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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
吠える風、揺れる炎
28/49

心乱す嵐~その3~

アクセスしてくださっている皆様、いつもありがとうございます!


11月10日で、僕がこのサイトへ登録して二周年と相成りましたが、これも皆様の応援のおかげです。感謝の極みであります。

では、本編へどうぞ。今回も楽しんで頂けましたら何よりです。

 前屈みの姿勢で、フの字型の長い足を動かし一歩一歩進んでいく人間大のバッタたち。

 夕日に照らされた花壇や動物小屋のある飼育区画の中。怪物バッタは前に伸びた長い触角を盛んに動かし、探す様に周囲を見回す。その周囲に翅を広げた小さなバッタが飛び寄り、震える触角の先端を交わす。すると人間大のバッタは逆関節の脚を深く畳み跳躍。背中に広げた翅を震わせて、朱に染まった空を飛んでいく。

 小さなバッタを引きつれて離れていく、人間大の化物バッタ。それらの尻が十分に離れた所で、用具を納めた倉庫の底が切れて僅かに浮かび上がる。

『行った、かな?』

 その隙間から覗く黒い鼻先と翡翠色の双眸。そして景色を映した遮蔽物の陰で安堵の息を漏らし、被っていた箱を持ち上げ押し退ける。

 ルクスの力で作った擬態の箱が外れ、倉庫に背中を預けたウィンダイナと、両前足を持ち上げたルクスの姿があらわになる。そして肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返していたウィンダイナの身が光の塊へと変わり、縮む。

 人型を描く光が弾け散り、セーラー服姿の裕香へと戻る。

『怪我は、大丈夫?』

 大きく息を吸い、呼吸を整える裕香。それに首を傾げ訊ねるルクス。すると裕香は、長い前髪の隙間から相棒を見て微笑み頷く。

「大丈夫。もう痛む所はほとんどないから。でも回復で結構力を取られたせいか、少し疲れてるけど、ね」

 そう言って裕香は右膝を突いた姿勢に身を起こし、相棒に右手を伸ばす。それに従ってルクスは裕香の右腕を辿ってその肩へ昇る。

 そうしてルクスを肩に乗せた裕香は、目立たないよう軽く屈んだ姿勢のままその場を移動する。

 鳥の臭いが漂う小屋の陰に滑り込み、小屋の壁に背を付けて茜色の空を飛ぶ黒い点を見やる。

『ユウカ、どうする? ずいぶん警戒されてるけど、まださっきの疲れもあるんだろ?』

 裕香の肩の上で、今からの方針を確認するルクス。それに裕香は遠くに見える鬼の巨体を窺いながら頷く。

「そうだね。でも、人質はなるべく取り返しておきたい」

 そう言いながら、裕香は今いる飼育区画に開いた校舎との出入り口に目をやる。

「ただ……正面から強引に力技でこじ開けるわけにも行かないから、気付かれないように隠れていくことになりそうだけど」

『隠密作戦か。敵の位置を探ったり、見つかりそうになった時はさっきみたいにボクがなんとかできるね』

 それに頷きながら、裕香は物陰から周囲を窺い、タイミングを計る。

「でも、私の格闘がどこまで通じるか……変身してない今は、少し心許ないかな」

 後半を早口に言い切り、肩のルクスを抱えて物陰を飛び出す裕香。長い黒髪をなびかせて校舎との間を駆け抜け、両開きの扉へヘッドスライディングの要領で飛び込む。その勢いのまま肘から前回りに受け身を取り、素早く手近な壁の窪みへ逃げ込む。

 壁を背に息を殺し、周囲の気配を探る裕香。

 そこへ校舎近くに降り立つ羽音があり、それと同時に開放された出入口から長く伸びた影が差し込む。

 目の前まで伸びる歪な影に、裕香は体に力を入れて唇を引き結ぶ。

 砂を踏み締める音と共に動く影。

 やがてその影は壁の影に埋まり、足音も遠くに離れて行く。

 裕香はそれに安堵の息をこぼし、腕に抱いた相棒を見やる。するとルクスは、魔法陣のレーダーを一瞥。裕香の視線に頷く。

『大丈夫、行けるよ!』

『わかった!』

 相棒の思念による肯定を受けて、物陰を抜ける裕香。そしてそのまま音も無く三段の階段を登る。すると、折り返して更に上に続く階段へその身を滑り込ませて駆け登り、踊り場で足を止めて角の内側に身を寄せて屈む。

