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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
手にした夢の果てに
38/49

突入~その1~

アクセスしてくださっている皆様、いつもありがとうございます!

読んで下さっている皆様のおかげで、拙作も第四章、結びの部に入ることができました。完結目指して、気を抜かずに頑張ります!


それでは本編へどうぞ。今回も楽しんで頂けましたら幸いです。

「たららららら―ん、んんんん、ふふふーん……」

 ところどころに音を外しながらも楽しげに鼻歌を歌い、弾むリズムに乗った足取りで階段へ向かう裕香。

 洗いたての長い艶やかな黒髪に、温まり上気した頬。その年不相応に豊かな胸に押し上げられた、サイズの大きい青いサッカーユニフォーム。そしてその裾から伸びる長くしなやかな足。

 そんな湯上りで寝支度をすっかり整えたと全身で主張しながら、裕香は二階の廊下を自分の部屋へと向かう。そして自室の入り口を閉ざす褐色の扉の前で裾を翻しターン。ノブに手をかけて押し開ける。

「みんな、おまたせ」

 そう言いながら部屋へ踏み込む裕香。するとそんな裕香を部屋の中にいた五対の目が出迎える。

「クク……気にすることはない」

 白いフリルで飾られた黒いパジャマ姿のいおりは、出入り口に背を向けていた身を捩って振り返りながらそう言い、手袋に包んだ左手を突き出しつつ口の端を吊り上げる。

「そうそう。先にお風呂貰っちゃったのは私達なんだし」

 その右隣では、オレンジ地に白抜きに犬の踊るパジャマ上下に身を包み、前髪を下ろした愛が右手をひらひらと左右に振る。

「それより裕ねえ、早く座りなよ。ここ、ここ」

 そんな二人の奥、窓際のベッドに座った赤いパジャマ姿の孝志郎が自身の右隣に手を弾ませる。

「うん。そうだね」

 孝志郎に微笑み頷き、テーブルを迂回してベッドへ向かう。その姿を目で追いながら、テーブルの上に座った白黒一対の翼持つ獣が揃って尾を振る。

『それにしても、すっかり落ちついちまってるさね……ま、確かにここしばらくは静かだけどさ』

『そうだね。兄さんの動きが無いのが不気味だけど、明日はカナデ先生と相談する事になってるし……休めるうちに休めるのも大事だよ』

 俯くアムへ翼を広げながら返すルクス。そんな竜二匹に、いおりがテーブルへ肘を乗せて身を乗り出す。

「白竜の言うとおりだぞ、半身よ。せっかくテスト開けの打ち上げなのだ。心を休める一時に水を指すものではない。それは無粋というものぞ?」

 頬杖をつき、軽く鼻を鳴らし笑ういおり。そんなやり取りに笑みを零しながら、裕香は孝志郎と並ぶ形でベッドに腰に下ろす。そこでアムは再び尻尾を左右に振り、ニッと口の端に笑みを浮かべる。

『ああ、悪かったさね……アンタ、今日をめちゃめちゃ楽しみにしてたしね。それに水を指す様な事を言ったのは確かに悪かったさね』

「な! アム、お前何を!?」

 笑みを浮かべながら謝るアムの言葉を、慌てて遮るいおり。だが、それを聞いた愛は愛おしげな笑みをいおりへ向け、裕香も笑みを深める。

「む、むう……」

 唇を尖らせながら身を引き、首を縮ませるいおり。

 裕香はそんな恥ずかしげな友人を眺めながら、剥き出しの太ももの上に手を弾ませる。

「あ、だったらお風呂は皆で銭湯まで行って一緒にって言うのも良かったかもね」

 妙案を思いついたとばかりに満面の笑みを一同に向ける裕香。

 だがその提案に、いおりと愛は頬を強張らせて裕香を、より詳しく言えばその豊かな双丘を凝視する。

「え? なに、どうしたの?」

 そんな二人の視線に首を傾げる裕香。それに続きいおりと愛は揃って自身の胸を撫で下ろす。

「それでも良かったけど……もしそんな事になったら、ご利益欲しさに私達が左右からその大きいのを触ると思うけど、それでもいい?」

「え、えぇ……?」

 そんな愛からの言葉に、裕香は戸惑いながら自身の豊かな胸を両手で抑える。

 その一方でいおりと愛は揃って裕香の手に隠された豊かなものに注目し、両手の握緩を繰り返す。裕香はそんな友人たちと自身の胸を交互に見やり、胸を抑えながら前のめりに体を折って上目づかいに友人たちを見る。

