黒い塊と激突。爆ぜ広がる炎と共に飛び散らせる。

「そうだね! 守りに入ってたら、この勢いの攻撃を凌ぎ続けないといけなかったと思うと、ゾッとするよ!」

 その一方でウィンダイナは、巨大な拳を右腕を盾に受け、背後から迫るものへ左肘を突き出し迎撃。さらに受けた拳を押し退けつつ右蹴りを膝、腹と息つく間もなく叩きこみ、身を捻って右拳を右から迫る巨体へ打ち込み迎え撃つ。

『ケェェアアアッ!』

 そこへ迫る嘶き声。だが月居はそれを受け、ウィンダイナの装甲に覆われた広い背中とすれ違い、低空飛行に突っ込んでくる怪鳥の嘴へ真正面から妖刀を振り下ろす。

「ハアアアッ!!」

『ぐぎえ!?』

 烈帛の気合に乗せて繰り出される縦一文字。それに巨大な怪鳥は、濁った悲鳴を残して真っ二つに裂ける。

 細かな塵となって消えていく残骸。その間で月居は身を翻し、姿を変えた教え子二人に向き直る。

「けれど今は、私が飛び込むまで凌いでくれればいいわ! それまで堪えて頂戴ッ!!」

 そして月居は生徒たちへ耐える様に鼓舞しながら、妖しく艶めく刃を切り返し、右脇を通して背後へ突き出す。

『ぐぅぎゃあっ!?』

 その刃を膝に受けて濁った悲鳴を上げる巨人。その黒い巨体が怯んだ隙に、月居は素早く突き立てた刃を抜いて黒い雫の滴るそれを横薙ぎに振るいながら身を翻す。

「ハァアッ!!」

『ぐふッ!?』

 回転の勢いに乗った刃は、丸太の如く太い腰を豆腐の様に抵抗なく両断。そして鏡の様な断面を境に上下に分かれた巨人は苦悶の声を残して消える。

 飛び散る巨人の残骸。それを巨鳥が羽ばたきの巻き起こす風で吹き飛ばしながら月居へ迫る。

「その程度! 軽々とこなして見せよう!!」

 だがそれはシャルロッテが叫びと共に放った黒炎が焼き払う。

 しかしさらに右からは両腕を振り上げた巨人が、左からは嘴を突き出した怪鳥が月居を挟み込む。

「セェ!!」

「イィヤアッ!!」

 そこへウィンダイナが飛び込んで右から迫る巨人の腹筋を拳で穿ち、月居が逆側から迫る鳥の鼻先へ刃を突き出す。

『ごふ!?』

『ギィエ!?』

 濁った声を後に吹き飛ぶ巨人と、串刺しになって弾ける怪鳥。

「いおりさんの言うとおり、この一回なら楽なものです! ここは私たちに任せて、先生は準備に集中してくださいッ!!」

 弾け飛ぶ化物の残骸が霧となる中、ウィンダイナは叫び跳躍。黒い霧に紛れて突進してきた巨人へ、跳び込みながらの蹴りの雨を叩きこむ。

「せ、せ、せ、せぇ!」

『げぇ、ぐ、ぎ、がぁ!?』

「せぇやぁあ!」

 一蹴りごとに悶え後退る黒い巨体。それをウィンダイナは締めの両足蹴りで吹き飛ばし、その反動に乗って跳躍。立て続けに大きく振った右足の勢いで身を翻し、背後から迫っていた別の巨人の胸板を蹴り抜く。

『ぐぶっ』

 重い爆音に混じる鈍い悲鳴。その直後、突き刺さった右足を軸に展開した魔法陣が爆発。黒い巨体を光に変えて消し飛ばす。

「ふっ」

 鋭く息を吐きつつ、爆発から後ろ跳びに離れるウィンダイナ。そのまま空中で背中を反り、地面を叩いてバク転。そのまま二転三転と回り続け、四度目に地を突いた腕を深く沈めて足から真上に飛ぶ。

「いぃやぁッ!?」

 逆立ちのウィンダイナは、鋭い気合と共に白銀の槍となって急降下する怪鳥の頭を、嘴もろともに突き潰す。だが破裂した怪鳥の残骸を、巨人が筋骨隆々の体で弾きながら突進。頭を地面へ向けたウィンダイナの体を抱きこむ。

