心乱す嵐~その2~
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それでは、本編へどうぞ。
「貴様ら! 何故あの姿に、孝くんの姿に化けていた!?」
立ち上がろうとするバッタたちを見回し、鋭い声で問うウィンダイナ。
だがバッタたちは苦しげにあごを鳴らすばかりで、質問には答えない。それにウィンダイナは、拳を音が鳴る程に握りしめる。
「答えろッ! 何故だ!? これも、ナハトの指示なのか!?」
ウィンダイナは叫び、一歩踏み込む。だがそれでもなお、バッタの怪物たちは警戒を露に後退りするばかりで、答えようとはしない。
『落ち着いて、ユウカ。コイツらは使い魔だ。言葉が通じる奴じゃない』
横からかけられた言葉に、ウィンダイナは仮面の奥で歯噛みし、握った拳にさらに力を込める。
「なら! この連中の親玉を引きずり出すなり追い詰めるなりして、聞き出して見せる!」
後退りするバッタ達を睨み、踏み込むウィンダイナ。
ウィンダイナの突進に、バッタの怪物は翅を広げて三方にバックステップ。
ウィンダイナはそれぞれに距離をとるバッタ三体に視線を走らせ、背後を取られないように、度々構え直しては向きを切り替える。
右へ身構え、左へ視線を向けるウィンダイナ。そこへ右から翅を震わせた化物が躍りかかる。
「クッ!」
急いで顔を迫る敵へ戻し、蹴りを右腕を盾にブロック。そのまま逆に押し返し、逆側から迫る蹴りを身を逸らして装甲に滑らせる。
「ズアッ!」
白銀の装甲に火花を散らした勢いのまま、ウィンダイナは身を翻し、翅を広げた背中へ回し蹴りを叩きこむ。
重い音を響かせて吹き飛ぶバッタ。根元から折れた翅が飛び、散り消える中、顔の崩れた三匹目がウィンダイナの頭を狙い上から襲いくる。
覆い被さる影にウィンダイナは顔を上げ、蹴り足が地を踏むと同時にバク転。振りあげた足で牽制し、舗装された地面を叩き跳躍。膝を曲げ、衝撃を殺しつつ着地。そして一気に膝に溜めた力を解き放ち踏み込む。
「イィヤッ!」
振りかぶった拳を突き出すウィンダイナ。それを四本の腕を組み合わせて受けるバッタ。爆音を上げる激突。その衝撃をバッタ怪人は深く逆関節の脚を曲げて打ち消す。その反発に合わせてバッタは拳を受けた腕を振り上げる。
「ハッ!」
ウィンダイナはそれに合わせ、気合の声と共に腕の力も加えて自ら飛ぶ。
足から空を貫く様に飛ぶ銀の戦士。その勢いのまま足を振るい空中で前転。足から地面に向かう形に身を翻す。そこへ腕を伸ばし、掴みかかるバッタ怪人の一体。突き出された腕。ウィンダイナはそのうち右腕二本を掴み、化物の顎の下に手を回す形で固める。
「キィイヤッ!!」
そのままバッタの体を下敷きにする形で地面に激突。ウィンダイナの下で苦しげにあごを鳴らすバッタ。その一方で翅を失ったバッタが覆い被さる様に迫る。
ウィンダイナは背後の空を振り仰ぐと、素早くバッタを掴む腕を外し、横転がりでその場を離れる。そして仰向けになりながら、下敷きにしたバッタの脚を掴み直し、上から迫る翅なし目がけて投げつける。
ぶつかり合い、空へ押し上げられるバッタの怪物二体。それを尻目にウィンダイナは身を捩る様にして起きあがり、回転の勢いに乗せた左肘を後ろへ打ちだす。
背後から迫っていたバッタの一体は、肘の直撃に体をくの字に折る。肘打ちの反動に乗り、ウィンダイナは素早く体を切り返して右裏拳を繰り出す。
打撃の重みに怯んだがために裏拳の直撃を避けるバッタ。しかしかわされながらもウィンダイナは右踵で地面を削りブレーキ。敵を真正面に正面に収める形で右拳を構える。