「えっと、その……痛くしないなら、触ってみる?」

「いいのッ!?」

「なんとッ!?」

 驚き身を乗り出す愛といおり。対して裕香は頬を染めて顔を俯かせる。

『いや、そんな無理にオッケー出さなくてもいいよね!?』

 そんな裕香にルクスが後ろ足だけを支えに立ち上がり、前足を横薙ぎに振って相棒へ突き出す。それに裕香は、羞恥に赤く染まった顔を俯かせたまま、前髪の隙間から相棒を覗きいて唇をもごつかせる。

「だ、だって……なんとなく、そういう空気っていうか……ちょっと言ってみたかった、ていうか……」

『だからって無理にボケることないよね!? しかも似合わない方向で!』

「あ、あはは……」

 再度前足を振るい、突っ込みを重ねるルクス。それに苦笑を返しながら、裕香は前かがみに畳んだ体を起こす。

 そんな裕香に、愛は笑いながら伸ばしていた手を引っ込める。

「まあ、触るとかどうとかは冗談だから。ただ、その代わり……」

「その代わり……?」

 その愛の言葉に、手を胸の前から退けて首を傾げる裕香。すると愛は不思議そうに瞬きする裕香を前に正座、二度頭を下げて礼、続けて掌を二拍手の形で鳴らして合わせる。

「ご利益ちょうだいね!」

 そして力強い宣言と共に、合掌のまま一際深々と頭を下げる。

「えぇ……そんな、拝まれても」

 そんな愛の行動に戸惑い混じりに苦笑いを返す裕香。するとそこへ、青いユニフォームを押し上げる双丘の片割れを、不意に伸びてきた手が掴む。

「ひゃッ!?」

「うぬぅ……掌から溢れるこのサイズ。同じ年で何故ここまでの格差が生まれるのだ……」

 裕香の口から飛び出る短い悲鳴。それをよそに、いおりは左手の隙間から溢れる豊かなものを凝視。そのまま掴んだ手を放さずに指を操り、揉み回す。

「ン……あっ、いおりさん……そんな、触り方、ンン……ッ!?」

 されるがままに胸を弄ばれ、唇を噛みしめ身悶えする裕香。そこへいおりは、さらに空いていた右手をもう一つの大きな果実へ伸ばす。

「ちょ、いおりさんッ!?」

「しゃ、シャル様!? な、何してんのッ!?」

 その様に愛は慌てていおりの右手を掴み、孝志郎も真っ赤に染めた顔を背けながら、右手をいおりの手の前に割り込ませる。

「ッ!? す、すまぬ!」

 するといおりは目を見開き、息を呑んで裕香の胸を掴んでいた手を引っ込める。

「ハア……フゥ……あぁ、びっくりした」

 そう言って裕香は朱に染まった頬と解放された胸とに手を当てて、息を整える。

「だ、大丈夫? 裕ねえ……」

「う、うん。ホントにびっくりしただけだから……」

 傍らから気づかう幼馴染みを見やり、平気だと笑みでも語る裕香。すると孝志郎は固唾を呑み、視線を顔ごと明後日の方向へ逸らす。

「? 孝くん、どうかしたの?」

 裕香はそんな幼馴染みの様子に軽く首を傾げる。しかし孝志郎は、耳まで赤くなった顔のまま尋ねる裕香の方をちらりと見やり、すぐにまた視線を逸らしてしまう。そんな二人のやり取りに、愛は苦笑を浮かべて頬を指でさする。

