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魔法少女ダイナミックゆうか  作者: 尉ヶ峰タスク
重なる手は誰のもの
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重なる手は誰のもの~その4~

アクセスしてくださっている皆様。いつもありがとうございます!


今回で第二章が区切りとなり、予定としてはここでだいたい半分となります。

今後とも拙作をどうぞよろしくお願いいたします。


それでは、本編へどうぞ。今回も楽しんでいただけましたら嬉しく思います。

 口の端を吊り上げ、ウィンダイナと対峙するナハト。黒い魔女は光の刃の切っ先に怯むことなく、唇から含み笑いを零す。

「ククク……よもやこうもあっさりとアレを破るとはな。流石は我が宿敵と言うべきか。さあ、まだまだ楽しもうではないか?」

 対するウィンダイナは刃を突き出したまま、バイザー奥で輝く目で宿敵を見据える。

「例え貴様がそのつもりでも、私は長々と続けるつもりはない!」

 厳しい口調で言い放つウィンダイナ。だがナハトは気圧された様子もなく肩をすくめる。

「ずいぶんつれないことを言うではないか。そう言わずに、この楽しい戦いを楽しもう、ぞ!」

 そう言い放つや否や、一瞬で肉薄するナハト。脳天目がけて振り下ろされる炎の杖を、ウィンダイナはライフゲイルの光刃で受け止める。

 互いに得物をぶつけ合う両者。そこから戦士と魔女は激突した点をスパークさせ、鍔迫り合いの体勢になる。

「ぐ!?」

「クク……よくぞ受けた。さあ、踊ろうぞ宿敵よ!」

 炎の杖を両手に持ち直し、肩から体重ごと押し込むナハト。それにウィンダイナも愛刀の柄を両手で握り、構え直す。

「く、うう……!」

 ウィンダイナは呻き声を漏らしながらも、大きく勝る体格を頼りにナハトを押し返す。

「むう、ぐうぅ!?」

 両足を踏みしめて、体勢を整えるウィンダイナ。そこからのし掛かるようにして今度は逆にナハトをその杖もろとも押し込む。

 両者の間で火花を散らす風と炎の杖。

「っああ!」

 やがてどちらからともなく得物を弾き合う二人。互いに半身を引く形で踏ん張ると、すかさずウィンダイナが踏み込み、それから逃げるようにナハトは跳び退く。

「キアッ!」

「ハッ!?」

 空を切り裂く、踏み込みざまの袈裟懸け一閃。それを炎を纏う杖が受け止め弾く。

「ハアッ!」

 ナハトは体ごと切り返し、逆側から杖を横薙ぎに振るう。対してウィンダイナは逸らされた光刃を引き戻してぶつける。だが弾くまでもなく、ナハトは熱を帯びた紅の杖を引き、同時に後ろへ退く。

 それを逃がすまいと追撃をかけるウィンダイナ。だがその出鼻をくじく様にナハトの左手が火を吹く。

「くッ!?」

 眼前を埋め尽くす炎に、ウィンダイナは歯噛みし、僅かに怯む。そこへ炎を割り、杖の石突が迫る。

「うぐ!?」

 ウィンダイナはとっさに顔を逸らし、胸の装甲で受ける。装甲越しに体を突き抜ける衝撃に呻き声が漏れる。そこへさらに炎を纏った振り下ろしが繰り出される。

 だがそれに、ウィンダイナは左肘をぶつけて相殺。更に間髪入れず肘を打ち出した勢いのまま腰をひねり、右足で炎の杖を蹴り上げる。さらに振りあげた足を素早く切り返して炎の幕に突っ込む。