構えるウィンダイナへ、バッタの怪物は怯みながらも右腕を突きだす。
ウィンダイナは鋭く息を吸い、左腕の装甲を盾に迎撃の爪を受ける。そしてそのまま半ば押し込むようにして踏み込み、右拳を突きだす。
バッタの顔面を捉え深く突き刺さる銀の拳。そのまま拳を埋めた頭が内側から光輝き、視界を埋め尽くすほどの光を撒き散らして爆ぜる。
突き出した拳を中心に、光と消えるバッタの一体。その隙に二体のバッタが斜め後ろから同時に迫る。
それにウィンダイナは振り返りざまに再度裏拳。回転の勢いに乗せて繰り出したその一撃が、左後ろから迫る一体を薙ぎ払い迎え撃つ。打撃の勢いのまま真横に吹き飛ぶバッタ。その一方で逆側から迫る片割れが、左肩へ圧し掛かる様に飛びかかる。
「クッ!? 取りつかれた!?」
四本の腕で掴み取られ、仮面の奥で歯噛みするウィンダイナ。振りほどこうと身を捩るものの、装甲の間に爪がかかり、それを許さない。
さらに仮面に守られた頭へ噛みつこうと、あごを大きく開くバッタ。ウィンダイナは迫る鋭いあごを右手で掴み、押し返そうと腕を突っ張る。
「グ! うう!」
力任せにバッタを引きはがそうと押し返すウィンダイナ。そこへ背中から、薙ぎ払いで吹き飛ばされたバッタが躍りかかる。
「しまったッ!?」
左肩へ一体、背中へ一体と、二体に圧し掛かられる形となったウィンダイナ。その状態から背中に取りついたものに、左肩のバッタを押し退けようとする腕を掴まれ、噛みつかれる。
「こ、の!」
食いついたバッタのあごが、ウィンダイナの装甲を火花を散らして削る。それをはね除けようと身を捩れば、左肩から顔を狙ってのあごが勢い付く。
「グゥ……ッ!」
とっさに右手を押し込み、辛うじて顔狙いのものをを受け止めるウィンダイナ。だがその間にも、右腕に食らいついたバッタは勢いを緩めずにあごを動かしていく。
この両手を塞がれた状況に、ウィンダイナは視線を巡らせる。
「だったら!」
そして右手に収まったバッタの顔を見て、意を決したように叫ぶ。それに続き、頭を握る手を放すと、それに食いついたバッタを振りほどこうと腕を大きく振るう。同時に、ブレーキを失って突っ込んでくるバッタのあごに、自分から頭を叩き込む。
カウンター気味に入るヘッドバット。それにバッタの化物は仰け反り怯む。
「キイィィアッ!!」
そこで出来た隙に、ウィンダイナは全身からエネルギーを放出。鋭い叫びと共に放たれた暴風は、緩んだバッタの身を振り払い、空へ巻き上げる。
「キアッ!」
竜巻に飲まれ、宙を舞う二体のバッタ。ウィンダイナはその姿を見上げ、気合を込めて地面を蹴る。
渦巻く風の中心。回転しながらそれをネジの様に貫いて、空を駆け昇るウィンダイナ。
その頭上で風に巻かれ、螺旋を描くバッタたち。
「キイィアッ!!」
それにウィンダイナは一息で追いつき、風の中心で大きく身を翻して片割れを蹴り抜く。穿たれ、弾き出された勢いのまま光の粒と散っていく一体のバッタ。一方残ったもう一体は、蹴り砕かれた風に乗り、真逆の方角へきりもみ回転しながら飛んでいく。
ウィンダイナはその姿を認めると、蹴り出した右足の傍に足場となる魔法陣を展開。地面に垂直。壁の形に展開した力場を、蹴り足とは逆の足で蹴りつけて怪物を追う。
「セエェアッ!」
空を真一文字に駆け抜ける白銀。そのまま追い抜き様に繰り出した右拳が、回転するバッタを打ち抜く。
打点を軸に崩れ、渦を巻いて空に散るバッタ。その中心を、ウィンダイナは火の輪くぐりよろしく拳からくぐり抜ける。
そこからウィンダイナは膝を抱えて前回りに回転。回転を繰り返しながら落下し、地面へ近づいていく。
