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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
吠える風、揺れる炎
36/49

風と舞う炎~その3~

アクセスして下さった皆様。ありがとうございます。


今回も拙作が皆様の一時の楽しみとなれば幸いです。

「はああああッ!!」

 大気を引き裂く気合。それを後ろへ残しながら、ウィンダイナを乗せたルクシオンは真っ向から突進。

 対するラディウスは、雷球を通じて操る巨塊に、新しい触腕を作らせる。

『フッ……正面から真正直に突っ込んでくるか』

 軽く笑い飛ばすのに続いて放たれる新たな触手。

「アムッ!?」

『オォラァッ!?』

 正面から雨霰と矢のように迫る黒。だがそれにルクシオンのヘッド部から身を乗り出したアムが火の息を吹き付ける。放たれた火炎は先頭の触手を焼き払いながらルクシオンをコーティング。地を駆けるトライクを炎の砲弾へと変える。

 炎を纏うルクシオンは、迎え撃とうと放たれ続ける攻撃の尽くを焼き潰しながら進撃。炎のカーテンを破る事なく、その中で瞬時に炭となって崩れる触手を後ろに流しながら、微塵もその速度を緩めず一直線にラディウスの雷球を目指す。

『ほう? 強行するだけの事はある、と言う事か』

 さらに勢いを増しながらの突撃に感嘆の声を漏らすラディウス。その直後、ルクシオンの進む先で地面が盛り上がる。そしてそれをトライクの前輪が踏むや否や、地中に潜んでいた触腕が下から一気に突き上げる。

「なッ!? くぅッ!?」

 地中からの急襲に炎を撒き散らしながら宙を舞うルクシオン。だがウィンダイナはそれに歯噛みしながらも、体を右に振って周囲に残った火の粉を振り払うように車体を横回転。足場のない所を狙って襲いかかる触腕をやり過ごし、周囲をドーム状に取り囲むヘドロの壁を真横に踏む。

 そして壁との接地から三つのタイヤが壁面を噛んで発進。それに遅れて壁から突き出た触腕を置き去りに壁面を駆ける。

『うぅあああああああ!!』

 エンジン音代わりのルクスの雄叫び。それを後に残しながら、ルクシオンは壁から突き上がるものを左へ下り、壁と挟み込もうと伸びるものを右へ昇ってかわし、蛇行を繰り返して走り抜けていく。

『ちょこまかと良く動く!』

 そのラディウスの言葉と共に、行く手を遮る様に壁を叩く巨大な平手。

「クッ!?」

 眼前で飛び散る粘液を前に、ウィンダイナは歯噛みし、ルクシオンの機首を上方向へ切り返す。壁を作るヘドロを削り散らし、横滑りに壁を走るルクシオン。その胴体が壁を叩く黒い巨腕へ触れる直前に、ウィンダイナはそれに左蹴りを叩きこむ。

 ルクシオンはその蹴りで生じた反発に、車体を左右に降りながらも壁面をタイヤで蹴って駆け昇る。

 そのまま弧を描く頂点を逆さの体勢で一息に駆け抜ける白いトライク。

「行くよッ!」

『ああッ!』

「任せてよ!」

『おうともさッ!』

 そしてドームの壁を半ばまで駆け降りた所で、声を上げて壁から分離。そこからウィンダイナは空中でルクシオンの機首を引き起こし、半ばウィリーさせた形で真下にあった太い触腕へ飛び乗る。

『もう一発!』

 道となった触腕を踏むと同時に、再び火炎を吹き放つアム。ルクシオンはウィンダイナの操作で、空に躍る火炎を体へ絡めるように蛇行しながら体勢を立て直す。そして機首を正面の白い魔法陣へ向けると同時に、強い唸り声を上げて加速する。