「むぅ!?」

 灼熱の壁の向こうから返ってくる確かな手応えと呻き声。それに続いて幕を成した炎が渦を巻いて散り消える。その向こうで背中から吹き飛ぶナハトの姿が目に飛び込む。

 自ら飛んでダメージを軽減したのか、動きを乱した様子もなく膝を抱えたバク宙で飛び退くナハト。ナハトはその勢いのまま大きく距離を開け、体を大の字に開いて制止。

「ウンベゾンネン・グリューヴュルムヒェンッ!!」

 そして詠唱と同時に、背中から八発の炎を発射。全方位に広がった火炎弾はすぐさまその方向を変え、まるでウィンダイナへ誘われる様に飛来する。

「しまった、ミサイルッ!?」

 八方向から迫る炎のマジックミサイル。ウィンダイナはそれを見回し、ミサイルの発生源であるナハトへ走る。

 右手から迫る一つ目をライフゲイルで切り払い、迎撃。その勢いのまま光の刃をクルッと切り返し、左から迫る次弾を切り上げる。

 割れ広がる炎。その中をウィンダイナの足元を狙い、地を這うように迫るマジックミサイル。それをウィンダイナは右へ跳んでかわす。

 狙いが外れ、地面に爆音と火柱を上げるミサイル。

「囲まれた!?」

 ウィンダイナの周囲を埋め尽くす、ぎらぎらとした熱と炎の光。紅蓮の包囲網を抜け出すべく、切れ目を探して視線を巡らせるウィンダイナ。その顔が上を向いた瞬間、三発の火球が降ってくる。

「クッ!?」

 仮面の奥で歯噛みし、光刃を回転させて防御。そしてライフゲイルに絡んだ炎を、血糊を払うように振り払う。

 刹那、その鋭い痛みが背を刻む。

「あっぐッ!?」

 背を焦がす痛みに呻き、前のめりになるウィンダイナ。しかし体勢を崩しながらも、背後の敵へ左の回し蹴りを繰り出す。だがその蹴りが届くよりも早く、ナハトはマントに身を包んで炎の中へ引き、蹴りが作った炎の裂け目からマジックミサイルが三発飛び込んでくる。

「う……ッ!」

 とっさに腕を交差し防御。その腕を三つの爆発が間をおかず、ほぼ同時に襲う。

「あぐぅ……ッ!?」

 マジックミサイルの爆発に炎の囲いから押し出され、煙の尾を引いて空を舞うウィンダイナ。だがウィンダイナは空中に投げ出されながらも、足を振り、その着地点に魔法陣を展開。それを足裏で削りながら強引に制動をかける。

 顔を上げた所へ迫る炎のミサイル。四方八方から取り囲むように迫るそれにウィンダイナは今の足場から一気に跳び退く。

 空中を縦横無尽に、蜂のそれに似た軌道を描き飛翔する火の玉。それにウィンダイナは足裏に魔法陣を展開し、それを蹴って跳躍。前方から迫る火球を右左と振るったライフゲイルで叩き落とし、足裏に展開した魔法陣を蹴って左前方へ跳ぶ。