そのままウィンダイナは片手片膝をついて着地。そしてすぐさま立ち上がって、空を見上げる。
『ユウカ!』
「裕香さん!」
風に流れるバッタの残骸眺める背中に投げ掛けられる声。
「ルーくん、愛さん」
それにウィンダイナは振り返り、羽ばたく相棒と駆け寄る友人を迎える。
『噛まれた腕は、大丈夫?』
心配そうに覗きこむルクスと愛。それにウィンダイナは、バイザー奥の目に柔らかな光を灯して食いつかれた右腕を翳す。
「それなら平気だよ。ホラ」
亀裂が走り、欠けた腕甲。しかしその亀裂はすぐに塞がり、欠けた部位も溶けた金属が湧き上がる様にして埋まる。
「ね?」
そう言ってウィンダイナは、二人へ見える様に示した右腕を下げる。
「それより、あのバッタたちの本体の場所は、分かる?」
『ん、ちょっと待ってね』
相棒へ顔を向け訊ねるウィンダイナ。それにルクスは急いで両前足の間に探査用魔法陣を展開する。
その瞬間、不意に周辺から激しい虫の羽音が響く。
「きゃあああッ!?」
「なッ!? 愛さん!?」
『え!?』
羽音に続き響く愛の悲鳴。羽音に埋め潰されるそれにウィンダイナとルクスは弾かれたように顔を向ける。その視線の先では、黒く見えるほどに濃い緑の体色をした小さいバッタが、愛へ雲霞の様に群がり包み込む。
「まずいッ!!」
とっさに手を伸ばすウィンダイナ。だが伸ばす手をあざ笑うかのように、愛へ群がったバッタは黒い雲の様になって空へ飛び、愛を運んでいく。
「クッ!? すぐに追いかけないと! ルーくん、ルクシオンをッ!?」
『待って、ユウカ! 罠だよコレは!』
黒い竜の様にうねり空を行くバッタの塊。ウィンダイナは離れ行くそれを睨み、ルクスへ乗り物を要求。それにルクスは慎重になる様に焦る相棒を諌める。
「それでも、いえ、だからこそ飛び込む! アレを操る本体がいようがいまいが、私のために愛さんも誰も危険なままにしておけないッ!」
だがウィンダイナは、断固とした意志を持ってルクスの体を両手に抱き、進行方向へ顔を向けさせる。するとルクスは軽く肩を落として、半ばうなだれる様に頷く。
『分かったよ……ユウカがそのつもりなら』
「ありがとう、ルーくん」
相棒の背中へ礼を投げ掛けるウィンダイナ。それと同時にルクスが顔を上げ、二人は揃えて声を上げる。
「ルクシオォォンッ!!」
愛機の名を叫び、ルクスから右手を離してその翼の間を指で押すウィンダイナ。続いてルクスの体がウィンダイナの手から離れる。そして光となったルクスの周囲を覆う様に機械部品が精製、次々と組み上げられていく。
ルクスを取り囲んだ機械を更に白い装甲が覆い、ルクスの頭を模したヘッド部を構成。そのあご下から前方へ伸びるアームとタイヤ。それと同時に後方へシートを乗せたボディが構築されていく。やがて二つの後輪が完成し、三つの車輪が重い音を立てて地面を踏む。
「ハッ!」
ウィンダイナは短い気合と共に跳躍。そこから空中で前回りに回転し、シートへ座る。
サスペンションの上下で衝撃を受け止めるルクシオン。その上でウィンダイナがハンドルを握るや否や、ルクシオンはヘッドライトを輝かせて唸り声を轟かせる。続けて二等辺三角形を描く三つのタイヤが地面を蹴り、道路を走りだす。
空にうねる黒いバッタ雲。それを睨むウィンダイナを乗せて、ルクシオンはひたすら追い掛け走る。
「この道……それにあのバッタたちの向かう先……そういうことか!」
『ユウカ、どうしたの? アレの行き先に心当たりが?』
正面の道、そして上空のバッタを見てハンドルを強く握るウィンダイナ。それにルクスはルクシオンのヘッドライトを明滅させて訊ねる。