「撃ち抜けええええッ!!」

 大気を揺らす気合の声。それに続いてルクシオンは黒い触腕の足場から跳躍。渦巻く火炎を纏ったまま白く輝く魔法陣、そのコアである雷球へ向かい空を駆ける。

 激突。そして爆ぜる轟音。

『ウ、グゥ……ッ!?』

 両目を点滅させるルクシオン。それに伴い漏れるルクスの呻き声。

『まだまだ子どもだと思っていたが、フフフ……強くなったものだな、弟よ?』

 炎を纏ったルクシオンの前輪は輝く雷球の前で見えざる壁に阻まれ、その奥へ届く事なく空回りを続ける。

「散ってッ!!」

 それを見るや否や、ウィンダイナは散開の指示を飛ばし、ルクシオンのシートを足場に跳躍。大きく背を逸らしての宙返りで真上から振り下ろされる触腕を蹴り裂く。

「セイヤアァ!」

 飛び散り降り注ぐ黒い雫。その中でウィンダイナは背後から叩きつけようと迫るものを踏み、それを揃えた両足で蹴り跳ぶ。そうして行く手を塞ぐ粘液の腕へ拳を突き上げ、風穴を開けて殴り抜ける。

 ウィンダイナは空へ突き抜けた勢いのまま膝を抱く様に前回りに回転。そして足から先に下に蠢く太い触手へ舞い降り、膝を曲げての着地から間髪入れずに駆け出す。

 濁った水音を鳴らしながら走る白銀の装甲に覆われた巨体。その前方から、必死に翼を羽ばたかせたアムが黒い獣の爪を引きつれてくる。

『ゆ、裕香ぁッ!?』

「てぇえやぁあッ!!」

 助けを求めるアムをすれ違いざまに後ろへ庇い、左の貫手を突き出しアムを追う手を打ち砕くウィンダイナ。肩に張り付いていたアムは右の肩から顔を覗かせ、安堵の息を吐く。

『わ、悪いね、助かったよ……ルクスたちから離れちまってさ』

 それにウィンダイナは右肩を一瞥し、小さくあごを引く。

「気にしないで。それよりもう一度仕掛けてみるから、しっかり捕まっていて!」

『ああ!』

 アムから帰ってくる威勢のいい返事。それにウィンダイナは再び頷き、正面からの攻撃を右のチョップで切り払う。

 弾け散る黒い雫を装甲で弾きながら、触腕をその根元へ向かい駆けるウィンダイナ。その背後から襲いかかる鞭のようにしなる触腕。

「アアッ!?」

 風を引き裂き迫るそれに、ウィンダイナは振り返りざまの左肘で迎撃。続けて足元を狙う黒い鞭を前回りに跳び越える。足で縦一文字に空を割って太い触腕を足場に着地。そしてすぐさま膝を伸ばして踏み込む。だがその出鼻をくじく様に突き出される黒い拳。しかしウィンダイナは鼻先へ迫るそれにすかさず跳躍。さらに右手から横殴りに迫る丸太の様に太いものを蹴る。

「ふ!」

 頭を軸に大の字を描く様に四肢を広げて空を側転。そのまま鋭い息を吐きながら、斜め下から迫るものを蹴って逆に飛ぶ。その真下でぶつかりあい、絡みあう触腕。それを見下ろしながら更に逆側から迫るものを蹴って跳躍。そして更に伸びてきた触腕をすれ違いざまに掴み、それにぶら下がって振り子のようになって空を走る。

 掴まった触腕が伸びきると同時に、ウィンダイナは手首へ絡みつこうとするそれを握りつぶし、振り子の勢いの乗って空を飛ぶ。

 ウィンダイナはその勢いのままに身を翻し、足から壁に向かってそれを蹴りつけ跳ぶ。

 正面から雨霰と伸び迫る触腕の突き。ウィンダイナはそれを振りかぶって固めた拳をぶつけて迎え撃つ。

「エェェアァアッ!!」

 裂帛の気合と共に足元から迫る人型の触腕を踏み、ジャンプ。立て続けに蹄つきを踏み蹴り、正面から掴みかかろうとするものを殴り潰しながら、足元に迫る獣腕を素早く踏み走って跳ぶ。

 そうして両の手刀で黒い手を切り裂きながら、八艘飛びに触手を渡って行く白銀の戦士。

「ここでッ!!」

 やがて正面に白い雷球を核にした魔法陣を見据え、ウィンダイナは跳躍。錐揉み回転に空を舞い、右足を突き出しての飛び蹴りを繰り出す。

「キィイアアアアアアッ!!」

 鋭く響き渡る気合。それと共にその双眸を煌かせ、白銀の流星となり空を裂くウィンダイナ。その右足は翡翠色の光を渦巻かせ、行く手を阻もうと交差するヘドロの腕を障子紙の様に貫く。