 直後、薄れかけた足場にミサイルが直撃。その爆発と熱風を背に受けて、ウィンダイナは行く手を塞ぐミサイルを次々と切り払い、飛び石を跳ねる様に空を行く。

「ナハトはッ!?」

 横一文字にに炎を薙ぎ払い、黒い魔女の姿を探すウィンダイナ。そこへ下方から激しい火炎が渦巻き迫る。

 ウィンダイナはその炎の螺旋に息を呑み、すかさず足元に力場を展開してジャンプ。続けて左側に魔法陣の壁を展開。それを蹴って斜めに飛ぶ。

「下か!?」

 身を翻して新たな足場へ着地し、炎の出所を見下ろすウィンダイナ。だがその頭上へ影が差し、得物を振り上げながら弾かれたように顔を上げる。

 直後、ナハトが急降下と共に振り下ろす炎の杖とウィンダイナのライフゲイルが激突。その衝突に風と炎が爆発する。

 激突の衝撃に負け、砕ける魔法陣。支えを失ったウィンダイナは、ナハトに押し込まれるままに水面へ落ちる。

「クク、飛べぬというのは不便だな、宿敵よ?」

 ナハトはそう言って唇を吊り上げ、背中からの光をより強める。そして噛み合わせた杖を横薙ぎに振るい、ウィンダイナを眼下の川へ弾き飛ばす。

「くう!?」

 ウィンダイナは落下しながら歯噛みし、自分へ向けられた、熱で揺らぐナハトの左手に腕を組む。

 背を打つ衝撃と、耳を塞ぐように弾ける水音。直後、視界を覆う飛沫を蒸気に変えて炎が叩きつけられる。

 煮えた水の中。ウィンダイナは叩き込まれた勢いに任せて川底へ沈む。

 水面越しに揺らぐ黒い影。そこから降り注ぐ数々の赤い光。それにウィンダイナは川の流れる方向へ水を蹴り、その場から逃れる。

 水を割り、熱で泡立てながら降り注ぐ赤い光。ウィンダイナはそれを掻い潜りながら、川の流れに乗って泳いでいく。

 ドルフィンキックで水を蹴り、川下へ進むウィンダイナ。水面を振り仰ぎ、間近に迫った赤い光を身を捩って回避。その勢いのままターンし、揺らぐ水面を見据えて川底を踏み蹴る。

 水面を突き破り、空へ飛び出すウィンダイナ。夕日に煌く濡れた白銀の装甲。滴る水滴の尾を引きながら、白銀の戦士は左手を突きだし、得物を持つ右手を大きく引いて黒い魔女を目指し飛ぶ。

「キィイアアッ!?」

「甘いッ!」

 鋭い気合と共に繰り出されるウィンダイナ渾身の斬撃。それをナハトは、炎の杖で受け止める。

 互いの武器をぶつけ合い、空中で軋ませる両者。そしてウィンダイナは右手にかかる反発に従い得物を振り上げ、頭上の柄に左手を添える。

「イィヤッ!」

 左斜めに振り下ろす光刃。それをナハトは炎の杖で辛うじて受け止める。

「むぅうっ!」

 そして呻きながらも、杖の逆側を振るい切り返す。だがウィンダイナはすぐさまライフゲイルを右へ振るい熱を帯びた杖を叩く。

「ヤッ!」

「ふぅッ!」

 そしてすかさず刃を左へ振り戻すものの、払われた勢いに乗って側転した炎の杖がまたも防ぐ。

 そこからナハトはすぐさま石突の側を掬いあげる様に振るう。だがウィンダイナはそれを踏み、半ばそれに打ち上げられる形で跳躍する。

「なんとッ!?」

 顔を上げ、ウィンダイナの姿を追うナハト。その視線の先でウィンダイナは身を丸めて前転。ナハトの頭上を跳び越えてその背後へ回り込み、腰を捻って輝く刃を横一文字に振るう。

「ぬぐ!?」

 それにナハトは杖を背に回し、辛うじて刃が触れる直前で体との間に割り込ませる。

 足場を踏んでいるかいないかの違いこそあれど、揃って激突の反動に乗り、同時に身を翻す両者。

「エェェアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「ぬうぅああああああああああああああッ!!」

 ターンの勢いのまま気合の声をぶつけ合い、縦横斜めと光と炎を奔らせ切り結び続けるウィンダイナとナハト。

 ゆるゆると高度を下げながら、両者は刃をぶつけ重ね合い続ける。やがて光を照り返す川面が二人の足元へ近づき、そこでナハトはたまらず鉤爪を備えた左手を突き出し、燃え盛る炎の奔流を繰り出す。

「ハッ!」

 それをウィンダイナは身を逸らしてかわし、体を傾けながらナハトへ短い気に乗せた蹴りを叩きこむ。その勢いのまま大きく後ろへ跳躍。

 ウィンダイナは両腕を広げ、揃えた両足を輝かせてとんぼ返り。その光る足が水面を踏むと同時に川面を蹴り走る。

 水飛沫を土煙の如く巻き上げて駆けるウィンダイナ。その後を追う様に水面を叩く火炎弾。火の玉が川面にぶつかり、吹き上がる蒸気と水柱。それを置き去りにするように、ウィンダイナは大きく弧を描く様に水上を走り続ける。