 裕香はそこでルクスを左肩に乗せると、角の陰から階段を登ったすぐ先と、その更に上を交互に目を向ける。

『ねえ、ユウカ。無理してない?』

『大丈夫。怪我ならさっきも言ったけど、すぐに治ってるから』

 心配そうなルクスからの思念に、微笑み返す裕香。するとルクスは、裕香の答えに小さく首を横に振る。

『そっちもそうだけど、ボクが今言いたいのは、心の乱れの方だよ』

 頭に直接響いたルクスの声に、裕香は身を強張らせて目を伏せる。そんな裕香へルクスは更に思念の声を投げかける。

『さっきの戦い、普段のユウカなら最後の一撃ももっと上手く凌いでたはずだよ。それに、その前にもいくつか。今日のユウカは何て言うか、迷ってるように見えるよ』

 そのルクスからの指摘に、裕香は唇を結んで押し黙る。

『こんな状態で無理に戦ったりしたら、コウシローやメグミを助けるどころじゃなくて、ユウカが危ないよ。ボクはそれが心配なんだ』

 無言で目を伏せる裕香。そこへ重ねて思念の声をかけるルクス。

 その不安げな思念の響きに、裕香は顔を上げて肩のパートナーに目を向ける。

『じゃあ、一つ聞かせて? ルーくんにとって、今のアムって何?』

『そ、それは……』

 裕香からの質問に今度はルクスが言葉に詰まる。

『幼馴染で、お兄さんの仇なんだよね? 今は、どっちなの?』

 問いかける裕香。それにルクスは大きな翡翠色の目を歪め、頭を振る。

『分からない。ボクは幼馴染として掟を破ったアムを止めたいと思ってて、でも、兄さんのことを償わせたいとも確かに思っていて、どちらかなんて分からないよ!』

 悶えるほどの悩みに絞り出された心の叫び。それを受けて裕香は物陰から弾かれたように飛び出し、階段を駆け上がる。

 そしてその先にいた人間大のバッタのあごへ、光輝く右拳を掬いあげる様に叩きこむ。

 心の力と階段を駆け昇る勢いを込めたアッパー。

 鋭く突きあげる一撃はバッタを仰け反らせ、床から浮かせる。

 裕香はすかさず振りあげた拳を開いてバッタの頭を掴み、右足を左へ払うと同時に掴んだバッタの頭を右へ薙ぎ倒す。

 鈍い音を響かせ、頭から横倒しに倒れる化物バッタ。

 痙攣するそれを裕香は圧し掛かるようにして抑え込み、輝きを灯した右手でバッタの頭を握る。

 そうして掴んだ右手から、敵の使い魔へ直に心の力を流し込む。

「ごめんね、ルーくん。それと、ありがとう。そうだよね。どちらかになんて決められないよね。少し、安心した」

『ユウカ?』

 バッタを浄化しながら呟く裕香。そしてそれに、肩の上で首を傾げるルクス。

 怪物バッタは浄化され、光となって廊下に散る。

 裕香は散り広がるそれを足元に立ち上がり、天井を見上げる。

「安心して、とりあえず今は迷いを飲みこめそうだから」

 言いながら微笑む裕香。その瞬間、二人の耳に階段の上からの奇妙な足音と羽音が届く。

 それに裕香とルクスは急いで昇り階段へ視線を移し、階段と廊下の角に身を隠す。

『ルーくん。数は?』

『ひの、ふの……小が七に大が三! 小が七に、大が三だよ!』

『大事なことだね』

 裕香はルクスとの念話で、接近してくる敵の数を確かめる。そして背中を壁に張りつけ、音の接近で距離を測りながら左肩の相棒に念話で語りかける。

『ルーくん。私が合図したら階段に閃光を撃って目くらまし。やり過ごして別のルートで上に向かうよ』

