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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
吠える風、揺れる炎
33/49

吠える風、揺れる炎~その4~

アクセスしてくださっている皆様、いつもありがとうございます。


これが2012年締めの投稿となります。拙作にお付き合い下さりありがとうございました。来年もまたよろしくお願い申し上げます。


それでは、本編へどうぞ。

 赤い光を放ち、クレーターを跳び越え迫るシャルロッテ。マントを翼のように広げて、飛び込む勢いを乗せて繰り出される左の爪。ウィンダイナはそれを左腕を盾に受け止める。

 左腕同士をぶつけ合った姿勢のまま、ウィンダイナはバイザー奥の鋭い目でシャルロッテを見据える。

「どうして止められないの? 何のためにこうまで、戦うことにこだわるの?」

「何?」

 静かな声音での問い。その間にシャルロッテはマントを翻しながら着地、膝を曲げた姿勢から右拳を突き上げる。ウィンダイナは左手を振りおろして下から迫る拳をはたき捌く。

「私との戦いを望むように言いながら、その攻撃は迷いを抱えたものばかり。そんなに躊躇いながら、いおりさんが戦わなくてはならない理由は、何なの!?」

 ウィンダイナは問いかけながら、すかさず反撃の右拳を突き出す。白銀に煌くそれを、シャルロッテは身を傾けながら爪を備えた手の甲で逸らし捌く。そして深く沈めた右足を振り上げ右膝を撃ち出す。ウィンダイナはそれを肘から切り返して立てた左腕で受ける。

 膝蹴りを防がれたのを確かめ、跳び退くシャルロッテ。直後、白銀の蹴りが空を薙ぐ。

「戦う理由など! それが我等の宿命!」

 叫び、左の爪を構えて踏み込み迫るシャルロッテ。その踏み込みざまの突きに合わせ、ウィンダイナは右拳を突き出し迎え撃つ。

 激突の反動で離れる手。そして間髪いれず放たれる金色の右拳を左掌で受け止める。

「宿命に誘われるままに戦う、それが我の戦う理由! それ以上でも、それ以下でもないッ!!」

 シャルロッテから言葉に合わせて繰り出される連撃。ウィンダイナはその左、右と振るわれる金色の手を受け流し、捌いていく。

「嘘を、言うなぁッ!!」

 そして大きく振りかぶってからの左爪の突きを右腕の装甲に滑らせ、それに合わせた左拳を黒いボディスーツの胸へ叩きこむ。

「が……ふぅっ!?」

 胸を穿つ拳にシャルロッテの足が地面から離れ、その口から苦悶の呻きが零れる。ウィンダイナは折れたシャルロッテの体から拳を引き抜き、膝から崩れかけた所でマントの襟を掴み、片手で支える。

「もうそんなひねくれた言葉でごまかされたりしない!! 言葉も拳も、ぶつけるなら真直ぐにぶつけてきてよッ!?」

 そこからウィンダイナは額をぶつけ合う勢いでシャルロッテを引き寄せ、声をぶつける。それにシャルロッテは噛み締めた口から苦悶の声を零す。

「……言えるものなら、最初からこんな手を使うものかッ!!」

 僅かに首を反らしたシャルロッテは、怒鳴り声と共にシールドバイザーに守られたウィンダイナの額へ冠を叩きつける。ウィンダイナはそれを受けて離れた額を強引に引き戻し、連なる激突音を響かせて額をかち合わせる。