 その右隣りへ滑り込もうとするように、ナハトは赤いマントを翼のように広げ、水面近くを飛翔する。

 ナハトの接近と共に向けられる、重厚な籠手に覆われた左手。そしてそこから繰り出される火炎弾の連射。それをウィンダイナは右手に握ったライフゲイルで切り払い、足元狙いのものを走るコースを左へ逸らして脇の水面にぶつけ、それで生じた水飛沫を潜って迫るものを水面を踏みきって跳び越え避ける。

 跳躍から着水し、再度駆け出そうと踏み込むウィンダイナ。そこへナハトが一息に肉薄。燃える杖の石突を突き出される。

「はあッ」

「クッ!」

 迫る突きをライフゲイルで受け流し、返す刃で反撃。しかしその一撃はナハトが素早く振り戻して立てた杖の柄に阻まれ、左手の爪が顔を突こうと迫る。それをウィンダイナは上体を倒して潜り、ナハトの脇腹へ右肘を突きだす。

「うぐ!?」

 腹へ突き刺さった一撃に、ナハトの口から呻き声が漏れ、その速度が鈍る。そこへさらに追撃の一閃を振るうウィンダイナ。だがナハトは一気に魔力を逆噴射。光の刃をかわしてウィンダイナの後方へ回る。

「後ろを取られたか!?」

 ウィンダイナは背後へ回ったナハトの動きを追い、走る速度を緩めずに振り返る。その先では杖を横倒しに構えたナハトが、ロール回転と共に炎を灯した杖を振り抜く。

「ウンゾベンネン・グリューヴュルムヒェンッ!!」

 再び響く詠唱。そして先程と同じく発射される炎のミサイル。回転の度に次々と火球が撃ち出され、前を行くウィンダイナの背中目がけて迫る。

「クッ! このッ!」

 背中へ迫るミサイルをライフゲイルで切り上げるウィンダイナ。爆ぜ広がる炎を突き破り迫る次弾も切り伏せる。

「セェェアッ!!」

 さらに身を捩って跳躍し、光の刃を突きだしながら錐揉み回転。空中へ追いすがるマジックミサイルを迎え撃つ。

 砕けて風に散る炎。それを背負い、膝まで水につかりながら着水するウィンダイナ。

「コォオオオオオオオオオオ!」

 着水と同時に深く呼吸。それに続いてその足が水から追い出される様に川面へ押し上がる。そしてウィンダイナは水上へ昇りながら身を翻し、背後へ迫っていたミサイルを横一文字に薙ぎ払う。

「イィヤァアアアアアアッ!!」

 そしてすかさずライフゲイルを右、左と斜め十字を描く様に振り下ろし、正面から迫るマジックミサイルを次々と切り払って水上を駆け抜ける。

 割れ爆ぜて水面を赤く染める炎。ウィンダイナはそれを後ろへ置き去りにして真直ぐにナハトを目指す。

「流石にやるッ!?」

 迫るウィンダイナの姿に、右手の杖を突きだすナハト。その先端から迎撃の火炎流が迸る。

「オオオッ!」

 だがウィンダイナは走る勢いを緩めることなく右手のライフゲイルを突きだす。そしてその切っ先を炎へぶつけ、進撃を阻む灼熱の波を切り裂きながら突き進む。

「ぬ!? だがそんな真正直な突きなどッ」

 猛然と迫る光の刃。それをナハトはとっさに上昇。空中へ逃れてかわす。

「逃がさんッ!」

 だがウィンダイナはすれ違いざまに、左手で頭上にあったナハトの足首を掴む。

「なんとッ!?」

 声を上げ空中で姿勢を崩すナハト。その振り子のように振り上がった足に引っ張られるように宙へ舞い上がるウィンダイナ。そのまま掴んだナハトの足を引きながら腰を捻り、大きく振りかぶった右足で黒い魔女の背中を蹴り抜く。

「ぐあはっ!?」

 ナハトから響く重い打撃音に続き、その体から絞り出される様なくぐもった声。その声を聞くが早いか、ウィンダイナは足首を掴む手を放す。解き放たれたナハトは、まるで糸が切れ、突風を受けた凧のように空を流れる。