『分かった。任せてよ』

 裕香の指示に頷き、その肩から飛び立つルクス。裕香は傍らに浮かぶパートナーに目をやり、息を顰めてタイミングを計る。

 ギチ、ギチ、と重なり軋む様な音が徐々に下り迫る。そして一際大きな音が耳に触れた瞬間、裕香は相棒へ顔を向ける。

『ルーくん今!』

『オーケー!!』

 合図に従って飛び出し、眩い光を放つルクス。

 周囲を白く埋め尽くす輝きから裕香は顔をそむけて目を守り、光を放つ相棒の体を掴んで踵を返す。

 固い床を蹴り、敵の居る階段から離れる裕香。

 一枚二枚、三枚四枚と裕香は横滑りのドアの脇を走り抜ける。そして三組目のドアに差し掛かったところでドアを掴んで滑らせ、開いた出入り口へ滑り込む。

 教室へ滑り込むと同時にドアを閉め、壁の裏に身を潜める裕香。そうして壁越しに廊下を進む羽音に聞き耳をたて、追手をやり過ごそうと息を殺す。

 細かく震えるような羽音が壁向こうのすぐ近くへ迫る。いくつかはそのまま通り過ぎるものの、軋む様な音が一つ床を踏む。

 微かな羽音と共に、間を置いて鳴る軋むような体の音。周囲の気配を探る様なそれに裕香は固唾を呑む。

 そうして裕香は壁に背を預けたまま、教室の後ろへ横滑りにすり足で向かう。

『ユウカ、ここに残ってるのは大きいのが一体と、小さいのが二匹だけだ。なんとか仕止めれば……』

『その間に残りに気づかれて囲まれるよ。なんとかやり過ごさないと』

 肩に乗ったパートナーからの仕止めようという提案。裕香はそれを却下しながら、音も無く慎重に教室の中を進んでいく。

 もう一つのドアの傍にたどり着き、微かに安堵の息を溢す裕香。そして黒板側の出入口へ警戒の目を向けたところで、壁の向こうを徐々に近づいてくる羽音に気がつく。

 近づく気配に息を呑み、二つのドアを交互に見る裕香。

『でもこのままじゃ挟み撃ちにあうよ! どうするの!?』

『どこか、隠れる場所は!?』

 焦ったルクスの思念に追い立てられるように、裕香は視線を巡らせる。するとその目は真正面で開け放たれた窓を捉える。

 足音を立てないようすり足で窓へ向かう裕香。そしてあと一歩と言う所で不意にドアが微かに音を立てる。それに弾かれる様に裕香は床を蹴って跳躍。窓の桟を掴み前回りに教室を飛び出す。直後、荒々しい音と共に叩き開けられるドア。

 そして羽音と共に窓へ寄る怪物バッタ。窓の外へ身を乗り出し、触角を盛んに動かして外を見回すその姿を、壁から小さく張り出した所で身を低くした裕香が見上げる。

 裕香が息を殺して様子を見る中、化物バッタは外を一通り見回す。するとバッタは更に身を乗り出して、窓枠に長い後ろ脚をかける。その姿勢から折り畳んだ足を解放。校舎の外へ跳び降りる。

 頭上を通り過ぎる巨大なバッタ。その背中を見送って、裕香は肩に乗った相棒へ目を向ける。

『ルーくん、この先に敵の反応は?』

『さっきまでいた部屋の中に大小含めて五つ。残りは廊下にうろついてるみたい。この先の教室にバッタの気配はないよ』

『分かった。このまま行こう。もし全部の窓に鍵が掛かってるなら、戻るなり降りるなりやりようはあるしね』

 ルクスの答えに頷き、中腰のまま狭い足場の上を進み始める裕香。音を出さず、また目立たない様に身を低くして足場を隣りのクラスまで渡る。そこから鍵の開いた窓はないか一つずつ確かめていく。