 二組目、三組目と立て続けに、ウィンダイナはその勢いを微塵も緩めずに蹴り抜き進む。それはやがて白い魔法陣の中心である白い雷球、その僅かに上、捕らわれのいおりとの間にある魔法陣へ突き刺さる。

「デェェエアアアアアアアアアッ!!」

『ほう?』

 激しい火花を伴う反発。それにウィンダイナは声を張り上げて爪先から魔法陣を展開、ラディウスの制御する白い魔法陣へ力任せにめり込ませる。そして更に激しさを増す火花に、明滅する白い雷球から感嘆の声が漏れる。

『いおり!? こんなのにいい様にされていいのかい!? 目ぇ覚ましな!?』

 それをよそにウィンダイナの肩のアムが磔にされたパートナーへ必死に呼びかける。

「う、うぅ……」

 それが聞こえてか、項垂れたまま微かに呻き声を零すいおり。

『いおり!? いおりッ!?』

「おぉぉおおおおおおおおッ!!」

 そこへ重ねてアムは呼びかけ、ウィンダイナも魔法陣を砕く蹴り足により力を込める。

『こんなの、とは随分な言い種だな?』

「ぐ、う……!」

 だが雷球からの言葉に続いて苦悶の声を絞り出すいおり。直後、いおりを取り囲むように裂け目が生じ、その全てが空気もろともに力を啜る。

『う、わ!?』

「アム!?」

 不意に渦巻いた空気の流れに、アムはバランスを失い流れに呑まれる。そのまま裂け目へ吸い込まれていくのを、ウィンダイナは寸でのところで掴み止め、後ろへ跳び退く。

 そこへルクシオンが横滑りに真下へ滑り込む。そのシートに着席すると同時に、左背目掛けて掴み掛かる黒い手を蹴りつけ、相棒の操るトライクが発進する追い風とする。

「裕ねえ、大丈夫!?」

「うん! ありがとう。孝くん、ルーくん」

 背後に降り注ぐ手足を置き去りに駆け出すルクシオン。その内側から安否を問う孝志郎に、ウィンダイナは右から迫るものを蹴りで迎える。

『でもどうするの? このままじゃジリ貧だよ!?』

 前方から掴みかかる黒を左へかわしながら言うルクシオンのルクス。

「そうだね、なんとかしていおりさんを取り戻さない、と!」

 一方でウィンダイナは、背後から迫る手を左の踵で文字通りに一蹴。そのハンドルを掴む両腕の間、丸みを帯びた燃料タンクを模した部位に乗ったアムが項垂れる。

『いおり……アタシに、あの子を取り戻せるのかね』

『アム……』

 烏のような翼を落とし、力無く溢すアム。その名前をルクスは腫れ物に触るように呼ぶ。だが次の瞬間、迫る攻撃にルクシオンの車体を大きく右へ振りながら、その両目を激しく明滅させる。

『なに弱気になってるんだアム!? キミらしくもない!』

『ルクス……?』

 ルクスの張り上げた声に、赤く大きな目を瞬かせるアム。それにルクスは自身を模したトライクを左へ切り返しながら、さらに言葉を重ねる。

『キミの契約者だろ? パートナーだろ!? キミ自身が何が何でも取り返すくらい言えなくてどうするんだ!?』

「そう! 気をしっかり持って、アム!」

 相棒の言葉に同調して、胸の下のアムへ声をぶつけるウィンダイナ。そして右手から迫る拳の群れを叩き、腕、肘をぶつけて捌きながら更に声を投げかける。

「さっき、いおりさんに私達の声は届いてた! だから必ず付け入る隙は、助ける方法はあるッ!!」

 ウィンダイナはそう言葉を切ると、すかさずハンドルを持つ手を入れ替え。左の裏拳を横合から殴りかかる黒い拳へぶつける。そして立て続けに襲いかかる後続の蹄を肘で迎撃する中、アムは黒い翼を持ち上げ頷く。