「が! ぐぅ!?」

 その勢いのまま、川面を水切り石のように跳ねて行くナハト。

 対するウィンダイナは素早く真横に魔法陣を展開。それを蹴り砕き、岸へ向かうナハトを追いかける。

「おのれ!?」

 水を切って飛ぶナハトは、地面に触れる直前に赤い光を振り撒きながら身を捩る。そして左手一本で砂地を叩き跳躍。翻り足から地面へ向かいながら、空を駆けるウィンダイナへ炎を放つ。

 しかしウィンダイナは、迫る炎と自身との間に翡翠色の光で描く円陣を展開。それを左手で叩き、軌道を切り替える。

「イヤアアッ!?」

 炎に呑まれる魔法陣を眼下に、更に足場を展開して蹴るウィンダイナ。傍らにもう一条の炎をやり過ごし、川岸に立つナハトへ一直線に降下する。

 飛び込みざまの縦一文字の振り下ろし。だがナハトが紙一重でその場を跳び退き、空を切る。

 ウィンダイナは片膝を突いて着地するや否や左へ横転。ナハトが跳び退きざまに放った火球が、ウィンダイナの踏んでいた地面で火柱を上げる。

 転がるウィンダイナを横から煽る爆音と熱風。ウィンダイナは自身を追い立てるそれに乗り、さらに大きく飛び込むように跳ぶ。

 装甲越しに身を焙る熱。それを爪先に受けながらウィンダイナは前回りに受身を取り、腕から肩、背、腰、足と着地の衝撃を順に分散。すぐさま左足を軸に身を切り返し、すぐ傍に迫っていた炎をその勢いに乗せて右へ打ち流す。

「ハアアッ!」

 それも束の間、ナハトが炎の陰から姿を現す。その気合に乗って襲いかかる、炎を纏った横一閃。

「エェ、アアッ!」

 間一髪。ウィンダイナはその一撃を上体を反らして避ける。そして膝を伸ばしながら、反撃の刃を振り上げる。

「甘いわッ!」

 だがナハトは軽く身を引いただけでその切っ先から逃れ、ライフゲイルの間合いの外から鋭い突きを繰り出す。

「クッ!」

 歯噛みし、左へのステップで突きをかわすウィンダイナ。そしてすぐさまライフゲイルを左へ振って体を返し、重ねて繰り出された突きを受け流す。

「えぇやッ!」

 そこからすかさず、杖をたどるように刃を返す。だがナハトが素早く身を屈めたために、その一閃は髪をいくらか裂くに終わる。

 一方身を低くしたナハトは、頭を下げたまま身を翻して一歩退く。そしてその勢いのまま、ウィンダイナの足を刈ろうと杖を地面を削りながら振るう。

 足元を刈ろうと迫るそれを、ウィンダイナは足裏で蹴り、踏み止める。

「クク……」

 その瞬間、ナハトの唇から漏れる含み笑い。まるで今この時を待っていたと言わんばかりの笑みと共に、熱を帯びた左手をウィンダイナへ向けるナハト。

 自身の顔へ向けられたそれにウィンダイナは息を呑み、とっさに頭を振って上体を後ろへ反らす。

 刹那、ウィンダイナの胸元を通り過ぎる熱と光。それから立て続けに足で抑えていた炎の杖が跳ね上げられる。

「うっ!?」

 姿勢の崩れた所に足元をすくわれ、ウィンダイナは空中で一回転。そのまま背中を地面へ強かに打ちつける。地に倒れ、天を仰ぎ見るウィンダイナ。その仮面を砕かんばかりの勢いで突き下ろされる炎を灯した石突。

