その4:頬をかすめる弾丸
「ふう、やっとついたね」
シェラが周囲を見渡してぼやく。溢れんばかりの人が、道にごったがえしている。マスカーレイドも少なくはないが、ディヴァイナルはその数倍は軽くいっているだろう。
入り口からV字型にのびていく道に沿って、カラフルな高い建物が隙間なく建てられている。地面も赤や黄色などの色を彩り鮮やかにはめ込み、全体に明るい雰囲気を浮かび上がらせている。
マスカーレイドは地盤の関係で、あまり高い建物が建てられないが、ディヴァイナルは四、五階建ては当たり前のようだ。
宿屋だけでなく、武器、防具などの装備品を売る店から、みやげ物の店まで数多く並んでおり、普通の民家はほとんどない。それもマスカーレイドとは正反対のものだった。
「いまは特殊部隊の試験の時期だから、やっぱり人が多いな。まあ普段から少なくはないが」
まだあまり機嫌がよくないのか、仏頂面で答える。これから起こる事体を把握しているシェラの全身に、冷や汗が広がっていった。
「あ、来た来た」
聞き覚えのある声に振り向くと、赤髪のポニーテールに黒の上下といういつもの格好に、緑色の腕輪をつけたレッシュの姿があった。ただいつもと違い、手には封筒を持っている。
「レッシュか。忙しそうだな」
「いやあ、ありがとねシェラ。ハンターを連れてきてくれて」
ハンターを無視して、シェラと握手しているレッシュ。一瞬カチンときたハンターも、次の瞬間にはレッシュの言葉に関心が移っていた。
「ちょっと待て。連れてきたってどういうことだシェラ」
「えへへ、ごめんねハンター。実はレッシュに頼まれてたの。ハンターを王都に連れてきてほしいってね」
「なんだと!?」
パッとレッシュを見ると、レッシュは口笛を吹きながらそっぽを向いていた。どうやらシェラの言っていることに偽りはないらしい。
「じゃあ、ディヴァイナルに来たことがないってのは……」
「もちろん嘘よ。傭兵の仕事やってたんだから、ディヴァイナルの場所だって知ってるわよ」
「当たり前じゃない。騙されるほうがおかしいわよ」
相槌を打ったレッシュに、ハンターの舌打ちが送られる。
「ちっ……この盗賊が」
「盗賊って呼ぶな」
すかさず訂正をうながすレッシュにも、今回はひるむことなく向かい合っていた。
「今度はなにを企んでるんだ? まさか入隊試験の手伝いをしろっていうんじゃないだろうな?」
「うーん、近からずも遠からずってとこかな」
「いい加減にしろよレッシュ……おれは帰るからな!」
「ちょっとハンター。報酬は?」
「いらん!」
レッシュを突き飛ばし、ハンターは乗合馬車へと向かおうとした。
刹那、ハンターの耳元でプシュンという風きり音が聞こえた。その直後に地面の石畳がえぐれ、破片が飛び散っていく。
「……レッシュ」
「なぁに?」
ハンターの聞きたいことを理解しているのか、レッシュはわざとらしく満面の笑みを浮かべていた。
「まさか、いるのか?」
「もちろん。すぐに降りてくるんじゃないかな」
諦め気味の吐息と共に、ハンターはその場にうずくまった。なにが起こったかわからないシェラは、その場で一人立ちすくむしかなかった。