「何故!? どうして言えないの!? 何も知らせてくれないなら、どうすることもできないッ!」

 装甲越しに額を擦り合わせて睨み合う両者。やがてシャルロッテはその左手でウィンダイナの右側頭部を掴む。

 白銀の仮面へ食い込む黄金の爪。ウィンダイナがそれを振りほどこうと顔を動かした瞬間、黄金の爪が弾けて燃える。

「うぐッ!?」

 横殴りの爆炎に揺さぶられ、堪らず声を漏らすウィンダイナ。シャルロッテはそうして緩んだ手を振り払い、ウィンダイナの体を蹴りつけて一歩分の間合いを開ける。

「我らは敵同士だぞ! 敵の手を借りられるものか!」

 鉤爪を失い煙の燻る左手を払い、両手に拳を構えるシャルロッテ。

 対してウィンダイナは、左手を添えて頭を振り、頭に残る煙と衝撃を振り払う。するとその両目を輝かせて、拳を固く握る。

「敵でも何でも! 関係ない!」

 そして半ば叫ぶような言葉と鋭い拳を、シャルロッテの横顔へ叩き込む。

「が?!」

 左の黒い巻角越しに頬を打つ銀の拳。それに揺らいだシャルロッテへ、ウィンダイナは間髪入れず左拳を脇目掛けて繰り出す。

「正体を知る前から、敵でも関係なく助けてたのはどっち!?」

 腕にぶつかり止められた脇腹狙いの拳。にも構わずウィンダイナは立て続けに右拳を振るい、言葉と合わせて防御の上から叩き込む。

「自分だけは一方的に! 好きなように手助けしておいてぇ!」

 ウィンダイナそこからさらに、左、右と防御を固めたシャルロッテへ言葉と拳を叩きつけ続ける。

「こっちの手は敵だから借りないなんて、勝手過ぎる!!」

「ウッグ!?」

 そして一際強い声に合わせ、腰の捻りに乗せた右ハイキックでブロックする腕を蹴り抜く。

 蹴りの勢いに負けて上体を傾けるシャルロッテ。だが右足を突っ張って踏ん張ると、蹴りの威力に緩んだ拳を握る。

「言わせておけばッ!!」

 シャルロッテは叫び、ぐらつき傾いた上体を振り戻す。

「我の思いも知らずにッ!」

 振り子のように戻る体。その勢いに乗せた右拳が横殴りにウィンダイナを襲う。仮面の左頬を打つそれに蹴りを繰り出した片足立ちの姿勢が揺れる。

「何も言ってくれないのに、全部分かるわけないッ!!」

 だが蹴り足が地面を踏むや否や、ウィンダイナは先のシャルロッテと同じく体を振り戻し、己の頬を打つ拳を押し返す。

「言葉で全てが伝わるものか! 我が宿敵ならば、悟って見せろ!!」

 拳を押し返されながらも、拳を握った逆の手を繰り出すシャルロッテ。

「何から何まで、それで伝わるわけがない!」

 爪を無くした左拳を腕で防ぎ、叫び返すウィンダイナ。

「言葉も無しで分かったのは、いおりさんが戦いを躊躇ってる事ぐらいだよ!」

 そして右腕で拳を押し戻し、右のローキックを放つ。

「ぐっ! 何にせよ、宿命の敵としてあるのなら戦うだけだ!」

 脛を打つ一撃に歯噛みしながらも、シャルロッテは火炎を纏った拳を繰り出す。その燃え盛る拳は、吸い込まれるようにウィンダイナの顔面を捉える。

 しかしウィンダイナは顔面に受けた拳を掴むと、そのまま伸びきった腕を担ぐように、シャルロッテの懐へ潜り込む。そして足を払いつつその体を背負い投げる。

「私たちはッ! ライバルであると同時に、友達でしょうッ!!」

「がッ!?」

 背中からの激突に苦悶の声を漏らすシャルロッテ。そこへウィンダイナは仰向けになったシャルロッテの顔を見下ろしながら言葉を叩きつける。

「私は強敵であり、友達でもあるいおりさんが抱えてるものを知りたくて! 出来る限りの力になりたい、それだけなのッ!」

「ぐ……こうまで躊躇なく戦っておきながら! 何を今さらッ!!」

 ウィンダイナからの言葉に叫び返し、地面を叩き起き上がるシャルロッテ。

 背中を向けての着地。その膝を曲げた低い姿勢から、左踵で地面を削り薙ぎつつ振り返る。

 ウィンダイナは短く息を吸い、その足払いにバックステップ。そこへ拳を燃やしたシャルロッテが追撃に迫る。

 鋼鉄の仮面目掛けて迫る炎を纏う左拳。ウィンダイナはそれを右腕を盾にして受け止め、続く炎の右足を左腕で防ぐ。

 激突する装甲と装甲。その甲高い残響の中、ウィンダイナがはね除ける勢いのまま、二人はぶつけ合った手足を離す。

 そしてシャルロッテは着地と同時に炎を灯した右拳を繰り出し、ウィンダイナはそれを左掌で叩き払う。しかし拳を捌かれながらも、シャルロッテは構わずに逆の手をウィンダイナへ翳し、火炎を放つ。