「クッ!?」

 ウィンダイナは眼前に迫る突きに歯噛みし、とっさに顔を右へ逸らす。杖が鋼鉄の仮面を掠め、装甲を削り焼き火花を散らす。

 そしてすかさず右手のライフゲイルを握り締め、ナハトへ突き出す。

「む、うっ!?」

 ナハトは左腕の分厚い籠手で光刃を受け、火花が弾ける。

 ウィンダイナはその隙に、顔の横で燃え盛る杖を左手で掴み、ナハトの足を左足で蹴り払う。それにナハトは呻き声を漏らし、宙に浮かぶ。

「エィイヤッ!!」

 そこへウィンダイナはすかさず振り抜いた左足を戻し、浮かんだナハトの体を蹴り、杖を掴んだ腕と合わせて巴投げに似た形で投げ飛ばす。

 投げ飛ばされるままに空を舞いながらも、前回りに身を翻して着地するナハト。

 紅のマントを羽織った背中を見据えながら、ウィンダイナは右肘で地面を殴って転がり、左手で地面を叩いて起き上がる。そして濡れた装甲を砂まみれにしたまま、ライフゲイルを両手持ちに構えて駆け出す。

「ハアアアアアッ!!」

「むッ!?」

 間合いを詰めきるより早く、右足を軸にして回れ右に振り返るナハト。その勢いに乗せて、石突の側を握りリーチを長く取った炎の杖を振るう。

「キアッ!」

「な、んとぉ!?」

 だがウィンダイナは燃える穂先が触れる直前に跳躍。短な気合の残響を真下に前回りに空を舞う。そして回転の勢いと落下の重みを乗せた斬撃を、見上げるナハト目掛けて振り下ろす。

 しかし空を縦一文字に切り裂く光の刃は、ナハトがとっさに割り込ませた杖にぶつかり、阻まれる。

 風と炎を撒き散らす刃と杖。その反発に乗って、ウィンダイナは足から空へ舞い上がる。

 重力を振りきったかのような横捻りを交えた宙返り。そうしてナハトの背後に降り立ち、すかさずライフゲイルの切っ先を突き出す。

「キィイイアアッ!」

 背後からの突きに身を捩るナハト。光刃は紅のマントを貫き裂いたものの、脇腹をわずかに掠めるに止まる。そしてナハトは左手に炎を灯し、それをお互いの間に叩きつける。

「グ!?」

「むう!?」

 爆発。身を焼き押し流すそれに呻きながらも、ウィンダイナはバク転を繰り返し勢いを殺す。

 地面を踏みしめるのに続き、ウィンダイナはすかさずライフゲイルを構える。

 その正面で、風に流れていく砂ぼこりの幕。それは薄れ行き、やがて晴れる。その向こうには、左手に炎の杖を構えたナハトの姿があった。

「ハア……ハア……」

「フゥ……グゥ」

 互いに肩で息をしながら、得物を向け対峙する両者。

 ウィンダイナの全身を覆う装甲は濡れた土で汚れ、泥の隙間からは焼け焦げた跡が見え隠れする。特にその頭部を覆うフルフェイスの仮面は左半分が焼け焦げ、その背中には四条の深い爪痕が刻まれている。