「しまった!?」

『へっへ、このまま潰してやる』

 逆さのまま振りほどこうともがくウィンダイナ。それに口の端を吊り上げながら太い腕に力を込め、捕まえた白銀の戦士を抱き潰そうと締め上げる黒い巨人。

「ぐっ……!?」

『さっきまでの調子はどうした? ああ!?』

 襲いかかる圧力に、ウィンダイナがその装甲と共に体を軋ませ呻く。黒い巨人はそれを見下ろし、問いかける。

 だがそこへ、不意に降り注ぐ火の球。それは爆発で群がっていた敵を吹き飛ばし、ウィンダイナの周囲を煙で覆い隠す。

『ぐぅ!? なんだぁ!?』

 怯み、煙の中で視線を巡らせる黒い巨人。

 ウィンダイナはその隙に乗じて腕を振りほどき、拘束から脱出。

「セアッ!!」

 そこから腕を支えに両足を広げ、独楽のように回転。遠心力を乗せた蹴りを振り回す。

『うぐ!? いい気になるなッ!!』

 薙ぎ払いの蹴りを受けて呻き、後退りする巨体。だが巨人は後ろへ突き出した足で踏ん張り、再びウィンダイナを腕の中にとらえようと腕を伸ばす。

「貴様こそな」

 だがその後頭部を、冷ややかな声と共に金色の爪が鷲掴みにする。

『なッ!? あぁッ!?』

 頭へ食い込む爪に黒い巨人は腕を止めて振りかえろうと腰を捻る。だがその刹那、金色の爪から放たれた黒い炎が巨人の頭を焼き、吹き飛ばす。

 白銀の戦士の真上を通り過ぎる炎。ウィンダイナはそれを見送って、腕を伸ばして跳躍。深く膝を曲げて地面を踏む。

「ウンベゾンネン! グリューヴュルム、ヒェンッ!!」

 しゃがむウィンダイナの頭上で、紅のマントを翼のように広げたシャルロッテが、力強い詠唱と共に身を翻す。その回転に弾き飛ばされる様に、火炎弾が黒い魔女を中心に散開。僅かにその軌道を修正し、手近な標的へ突き刺さり爆ぜる。

「ありがとう、いおりさん!」

「空の敵は我に任せよ! 裕香、そっちは地面の者共に集中するがいい!」

 鋼鉄の仮面に包んだ顔を上げ、空を舞う友へ叫ぶウィンダイナ。それにシャルロッテはさらにマジックミサイルを撒き散らしながら、赤い魔力光を残して上昇。降下してくる怪鳥の群れへ、迎え撃つように突っ込んで行く。

 ウィンダイナはそれを見送ると、あごを引いて近づいてくる重い足音へ向き直る。

『どおぉぉらぁあッ!』

 雄叫びを上げ、肩から煙幕を突き破る黒い巨人。

「ふっ!」

 対してウィンダイナは息を吸って身を横へ逸らし、砲弾のように迫る巨体の足を払いけたぐる。

『ごぶっ』

 地面との熱烈なキスを交わし、鈍い呻き声を漏らす黒い巨人。

 ウィンダイナはそんな、逆エビ、あるいはしゃちほこの様な姿勢で倒れる黒いそれを一瞥。追撃をかけずに身を翻し、左肘を迫っていた黒い影へ突き込む。

「おおおっ!!」

『ぐ、う!?』

 重い音を響かせる肘同士の激突。それに重さで勝るはずの黒い巨人がたじろぎ、たたらを踏んで後退りする。

「イィヤッ!」

 そこへウィンダイナは踏み込み右拳を突き出す。それを迎え撃とうと巨人もまた右拳を振り下ろす。だがウィンダイナの拳はその迎撃もろともに押しこみ、黒い巨体を仰け反らせる。