『……ああ! そうさね、アタシが弱気になってちゃダメさね!?』

 金環の飾りのついた尾を振り、その赤い瞳を捕らわれたいおりへ向けるアム。対してウィンダイナは身を屈めてアムを庇いながら、迫る敵の魔の手を拳で叩き落とす。

「その意気だよ! それじゃあみんな、私に試してみたいことがあるから聞いてッ!」

『何か策がッ!?』

「なにをしたらいいの!?」

 行く手を塞ぐ粘液の柱を右へかわしながら先を促すルクシオンの二人。それにウィンダイナは頷きながら、柱から突き出た腕を風斬り音を伴うチョップで切り払う。

「アレは力を吸い取るけど、一度に吸い取れる力には限界があるの! その処理に集中した所で、アムとルーくん、孝くんがいおりさんを奪い返す!」

『ちょっと待ちな!? アタシたちでってことは、裕香、アンタまさか!?』

 ウィンダイナの挙げた奪還作戦の案に、アムは目を剥き振り仰ぐ。それにウィンダイナは後方を振り返り、追い立ててくる黒い手を蹴り払いながら答える。

「他は、全部私が引き受けるッ!!」

『そんなッ!? ムチャクチャじゃないのさ!?』

 役割り分担を宣言するウィンダイナ。それにアムは振り仰いだまま頭を振って裕香の無茶な策を引きとめる。

『……分かった、ボクらはアムを無事に届ければいいんだね?』

 だがルクスはルクシオンの前輪を固定。白いトライクの尻を大きく振って土を突き破って出てきたものを薙ぎ払いながらウィンダイナの提案を了解する。

『ルクスッ!?』

 それを責める様に、幼馴染の名を呼ぶアム。だがそれに後輪での薙ぎ払いから駆け出したルクシオンがその両目を明滅させる。

「大丈夫だって。裕ねえのフォローは俺達がやるから」

『うん。だから、アムは心配せずにイオリの救出に集中してよ』

 口々にアムの背中を押す孝志郎とルクス。それにアムは再び尾を一振りして頷く。

『分かったよ。すぐに済ませるから、途中でへばらないどくれよ?』

 軽口を交えて了解の答えを返すアム。その直後、一行の前方を黒い巨腕が抱きこむように塞ぐ。それを前にウィンダイナはルクシオンを引っ張り上げる様にして車体ごとジャンプ。

「キアアアアアアッ!!」

 そしてウィンダイナはルクシオンの機首を空中で切り返して横滑りに空を走らせ、行く手を塞ごうとする黒い手の手首へぶつけて逆側に跳躍。後ろから迫っていた黒い巨大な拳を右肘からぶち当たり打ち砕く。

「いおりさんをお願いッ!!」

『任せな!』

『オッケー!』

「裕ねえ、気を付けて!」

 それぞれに黒い塊を突き破りながら言葉を交わし、真逆の方向へ分散するウィンダイナとルクシオン。

 ウィンダイナは鋼鉄の唸りと燃え盛る炎の合唱を背に、黒い雫の合間をすり抜けて片手片膝を支えに着地。そしてすぐさま地面を叩きながら沈めた体を跳ね伸ばして踏み込む。

「ああッ!!」

 その勢いのまま上から降ってくる手足の群れを置き去りに、前方から掴みかかる手を右左と振るう拳で迎え撃ちながら走るウィンダイナ。その間に右側で輝くいおりを捉えた白い魔法陣を一瞥。そちらへ跳ねる様にしてコースを切り替え、前から空を砕いて迫っていた太い塊をかわす。

 そして右足が地を踏むと同時に、左腕から倒れ込むようにして半ば前回りに転がる。その直後に地面を揺るがす轟音を後に、地を握った左手と伸ばした左足でブレーキ。息つく間もなく正面に収めた魔法陣へ向かって走る。

『フフ……性懲りも無く向かってくるか。往生際の悪い事だ』

 明滅と共に笑みを零す雷球。それに続き白い光が閃く。

 それと同時にウィンダイナは右斜めへ飛び込む。奔った閃光が白銀の戦士の左足を掠め、地面を焼く。ウィンダイナは足から白煙を上げながらも前回りに受け身を取り、間髪入れず左斜めに飛び込んでしなる触腕をかわす。