 そうして足場の端近くで、ようやく鍵のあいた窓を見つける。

『敵の動きはどう?』

『大丈夫。近くにはいないよ』

 裕香は改めてルクスへ敵の位置の確認をとると、窓枠に手をかけて教室に入る。

 左膝を突いて教室の床を踏み、両手を軽く払う裕香。その姿勢のまま侵入につかった窓をそっと閉めると、外の見張りを警戒して低い姿勢のまま廊下へ向かう。

 裕香は身を低くして教室を横切って、出入り口の傍で一度立ち止まる。するとドアを横滑りに動かして開き、顔を出して廊下の様子を探る。

 ちょうど廊下には怪物バッタたちの姿もなく、手近な階段との間を阻むものは何もない。

 裕香はこの状況に黙って頷くと、この機に乗じて廊下へ出て階段へ向かって音も無く走る。

 その勢いのまま階段を駆け登る裕香。そして再び踊り場で足を止めると、角の陰にしゃがんで上りきった先を覗く。

『この辺りに敵の反応はないよ。ここは一気に上がろう!』

『分かった!』

 ルクスからの念話に頷き、裕香は物陰から飛び出して階段を駆け上る。

 階段を駆け抜けて三階の廊下へ出る裕香。そのまま踵を返し、屋上へ続く階段へ向かう。その瞬間、階下からエンジンの轟音が鳴り響く。

「なッ!?」

 恐ろしい勢いで追い上げてくる、エンジンと固い床を擦り蹴るタイヤの音。

『まさかデュラハンッ!?』

 息を呑み、階段を駆け上る裕香。その肩でルクスが追跡者の当たりを付けて叫ぶ。

 迫るエンジン音に追い立てられて、裕香は屋上へ続くドアへ急ぐ。そしてドアノブへ手をかける。

「え!?」

 鍵に突っかかることなく、あっさりと回るドアノブに眉を顰める裕香。

『ユウカ! もうすぐそこまで来てるよ!?』

 だがルクスの警告と迫るバイクの咆哮に、裕香は浮かんだ疑念を呑み込んで重たいドアを押し開ける。

 押し開けた扉から屋上へと文字通り転がり出る裕香。前回りに転がるその上を、唸る鉄の塊が通り過ぎる。

 前転の停止と同時に顔を上げる裕香。その視線の先で濃紺のオフロードバイクをターンさせるデュラハン。そして震える羽音を響かせた化物バッタの群れが、姿を現す。

『こ、これは……!?』

「誘い込まれたって、ことね」

 屋上を取り囲むフェンス。その上を塞ぐように飛ぶ怪物バッタの姿を見回すルクスと裕香。苦々しげに歯噛みする二人の背後にある出入り口からも、軋む様な足音が重なり合って上り迫っており、すでに退路を完全に断たれた形になっていた。

「こうなったら、やるしかないね」

 裕香は屋上の出入口から離れながら、右手を握り拳にして呟く。

『でもユウカ、この状況じゃ、変身する隙も無いよ?』

 にじり寄り、包囲網を狭める化物バッタ。それを見回しながら不安げに囁くルクス。そんな相棒に、裕香は握った拳に光を灯して返す。

「無いなら作る。塞がってるならこじ開ける。それしかないよ」

 静かな、しかしはっきりとした声音で告げて、輝く拳を左手に打ち付ける裕香。その音を引き金にして怪物バッタが一斉に裕香へ躍りかかる。

 左手にぶつけた拳を振り抜きながら右前に踏み込む裕香。拳の軌跡に沿って残る光が、バッタの突撃を阻む。だが光の届いていない背後から、そして引っ掛かった仲間を踏み越えて、バッタの化物は裕香へ手を伸ばす。

「ルーくんッ!」

『オーケー、ユウカ!』

 背後を肩越しに見やり、身を低く屈める裕香。その肩でルクスが合図に従って前足を高く掲げ、背後と頭上から迫るバッタの群れへ閃光を放つ。

 爆ぜる光に怯むバッタの群れ。その隙に裕香は身を低く屈めたまま、左足を軸にターン。いつもとは違い、輝く右手を走らせて光の輪を結ぶまで直に描き切る。

 光輪の下、裕香は右踵で屋上を擦りながらブレーキをかける。足を伸ばして静止した裕香は、自身を中心に円を描く光輪と、それに阻まれたバッタたちを見上げて右拳を改めて構える。

「変……身ッ!!」

 一拍の溜めを挟んで叫ぶ裕香。その気合を込めた声と共に拳を振り上げ、螺旋を描いて跳躍。

 輝く拳が渦を描いて光輪を突き抜ける、それに続き、拳の軌道に倣って螺旋状に立ち上る光の柱。

 上から覆い被さろうとしていたバッタを突き上げる光の螺旋。その内側から光が棘のように突き出て、今だり張り付いた化物バッタを弾き飛ばす。その直後、立て続けに爆ぜる光の螺旋。