『う、うぅおぉッ!!』

 たじろぎながらも、上体を捻り左拳を繰り出す巨人。

「遅い!!」

 しかしウィンダイナはその大振りの一撃を掻い潜って懐へ潜り込み、黒く艶めく分厚い胸板と割れた腹筋の隙間へ、踏み込み様の左拳を突き刺す。

『ぐ、ぶ!?』

「おおぉ!」

 うめき声を漏らして宙に浮く黒い巨体。それに追撃を加えようと、鋭い声と共に右拳を振りかぶるウィンダイナ。しかし構えたその拳は何者かに掴まれ、止められる。

「くッ!?」

 歯噛みし、掴まれた右手首を見やるウィンダイナ。そこには黒い拳がまとわりつき、そこから続く太い腕の先には、顔の潰れた巨人が歪んだ顔を更に笑みの形に歪めている。

『へへ……捕まえたぞ』

 笑みに歪んだ口から漏れる言葉に続き、腕を掴む手がさらに強く締めあげられる。だがウィンダイナは正面で腹を抱えた巨人へ向き直り、掴まれた腕に力を込める。

「お、おぉおおおッ!?」

 身を沈めながらの雄叫び。そして力任せに振り上げた腕に伴い、黒い巨体が宙へ持ちあがる。

『な、あああああああッ!?』

 振り上げた右腕の先。その先端で逆立ちになった黒い巨人があごを外れんばかりに開いて驚愕の声を吐き出す。

「いぃいやああああああああ!!」

『げぶぅあ』

 腕もろともに持ち上げた巨体を、ウィンダイナは気合の声と共に正面の敵へハンマーの如く叩きつける。重なり響く濁った悲鳴。それと共に爆音と地鳴りが轟き、周囲を取り囲んでいた煙幕がその余波で吹き飛ぶ。

 煙のカーテンが取り払われ、開ける視界。光を含んで広がる風の中で、機を窺っていたらしく、控えていた巨人たちがたじろぐ。

 ウィンダイナを中心に、輪を描くように居並ぶ巨体。その列の隙間から、白銀の戦士はルクシオンの行く手を阻もうとする敵集団を一瞥。それに続き、バイザー下の双眸を輝かせる。

「えぇやッ!!」

 鋭い気を放ち、踏み込むウィンダイナ。怯んでいた一体の巨人の懐に滑り込み、左右のワンツーを叩き込む。

『お!? ぐぅ!』

 連なる爆音を響かせて、くの字に折れる巨体。それに他の巨人たちが慌てて援護のために殺到する。

「ふぅうッ!」

 だが巨人たちの伸ばす手が届くよりも早く、ウィンダイナは拳にぐらついた巨体を掴む。そして息つく間もなく右蹴りで巨人の足を払ってバランスを崩した上で、上体の捻りに乗せて黒い巨体を振りまわす。

 黒い巨体を抱え、足を軸に回転する白銀の戦士は、一回転事にその勢いを増し、速度を上げていく。

『お、ご、おお、おおおおおおおおッ!?』

 ドップラー効果を帯びた野太い悲鳴を振り散らしながら、周囲を取り囲む黒い巨人たちを薙ぎ払っていく銀軸の黒い独楽。

「ダイナミィィック・トォルネェエエエドォオオッ!!」

 渦巻く暴風を生み出すその中心から響く叫び。それに続き、遠心力に乗せた黒い巨体を天高くへ放り投げるウィンダイナ。そしてすかさず錐揉み回転して上昇する巨体を追って跳躍。その勢いのまま炎のミサイルが飛び交い、巨鳥が爆音を上げて沈む中を真直ぐに駆け昇ると、回転を続ける巨体の両足を掴む。

「大・回・転! ストォォムホイィイルゥッ!!」

 そしてウィンダイナは、巨体の下肢を捕らえた両手を握りこむと同時に自身の両足を開き、それを軸に縦回転。叫ぶ技の名の通りに嵐を纏った銀軸の黒い車輪となって地面へ向かう。

 進路を横切る炎に巻かれた黒い巨鳥。それを回転ノコギリの様に両断し、なおも回転の勢いを緩めずに落下。そのまま巨人と共に回転するウィンダイナはルクシオンの走るコースを遮る敵集団へ落着。爆音を上げてそれらを吹き飛ばす。

『ぐぅわぁああああああッ!?』

 地面を穿つクレーターを中心に広がる魔法陣。地面すれすれを時計回りに回るそれから真上へと渦巻き昇る旋風。その暴風に乗ってバラバラに散る黒い巨人たち。

 そんな光へと変わっていく黒い破片の軸を抜く様に、ウィンダイナは膝を抱えた姿勢で前回りに上昇。その真下をルクシオンがクレーターをジャンプ台にする形で通り過ぎる。その直後、ウィンダイナは足の方に翡翠色の魔力壁を展開し、膝を伸ばしてそれを蹴る。