「エェアアアッ」

 前回りの勢いのまま立ち上がり、正面から襲いかかる黒い手を左のアッパーで粉砕。さらに続く蹄持ちを踏み込みながらの右拳で打ち砕き、その勢いのまま距離を詰める。

 奔る閃光を跳びかわし、その着地点を狙って迫る黒い腕を薙ぎ払いながら突き進むウィンダイナ。

 その正面で閃く雷球。

「ハッ!」

 そこから放たれた閃光。それにウィンダイナは短い気合の声を上げて跳躍。爆ぜる雷光を足元に空を舞う。

 宙に浮かんだウィンダイナを目がけ、触腕をより重ねた巨大な塊が襲いかかる。が、ウィンダイナはそれを蹴りつけ、その勢いを上乗せして白い魔法陣へ踊りかかる。

『甘いな』

 嘲笑と共に輝く雷球。そこから放たれた雷光が真正面からウィンダイナを迎え撃ち、爆音を上げて弾ける。

「……ああッ!!」

 だが爆発を引き裂き、白煙の尾を引いて現れるウィンダイナ。そのまま右拳を振りかぶり、勢いを緩めぬまま白い魔法陣へその拳を叩きこむ。

『フ、バカの一つ覚えと言ったところかな? 飽きもせず折れもせず良く向かってくるものだ』

 嘲りの響きを乗せた言葉。その直後、魔法陣へ打ち込んだウィンダイナの右拳が光となって解けていく。

「ぐ!?」

『すでに体感したはずだが、直は素早いぞ? 自分から私にその身を預ける気になったのかな?』

 ラディウスが語る間に、二の腕まで無くなり、光に包まれた本来の腕を露わにするウィンダイナ。だが奪われる力に呻きながらもウィンダイナは強引に戦士としての右腕を復元。さらに引き絞った左腕をラディウスの魔法陣へ叩きつける。

『ほう?』

 雷球越しに感嘆の息を漏らすラディウス。それにウィンダイナは両の拳を更に捻じ込む。

「私の力なら、いくらでも持っていけばいいッ!! 持って行けるものならッ!!」

 叫ぶウィンダイナの両拳がシルエットを残して解け、雷球を取り囲む魔法陣から立て続けに火花が弾ける。

「今ッ!!」

 連なり爆ぜる火花の中、叫ぶウィンダイナ。

『うわあああああああああああ!!』

 それに応えて、雄叫びを上げるルクシオンが宙をかけ、魔法陣に捕らわれたいおりを目指す。だがそれを交差し、網を成した触腕の塊が阻む。

『その程度の手を見抜いていないと思っていたのか?』

『クッ、まだまだああああッ!!』

 吠えるルクスに応え、触腕の網を突き破って進攻するルクシオン。しかし車体の前半分が突き破った所で、後続の触手が次々とその白いボディを掴み、絡みつく。

『う、ぐ……!?』

「く、そぉ!」

「ルーくん、孝くん!?」

 絡め取られた車体の中で呻くルクスと孝志郎。それをウィンダイナは魔法陣へ拳を突き立てたまま振り仰ぐ。

『ルクスよ、お前の行動は素直すぎる……愚かなまでに真直ぐだ。少しは絡め手を使う事も覚えろと昔から教えていただろう?』

 その言葉と共に、ルクシオンを絡め取った触手から、中心に向かって光が吸い上げられ始める。

『いつまでもガキだガキだと、見下すもんじゃないさねッ!!』

 その瞬間、鋭い声が響くと共に、白い魔法陣に捕らわれたいおりに赤い光が輝く。

『なに!?』

『裕香ァ!』

「うぅああああああああああああッ!!」

 雷球から零れた驚きの声を遮り、合図を飛ばすアム。ウィンダイナはその叫びに従い、両の拳から全力で心の力を流し込む。それに伴って弾ける火花の勢いが増し、爆音の度に白い魔法陣が崩れていく。

「う、うう……!?」

『いおり! 起きなよ、いおりッ!!』

 連なる爆音の中、アムはいおりの胸に当てた両足から赤い魔法陣を展開。呻くパートナーへ懸命に呼びかける。

『……そこまでだ』

『む、ぐ!?』

 だが繰り返し呼びかけようと開いたその口を、横合から伸びた黒い触手が塞ぎ、その体ごと絡め取って持ち上げる。

「アムッ!?」

『アム!』

「そんなッ!?」

 黒い粘液の縄に絡め取られたアムの姿に、声を上げる三人。対してラディウスは捉えたアムの体を左右に振って見せる。

『確かに、三段構えのいい策だった……認めよう。お前たちの成長を侮っていた事も認めよう。 だが結果はこうだ……私には届かない。私の手の内にある小娘にすら届きはしない』