「アイツが向かってるのは、私が通ってた小学校。孝くんの居る、山端小学校!」
『なら、あいつらは、そこを拠点にしてるってこと!? そんな場所をッ!?』
ルクスの言葉に、ウィンダイナは前のめりに体を倒し、車体に体を密着させる。
「恐らく、孝くんもそこで掴まってる! 急がないと!」
空気抵抗が減り加速するルクシオン。前方に現れた曲がり角を大きく尻を振って曲がり、続く道路を真直ぐに駆ける。そして小学校へ向かう道を行きながら、ヘッドライトを明滅させて背中のウィンダイナへ声をかける。
『これって、ウィンダイナがユウカで、しかもユウカ周りの人間関係を知ってないと考え付かないよね? 偶然にしては、あまりにも出来過ぎてる』
その相棒の言葉に、ウィンダイナはいおりの顔を脳裏によぎらせ、ハンドルを強く握りしめる。
「……そうだね」
鋼鉄の仮面の奥から零れるか細い肯定。そこへ前方に光が煌き、鋭いエンジン音が轟く。
「な!?」
『何だッ!?』
声を上げるウィンダイナとルクス。その脇を赤い光を灯した濃紺の塊が駆け抜ける。
白い車体を火花を散らして削る一撃と、右から吹き荒れる風に煽られてぶれるままに蛇行するルクシオン。
「く、うッ!?」
ぶれる車体にしがみついて抑え込み、上体を起こして背後を振り返るウィンダイナ。
その視線の先では、一台のロードスポーツバイクが前輪を軸に方向を切り返す。そこからタイヤを猛然と回転させ、ルクシオンの背後へ追い迫る。
「あれはッ!?」
背後から煽りくる濃紺のバイク。その上に前のめりに跨ったモノの姿に、ウィンダイナは息を呑む。
全身を覆うバイクと同じく濃紺のレザースーツ。その左手に握った大振りの鉈。だがその肩の上にあるはずのヘルメットは無く、首の位置に青白い炎が灯っていた。
『デュラハンッ!? いや、っていうかむしろ、お化けライダーッ!?』
追いすがる首なしライダーをそう表現するルクス。その一方、ルクスいわくお化けライダーは左手の鉈を振り被り、左斜めに振り下ろす。その軌道に沿って放たれるエネルギー刃。
「クッ!? 新手の幻想種ッ!? 二体で連携を取ってきた!?」
右へ体を傾け、ルクシオンを切り返して背後からの刃をかわすウィンダイナ。そしてすぐさま左へ体ごと車体を切り返す。
『今までにない使い方だ! これだけで終わるとは思えない、気を付けてユウカ!』
背後から飛び迫る斬撃を右へかわすウィンダイナを乗せたルクシオン。そうして繰り返し蛇行する白いトライクへ、デュラハンが鉈を振り回しながら追い迫る。
もう一度右へ傾くルクシオン。その軌道を読んでいたかのように迫る追撃の刃。
「クッ!」
それにウィンダイナは歯噛みし、右の後輪を持ち上げる程にトライクの車体を左へ大きく傾けて刃をかわす。その瞬間、デュラハンの操る濃紺のマシンがルクシオンの右手側へ滑り込む。
左の鉈を振りかぶりながらバイクを寄せ、じかに切りつけようと振り下ろすデュラハン。
「ク、アァッ!」
風を裂き迫る刃。それをウィンダイナは右腕の装甲にぶつけ、立て続けに濃紺の車体を右足で蹴りつける。
蹴りを受け、鈍い音を残して離れる首なしライダー。だがそのまま倒れはせず、路面を削りながら勢いを殺して車体を立て直す。
その間にウィンダイナもルクシオンに合わせて体を振って体勢を整え、右肩越しに後ろに目をやる。
そこへ後ろから迫る鉈を振り被ったデュラハン。
「キアッ!」
それをウィンダイナは短い気合と共に繰り出す蹴りで迎撃。鉈を持つ手を打ち、立て続けにバイクの鼻先を蹴り抜く。