 自ら生み出した風の柱を突き破ったウィンダイナは、腕を広げて背中から後ろ回りに回転。そのまま二度、三度と回転を重ねて落下の勢いを緩めると、深く膝を沈めて着地する。

 そして立て続けにウィンダイナは真正面で振りかえろうとする巨人の背中に狙いを付け、深く曲げた膝を解き放って駆け出す。

『な!?』

 巨人は慌てて振り返りながらも、一気に鼻先まで間合いを詰めた白銀の戦士の姿にたじろぎ身を引く。

「ハアッ!!」

 上空で爆発の鳴り響く中、怯む巨人の寸前でウィンダイナは踏み切って跳躍。さらに続けて巨人の右膝を踏み台に勢いを上乗せし、怯えた巨人の顔面へ右の跳び膝蹴りを叩きこむ。

『う、ぐぇ』

 鼻から陥没した顔面から濁った声を漏らし、仰け反る巨人。ウィンダイナはその上を飛び越えて敵集団の中心へ躍り込む。

 蹴り足と入れ替えて伸ばした左足で地面を削りブレーキ。それと同時に、地面に光が浮かび上がり、上空で雷が不規則に轟く。

 その乱れた稲妻の響きに顔を上げるウィンダイナ。その視線の先で、上空に描かれた白い雷光で描かれた魔法陣が、雷鳴を伴った明滅を繰り返す。そして魔法陣を構成する文字の内のいくつかが緑と赤に染まる。

「門が使える様になるわ! 吹上さん、大室さん、二人とも援護をお願い!!」

 妖刀で目の前の巨人を切り伏せる月居。そうして自身の契約の法具を首から外し左手に握り、生徒たちに援護を求める。

「任されたッ!!」

「ええ、いつでも行けますッ!!」

 上空のシャルロッテに続いてウィンダイナは月居の指示に応え、腰だめに輝く左腕から生えた柄を握り、光の刃を抜き放つ。その抜き打ちの一閃で正面の敵を横薙ぎに切り裂き、続けて振り抜いた先で手首を返して構え直し、左手に立つ巨人の腹筋へ光の刃を突き刺す。

「……ノックス、私に最後の力を頂戴……!」

 その一方で、月居は左手に握ったペンダントを掲げ、今は亡きパートナーへ祈る。その祈りを受けて亀裂の入った青い宝玉が輝き、砕け散って月居の体を包む。

 パートナーの遺産である最後の力に包まれた月居を、ウィンダイナは一瞥。続けて敵へ突き刺していたライフゲイルを引き抜き、その勢いのまま身を翻して背後から迫る巨体へ輝く切っ先を突き入れる。そして柄を中心に翡翠の魔法陣が開いたのを確かめるや否や、再び得物を引き抜いて振り返り、ブレーキからすかさずに踏み込んで腹部に横一文字の傷を刻んだ敵へ、ライフゲイルの刃を突き刺す。

「浄化ッ!!」

『ぎゃ、あ、ああああああッ?!』

 浄化の言霊を引き金に、同時に爆散する三つの巨体。それに続いて月居を包んでいた青い光が弾け飛ぶ。

 翻る肩口に翼飾りを備えた青いベルトに腰を絞られた黒いコート。そのスカート状の裾の内側で揺れる澄んだ水色のスカート。青銀色に染まったものの混じる髪が風に揺れ、黒い翼の髪飾りに収まった青い宝石が煌く。そして身を翻しながら、水色と黒の長手袋に包んだ右手に握った刀を振るい、左手に柄飾りのついた腕程の長さの青い水晶のロッドを握る。