 下から突き上げるように渦巻き迫る火炎。ウィンダイナはそれ上体を反らして身をかわす。すると間髪入れず拳を払った左腕を握り、甲側を向けて振り抜く。だがシャルロッテはそれを更に身を深く沈めて潜り抜け、ウィンダイナの右手側から火炎に包んだ右の手刀を振り上げる。それをウィンダイナは体を返した勢いに乗せた右腕をぶつけブロック。重い衝突音を響かせて腕を重ねる。

「戦い、我を倒す覚悟が出来たからここへ来たのだろうッ!? 我ら二人の関係に決着を……終わりを与えるためにッ!!」

「……違うッ!」

 ウィンダイナの鋭い否定と同時に離れる腕。続いてシャルロッテは両手を打ち鳴らして炎を両手に灯し、左の拳を突き出す。

「何が違うッ!? 我らの間の決着は、貴公も望むところだっただろうッ!?」

 突き出された拳を、ウィンダイナは右へ体を逸らしてかわす。そして続く右拳を左掌で受け止める。

「私も確かに、今の状態に決着を付けたいとは思ってる……でも! それは終わらせる事じゃないッ!!」

 腹、肩、顔を狙い次々と繰り出される拳を受け止めながら、叫び返すウィンダイナ。そして大きく振りかぶっての拳と掌がぶつかり合い、空気が破裂。直後、シャルロッテはマントを翻して大きく右足を引く。

「ならば、何のつもりで今戦っているッ!?」

 問いと共に繰り出されるシャルロッテの右回し蹴り。それをウィンダイナは同じように溜めていた右足の蹴りをぶつけて迎撃。重い激突音が周囲に鳴り響く。

「これは、ケンカよッ!!」

 蹴り同士の激突に合わせて放つ問いへの答え。それにシャルロッテは振り上げた足を重ねたままあごを上げ、唇を開く。

「喧嘩……だと?」

 半ば呆けた調子で呟き問うシャルロッテ。

 ウィンダイナはその隙に乗じてぶつけ合っていた右足を絡める。そしてすかさず逆の足で地面を蹴り、シャルロッテの側頭部目掛けて薙ぎ払う。

「うぐッ!?」

 蹴りとの間に割り込んできた腕。その防御もろともにシャルロッテを蹴り飛ばすウィンダイナ。その一撃にシャルロッテは呻き声を漏らしながらも、空中で身を捩り両足で地を削りブレーキをかける。

 左足を軸に砂地を踏み捻って振り返り、右手を前に構え直すシャルロッテ。その瞬間、ウィンダイナはシャルロッテへ真正面から左肘を突き出し踏み込む。

「エイィヤッ!」

「くぅッ!?」

 肘を降り伸ばしてのウィンダイナの拳。それに歯噛みし、右手で止めるシャルロッテ。そして黒い魔女は白銀の拳を叩き払った右手を切り返し、平手を突き出す。

「喧嘩だと!? 我との戦いを喧嘩だのと抜かすかッ!?」

 怒声と共に突き出された金色の平手。それをウィンダイナは叩かれた左腕を、肘を基点に振り戻して鼻先で弾く。

「そう! 私はいおりさんを倒す為に戦ってなんかいないッ!!」

 すかさずウィンダイナは声を返すと、同時に左足を低く突き出す。そしてそのローキックを足を引いてかわしたシャルロッテへ、更に踏み込みその体を強靭な装甲に覆われた両腕で抱きしめる。

「私には、いおりさんを敵と友達のどちらかに割り切ることなんてできないッ!! 友達として、好敵手として、言葉と拳の両方でいおりさんとの本音をぶつけ合うケンカのために、ここへ来たのッ!!」

 腕の中に抱きすくめたシャルロッテへ、言葉をぶつけるウィンダイナ。

「う、うぅ……」

 太く力強い両の腕の中で下唇を噛むシャルロッテ。それにウィンダイナは抱きしめる腕に更に力を込める。

「いおりさんッ!?」

「うぅあああああああああああッ!?」

 強く、友の名を呼ぶウィンダイナ。だがその腕の中でシャルロッテは頭を振って叫び、その全身から黒い炎を噴き上げる。

「ぐ……!? いおりさん!?」

 ウィンダイナは体の前面を焼く黒い灼熱に呻き、思わず抱きしめた腕をほどく。その前方で、シャルロッテは全身を包む黒炎の中で己の体を抱き、火の粉を散らしながら体ごと頭を振る。