「あぁ……ちょっと孝志郎くんには刺激が強かったかな?」

「え、あ! うぅ……」

 孝志郎に変わっての愛の言葉を受けて、裕香は再び頬の朱を強めて俯く。

「ふぅ……それ、で」

 それに愛は軽く鼻を鳴らすと、続けて右目を瞑り、残った左目を隣りのいおりへ向ける。

「じゃれ合いにしても今のはやりすぎじゃない? いおりさん?」

「……うむ、面目ない……」

 苦笑を交えて、軽い調子で指摘する愛。それにいおりは正座の形で姿勢を正し、神妙な調子で首を垂れる。

「そんな、気にしないで。元はと言えば、私が変な冗談言ったせいなんだし。だから気にしないで」

 小さくかしこまるいおりの姿に、裕香は笑みを浮かべて首を横に振る。それにいおりは正座を崩さずに顔を上げる。

「すまぬ、裕香……つい、夢中になってしまった。その、母よりも母を感じて、つい……」

「えぇ……お母さんって……同じ年なのに、お母さん……」

 いおりの口から出た母という単語に、肩を落として俯く裕香。

「あ、いや、その! 違うの! ただ単に私の母親より大きいってだけの話で!」

 明らかに落胆したその姿に、いおりは慌てて首を振って言葉を補う。そして顔を上げた裕香へ、更に言葉を続ける。

「我の母親は、その……我を見れば察しがつく様な感じで……裕香のを実際に触ってしまったら、今までにないくらい妙に安心してしまって……」

「そう、なんだ」

 そのいおりの説明を聞き、微笑む裕香。その一方でいおりの右隣で愛も頷く。

「あぁ、うん。それは分かるかな。裕香さん、私のお母さんよりも色々大きいし……」

 自分の胸を抑え、苦笑気味に余所を向く愛。するとそれにルクスが前足を下顎に添えて頷く。

『その辺はやっぱり、ユウカの体格はお母さん譲りってことなのかな? ジュンさんはユウカと同じで割と背も高いし』

 そんなルクスの一言に、いおりと愛は揃って座り直し、裕香を正面から拝み始める。

「こんな風に育ちますように……もう少しでも近づけますように……!」

「や、止めて! そんな、祈られても困るよ!」

 熱心に祈り続ける友人二人に、困り顔で訴える裕香。

 そんな三人のやり取りの間で、アムは組んだ前足を枕に机の上に伏せる。

『やれやれ……人間のここだけは分かんないさねぇ。アタシは別に、体格なんざ不健康でなきゃそれでいいと思うんだけどさ』

『同感だよ。訳が分かんないよね。けど、まあ、そう言うものだと考えておくしかないよね』

 そう言ってアムは呆れたように鼻を鳴らし、それに続く形でルクスも尾を振りながら頷く。

 そんな二匹の言葉をよそに、拝み続けるのをやめないいおりと愛。それを前に、裕香は部屋の中を探る様に視線を巡らせる。そしてヒーローのマスクを背表紙にしたDVDたちに目を止めると、苦笑交じりにそれを指さす。

「ね、ねえ! それより、DVDでも見ない? シャドウレーサーとかばっかりだけど。今、結構有名になってる人が主役やってたのもあるし、どうかな?」

 その裕香の提案に、いおりは拝むのをやめて頷く。

「ああ、あれか。あれならば初心者も取りつきやすいだろうしな」

「俺も賛成! 俺もアレ、ノリが良くて好きだったんだ!」

 いおりに続き、裕香へ顔を向けて頷く。そして愛も顔を上げ、合わせていた手を放す。

「私も裕香さん達の好きな物には興味あるし、一度ちゃんと見ておきたかったから、それで行こう」

 一同の賛成に裕香は微笑み頷き、ベッドから立ち上がってDVDの並ぶ棚へ向かう。そして並ぶパッケージの一つに指をかけ、一同へ振りかえる。

「じゃあみんなオッケーって事で、DVD、かけるね」

 そう言って裕香は頷く一同を前にシャドウレーサーのDVDを取り出し、プレイヤーとそれに繋がったテレビに足を向ける。


※ ※ ※


 翌朝の食卓。湯気の立つ朝食を前に座る白いTシャツにホットパンツという動きやすさを重視した飾り気のない格好の裕香。その右手に愛、左にいおりという形でパジャマ姿の二人が長方形のテーブルを囲む。裕香の向かい側にはその両親である純と拓馬が並んで座り、その前にも同じように朝食が盛り付けられている。

