その6:写真の主は?
「いらっしゃい、レッシュちゃん」
愛想のいいおかみに出迎えられ、レッシュは軽く手を上げた。
木造のカウンターとテーブルが並び、褐色の光が店内を照らしている。ちらほらと座っているお客さんは、注文した食事を食べながら舌鼓をうっていた。
「奥の部屋、あいてる?」
「ええ、大丈夫よ」
おかみに案内されて、二人は店の奥へと進んでいく。区切られた一室の中は座敷になっており、あまり見かけない畳が、特有の匂いを放っている。
「注文はお勧めランチ二つで」
「オッケー、すぐに持ってくるよ」
サラサラと伝票に注文を書きなぐると、おかみは部屋を出て行った。
「ここの料理は美味しいよ。オートエーガンにも負けないぐらいにね」
ディヴァイナルでもお勧めの店らしく、レッシュは胸を張って自慢していた。シェラもマスカーレイドに知人が来たら、きっとオートエーガンを自慢するだろう。レッシュの気持ちが十分に理解できる。
「うん、楽しみにしとく。それで今回の依頼は……」
「そうだった。じゃあさっそく、説明しよう」
持っていた封筒から、二枚の資料を取り出す。一枚は写真、そして一枚はなにやら長い文章がこまごまと書かれていた。
「これはだれ?」
まず写真を手にとって、尋ねる。レッシュは笑いをこらえるように口に手をやり、
「だれだと思う?」
逆に聞き返してきた。写真には二十代後半ぐらいの男性が、きらびやかな服装で写っていた。それだけ見れば高貴な人物を思わせるが、無邪気に放たれたウィンクとピースサインが、貧相さもかもしだしている。
「……レッシュの父親?」
「ハハハ、全然ちがうね。わたしの父さんがこんなに若いわけないでしょ」
言われてみれば確かにその通りだった。二十代後半ならば、ファリスとそう変わらない年齢だろう。もしかしたらファリスのほうが年上かもしれない。
「うーん、わかんないなぁ」
ギブアップしたシェラに、クスクスと笑いながらレッシュが答える。
「実はその人、王都ディヴァイナルを統べる王様……シングマス五世なの」
「こ、これが王様!?」
「女の子に見せる写真だっていったら、張り切っちゃってさ。逆効果だって分かってないんだから」
腹を抱えて笑うレッシュに、ポカーンと呆けるシェラ。王様というよりも、まるで友達を紹介しているような態度だ。
「それで、この王様がどうかしたの?」
「命を狙われてるの」
言いながら、もう一枚の資料をシェラに差し出す。細々とした文字に顔をしかめるシェラの心情を察したのか、簡単に説明してきた。
「それはディバイナルに敵対してる組織の名前と詳細が書いてある。簡単に言えばシングマス五世の命を狙ってる組織ね」
「そんな組織を野放しにしてていいの?」
「もちろん野放しにしてるわけじゃない。個々に撃破してるさ。だけど逆にそれが敵対組織に火をつけたみたいでね……」
資料を封筒へとしまってから、髪をかきあげる。レッシュの赤いポニーテールが小さく揺れた。