 対するナハトも、纏っていたマントが破れ、刃の掠めた左脇腹を右手で抑える。

 だが両者共にそんな痛々しい有り様でありながら、ウィンダイナの眼光は微塵も鈍らず、ナハトに至ってはその唇に笑みさえ浮かべている。

「クク……ククク……やはり楽しい。貴公との闘争のひと時はやはり最高だッ!!」

 肩を上下させながらも、心底楽しげな哄笑を上げるナハト。それに向かい、ウィンダイナはライフゲイルを構えてすり足で迫る。

「聞いておきたい事がある」

 深く息を吸って、吐き、低い声を投げ掛けるウィンダイナ。それにナハトは唇を吊り上げたまま頷く。

「よかろう。先に訊ねたのは我の方だ。一方的に聞くと言うのは不公平というもの。なんなりと訊くがよい」

 ナハトは傷を押さえる手を離し、ウィンダイナへ本題を促す。するとウィンダイナは構えを崩さずに言葉を放つ。

「この騒動、本当に貴様が計画し、仕組んだことなのか?」

 ウィンダイナの静かな問い。それにナハトは軽く肩を竦めて鼻を鳴らす。

「これは異な事を訊くものよ。我以外の誰がやると言うのだ?」

 そんなナハトに、ウィンダイナは手の内にある柄を固く握り締める。

「何故だ!? こんなでたらめに害をばらまくような真似を、何故ッ!? 貴様は戦いに関しては潔く、こだわりを持っていたはず。その貴様がこんな……」

「フン。確かに多少予定の狂いはあった事は認めるが、我らが欲するエネルギーの収集には必要な事よ。なりふりなど構ってはおれん」

 刃を構え、鋭い声をナハトへぶつけるウィンダイナ。ナハトはその言葉尻を遮って、左手の杖をウィンダイナへ向けて突き出す。

「だが貴様は、これまでにも度々パンタシアの行動を止めてきた! それにさっきも、巻き込まれた少女の安否を気にかけていただろう!?」

 ウィンダイナは向けられた言葉と杖に怯まず詰め寄り、言葉を重ねる。だがナハトは左手の杖を軽く振りまわし、首を傾けてウィンダイナを見やる。

「それは貴公の思い込みであろう。前にも言ったが、我は他人がどうなろうと知ったことではない」

「しかし!?」

 なおも食い下がるウィンダイナ。それにナハトは改めて杖の穂先を向ける。

「くどい! 暴走したパンタシアを狩ったのはあくまで見せしめのため、少女の安否を問うたのも、貴公との戦いに水を差さぬためのもの! 全ては我自身のための事、それ以上でもそれ以下でもない!!」

「……そう、か……」

 そうはっきりと言い捨てるナハト。その言葉に、ウィンダイナは低い声で呟き、ライフゲイルの切っ先を下げる。そして手首を捻って刀身を回転。そのまま顔の右横から視線に添えて伸ばす形で構え直す。

「貴様の強さと、戦いに対する姿勢は尊敬していたのだが……残念だ」

 半分の焼け焦げたバイザー。その奥で両目を輝かせてナハトを睨むウィンダイナ。対するナハトは向けられる気迫に唇に笑みを浮かべ、自身の周囲に八つの火球を呼び出す。

「クク……貴公からの敬意はありがたく思う。だが、思い違いからのものではな……」

 ぶつかり合う両者の視線。闘志と共に膨れ上がり、溢れ出た力が二人の間で大気を軋ませる。

「これ以上時間をかけたくはない。ここで決着を……!」

 ライフゲイルの柄を固く握り締め、踏み込むために腰を落とすウィンダイナ。

「ククク、貴公との戦いはもっと楽しみたいのだが……よかろう。この全力をもってののぶつかり合い、受けて立とうではないか!」

 笑みを深めたナハトの周囲で火球が八つ、赤い光の尾を引いて回り始める。

 深く呼吸を繰り返し、じっと睨みあう両者。そんな二人の間で、空気の振動がビリビリ装甲を叩くほどに強まって行く。

 重く震える大気。

 その中心点であるウィンダイナとナハトの中間点で、一つの小石が悶える様に震える。やがてその石は固い音を立てて真っ二つに割れる。

「キィイアアアッ!!」

「ハアアアアアッ!!」

 その音を引き金に、二人は同時に動き出す。

 ライフゲイルを構え、踏み込むウィンダイナ。それに対し、ナハトは左手に持った杖を振るい、周囲を舞う八つの火球をウィンダイナへ差し向ける。

 ウィンダイナは正面から迫る火球には構わず、ライフゲイルから生じた風の渦で蹴散らしながら突っ込む。

「アアアアアアアアアアッ!!」

 必殺の刃を構え、雄叫びと共に突き進むウィンダイナ。突き出した光の刃は全ての障害を突き破り、ナハトへ伸びる。

「なッ!?」

 ナハトに触れる直前。八つの火球で描かれた魔法陣が壁となってライフゲイルの切っ先を阻む。

「ぐ、うう、うぅあああああああッ!?」

 ぶつかり合い、火花を散らすライフゲイルと魔法陣。宿敵との間を阻む赤い障壁を突き破ろうと、ウィンダイナはライフゲイルを押し込もうと力を込める。だが火花の勢いを増すものの、光の刃はそれ以上魔法陣に沈むことなく、押し止められる。