 ワカメと油揚げに豆腐の浮かぶ味噌汁。明るく鮮やかな黄色の玉子焼き。それに添えられたしっとりとした緑は、ほうれん草のおひたし。そして茶碗に盛られて白く輝く白米。

 五人それぞれの前に出されたごく一般的な朝食。それに裕香たち三人が揃って手を合わせる。

「いただきます」

「ええ、どうぞ」

 その純の言葉を皮切りに、一斉に箸をとる三人。そして裕香は味噌汁。愛は卵焼き。そしていおりはほうれん草のおひたしへとそれぞれに箸を伸ばす。

 その最初のおかずに続いて、裕香たち三人は湯気の立つ白銀色の米を摘み上げて口へ運ぶ。そうして始まった娘たちの朝食の様に純は箸を止め、柔らかく目を細める。

「おかわりもあるから、遠慮しないでね?」

 その一言にいおりと愛は噛んでいたものを胃袋へ送って、微笑み頷く。

「はい。ありがとうございます」

「箸の進みがよいので、是非そうさせてもらいます」

 そう言って愛といおりはおかずへ箸を伸ばして食事を再開する。それに純は笑みを深めて頷く。

「ええ、そうしてちょうだい」

「お母さん、おかわり」

 そこへおかずを半分弱削った裕香が、空になった茶碗を母へ差し出す。すると純は笑みのまま差し出された茶碗を受け取り、傍らの炊飯器を開く。

「はいはい」

 そうしてしゃもじで娘の茶碗にご飯を盛りつける純。そして裕香は緩やかな山の形で盛られたご飯を受け取ると、玉子焼きを箸で小さく割って口へ運び、それに続けて摘み上げた白米を口へ入れる。

 みるみる内におかわりした分と合わせて平らげていく裕香。それを愛は箸を咥えたまま、いおりは味噌汁の器に口を付けたまま見つめ、続いてその豊かな胸を始めとした、メリハリの利いた発育良好な肉体に目をやる。

 そしていおりと愛の二人は、揃って口を付けた器と箸を口から離し、純へ目を移す。

「あの、やっぱり裕香さんくらい食べたほうが大きくなれるものなんでしょうか?」

「んグ!? ふ、二人とも!?」

 おずおずと確かめる様に尋ねる愛と、それに追随する形で頷くいおり。そんな左右の友人たちに、裕香は喉に詰まりかけたものを押しこんで、両脇を交互に見やる。

「うーん……どうかしらね。それはまあ、なんでも材料は必要だとは思うわよ」

 しかしそんな娘をよそに、純は苦笑交じりに頷く。そしてその隣の拓馬も箸を止めて口を開く。

「裕香は今朝も走りに出ていたが、そうやって昔から体も動かして、それに合わせて食べていたからね。急に食事量ばかり増やしても、色々と体が崩れるだけだよ。何事もいきなりというのは、遅かれ早かれどこかにしわ寄せが出るものだ」