 ウィンダイナではなく、シャルロッテ寄りの姿に変身する月居。それに続き、上空に展開した魔法陣の中央に渦を巻いた歪みが生じる。

「さあ、行くわよ!」

 上空に開いた門を見上げ、左右それぞれに携えた得物を構え号令する月居。それにウィンダイナはライフゲイルの刀身を回転させて頷く。

「はい!」

 頷き合うウィンダイナと月居。だがそこへ突入を阻もうといきり立ち、躍りかかる黒い巨人たち。

『オォォオオオオオオオッ!!』

「クッ!」

 野太い雄叫びを上げて群がってくる黒い巨体の群れ。それを認めてウィンダイナは歯噛みし、右手から迫る敵へライフゲイルを突き刺す。

「イィイヤッ!!」

 そして突き刺したままの刃を横薙ぎに振るいつつ、月居の背後を回って逆側へ抜ける。そして振り抜いた刃を正面に戻し、後続の巨人の拳をライフゲイルの刀身で受け止める。

「吹上さんッ!?」

 圧し掛かる巨人の拳に刃を食い込ませて競り合うウィンダイナの背を見て、その本来の名を叫び呼ぶ月居。それにウィンダイナは左肩越しに真後ろの教師を見やる。

「地上は任せて、先生は早く門へ! 邪魔はさせません!」

 ウィンダイナは叫び、正面の敵へ顔を戻して押し込まれる拳を弾き上げる。そしてすぐさま刃を振り下ろして構え、踏み込みながら手前にそびえる巨体の鳩尾へライフゲイルを突き上げる。

『ぐぅ!?』

「ええや!」

 そして魔法陣の展開した所で杖を突き刺した敵の体を蹴りつけ、押し退ける。

「さあ早く!」

 振り返り、月居へ重ねて門へ向かうようにとウィンダイナは促す。それからすぐさま体を切り返すと、白銀の戦士は月居の傍らをすり抜けて再び逆側へ抜けて、そちらから迫っていた敵を柄尻で殴りつけ、刃で切りつける。

「さあ!」

「分かったわ!」

 右手からの敵を蹴りつけ、さらに重ねて促すウィンダイナ。月居はその教え子の言葉に頷き、左から掴みかかろうと迫っていた巨人を杖で突き、更に正面からのものを右の妖刀で斬り伏せる。そして一度深く身を沈めると、上空に開いた門を目掛けて跳ぶ。

『いかせるかよッ!!』

 それを阻もうと、上体を伸ばし背中側から覆い被さる黒の巨体。だがその間へウィンダイナが素早く割り込む。

「邪魔はさせない!」

『なぁ!?』

 滑り込んだ巨体の懐から、光の刃を突き上げるウィンダイナ。あご下から迫るそれに、巨人が驚き目を剥く。だが黒い巨体が仰け反るよりも早く、ライフゲイルの切っ先が巨人の頭へ突き刺さる。

『うぎ!?』

 頭を刺され、歯の隙間から濁った呻き声を漏らす巨体。月居はその巨大な両手の合間をすり抜け、青白い光の尾を残して空へ昇る。

『このッ!!』

 空へ向かう月居を追いかける形で、黒い巨人もまた手を伸ばして跳ぶ。それをウィンダイナは振り返って見やると力を失って圧し掛かってくる巨体を蹴り退け、身を翻して飛び上がった巨人を追い掛ける。

「ハアッ!」

『うぐ?!』

 右手側を飛ぶ敵の鳩尾を蹴りつけ、その勢いに乗ってさらに跳躍。そして逆側の敵からの拳を跳び越えると同時に、敵の脳天を振り下ろした光の刃で叩き割る。

『うっぶぅ』

 割れた頭から断末魔を溢す巨体。落下を始めたそれを足場に、ウィンダイナはライフゲイルを引き抜き跳ぶ。

 炎の花が音を立てて咲き乱れる中、月居が青白い冷気を振り撒きながら、真っ直ぐに飛翔する。そんな青と黒を基調としたコートをはためかせて飛ぶ師を見上げながら、ウィンダイナも空を蹴り、また飛来する巨鳥の頭を踏み台にして跳び追いかける。

『ギィイヤァッ!』

 その見上げる先で、怪鳥の一羽がミサイルの直撃を受けて爆ぜる。

 炎に巻かれて墜ちる巨鳥。それを月居は身を翻してやり過ごし、杖から放った冷気で瞬時に冷凍、粉砕する。

 降り注ぐ氷のつぶてを装甲に当たるままに、ウィンダイナは空に作った力場を蹴って更にジャンプ。だがその行く手を阻むように、眼前に滑り込み割り入る巨大な鳥。

『この先へは行かせんッ!!』

 怪鳥は甲高い声で嘶き叫び、巨大な翼の上下で突風を撃ち下ろす。

「ク! キィイアアアアッ!!」

 叩きつけられる風に歯噛みしながらも、ウィンダイナはライフゲイルを振りかぶり、光輝く刃で降り注ぐ風もろともに鳥の巨体を薙ぎ払う。

『ギィェエエエッ!?』

 断末魔の悲鳴と共に光の霧となって散る怪鳥。その残滓を体当たりで突き破るウィンダイナ。そしてその向こう、下から月居へ追い縋るもう一羽の鳥を光の刃で串刺しにする。

『ヴゲェ!?』

 刃を受けた怪鳥から上がる、濁った嘶き声。それに続き、ウィンダイナは差し込んだ刃を横に薙ぎ払い、巨大な鳥の体を切り裂く。直後、その巨体に遮られた上空側、門への道を隙間なく埋め尽くす鳥の群れが目に入る。