鼻先をへこませ、単眼のヘッドライトを明滅させる濃紺のバイク。その顔面からウィンダイナは右足を引き抜き、だめ押しのもう一発を蹴り込む。
装甲の破片を散らすバイク。だが首なしのライダーは衝撃につんのめりながらも左手の鉈を突き出す。
牽制の刃に身を捩るウィンダイナ。その隙にデュラハンは愛車をブレーキ。制動しつつルクシオンとウィンダイナから距離をとる。
デュラハンが間合いを開けつつ放つエネルギー刃。斜め十字を描く様に迫るそれを、ウィンダイナは再び後ろへ繰り出した蹴りをぶつけ、相殺する。
続けて迫る縦一文字の光刃。それを横払いの踵蹴りで撃ち払い、さらに続く一撃を振り戻した右足で蹴り砕く。
瞬間、前方から重なった虫の羽音が響き迫る。
『ユウカ、前ッ!!』
「なッ!?」
ルクスの警告と近づく羽音に、ウィンダイナは弾かれたように正面へ顔を戻す。
翅を震わせて行く手を塞ぐ、人間大のバッタの群れ。それらはあごを鳴らしながら、一斉にウィンダイナへ躍りかかる。
「クゥッ!?」
視界を埋め潰して迫るバッタの怪物。それにウィンダイナは歯噛みし、左拳で迎撃。
拳とルクシオンの機首にぶつかり、空へ撥ね上がるバッタたち。しかし激突に体がひしゃげ、手足がもげ飛ぶ仲間たちを見ながらも、バッタの化物たちは怯んだ様子もなく次々と真正面からルクシオンへ群がり続ける。
ルクシオンへ取りつき、あごを鳴らして迫る濃緑色のバッタたち。それを左のフックと切り返しての肘。そこからハンドルを持ち替えて繰り出した右のストレートで迎撃し続ける。だがそれでも仲間を踏み越えるバッタの勢いは緩まず、ルクシオンの速度が抑え込まれていく。
「ルーくん!!」
『任せてッ!!』
埋め尽くすバッタの化物の中、ウィンダイナの呼びかけに呼応し、両の目を輝かせるルクシオン。その全身が揃って眩い輝きを放ち、渦を巻く風を纏ってバッタの壁を突き破る。
壁を成したバッタの化物を撥ね、轢き、蹴散らすルクシオン。空へ舞い上がるモノ、路面を跳ねてもんどりうって転がって行くモノを振り切り、ルクシオンは光を含む風の尾を引いて駆け抜ける。
危機を脱し、目的地を正面に収めるウィンダイナとルクシオン。そしてそのまま、真直ぐに小学校の正門へと向かう。
「おかしい、デュラハンはどこに?」
姿の見えない首なしの追跡者を探し、視線を巡らせるウィンダイナ。瞬間、その耳を鋭いエンジン音が貫く。
「しまっ……!?」
音の迫る左へ顔を向けるウィンダイナ。刹那、その先に浮かぶバッタの怪物を蹴散らし、鉈を構えた首なしのライダーが姿を現す。
振り下ろされる鉈。鈍く輝く刃を、ウィンダイナはとっさに腕を盾にして受ける。そこへ更にデュラハンは車体もろとも押し込むかのように体当たりをぶちかます。
「ぐぅ!?」
『うぐ!?』
装甲に食い込む刃と、車体を揺るがす激突に呻くウィンダイナとルクシオン。その体当たりの勢いに流され、ルクシオンの走るコースが右へ大きく歪む。
『やばいッ!? 壁がッ!?』
眼前へ迫る門柱とそこから伸びる壁に、マシンの中で焦るルクス。対してウィンダイナは、ハンドルからルクシオンのヘッド部に持ち替え、その両足でシートを踏む。
「ルーくん、ルクシオン解除ッ!!」
『え!? わ、わかったッ!?』
戸惑いながらも了解の返事を返すルクス。それに続いてルクシオンがタイヤから光と散る。
「セェアッ!!」
ウィンダイナは気合の声と共に、散り消える車体の上からルクシオンのヘッド部を引き千切る様にして跳躍。壁を跳び越えながら頭を軸に前回りに一回転。