 拓馬はそう言葉を締めくくると、止めていた箸を再び動かし始める。それを受けて、いおりと愛は黙って自分の分の食事に目をやる。

「しかし……これが今の裕香を育てた食事……」

 そう呟いて、食事を再開するいおり。僅かに勢いを増して口に入れた米を咀嚼するそれに続き、愛も同じく勢いを付けて目の前の朝食に取り掛かる。

「もう……いおりさんも愛さんも……」

 そう苦笑交じりに呟いて、裕香もまた停まっていた箸をほうれん草へ伸ばす。

「まあ、これくらいの年頃ならよくあることよ。私も少し分けろとか、なに食べて育ったとか、よく言われたもの。懐かしいわね」

 純はそう言いながら、娘とその友人たちの様子を微笑ましげに見守る。その隣では拓馬も眼鏡の奥で両目を柔らかく細める。

「今度は、裕香のランニングにも付き合ってみるのもいいんじゃないかな? いきなり裕香についていくのは難しいだろうから、普通に走った方がいいと思うけれどね」

「そうですね。やってみようかと思います」

 拓馬の言葉に、愛が茶碗を片手に頷く。そしてその一方で、純が箸を動かしながら娘とその友人たちを順繰りに眺める。

「それで、今日の予定は? この後はどうするつもりなの?」

 首を傾げて娘たちに尋ねる純。すると裕香はその母の質問に、箸の動きを止めて口の中のものを呑みこみ頷く。

「うん。朝御飯が終わったら、孝くんも一緒に、みんなで出かけるつもり」

「あら、孝志郎くんも連れて行くの?」

 裕香の返事に、純は瞬きを一つして問いを重ねる。するとそれに、いおりが左手に持った箸を立てて口を開く。

「ええ。昨夜も途中までは一緒でしたし。彼も仲間外れにしたくはありませんから」

「はい。みんな友達で、仲間ですから」

 いおりに続いて頷き語る愛。それを聞いて純は笑みを浮かべて頷く。

「そう。それじゃあ今夜はどうするの? 今日もウチで食べていく?」

 その純の問いに、いおりは僅かに笑みを陰らせて首を左右に振る。

「いえ、今夜は家に帰ります。さすがに二晩も連続でごちそうになるわけには……」

「私も、あんまり遅くなると親を心配させてしまいますし」

 そう言って遠慮する二人。それに純は笑みを返す。

「遠慮しなくてもいいのよ? でも、無理強いは出来ないものね。分かったわ」

「ありがとうございます」

 それにいおりと愛は声を揃えて首を垂れる。

「そうか、いおりちゃんと特撮の話をするのも、趣味同じ娘が増えたようで面白かったが、仕方ないか」

 拓馬は小さく笑みを溢してそう言い、ご飯茶碗を味噌汁と持ち帰る。そんな父の呟きに、裕香は噛んでいたものをのみ込んで頷く。

「でしょ? いおりさんって色々詳しいから、私もシャドウレーサーの話とかが楽しくて」

「ああ、そうだろうね。趣味の近い相手との話は楽しいものだろう」

 声を弾ませる裕香に、微笑み頷く拓馬。それにいおりは首をすくめて身を縮ませる。