「先生ッ!!」

 ウィンダイナは真上にシャルロッテと共に浮かぶ月居へ叫び、腕を翳しながら足元に作った力場を蹴って更に跳躍する。

「吹上さん!」

「裕香ッ!!」

 空を蹴って飛翔するウィンダイナを見下ろし、頷く二人。

「グリューヴュルムヒェン・ナハト・ムジィィイクッ!!」

 そしてシャルロッテは門とその間を塞ぐ巨鳥の群れへ向き直り、鋭い言霊と同時に小粒な火の球を大量に上空へ発射する。

 真直ぐに上昇する炎の嵐。それは壁となった鳥たちへ次々にぶつかり、爆音の大合奏を奏でる。

 そして爆ぜる炎の序曲が鳴り響く直後、ウィンダイナの腕に月居が膝を曲げてドッキング。同時にウィンダイナは月居を腕に乗せた状態で更にジャンプ。連なり続ける爆発に燃え広がり生まれた炎の壁へ真っ直ぐに上昇する。

「今です、先生!!」

「ええッ!」

 炎に巻かれた鳥の大群を前に、ウィンダイナの合図で腕から飛び立つ月居。多段構成のロケットの要領で勢いを増し、青い魔術師は左右の手に握った得物を突き出し、天に開いた門を目指す。

「はぁあああああああああッ!!」

 凍気を纏った月居は氷の槍となって炎の壁へ突進。高熱の籠った一帯を飛翔する勢いのまま突破する。

 壁を抜けた勢いに任せ、渦巻き開いた門へ飛び込む月居。だがその飛び込みに、不意に翼を備えた猛禽の爪が門の中から突き出し迎え撃つ。

「あっぐぅッ!?」

「先生ッ!?」

 迎え撃つ爪の一撃に、門から弾き出される月居。背中から落ちてくるその姿を見上げ、ウィンダイナとシャルロッテは声を揃えて叫ぶ。

 そして白銀の戦士は、生み出した魔力の壁を蹴って落ちてくる青の魔術師の下へ滑り込み、その身を抱き止める。

 しかし受け止めた瞬間を狙い、四方から殺到する黒い猛禽。

「ヘレ! フランメェッ!!」

 だがウィンダイナもろとも月居を啄ばもうと迫る嘴は、シャルロッテの薙ぎ払った炎に阻まれ、消し炭となって風に散る。

「大丈夫ですか、先生ッ!?」

 熱と燃えカスを乗せた風の流れる中、腕の中の月居へ呼びかけるウィンダイナ。それに月居は顔を苦痛に歪めながらも頷く。

「え、ええ、これくらいは平気よ……けれど」

 そして硬いウィンダイナの仮面越しに上空を見やる月居。それを辿って白銀の戦士と黒の魔女が揃って顔を上げると、その視線の先では、開いた門がまるで開く時の逆回しに巻き戻す様にその口を閉ざしていた。

「門が!?」

 閉ざされた反攻の糸口に、叫ぶウィンダイナ。その横ではシャルロッテが、しつこく襲いかかる化け鳥を炎で撃ち抜きながら歯噛みする。

「クッ……これでは幻想界には!」

 剥いた白い歯から悔しさを滲ませるシャルロッテ。

 そうしているうちに、三人は重力に従って地面に接近。鋭い唸り声を響かせながら駆け込んできたルクシオンを中心に着地する。

『ヴォオォオオオオオオオ!!』

 重なり響く地を踏む足音。瞬間、その音の中心へ黒い巨体が咆哮と共に殺到する。

 地鳴りを響かせて迫る巨人たちに対し、月居がウィンダイナの腕から降りるのに続いて三人は散開する。

「イィィヤァッ!!」

「ハ! アァッ!」

「燃えよ! ヘレ・フランメ!!」

 掴もうと伸び迫る巨大な掌を光の刃で串刺しにするウィンダイナ。その一方で月居は近付く巨人の右手首を右手の吉影で切り落とし、左の水晶の杖で膝を刺し貫く。そしてまた呪文を唱えたシャルロッテが別方向から迫る敵を黒い炎で薙ぎ払う。