 風に散る輝く粒子の中心。白銀の装甲を煌かせて立つ巨漢の戦士。銀の戦士ウィンダイナは、拳を振り抜いた姿勢のままバイザー奥の双眸を輝かせる。そして腕を大きく振り、左手を前に右拳を腰だめに構え直す。

「さあ、行くぞッ!!」

 気を張り上げ、目の前のバッタの群れに踏み込むウィンダイナ。踏み込みの勢いに乗せて撃ち出す右膝。それが先頭の怪物バッタの顔面を打ち砕く。

 あごを鳴らして仰け反り飛ぶバッタ。ウィンダイナは後ろ飛びに吹き飛ぶそれを正面に床を踏み、すぐさま左手のバッタへ左の肘鉄砲をぶちかます。

 肘の直撃に、バッタは体を折って後ろに控えた仲間を巻き込み倒れる。

 その隙にウィンダイナの右と背後へ伸びるバッタの腕。迫る手に対してウィンダイナは左足を軸に回転。右後ろ回しの踵蹴りで迫る敵を薙ぎ倒す。

「キィイアアッ!!」

 更に蹴りを繰り出した勢いに乗せて、右裏拳を後ろへ迫ったバッタに繰り出す。

 迎え撃つ形でバッタの顔面へめり込む拳。そして怯んだ隙に、ウィンダイナは拳を戻しながら身を屈め、右肘を後ろへ撃ち出す。

「スゥウアアッ!!」

 そこから気合と共に正面へ跳躍。翅を震わせて上から躍りかかるバッタを右の蹴りで薙ぎ払う。更にその腰のひねりに乗せて続ける左踵を別のバッタへ叩きつける。そして追撃に振り上げた右踵を振り下ろし、怪物バッタの一体を下に控えていたバッタたちへ叩きつける。

 上から振る仲間に押しつぶされるバッタたちと、そのすぐ傍へ左膝をついて着地するウィンダイナ。そして背中を叩く爆音に、交差した腕を前に出しながら、膝を伸ばしながら振り返る。

 盾にした腕へ激突するタイヤ。オフロードバイクの突進を受け、ウィンダイナの巨体が大きく空を舞う。

 防御もろとも撥ね飛ばされながらも、ウィンダイナは空中で後ろ周りに回転。着地点に待ちうけていたバッタの怪物を踏みつけて更に跳ぶ。もう一度回転し、屋上を囲うフェンスの支柱へ足から飛び込む。

 踏んだ支柱が歪みしなり、その反動を利用して跳躍。

「キィイヤアアッ!!」

 光輝く右手刀を振りかぶり、バイクへ跨るデュラハンへ切りかかるウィンダイナ。その間を阻もうと飛び込む化物バッタ。だがそれに構わず白銀の戦士は右手を振り下ろし、怪物バッタを真っ二つに切り裂く。

 飛び込む勢いのまま、怪物を豆腐の様に切り裂くチョップ。

 裂けたバッタの向こう。そこでデュラハンがバイクに跨ったまま左手の鉈を翳す。

 激突する手刀と鉈。ウィンダイナの突進の重みに、首なしライダーの跨るバイクが沈む。

 ウィンダイナは軋むバイクのヘッド部を左手で叩き、その勢いで反転。宙へ背中から舞い戻る。

 両腕を広げ、全身で十字を描きながらバク宙。両手からの着地から、その勢いに乗せて間髪いれず立て続けにバク転。襲いかかるエネルギーの刃をかわしながら二度、三度とバク転を繰り返す。

 そのまま屋上を取り囲むフェンスの直前で大きく跳躍。フェンスを跳び越えて屋上の外へ飛び出るウィンダイナ。だが建物の端を両手で掴み、腕が伸びきると同時に腕を引き、その力で空へ舞う。

 ウィンダイナは屋上の端と外とを仕切るフェンスを跳び越え、前回りに囲みの内へ飛び込む。

「セェアッ!!」

 飛び込みの勢いのまま繰り出す蹴り。それは敵集団へ突き刺さり、蹴散らし薙ぎ払っていく。

 蹴りに撥ね飛ばされ、空を錐揉み状に空を舞うバッタの怪物。

 化物が飛び交うその下、床を削りながら踏み止まるウィンダイナ。

 間髪いれずに振り返り、その背後へ躍りかかるバッタを左腕で薙ぎ払う。

 そしてバッタを薙ぎ払った勢いのまま、ウィンダイナは左足を軸に身を翻す。右足を振り上げて左手から迫るエネルギー刃を蹴り払う。

 さらに蹴り足が地面を踏むと同時に跳躍。追撃に迫る刃を、捻りに乗せて繰り出した左踵で打ち砕く。そうして足元にエンジンを唸らせたデュラハンのバイクを通してやり過ごす。