「私だって、私だって……本当は……裕香を倒したくなんて、裕香と戦いたくなんてないよぉ……」

 炎に巻かれながら、嗚咽交じりに呟くシャルロッテ。それにウィンダイナは、体から煙を上げながら一歩踏み出して右手を伸ばす。

「だったら……」

「でもできない! 無理だよ! 無理な事を言わないでよぉッ!!」

 喚く様に身を捩って黒い炎を振り払い、同時に踏み込んで右拳をウィンダイナの胸へ突き出す。

「うっ……クッ!?」

 吸い込まれる様にウィンダイナの胸を打つ金色の拳。その衝撃にウィンダイナは苦悶の声を鋼鉄の仮面から零し、たたらを踏んで下がる。

 そしてウィンダイナはよたついた両足を踏みしめると、撃たれた胸を左手で抑えながら顔を上げる。

「……やっと本気をぶつけてくれたね、いおりさん」

 柔らかな声をかけるウィンダイナ。そうして打たれた胸から手を離すと、膝を軽く曲げて腰を落とし、両手に拳を握って構える。

 それにシャルロッテは歯噛みし、左拳を音を立てて握り締めて振りかぶる。

「今のが私の本気だって!? 本音だってッ!? 私は覚悟を決めたのだ!!」

 半ば喚き散らす様に吠え、振りかぶった拳を放つシャルロッテ。

「その思いが嘘で! 浅ましい未練が本音だなんてぇッ!! そんなはずが、あるわけないッ!!」

 鋼鉄の仮面を叩く一撃。さらにそこからシャルロッテは言葉と共に、右、左と拳をウィンダイナの装甲へ叩きつける。

「許されない外道に手を汚した我を、友と思わず叩き潰せぇッ!!」

「勝手に決めないでッ!!」

 そして叫びながら、左拳を撃ち出すシャルロッテ。だがウィンダイナはそれをかき消すほどの叫びと共に、右拳を迫る拳と交わし、黒い巻角へ叩きこむ。

「がッ!?」

 鋭い拳の一撃に、半ばから圧し折れる左の巻角。飛んでいくその先端に見向きもせず、ウィンダイナはぐらついたシャルロッテの腹へ、瞬く間も挟まず左の拳を撃ち込む。

「許さないなんて、誰が決めたのッ!?」

「うっぐぅ……!?」

 呻き、体を折るシャルロッテ。そこへウィンダイナは立て続けに右の拳を振るう。

「愛さんは幻想種パンタシアと契約させられたことを恨んでなんかいないッ! 私だって、いおりさんが理由も無くそんな事をするなんて思ってないッ!!」

 その言葉と拳に、シャルロッテは膝から大きくぐらつく。だが砂を鳴らして両足を踏みしめ堪えると、深く沈めた姿勢から顔を振り上げる。

「たとえそれが許されても、私は私自身を許せない事があるッ!!」

 シャルロッテは叫び、黒い炎を灯した拳を振り上げてアッパー。鋭く駆け昇るその一撃はウィンダイナのあご先を捉え、打ち抜く。

「ぐ、う!?」

 脳天へ突き抜ける打撃の衝撃のまま、あごを上げるウィンダイナ。そこへシャルロッテは体ごとぶつかり、ウィンダイナの背中を山型の遊具へ叩きつける。

 硬質な山がへこみひしゃげ、その窪みに収まるウィンダイナの背中。その白銀に煌く胸部装甲と腹部の装甲の境目に、シャルロッテは右腕を押し込んで遊具へ抑え込み、振りかぶった左拳をバイザーに覆われた鋼鉄の仮面へ叩きつける。