 そう言いながら、ラディウスは更に絡め取ったアムを、触手に左右に振らせる。

『う、うぐ』

「アム……クッ!!」

 振り回される度に呻くアム。それにウィンダイナは歯噛みし、魔法陣へ押し込んだ腕にさらに力を込める。だがその瞬間、その両腕は肩まで分解、吸収されてしまう。

「なッ!?」

 光に包まれた裕香本来の長さと太さの腕。装甲を剥がされて露わになったそれへ、ウィンダイナは交互に目を向ける。

『キミが放つ力も驚くべき量と質だったがすでに対応した。さあ、今度こそ仲間共々私の手の内に迎えるとしよう』

 そのラディウスの言葉に続き、魔法陣もろとも盛り上がった粘液がウィンダイナへ絡みつく。腕、足と包み込むように四肢を捉え、這い登る様に全身を覆っていく粘液。ウィンダイナはそうして徐々に埋め尽くされていく自身の体を見回し、歯噛みする。

「ク……ッ! イィィヤァアアアアアアアアアッ!!」

 そして取り込もうとする粘液に逆らって大きく背を反り、大きく振り被った頭を叩きつける。

 轟く激突音。そして大きくへこむ魔法陣。そこへウィンダイナは再び頭を振りかぶり、元に戻りかけた粘液の巨塊へ額を撃ちつける。

『こんなことで、諦めるものか!! 私は絶対に、いおりさんを取り返すッ! 絶対にィッ!!』

 叫び、さらにもう一打額を叩きこむウィンダイナ。その打点と全身は、絡まり覆う粘液越しにも分かるほどに眩い輝きを放つ。

『まさか! この状況で更に力が増すと言うのか!?』

 内側のウィンダイナから溢れる力に、風船のように膨れ上がる粘液。

「うぅああああああッ!?」

 頭を振り回しながら吠え、力を吐き出すウィンダイナ。

 内側から押し広げられるままに、拘束は破裂寸前にまで膨張。だがその刹那、翡翠色の光の透けた表面に白い光の文字が走り、その膨らみを押さえつける。

「うっ、ぐぅ……ッ!?」

『やれやれまったく、驚かせてくれるものだ。これほどまでの精神力、称えるほかない』

 呻きながらも、粘液の拘束を振りほどこうともがき続けるウィンダイナ。だがラディウスがそう言い切ると同時に、ウィンダイナの首から下を包む粘液の繭が見えざる手に握り潰される様に絞り縮む。

「うぅ、あぁッ!?」

「裕ねえ!?」

『ユウカッ!』

『ゆ、裕香ぁ!』

 締め上げられるウィンダイナの姿に口々に叫ぶ孝志郎たち三人。ラディウスはそれをよそに、ウィンダイナを締め上げる力をさらに強めさせる。

『……だが、キミの粘りに付き合うのも飽きたな。このままキミの戦う力全てを奪わせてもらうとしよう』

 その言葉に続いて粘液の表面に浮かぶ文字列が輝き、ウィンダイナを縛る粘液が絞る様に縮められていく。

「う……ああ、あああああああッ!?」

 本来の少女としての体格にまで縮められ、シールドバイザーを備えた鋼鉄のヘルメットまでもが光となって散り始める。だがウィンダイナはあごを引いて苦悶の声を噛み殺すと、その状態からもなお全身から翡翠色の魔力光を放散する。

「イィィ、ヤァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 ウィンダイナとしての仮面の奥に透けて見える裕香自身の顔。その下を包む粘液が激しく輝き、そこから繋がる白い魔法陣が激しい明滅を繰り返す。

『……いい加減無駄を悟れ。どうあってもこの状況は覆らない』

 変身をまともに保てなくなるほどに力を奪われてもなお叫び、もがき続けるウィンダイナ。その姿にラディウスは呆れ半分に呟く。

『いおりッ! アンタいい加減目を覚ましなよッ!』

 その一方で未だに目を覚まさない相棒を怒鳴りつけるアム。だが捕らわれたいおりはそれでも目を閉ざしたまま、微かに眉根を苦しげに寄せるだけであった。

『情けないとは思わないのかいッ!! アンタを! 友達を助けるためだけに、裕香が命がけで戦ってるってのにさ!! アタシが契約した奴は、それでも寝たぼけてられる情けない奴だったってのかいッ!?』