 ウィンダイナは空を行きながら、怪物バッタの頭を掴む。

 右手に握ったバッタを叩きつけながら着地。

 激突音の響く中、ウィンダイナは腕を大きく広げて振り返る。その勢いに乗せて背後でバイクをターンさせるデュラハンへ向けて投げつける。

 触角や足が折れ飛ぶ中、飛翔するバッタはデュラハンの放った刃と激突。お互いにぶつかり散る。

 刻まれ散るバッタの残骸。それを蹴散らし迫るバイクの前輪。ウィンダイナは真直ぐに向かうそれから目を逸らさず、右足を振り上げる。

「イィヤアアッ!!」

 気合の声と共に振るわれた蹴りが前輪の軸を横殴りに打ち抜き、その軌道を力任せにねじ曲げる。

 崩れかけたバイクのバランスを強引に立て直しながら屋上を走らせるデュラハン。ウィンダイナは通り過ぎるそれを追って振り返り、タイヤの痕を残して蛇行する後輪を目がけて駆け出す。

 体勢の立て直しを図るデュラハン。それをカバーしようとウィンダイナへ怪物バッタが殺到する。

 ウィンダイナは迫るバッタの側頭部を右のフックで打ち抜き、更に正面から襲いかかるバッタを拳を振り戻した勢いで繰り出した左アッパーで打ち砕く。

 そうしてウィンダイナは左右の拳を交互に繰り出し、勢いを緩めずに首なしライダーとその二台目のマシンを追い掛ける。

「エィイヤアアアアッ!!」

 そして踏み込みながらの右ストレートで、行く手を塞ぐバッタを打ち砕きながら、突いた足を軸にマシンをターンさせるデュラハンへ迫る。

 とっさにデュラハンの振りかざした鉈とウィンダイナの拳が激突。刃を打ち砕き、首の無いライダーの体を捉える。

 拳の一撃を受けて横倒しに倒れ、バイクごともんどりうって屋上を跳ねるデュラハン。そこへ追撃をかけるべくウィンダイナが走る。

 爆音にも似た踏み込みを響かせる白銀の戦士。だがその頭上から鈍い風切り音が響く。

 それに息を呑み、頭上を振り仰ぐウィンダイナ。その先の茜色に染まった空には、真直ぐに屋上へ落ちてくる巨大な人型がある。

 ヘッドスライディングの形で跳び、巨体の下から逃れるウィンダイナ。

 直後、その後ろで轟く重い音と衝撃。ウィンダイナはそれに振り向かずに転がり逃げ続ける。

『鬼までここに来たら校舎がッ!?』

『どうするユウカ!?』

 小学校の建物を心配しながら、ウィンダイナはパートナーを肩に乗せたまま立ち上がろうとするデュラハンへ向かう。

『このまま、跳び下りるッ!!』

『え!? ちょおッ!?』

 念話で相棒へ返すや否やウィンダイナは跳躍。デュラハンを、そしてフェンスを跳び越えて、眼下に広がる校庭へ真直ぐに飛び降りる。

 空へ躍り出たウィンダイナを追い、あるいは迎え撃つように上下から殺到する怪物バッタ。

 しかしウィンダイナは、空中で挟み込まれる形になりながらも膝を抱えて前回りに体を丸める。そして足元へ迫った敵の顔面へ、前転からの両足蹴りを叩き込む。

「ハッ!」

 短い声を張り、砕けたバッタの顔を足場に跳ねる。

 その勢いのまま、頭上へ迫った敵の胸を拳で撃ち抜き押し返す。

 上昇し、仲間へ激突する怪物バッタ。その一方でウィンダイナは、群がる敵の先にある、広いグラウンドへ向けて落下。後ろから飛翔し迫る敵を、右手に作った足場を蹴ってかわす。落ちる体を左へ流し、更にその先にいた化物バッタを蹴り、壁に当たった球のようにコースを再度切り替える。