『これからどうするってのさ!? せっかく開けた門を塞がれて、どうやってヤツのとこまで攻め込むってのさ!?』

 別方向から迫る新手を、ウィンダイナが真っ向から切り伏せる。その背後のルクシオンの上で、アムが真上に炎を吐きながら手詰まりの状況に声を上げる。その火炎混じりの声に、月居はスカート状のコートを翻しながら、ロッドから放つ冷気の刃で巨人の膝を切り裂き、頷く。

「……まだ、奥の手があるわ」

 その月居の言葉に、シャルロッテは上空からの巨鳥を焼き払いながら振り返る。

「まだ手があるのですか!? ならばそれを! 出し惜しみできる状況ではないでしょう!?」

 炎を灯した足を振るって迫る巨人を蹴り抜いて、その奥の手を使うよう月居へ促すシャルロッテ。すると月居は左右から挟み込んでくる二体の敵に、深く身を沈めながら左右それぞれの得物を振り抜き切り裂く。そして跳躍と共に刃の両翼を振るい、支えを失って崩れた巨人の首を切る。

「ただ、これは本当に危険な手なのよ。それも、吹上さんと大室さんの二人が……」

 両サイドから響く地響きを受けながら、月居は二人へ振り向き、躊躇いがちに抑えた声で危険を告げる。それを受けて、ウィンダイナは右手から迫る巨体を刃で薙ぎ払い、逆側から迫る敵を突き出した左踵で蹴り抜きながら答える。

「構いません!! どんなに危険でも、私はやります! やらせて下さいッ!」

「そうですとも! 我も裕香と心は同じ。我ら二人、決して危険に怯みはしません!」

 力強く請け負うウィンダイナに続いて、シャルロッテもまた、炎のミサイルを放ちながら強い調子で主張する。その二人の言葉に、月居は無言のまま杖の先端から氷の刃を迫る敵目がけて放つ。

「先生ッ!」

 躊躇い押し黙る月居へ、さらに強い声を重ねて呼びかけるウィンダイナ。すると月居は妖刀を敵へ閃かせながら、首を縦に振る。

「……分かったわ。みんな、力を貸して頂戴!」

 顔を上げ、両手の得物で敵を切り捨てながら呼び掛ける月居。

「はい!」

「無論!」

 それを受け、ウィンダイナとシャルロッテは刃と炎とでそれぞれに敵を薙ぎ払いつつ頷き返す。

『それでカナデ先生、その奥の手って、何なんですか?』

 トライクの双眸を明滅させて具体的な手段について尋ねるルクス。すると月居は、眼前の敵をロッドの突きで瞬時に凍結させながら口を開く。

「私の全力をかけて、門をこじ開けるのよ!」

『って、力押しじゃないのさ!?』

 凍りついた巨体を、左へ振り抜いた刀で薙ぎながら言い放つ月居。その内容に、アムはルクシオンの頭を叩いて身を乗り出す。

 しかし月居はそれに極めて真剣な面持ちを向けて、言葉を続ける。

「門が開いている今。この場所は二つの世界の境界が他よりもずっと曖昧になっているわ。この状態なら、私にも道を開く事は出来る!」

 そう言いながら、月居は右前から迫る拳との間にロッドを差し込み防御。重い拳を受け流す。

「最初の手が破られた以上、強引にでもこじ開ける他に手はないわ!」

 そして強い口調で告げると共に、右に握った妖しく艶めく刃を返し、左側へ抜けようと流れる黒い巨体へ白く輝く切っ先を突き刺し埋める。

『ぐふ』

 くぐもったうめき声を残して消える巨体。月居は体にまとわりつくその残滓を振り払うと、武器を携えた両腕を胸の前で斜め十字に交差。全身から青白い冷気を放出する。

「世界の綻びを見切り次第、門をこじ開けるわ!」

「分かりました!」

「承知ッ!」

 魔力の冷気を放ちながらの月居の宣言。それにウィンダイナとシャルロッテは共に拳を固め、翡翠の風と黒の炎をそれぞれに全身に纏う。

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