「だから私は! 戦いの中で果てたいのだッ!!」

 言葉と共に、拳を仮面へ打ちつけるシャルロッテ。フルフェイスヘルメットの後頭部が遊具に沈んでもなお、シャルロッテは拳を固めてそれを構える。

「許せない罪もろとも、私を滅ぼしてほしいのだ!! 他ならぬ、尊敬する宿敵ともにッ!!」

 さらに言葉と拳を重ね、叩きつけ続けるシャルロッテ。涙を含んだ声に混じり、鋼鉄の仮面から鳴る硬質な軋み割れる音。

 右目前に亀裂の走ったシールドバイザー。それを見てシャルロッテは下唇を噛み切り、口の端から血を流しながら緩み掛けた左拳を握り固める。

「ここまでやっても……まだ、倒す気にならんと言うかあぁッ!?」

 髪を振り乱して叫び、左拳を体ごと大きく振りかぶるシャルロッテ。その間にウィンダイナはシャルロッテの角を左右の手それぞれで掴む。

「なる、ものかぁッ!!」

 そしてウィンダイナは鋭く吠え、シャルロッテの頭を引き寄せながら額を叩きつける。

「が……あっ!?」

 ヘッドバットの衝撃に、シャルロッテの残っていた右角が根元近くから折れる。ウィンダイナの両手から離れ、割れた落ちたバイザーの左側と鼻血の尾を引いて仰け反るシャルロッテ。

「エイィヤアッ!」

 ウィンダイナは仰け反り無防備になったボディスーツの胴に蹴りを叩きこみ、シャルロッテの体を押し退ける。そして遊具にめり込んだ体を力回せに引きはがし、砂利を踏み鳴らして着地する。

「私に友達を倒させようだなんて、身勝手過ぎるッ!!」

 そしてウィンダイナはすかさず怒りを込めた声と共に踏み込み、シャルロッテの胸へ拳を叩きこむ。

「ご、ふ!?」

 シャルロッテは胸を撃ち貫く衝撃に足をばたつかせて下がりながらも、左足を支えに踏み止まる。そして顔を上げ、涙の滲む真紅の左目でウィンダイナを睨みながら解けた拳を固め直す。すると、握り固めた左拳を白銀の胸板へ叩きつける。