「いや、そんな……私こそ、今まで裕香くらいにしか趣味の話が出来る相手もいなくて……昨夜は父君のコレクションでも楽しませていただきましたし」

 そう言って小さく柔らかな笑みを浮かべるいおり。そんないおりの姿に愛も純も笑みを深める。

 そんな調子で朝食は進み、全員が食事を終えて出かける時間となる。

「じゃあ、いってきます」

 吹上家宅の玄関。着替えて出かけ支度を整えた二人をドア側に、家の奥へ顔を向ける裕香。それに見送りに出てきていた裕香の両親が微笑み頷く。

「ええ、行ってらっしゃい」

「うん。気を付けて」

 送り出す吹上夫妻。それにいおりと愛が揃って頭を下げる。

「はい、お邪魔しました」

「お世話になりました」

 頭を下げるいおりたちに、吹上夫妻が再び頷く。

「いえいえ。また都合がついたら、是非遊びに来てね」

「はい、ありがとうございます」

「でも、泊めてもらってばかりなのも申し訳ないので、次はウチに来て貰おうかとも思ってるんです」

 顔を上げて礼を言う愛と、遠慮するいおり。すると愛は唇を緩めながら、傍らのいおりへ視線を向ける。

「いおりさんは寂しがり屋だから、またすぐに機会があるかもね」

「め、愛!? いきなり何をッ!?」

「いおりさんが呼んでくれたらいつでも遊びに行くからね?」

「裕香まで!? ……うぬぅ……」

 頬を染め呻くいおりを、微笑み眺める愛と裕香。そんな娘たちのやり取りに、純は柔らかに目を細める。

「ふふ。そう、その時は娘をよろしくね」

「は、はい」

 頬の赤みの収まらぬまま、笑う友人たちと吹上夫妻を交互に見比べて頷くいおり。

 そこで不意になり響く呼び鈴。

「裕ねえ? まだぁ?」

「あ、うん。今行くよ」

 それに続き、ドアを通して投げ掛けられる孝志郎の声。それに裕香は友達の間を抜け、ドアをゆっくりと押し開ける。

 開いたドアから姿を現す孝志郎。裕香はそんな幼馴染を笑みで迎えて、見送りに出ていた両親へ振り返り、向き直る。

「じゃ、今度こそ行ってきます」

「うん。気を付けてね」

 そう言って、肘から先を持ち上げた右手を振る純。そうして送り出す母に、裕香は手を振り返して、孝志郎の待つ外へと踏み出す。

 それを追いかける前に、いおりと愛は改めて拓馬と純の二人に振り返り、改めて一礼する。

「どうもありがとうございました」

「お邪魔しました」

「これからも、裕香をよろしく頼むよ」

 拓馬からかけられる願いの言葉。それに二人は微笑みを湛えた顔を上げ、小さくあごを引く。

「はい!」

「もちろんです!」

 そうしてはっきりと了承の言葉を返すと、愛といおりは揃ってきびすを返し、先に立つ裕香に続いて玄関を後にする。

 吹上家の前庭を抜けて、表札のかかった門の外へ出る裕香たち一行。歩道に出た四人は、裕香の左隣に孝志郎。その真後ろに愛、右にいおりと、真上から見て丁度サイコロの四の目となる形で並び、歩き出す。

