その9:シーバス部隊
「無敵と呼ばれたシーバス部隊と、今の部隊は違うんだ……」
シーバスという名に、ハンターがピクリと眉を動かした。手に握ったコップがゆれ、中の氷がグラスとぶつかり音をたてる。
「あの頃は、なんでもできた。どんな任務でも達成できた」
「昔のことさ。感傷に浸るまでもない」
「そうか? まだあれから五年しかたっていない」
「五年もだろ」
「そうかもしれない。だが、いまでもわたしはあの頃の栄光が、頭から離れないでいる」
二口目でシスターセルフィッシュを飲み干し、グラスをマスターへと押し出した。マスターはそのグラスへもう一度同じ液体を入れて、ファリスへと押し返す。
「シーバス部隊と呼ばれた第三部隊の中で、まだ残っているのはわたし一人だけだ。無力な自分を思い知らされるよ。わたしでは、あの頃の第三部隊へと戻せない」
「どんなグループでも、歴史が重なれば優秀な時、無能な時は出てくる。仕方のないことさ」
「違う。今の第三部隊は決して無能ではない。シーバス部隊が優秀すぎたんだ。わたしはその幻影に捕らわれて、隊員を信頼できない――ダメな隊長なんだ」
グラスを握ったまま、ガクッとファリスの体が崩れ落ちる。カウンター上に乗った頭から伸びる髪の毛が、ハンターには血液のように見えた。
「わたしは、どうすればいいんだ。どうすればあの頃に戻れる。どうすればまたシーバス部隊が結成できるんだ……」
「無理な話だ。もう隊長はいない」
「隊長が死ななければ、わたしたちがもっとしっかりしていれば……」
「いまさら悔やんだところで、何も変わりはしない」
「いまだから悔やむんじゃないか! 何かが起こる前に――隊長が死ぬ前に悔やむなどできないだろ!」
ダンッとカウンターを叩き、おもむろに顔を起こした。顔にかかった髪が大きく揺れ動く。
静まり返った店内でも、ようやく聞こえるような声で、ファリスはポツリとつぶやいた。
「悪かったな。つい取り乱してしまった」
「シスターセルフィッシュ一杯で酔うとはな。弱くなったんじゃないか?」
「そうかもしれない。いや、酒でなく精神的に弱くなったのかもしれないな。酒は簡単に心を包む。それが安らぎのときもあれば、苦しみのときもある」
うなだれたまま動かなくなったファリスの肩を叩くと、ウイスキーの料金をカウンターへと置いた。そのまま入り口へと向かう。
「ハンター……」
「気が向いたら、入隊試験の受付に行ってやるよ。気が向いたらな。もちろん話は通ってるんだろ?」
「ああ、いつでも大丈夫だ」
ハンターはそのままバーを後にした。店内ではファリスがシスターセルフィッシュを飲み干していた。グラスを再びマスターの前に差し出すが、中にあったさくらんぼの姿は見当たらない。
「次は――そうだな、トゥーハンドユリスを頼む」
「かしこまりました」
改めて作られるカクテルをぼんやりと眺めながら、ファリスはさくらんぼの種を二つ、吐き出していた。