「勝手なのは私が一番知ってる! それも含めて、私は私を消してしまいたいのッ!!」

 胸板を撃つ左拳を押し込み、続けて腰だめに構えた右拳でボディブロー。ウィンダイナはその金色の拳の連撃を地面を踏みしめて堪え、返す左拳でシャルロッテの鳩尾を撃つ。

「ぐふ!?」

「なんで相談も無しに! そんな事を考えるのッ!?」

 そして打点を中心に体を折って浮かんだシャルロッテの頬へ腰のひねりに乗せた右の拳を叩きこむ。大きくぐらつくシャルロッテ。そこへウィンダイナは追撃に踏み込む。

「そんなに私は頼りない!?」

 ストレートに打ち出した左拳。それが体を振り戻したシャルロッテの胸を撃ち抜き、押し飛ばす。

 後ろ飛びに空を舞い、背中から砂場へ飛び込むシャルロッテ。ウィンダイナはそれを追いかけ、地を鳴らして踏み込む。

「いおりさんにとって、ライバルはその程度の存在なの!?」

 砂場を転がるシャルロッテへ、ウィンダイナは拳を溜めて踊りかかる。

 右手を砂に沈め、うつ伏せに停まったシャルロッテは、空を振り仰いで潤む真紅の目で白銀の戦士を見上げる。

「例え裕香相手でも、頼れない事はあるッ!!」

 右手で砂を掻き上げながら、それに炎を混ぜて投げ放つシャルロッテ。

「クッ!」

 視界を塞ぎ、装甲を叩く焼けた砂に歯噛みするウィンダイナ。その間にシャルロッテはその真下から転がり逃れ、立ち上がる。

「だから、こんな私の事は友と思わず、切り捨てて!」

 曲げた膝をクッションに砂場へ降り立つウィンダイナ。シャルロッテはその瞬間を狙い、砂を蹴散らしながら踏み込み、燃える左拳を繰り出す。

 仮面の顔面へ突き刺さる一撃に、音を立てて広がるバイザーの亀裂。だがウィンダイナはそれに怯まず、己の顔面を殴りつける拳の付け根を掴む。

「そんなことできないッ!!」

 そして手首を掴んだまま身を翻し、背負い投げてシャルロッテの体を砂の中へ叩きこむ。

「ぐう!?」

 柱の様に爆ぜ上がる砂。舞い上がったそれが雨の様に降り注ぐ中でシャルロッテは砂を掻きながら身を起こし、拳を振り上げる。

「何故!? 私が切り捨てて欲しいと言っているのにッ!?」

 言葉と共にウィンダイナの右頬を打つ拳。それに体勢を崩しながらも、ウィンダイナは砂に足を沈めて踏ん張り、反撃の左拳でシャルロッテの胸の中心を撃つ。

「頼まれても嫌ッ!!」

 胸を貫く打撃に、砂の上でよたつくシャルロッテ。それを前にウィンダイナは鋭く息を吸い、左半身を前にしたボクシングに似た構えをとる。

「私は絶対に、いおりさんを手放さないッ!!」

 拳を構え、叫ぶウィンダイナ。それにシャルロッテは足下の砂を踏み固めて、両手を握り締める。

「ッ! 切り捨ててよッ!」

「絶対嫌ッ!」

 踏み込み右拳を振るうシャルロッテ。それに頭を揺さぶられながらも、ウィンダイナはシャルロッテのマントを掴み、引き寄せながらの右アッパーを繰り出す。

「しつ、こい!」

「ああしつこいよ!」

 暗く染まりゆく空の下。足を止めて言葉と拳をぶつけ合うウィンダイナとシャルロッテ。

「ガンコモノッ!?」

「どの口がッ!?」

 額と額、腕と腕をぶつけ合い、二人は互いに一歩も引かずに拳を構える。

「うぅあぁあああああああああ!!」

「えぇぁああああああああああ!!」

 涙混じりの叫び声を上げながら、ひたすらに胸、腹、あごに頬と、二人は互いに拳を叩きこみ続ける。

 肩を上下させて、お互いに大振りの一撃を腹に撃ち込む両者。

「う、ぐ」

「がは……」

 互いに臓腑を貫く衝撃に呻き、二人揃って一歩二歩と後ろ歩きに離れる。

「ハァ……ハァ……」

「ふぅ……グッ!?」

 そして両者は肩で息をしながらも、ダメージに揺らぐ体に鞭打って顔を上げる。するとウィンダイナは亀裂の走ったシールドバイザーを己の手で殴り砕く。その一方でシャルロッテは鼻と口から垂れ流れた血の跡を拭う。

 互いに微塵も鈍らぬ眼光をぶつけ合うウィンダイナとシャルロッテ。そして二人は揃って大きく息を吸って、吐き、拳を音を立てて握り締める。

「この、わぁからずやぁあああああああッ!!」

 不意に吹く一陣の風。それを引き金に二つも口からタイミング、内容も寸分違わず揃えて放たれる叫び。それに合わせて両者同時に踏み込み、白銀と黄金の右拳を撃ち出す。

 轟き響く重い打撃音。

 ウィンダイナの拳はシャルロッテの側頭部にめり込み、逆にシャルロッテの拳はウィンダイナの鳩尾に沈み込んでいる。

 やがてシャルロッテの顔から右半分だけになったバイザーが外れ、乾いた音を立てて砂へ突き刺さる。

「ぐぅ」

「うぅぐ」

 そしてどちらからともなく零れた呻き声と共に、またどちらからともなくお互いにめり込んだ拳が外れる。そのまま両者揃って膝から崩れ落ち、横並びに倒れ込む。

 重い音と砂を舞い上げるウィンダイナとシャルロッテ。

「裕ねえ! シャル様!」

「二人とも!?」

『ユウカッ!?』

 そこへ声を上げながら駆け寄る三人。

「……ふ、ふふふふ……」

「……クク、ククク……」

 そしてその一方で、倒れ伏した二人の口から揃って微かな笑いがこぼれ出る。

「あはは、ははははははは!」

「ククク、ハハハハハハハ!」

 それに足を止めた孝志郎たち三人をよそに、ウィンダイナとシャルロッテの二人は肩を震わせて笑い声の勢いを強めていく。

「あれだけ殴り合ってケンカしたのに、最後の一声が思いっきり重なるなんて……あはは」

「結局私達は、ぶつかろうがどうしようが、強く繋がってしまうらしい……ククク」

「ふふ……けど、こんなのもう二度とやりたくないよ。ふふ、あははは」

「ククク……同感だ……ハハハハハハハ」

 そうして二人は砂場に寝そべったまま笑い合う。ひとしきり笑い声を交わし合うと、敷き詰められた砂に突いた手を支えに身を起こす。そのままその場にへたり込んだウィンダイナとシャルロッテはその身を光と黒い炎に包む。