 隣り合った日野家の前を通りすぎ、山端公園へ向かって進む一行。そうして隊列を崩さずに歩いていると、裕香の左後ろを歩く愛が口を開く。

「ありがとね、裕香さん。テスト前の泊まり込み勉強会といい打ち上げといい、場所に使わせてもらっちゃって」

「ご両親にも世話になってしまった。今度立ち寄るときに、何かお礼の品を持っていくべきか」

 愛の言葉に、肘を支えるように腕組みして頷くいおり。

 裕香はそんな後ろの友達二人を左の肩ごしに見やり、口元を柔らかく緩めて言葉を返す。

「そんな気にしないで。私、勉強は二人に助けられてばかりなんだし、二人のおかげで、お母さんとお父さんを安心させられたんだし」

 そう言って笑みのまま、気づかい無用と左掌をひらひらと横に振る裕香。だがいおりはそれに、眉根を寄せて渋面を作る。

「しかしだな……このまま何もせぬままでは、礼儀知らずと思われはしないだろうか」

 小さく唸り、食い下がるいおり。そして愛も日光に晒された額を撫でながら、いおりに頷く。

「そう、だよね。歓迎してはくれたけど、それに甘えちゃうのは良くないよね」

 そう言って、二人揃って唸る愛といおり。裕香は、そんな友だち二人に頬を擦りながら苦笑を浮かべる。

「私たちだけでできるのは、使う場所が偏りすぎないようにするくらい、じゃないかな?」

「うぅむ……しかし、なんとかできないものか」

 裕香の言葉を聞いても、腕を組んで唸り、首を捻るいおり。

「まあ、私も泊めてもらう側になったら気にすると思うから、分からなくも無いんだけど……」

 苦笑を浮かべたまま、悩むいおりに同意を示す裕香。その裕香の二の腕を左からの孝志郎の指がつつく。

「ねえ、裕ねえ」

「ん? どうしたの、孝くん?」

 裕香はその呼びかけに、後ろの友人たちから傍らの幼馴染へ目を向ける。すると孝志郎は、裕香の顔を見上げて続きを口にする。

「今日は裕ねえたちの先生の家に行くんだよね? どこに住んでるの?」

 目の前の山端公園へ進みながら尋ねる孝志郎。それに裕香は左へ伸びる道を指さす。

「あ、うん。住所は聞いてるから。とりあえずこっち」

「へえ、中学校の方なんだ」

 それに頷き、裕香の案内に従って左へ曲がる孝志郎。そんな二人に続く形でいおりと愛も道を曲がる。

「うん。先生はウチの中学近くのアパートに住んでるの」

「私のウチよりは、裕香さんの家側らしいんだけど……」

 裕香の案内に続き、住所の場所を補足する愛。それに孝志郎は両手を頭の後ろで組む。

「へぇ、そうなんだ」

 そう呟き、前を向いて歩き続ける孝志郎。

「しかし……まさか裕香たちの担任が、十二年前に我等と同じように幻想種と契約を結んだ契約者だったとは……世間は狭いものよな」

 裕香の真後ろを歩きながら呟くいおり。それに裕香は、後ろで手袋に包んだ左手をあごに添えた友人に振りむく。

「うん。私もその話を聞いた時は驚いちゃったよ」

 頷き、前方へ顔を戻す裕香。そして足の速度を緩めぬまま、続けて口を開く。

「言われてみれば、先生は私たちの事をよく気にかけてくれてたし……きっと、私が知らない所でも色々とフォローしてくれてたんだと思う」

「うむ……恐らく今日の話は、奴の元へ攻め込む手段か、そうでなくとも何らかの対抗策だろう。そうであって欲しいものだが……」

 いおりは裕香の推測を首肯する一方、眉根を寄せて、薄く開いた唇の奥で白い歯を噛みあわせる。

「……いおりさん」

 愛は、そんな歯軋りするいおりの剣呑な横顔を見やり、微かな声でその名を呼ぶ。

「アイツとの決着は、必ずこの手でつける……それがアイツに踊らされ、様々なものを傷つけた我に出来る、唯一の償いだ」

 怒りを帯びた声を滲ませて、左耳のイヤリングに手を伸ばすいおり。それに続き裕香と孝志郎は揃って、アムとの契約の法具を弄ぶいおりへ振り返る。

「シャル様……」

「いおりさん」

 友の名を呼びながら、一歩、二歩と後退りしながら歩く勢いを緩め、やがて足を止める裕香と孝志郎。すると後続の二人も少しずつ歩く速度を緩めて、立ち止まる裕香たちの目の前で立ち止まる。

「裕香、どうしたのだ?」

 不意に足を止めた友へ、戸惑い目を瞬かせるいおり。すると裕香は目の前の友人が左耳から離した左手を両手で握り、自身の胸の前に持っていく。

「アムとたった二人で背負わないで。踊らされた償いって言うなら、私とルーくんも同じ。みんなで力を合わせて、立ち向かおう!」

 吹く風に裕香の長い前髪が流され、その下に隠れていた目が露わになる。

「裕香……」

 真直ぐに射抜くように放たれる眼光を受け、友の名を口にするいおり。すると繋ぎ合った手がへ二本の手が伸び、包み込むように握り合ったそれに、更に上から重なる。

「そうよ、いおりさん。それに償いも何も、私はいいきっかけを与えてくれたと思ってるって言ったでしょ? 大したことはできないかもしれないけど、友達として精一杯助けるんだから!」

「裕ねえと三谷の姉ちゃんの言う通りだって! 一人でやるなんて、そんな友達がいの無い事言わないでよ!」

 そう言って柔らかく微笑む愛と、左手の握り拳に親指を立てて見せる孝志郎。

「愛、それに少年も……そう、だな。これはもう、我らだけの問題ではないのだったな」

 いおりは裕香から愛、そして孝志郎と視線を移して行き、張り詰めた息を吐く様にして微笑み頷く。

「うん! いおりさんはもうアムと二人きりじゃない!」

 いおりの言葉に、力強く頷き返す裕香。それにいおりは微かなものだった笑みを深いものに変える。

「うむ……頼りにしている」

 そうして四人は誰ともなく重ねあった手をほどいて、月居の待つ家へ向かい、停まっていた足を進め始める。

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