 いおりへと声をぶつけ続けるアム。それにラディウスは、うるさげにアムを捕らえた触腕を左右に振らせる。

『無意味だと言うのに、騒がしい事だ……』

『う、く! いおりッ! 起きろいおり!』

 黒い触手に振り回されながらも叫ぶアム。

『……そんなに契約者が恋しいか、ならば』

 そう言ってラディウスは振り回させた勢いのままに、いおりの元へ放り投げる。

『いおりぃいぃぃぃぃッ!!』

「いぃおりぃいぃぃぃッ!!」

 空へ投げ出されるアム。そして輪郭を光に縁取られた裕香。その二つの口から重なり響く一つの名前。

 直後、閉ざされていたいおりの両目が開き、その体を中心に炎が爆ぜる。

『なにッ!?』

 爆発に弾き出され、吹き飛ぶ雷球。その下でドームを形作っていた粘液の巨塊は紅蓮の炎によって内側から裂け、飛び散る。

 火に包まれて飛び散る破片に混じり、空を走る一つの影。赤い光を後に残したそれは他の物と同じ燃えた破片の様にも見える。だがその影は燃えた粘液の破片にぶつかると、それを打ち崩しながら別の方向へと飛ぶ。

 そうしてピンボールの様に破片の間を飛び交う影。そしてそれは赤く燃える破片の中で異彩を放つ翡翠の光の塊にぶつかると、その光る塊を抱えて攫う様に持っていく。

 光を抱えたまま一際大きな破片を跳ね、地面へと降り立つ影。

「すまない。待たせたな、我が友よ」

「いおりさん」

 包んでいた光を失い、露わになったセーラー服姿の裕香。黒い魔女シャルロッテは、腕の中の友に素顔で笑い掛ける。その赤いマントを纏った左肩からアムが顔を出し、その尾でシャルロッテの白い頬を叩く。

『っとに! 起きるのが遅いんだよ、このネボスケがさ!』

「すまぬすまぬ。耳栓を付けた覚えはなかったのだがな」

 頬を撃つ相棒の尻尾に、赤い左目を閉じながら返すシャルロッテ。その間に裕香は変身した友の腕の中から降り、地面を踏む。

「いおりさん。無事でよかった……」

「色々と、面倒をかけたな、裕香」

 シャルロッテはそう言って、相棒にされるがままになりながら裕香へ微笑む。それに裕香は、無言のまま微笑み首を横に振る。

 その後ろで響く重い音。それに裕香とシャルロッテが振り返ると、そこには双眸に光を灯したトライク、ルクシオンの姿がある。

「裕ねえ! シャル様!」

『大丈夫、みんな!?』

「よかった。孝くんも、ルーくんも無事で」

 タイヤを転がして寄ってくるルクシオンのヘッド部に手を置き、それを撫でながら安堵の笑みを零す裕香。

 一息つき、柔らかな空気に包まれる一同。だがその背後から、ルクシオンのものとは比べ物にならない重い地響きが地と空を揺るがす。

 顔を強張らせ振り返る一同。その視線が集まる先に輝く白い光。

 その後ろには固まった粘液が長く伸び、一段と太く大きな塊へと続く。その塊を支える二対四本の太い獣に似た足。その前足の上には一対の薄い膜でできた翼の様なものがあり、後ろ足の奥には長く伸びた尾が続いている。その姿はまさに絵に書いたようなドラゴンのシルエットを形作っていた。

『まだ私に刃向うと言うのか……どこまで手間をかけさせれば気が済むというのだ』

 しなり動く首の先で、呆れ交じりに呟くラディウスの雷球。

 それに対し、裕香は左手に右拳を撃ちつけ光を灯す。続けてその光で体を囲い、輝く拳を突き上げる。

「変身ッ!!」

 天を突く光の柱に包まれる裕香。そして爆散するその内からウィンダイナが姿を現し、左拳を前に右拳を引いた半身の構えをとる。

「いおりさんを苦しめ、利用した報い! 受けてもらうッ!!」

 構え叫ぶ白銀の戦士。それと背中を合わせ、シャルロッテも右手を前に伸ばし、左の鉤爪を高く掲げてラディウスと対峙する。

「うむ。この借り……存分に利子を付けて返させてもらうッ!!」

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