 そしてそれぞれの身を包むものが散り晴れると、あざや火傷を負ったボロボロの裕香といおりの姿が現れる。

 傷だらけの二人は、体についた砂も流れた血もそのままに、一つ息を吐く。

「今回も引き分けだった……と言いたいところだが、こうなってしまっては、私の負けだな。裕香の考えに従うほかないか」

「じゃあ、ちゃんと話してくれるの?」

 いおりの言葉に、安堵に表情をほころばせる裕香。対するいおりは笑みを深めて首を縦に振る。

「うむ。これ以上意地を通そうとしても仕様があるまい。裕香の望むとおり、全てを話して頼らせてもらうとしよう」

 いおりがそう言い終えるや否や、不意に二人の頭上に白い光が閃く。

「え……?」

「これは!?」

 顔を上げ、空を見上げる二人。それに倣って孝志郎たちも揃って公園の上空に眼を向ける。

「何、アレ!?」

『これって、そんな……まさか』

 戸惑う一同の視線の先で、白い光の球が雷を閃かせる。

 空に浮かぶ白い雷球は、やがて引き締まる様に縮み、一気に周囲一帯を白く埋め尽くすほどに広がる。

「ひッ!?」

 誰のものともつかぬ、微かな息を呑む声。

「斬り裂けぇえッ!!」

 だがその刹那、艶やかな女性の鋭い声が響き、白い光が裂ける。

 しかし割れた光の片割れは消え去ったものの、消え残った方が空を駆け下り迫る。

「うぅあぁ!?」

「いおりさん!?」

 一瞬の間も置かずに響く悲鳴。それに裕香は弾かれたように振り向き手を伸ばす。

 白い光に呑まれていくいおり。裕香は光の中から辛うじて突き出た左手を掴もうとする。

 だが伸びきった指先同士が触れ合おうとした刹那、不意に湧きたった黒いヘドロが裕香の指を阻む。

「これって、この前の!?」

 友との間を塞ぐヘドロに、驚き目を剥く裕香。その間にヘドロはたちまち腕へと変化。そのまま大きく開いた手で裕香の手首を狙う。

「うっ!?」

「吉影! その手を落とせッ!!」

 掴みかかるヘドロに、裕香の口から呻き声が漏れる。その引きつった声をかき消し響く鋭い声。それとほぼ同時に風を切る音と閃光が走り、ヘドロ腕の手首から先が落ちる。

 だがそれに息を吐く間もなく、裕香達一同のの周囲を包むように黒いヘドロの幕が立ち上る。

「させるものかッ!!」

 しかしそのヘドロカーテンの一角に走る横薙ぎ一閃。その閃きに断たれた上が散り消え、残った土台を跳び越えて飛び込む一つの影。

「エェアアアッ!!」

 鋭い気合の声と共に、水に濡れた様に艶めく刀を振るうスーツ姿の女性。

 縦、横、斜めと縦横無尽に閃く剣閃。その度にヘドロが裂けて散り、女性のショートボブの黒髪が揺れる。その一方できちんと整えたスーツには一切の乱れを作らず、しなやかな肢体を踊らせて攻めかかるヘドロを切り倒してゆく。

 瞬く間にヘドロの怪物を切り伏せたスーツの女性は、その右手に握った妖しく煌く刀を振り払う。

 その背中に裕香は前髪の隙間からのぞく目を瞬かせる。

「月居、先生……?」

 裕香に名を呼ばれて月居は振り返ると、その切れ長の目を教え子たちに向ける。

 月居は裕香の無事にその目を柔らかく細める。だが、別の方向へ視線を動かすと、和らげていた目を険しく引き締める。

「ごめんなさい、間に合わなかったようね」

 その謝罪の言葉を受けて、裕香も月居と同じ方向へ目を向ける。

 そこには黒く焦げた砂が歪な円を描いて残されていた。

「……いおりさん」

 裕香は風に流れる焦げた砂を見ながら、つい先程までそこにいた友の名を呟く。

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