その7:刺客の狙い
「今回の特殊部隊の入隊試験に、刺客が紛れ込むって情報が入ったの。毎年数人はいるんだけど、今年はそれが多いらしくて」
「でもさ、入隊試験だとなんで王様が狙われるの?」
当然の疑問を受け、レッシュは満足げに頷いてみせた。
「入隊試験の内容は……もちろん知ってるよね?」
「いや、あんまり……」
ガクッと体を揺らし、今度は首を横に振る。どうやら少なからずショックを受けたらしい。
「入隊試験は各部隊によって違うんだけど、基本的には予選を行うの。第一部隊ならトーナメント形式で実戦形式で試合をする。油断すると、命を落とすわよ」
「そうなんだ……」
本気でなにも知らなかったシェラに、レッシュは少なからずの不安を感じた。それでもシェラは信頼できる仲間であり、腕の立つ剣士だった。
「それで予選の上位四名が、隊長を除いた特殊部隊員四名と競い合って、勝ち残った四人が新たな特殊部隊員に任命される」
「じゃあ、せっかく特殊部隊に合格しても、次の年に試験で負けたら即除名?」
「そういうことね。実力主義の世界だし。年齢、性別をいっさい問わず、優秀な者だけを採用するってわけ」
「レッシュは隊長なんでしょ? 隊長も試験があるの?」
「隊長に試験はない。ただ、試験の後で隊員が望むなら、隊長の座をかけて勝負をすることになる。もっとも勤続年数三年以上であることが条件だけど。仕事も知らない新米に、隊長は任せられないでしょ?」
確かにいくら腕が立ったとしても、それが直接指揮を執る才能とは限らない。シェラも傭兵時代、仕事で組むことになった無能な隊長には、辛酸を舐めさせられた経験があった。
「レッシュは隊長の座を守り続けてるわけね。すごいじゃない」
褒めたつもりだが、レッシュはあまりいい顔をしなかった。いやな空気が室内に流れ出す。
その空気を断ち切ったのは、料理を運んできたおかみだった。
「はいよ。蒸し鶏とアスパラガスのサラダに、鮭のムニエルよ」
「ありがとう」
二人分の料理を置くと、おかみは一礼してから、
「ごゆっくりどうぞ!」
そのまま部屋を後にした。部屋の中にバターの匂いが広がっていく。
「先に食べてから、話をしましょうか」
「うん、そうだね」
二人は箸をつかみ、食事を始めた。レッシュの言ったとおりオートエーガンに負けず劣らずの美味だった。新鮮な魚の柔らかい食感と絶妙なバターと塩コショウのバランスが、口の中へと広がっていく。
きっとニオがこの場にいたら、熱心に味の研究をするだろう――ニオが食事を取りながらメモを取る姿を想像し、シェラの口元がわずかに緩む。
サラダは食材というよりも、ドレッシングが口当たりをよくしていた。甘くもなく、辛くもなく、すっぱくもないバランスの取れた味付けは、今までに食べたことがなかった。
「ふぅ、ごちそうさま」
「あれ、もう食べちゃったの?」
レッシュがまだ半分しか食べていないにもかかわらず、すでにシェラは食事を終わらせていた。オートエーガンの短い休憩時間を利用して食事を取るため、早食いが自然と身についてしまったのだ。
「いいよ、ゆっくり食べて」
「ううん、話しながら食べるから」
ムニエルの皮を飲み込んでから、口を開く。
「えっと……なんで入隊試験で王様が狙われるかって話よね?」
「そうそう」
「それはね、予選が終わった後に会食があるのよ。トーナメントでベスト四までいった人を招いてね。そこにシングマス五世も姿を現すってわけ」