 大きな力の反発で荒れ狂う風と炎。それがウィンダイナを裂き、焼き焦がす。

「う、ぐぅう……!」

 だがウィンダイナは傷つき呻きながらも、怯まず、光り輝く刃を押し込むことを止めない。

 しかしその一方で、魔法陣を構成する八つの光が輝きを強め、横倒しの筒に包むようにウィンダイナを取りこむ。

「ククク……このまま貴公の力も奪わせてもらおうか! 魔竜の息吹、天焦がす焔。迷い子をいざない、より深き闇へ導け……」

 魔法陣の向こうで、ナハトは含み笑いを零して杖を振るい、言霊の詠唱を始める。それに合わせて、炎を灯した左手の杖を回転。そのまま炎の杖を左へ振るい、そこから燃える先端を天へ掲げる様に翳す。その身振りを伴った詠唱の進行に沿って、ウィンダイナの周囲を囲む紅が、黒へ染まって行く。

「染まれ。くらく染まる炎と共に。堕ちよ。闇に溶ける焔と共に……」

「グゥ!? う、ぅうう……」

 ウィンダイナを包む闇色が深まり、白銀の装甲に覆われたその身を蝕んでいく。

 鋼鉄の仮面の奥から洩れる苦悶の声。それを噛み締め、ウィンダイナはその両目をより強く輝かせる。

「キアアアアアアアアアアアッ!!」

「ぬぅッ!?」

 咆哮。そしてそれに伴ってライフゲイルが輝きを増し、ナハトの魔法陣に亀裂が走る。

「風よ……命の、風よォォォォォッ!?」

 身を苛む炎の嵐。その中でウィンダイナは叫び、目の前に生まれた微かな闇の裂け目へ、ライフゲイルを体ごと押し込む。

 瞬間。音と衝撃を伴い爆発する光。

「グッ!?」

「うあッ!?」

 溢れ広がる光と衝撃に押し流される形で、ウィンダイナは体をくの字に折って飛ばされる。

 その勢いのまま地面に激突。その瞬間ウィンダイナの全身が光の塊に変わり、だんだんと縮みながら二度、三度とボールのように地面を弾んでいく。

 だが四度目の着地の前に、白い影が滑り込み、その身を受け止める。

「大丈夫、裕ねえ!?」

『無茶しすぎだよ!』

「ケガは!? ひどくない!?」

 縮んだウィンダイナを受け止めたルクシオン。車体そのものと後部席から口々に上がる声を受けながら、ウィンダイナはその身を包む光の衣を風に散らし、傷を負った裕香の姿が露になる。

「ゴメン、みんな。心配かけたね」

 シートの上で腹這いになった裕香その姿勢のまま顔を上げ、仲間たちに謝る。

 それに安堵の息が三つ、揃って零れる。

 そんな仲間たちを裕香は見回し微笑む。

 その途中で裕香の目が砂ぼこりに霞む人影を見つける。

 片膝をつき、小さなものに支えられるセーラー服姿。

「……そんな、まさか……?」

 艶やかで真直ぐな、腰まで届く長い黒髪。そして左手だけを包む黒い革手袋。そんな特徴を備えた少女の姿に、裕香は目を剥いて絶句する。

 呆然と見つめる裕香。その先で黒髪の少女が黒竜アムに支えられて顔を上げる。

 互いの視線が交差し、同時に息を呑む二人。直後、驚愕の表情に固まったいおりの顔が赤い光の中に消える。

『アム……逃げたのか』

「どうしたの? 裕ねえ」

 赤い光の残滓を見、ルクシオンの中から悔しげに呟くルクス。その一方で同じくルクシオンの中にいる孝志郎が、裕香の様子を心配そうに窺う。

「……そんな、そんなのって……じゃあ、今まで私が戦ってきたのは……!」

「ゆ、裕香さん!? どうしたの? ねえ!?」

「裕ねえ? 裕ねえ!?」

 気遣う愛と孝志郎の声。裕香はそれを受けながら、ただルクシオンの上で顔を伏せるばかりだった。

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