 そして、右斜めから迫る敵の頭を掴み、跳び箱を越えるように乗り越え、そこへ躍りかかるバッタの背を踏みつけて前回りに跳ぶ。

 膝を抱えて丸まったウィンダイナを抱えようと迫るバッタ。だがウィンダイナは回転の勢いに乗せた両足蹴りで、正面の二体を足場として更に跳躍。弓なりに沿った背中から飛び込むような形で土色の地面へ向かう。

 両手で地面を叩き、バク転の形で体を後ろへ流すウィンダイナ。さらに繰り返しのバク転で落下の衝撃を分散。最後に両足で踏み切って一際大きく大きく跳躍。身を捻りながら高々とした放物線を描き、両足を揃えて地面を踏む。

 その瞬間を狙い、食物へ群がるかのようにウィンダイナへ群がる怪物バッタたち。

「デェエヤア!」

 だがウィンダイナは殺到する敵に対して、逆に自分から踏み込み、真正面に迫ったバッタの胸と腹の継ぎ目に右拳を叩き込む。

 そのまま怪物バッタを後続の敵へぶつけつつ、背後からの敵を左の蹴りをつきだして牽制。戻した蹴り足が地を踏むや否や腰を切り返し、手近なバッタへ右肘を撃ち出しながら、そのあごしたを左手で掴み上げる。

「セッ!」

 ウィンダイナはすかさず、浮かんだバッタの体を右後ろへ放り投げる。そこを狙い、左から掴みかかろうと迫る濃緑の手。だが白銀の戦士は、素早く体を戻して迫る腕を逆に掴む。そして足を払って浮かせると、重心の崩れた怪物バッタを振り回し、周囲に群がったモノを薙ぎ払う。

「デェエイィイヤァアアアッ!?」

 濃緑の暴風を巻き起こし、囲いをこじ開けるウィンダイナ。そして掴んだ化物バッタを大きく振り上げると、地面へ渾身の力を込めて叩きつける。

 打ち付けた点を中心に展開する魔法陣。それが光り輝くや否やその中心となったバッタが爆発。光と風が広がり、砂塵と怪物バッタたちを押し流す。

「トゥアア!」

 光と爆風に怯む化物バッタの群れ。ウィンダイナはその隙に乗じて、群れの一角を蹴りで貫く。

 壁となっていた敵を文字通りに蹴散らし、囲いを破り抜けるウィンダイナ。そして制止と同時に振り返り、もう一撃加えようと身構える。

 だが、踏み込もうとしたその足元へ打ち込まれる炎。爪先の装甲を焙るそれに、ウィンダイナはとっさに跳び退く。

「ッ! これは、やはり!?」

 歯噛みし、火炎の出どころを辿るウィンダイナ。そしてそこにあった光景に息を呑む。

 校庭の一角。そこに佇む金の冠を備えた黒い影。うすぼやけたそれの足元には、二人分の人影が倒れている。

 地面に転がる孝志郎と愛。それに黒い影は炎を灯してまるで銃口を突き付けるように近付ける。

『卑怯な手をッ!』

 その光景に、ルクスはウィンダイナの肩で怒りを露に牙を剥く。そしてウィンダイナも握った拳を強く握り固める。

「どんな敵が相手だろうと、いや、敵だからこそ! こんなやり方を、こんな卑劣な手を彼女が使うはずがない! 貴様は一体誰だ!? 正体を現せ!!」

 はっきりと固まった疑念に黒い影へ叫ぶウィンダイナ。だが黒い影は正体を見せるどころか、まるでその叫びに答える様子もなく無言のまま人質へ炎を向け続ける。それにウィンダイナは目の前の敵の卑劣さと、僅かにでもナハトを疑った自分に対する怒りと悔しさに拳を鳴らす。

「よくも、よくも!!」

 怒りに震えながらも、足を止める白銀の戦士。それを逃がさぬように、化物バッタたちがあごを鳴らしてにじり寄る。

 そしてさらに、バイクごと首なしライダーを抱えた隻眼の鬼が、轟音を響かせて校庭へ降り立つ。

 集まりつつある敵。そして黒い影に囚われた人質。その姿を交互に見やり、ウィンダイナは仮面の奥で歯噛みする。

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