光の球を抱えながら、両足で地面に火花を散らして勢いを殺すウィンダイナ。そしてブレーキ痕を残す地面と、靴底との間から煙を上げながら静止する。
そこへ迫る、地響きにも似た足音。そして覆い被さる影に、ウィンダイナは相棒を腕の中に庇ったまま右足を振り上げる。
「キイィアッ!」
垂直に突き上げた蹴り足。それとぶつかり合う巨岩にも似た浅黒い拳。
「また新手の!?」
『本気で潰しに来たってことか!?』
ウィンダイナを押し潰そうとのし掛かる巨大な拳。その主である、虎革の腰巻を巻いた隻眼の鬼を見上げ、二人は揃って歯噛みする。
蹴り上げた足をつっかえ棒に、堪え続けるウィンダイナ。ウィンダイナの倍ほどはある筋肉質な鬼は、白銀の戦士を右の一つ目で見下ろし、鋭い牙の生え揃った口に笑みを浮かべる。そして空いた左手を握って大きく振り被る。
空を割り進む大振りの横薙ぎ。それにウィンダイナは拳を支えていた足を下げて腕の中のルクスを守るように身を丸める。
「グゥッ!?」
右から横殴りに身を揺るがす衝撃。さらに肩、背と衝撃が弾みその度に浮遊感がウィンダイナを襲う。そしてまたも近づく地面を見、左手で舗装された地面を握り締め、突っ張った両足とで地面を削りながらブレーキをかける。
だが勢いが死に切るよりも早く、横から鋭いエンジン音が迫る。
「セ、ヤアッ!!」
横腹を目がけ迫る濃紺のマシン。ウィンダイナはそれを横目で一瞥し、地面を手足三つで弾き跳躍。真下に駆け抜けるデュラハンをやり過ごし、腕の中のルクスを高く放り投げながら、跳躍の頂点でとんぼ返りに身を翻す。
「離れてて、ルーくん!」
両足を揃えて着地。そしてすかさず後ろへ跳び退く。直後、ウィンダイナの踏んでいた場所を穿つ拳。振動が地面に響く中、ウィンダイナは更にバックステップ。追撃に振り下ろされる拳をかわす。
ウィンダイナは二発の連撃を跳びかわした勢いのまま膝を曲げる。そしてすぐさま両の脚に溜めた力を解放。一息の間に鬼の顔へ肉薄、振りあげた右足で鬼のあごを蹴り抜く。
『ゴッ!?』
蹴りに巨体を仰け反らせ、くぐもった声を漏らす鬼。ウィンダイナはその勢いに乗って、ブリッジの様な形で反り返った鬼の胸板を跳び越えて鬼の背後へ降り立つ。そしてすぐさま耳を打つエンジン音の出どころを見やり、ウィリーで迫るバイクに対し、左回りに身を翻して踏み込む。
「イィヤ!」
鉈と車体を右に流しながら、遠心力に乗せて繰り出す右蹴り。それは車体を支える後輪を掬い上げ、首なしの騎手とバイクを空へ放り出す。
バランスを崩し、空中で分離するデュラハンとその愛機。ウィンダイナはそれを尻目に右へステップ。伸び迫る拳をさけ、続く逆の手を右半身を引いてかわす。
装甲を叩く暴風。巨大な拳によって生じた風の中、ウィンダイナは浅黒い巨体を見上げて、怒りにぎらつく隻眼をにらみ返す。拳を切り返そうと腰を捻り、左腕を引く鬼。だがウィンダイナはそれを許さずに退く左手首を握り締める。
「おぉおおおおッ!!」
そこから身を翻して丸太の様な肩を担ぎ、裂帛の気合と共に背負い投げる。銀の戦士に放り投げられ、爆音を上げて背中からアスファルトへ沈む鬼の巨体。
亀裂が走り、震える地面。ウィンダイナはその上で左足を軸にターン。横倒しになった濃紺のバイクを目がけて踏み込む。
爆音を残して駆ける白銀の風。その行く手を遮る様に立ちはだかる首のないライダー。左へ低く構えた鉈の振り上げ。それをウィンダイナは右腕の装甲で受け、懐へ素早く踏み込んでのボディブローを見舞う。
腹を貫く衝撃に体を折るデュラハン。だが首に灯った炎を揺るがせながらも、脇腹に突き刺さった腕を抱えて反撃の膝を繰り出す。
