その27:作戦決行
光が落ち着いてから、辺りを見回すレティシア。二人の隊長が消えた以外で、特に変わった点は見当たらなかった。
「あいつらはどこへ消えた?」
レティシアのシミターが、シングマス王の首筋へと当てられる。部屋の中の空気が一瞬にして凍りつく。
だが、シングマス王は覚悟を決めたように、レティシアを見返していた。
「軍師のウィラーに緊急招集されたのさ。すぐにあいつらが、わたしを助けにやってくる」
「ほう、この包囲網を抜けてこれると思っているのか?」
シングマス王の周りに六人、会食場へと入る扉三つに各二人の陣形は、いまだ変わっていない。
「あいつらを舐めるなよ? だてに特殊部隊の名を語っていない」
「そうか。じゃあせめて貴様だけでも、早いところ死んでもらわないとな」
「ちょ、ちょっと待ってくれないかなぁ。まだなんで殺されるか聞いてないんだけど」
レティシアが告げた死の宣告に、あっさりとシングマス王は態度を裏返してしまった。呆れ果てるレジスタンスの面々。
そんな中、ハンターだけが周りに気づかれないよう、息を殺して失笑していた。
「わ、わたしも詳しく知りたいな!」
突如シングマス王の背後から、シェラが声を上げる。全員の視線が一瞬にして、シェラへと集中した。
「知りたかったら、シングマス王を殺した後でゆっくり教えてやる」
「い、いや、そうですね……はい」
「な、納得するな!」
シングマス王が半泣き状態で叫ぶ。シェラが苦笑を発しながら次の手を考えていていると、
「来たな……」
ハンターがぼそりと呟く。何のことか尋ねようと、ハンターへと振り向いたその時だった。
突如レジスタンスの背後から、ガラスの砕け散る音がこだまする。
「何事だ!」
レティシアが振り向き、音の出所へと視線を向ける。後方半分の天井が、大小の破片に砕け散って、シャワーのように会食場へと降り注いでいた。
「パンドラ! チルハ!」
レティシアが叫ぶ。扉へと張り付き見張りをしていた二人は、すでに猛ダッシュでレティシアの元へと走り出していた。
湖にでも飛び込むようにして、レティシアの足元へと転がり込む。その背後で、床へと到着したガラスの破片が、再びその体を小さく砕き、はじけ散る。
レティシアが見上げると、風穴の開いた天井の脇に、杖を持った人影があった。
暗闇でその姿ははっきりしないものの、ローブに身をまとった姿は先ほどまでここにいた特殊部隊の隊長に違いない――レティシアはそう判断した。
拳銃を持った二人に指示を出そうとすると、今度は先ほどまでパンドラとチルハが張り付いていた扉が、いとも簡単にこじ開けられる。
そこから一メートル四方は軽くある巨大なタワーシールドを、軽々と持ち上げたフランカーが、ゆっくりと歩みを進めて入ってきていた。足元に落ちているガラスの破片が、一歩ごとに音をたてる。
「くっ!」
レジスタンスの一人が、拳銃を構えてフランカーへと引き金を引く。だが、弾丸はあっさりとタワーシールドに弾き飛ばされてしまった。
「生半可な腕じゃあ、当たらないぜ? よく狙えよ」
せせら笑うフランカーに再度、引き金にあてた指に力を込める。だが、えもいえない衝撃が手に響き、拳銃は背後へと飛んでいってしまった。
それを皮切りにレジスタンス達の得物が、次々と弾き飛ばされていく。レティシアが原因を把握しようと目を凝らすも、薄暗いせいで出所を捉えられない。
全員がなすすべもなく戸惑う中、レティシアだけが相手の狙いに気づき始めていた。
天井を轟音と共に壊した者、盾を持って入ってくる者、見えない場所からの狙撃をする者。
作戦という名のジグソーパズルを完成させるには、あと一つピースが足りなかった。
レティシアは一人だけ、勢いよく背後を振り向く。
「ゲームオーバーだな」
勝敗を継げる言葉と共に、鼻先に向けられた銃口。その持ち主はハンターだった。
「ふぅ、助かった……」
安堵の息を漏らすシングマス五世に、シェラの縄もすでに解かれている。そのさらに後ろには、いつの間にやら現れたレッシュが、誇らしげな姿で微笑んでいた。