その膝は装甲で受けたものの、デュラハンは左手に握った鉈の柄を叩きつける。
「グッ!?」
肩を撃つ打撃に呻き堪えるウィンダイナ。そこへさらに叩きこまれる柄の連撃。だがウィンダイナは苦悶の声を漏らしながらもデュラハンのライダースーツを掴み、後ろへ倒れ込む。
倒れ込んだ勢いに乗せて、ウィンダイナはデュラハンを巴投げに投げ飛ばす。肩を下に空を流れるデュラハン。それをよそに、ウィンダイナは投げの勢いのまま半ば逆立ちするかのように両手をついて丸まり、両手の力に足を振る勢いを加えて跳ぶ。
両足を揃えて倒れたバイクの脇に着地。そして明後日の方向に曲がったハンドルと、へこみ歪んだカウルを掴み、それを持ち上げる。
「うぅぅおおおおおおお・お・お・お!?」
ウィンダイナはバイクを持ち上げた勢いのまま、揃えた両足を軸に回転。ハンマー投げにも似た姿勢で回転を繰り返し、遠心力を上乗せして濃紺の車体の軌道を高く持っていく。
「おぉぉああああああああああああッ!!」
そして独楽の軸としていた両足が地面との間に火花を散らした瞬間、それを引き金にしたかのようにウィンダイナは振り回していた車体を、起きあがりかけの鬼目がけて投げつける。
『が、あああああッ!?』
直撃。その直後に轟く咆哮と爆発。爆炎は近くにいたデュラハンをも飲み込み、その身を焙る。
全身を焦がし、煙を上げながら膝を突く巨体の鬼とデュラハン。
ウィンダイナはその隙を逃さずに身を低くして踏み込む。
だがその突撃を阻むように、上から濃緑の物体が降り注ぎ壁を作る。
「なッ!? だが!」
不意に現れた壁に、ウィンダイナのあごが弾かれたように上がる。だがすぐにあごを引き、勢いを殺さずに地面を踏切って跳ぶ。
「セェイヤアアアッ!!」
突き出した右足から化物バッタの壁へ飛び込むウィンダイナ。白銀の流星の如き飛び込み蹴りが、バッタの壁を障子紙のように突き破る。
だが、貫いたその先に更に待ち構える濃緑の壁。しかしウィンダイナは二枚目の壁にも構わず蹴りを叩きこむ。
重い音を響かせて壁に沈み込む蹴り。そして一拍の間を置き、二枚目の壁を貫く。だがその先に更に待ち構える三枚目。ウィンダイナの蹴りはそれに突き刺さるものの、一匹のバッタの胸を砕いた所で止まる。
突き刺さったウィンダイナへ、一斉に目を向け、同時にあごを鳴らすバッタ怪物の群。それにウィンダイナは息を呑み、抜けだそうと身を捩る。
後ろ回りに壁を抜けだし、右手左膝を突いて着地。そこへバッタたちは一斉にあごを鳴らして覆い被さる。
『ユウカッ!?』
白銀の戦士を埋め潰す濃緑色の群体。その様にルクスが上空で相棒の名を叫ぶ。その声を受けながら、ウィンダイナは塞がりかけた頭上の隙間を見据え、輝く拳を突き上げる。
「キィイアアアアアッ!!」
裂帛の気合と共に天へ伸びる光の柱。それを軸に爆ぜる風が群がるバッタを吹き飛ばす。
風と共に天へ昇る光の後で、鋭く息を吸い拳を構えるウィンダイナ。その視界の隅に煌く金色。それに誘われる様に顔を上げたウィンダイナは、そこにあった人影に身を強張らせて息を呑む。
「な……ッ!?」
金色の冠を被り、小柄な人を抱えた黒い人影。霞んでぼやけた黒いシルエット。そこから連想した存在にウィンダイナは身を強張らせたまま拳を緩める。
そこへ襲いかかる巨岩にも似た拳。ウィンダイナが対応するよりも早く、その浅黒い拳が白銀の装甲に覆われた身を捉える。
「グゥ!?」
呻き、吹き飛ぶウィンダイナ。無防備なそれを狙い、パンタシアたちが迫る。
『危ないッ!!』
その間に白い竜が割り込み、全身から放つ眩い光でウィンダイナの姿を隠す。




