その26:真意
目を開けると、ファリスたち二人は作戦会議室へと呼び戻されていた。目の前にはレッシュと、軍師であるウィラーの姿がある。
「ウィラー! なぜわたしを呼び戻した! 特殊部隊のの転送には、王の許可が必要なはずだろ!」
ベレー帽のような小さな帽子をかぶり、軍部の正装に身を包んだウィラーは、はにかみながら頭をかいている。
「いやあ、レッシュが鬼の形相で迫ってくるもんでねぇ。つい呼び戻しちゃったんだよ。なはははは……」
ウィラーが問いに答えている間にも、レッシュが二人の手を拘束していたロープをナイフで切っていた。
そしてすぐさま、部屋中にひびく大声を上げた。
「話は後! 作戦の説明も移動しながらするから! とにかくお姉ちゃんはライフルを持って! ドノヴァンさんも代えの杖を!」
「あ、ああ……」
ドノヴァンと呼ばれた第二部隊長が、動揺しながらもレッシュから杖を受け取る。
「レッシュ!」
「お姉ちゃん! 時間がないの!」
「ダメだ! わたしはシングマス王を守らなければならない。たとえ命に代えても……」
「かばってお姉ちゃんが死んだら、シングマス王が助かる? その後、シェラやハンターが身代わりになったら、シングマス王は救われるの!? 違うでしょ! 目を覚ましてよ!」
ファリスの肩を掴み、何度も揺らす。
落ち着きを取り戻しつつも、ファリスはまだ納得は出来なかった。反論しようと口を開きかけるも、レッシュが先にファリスをなだめる。
「お姉ちゃんの力が必要なの。だから……お願いだから、わたしの言う通りにして!」
真剣なレッシュの眼差しに、ファリスはようやく頷いていた。
『考えてみれば、レッシュがわたしに逆らうなど、初めてだな……』
心中でぼやく。だが、それだけレッシュもシングマス王を救いたいのだ――その気持ちが強く伝わってきていた。
「じゃあ行くよ!」
「行くって、どこへだ?」
ドノヴァンの問いに、レッシュは天井を指差す。
「屋上だよ。正確には会食場の天井裏だけどね」
レッシュが走り出すと、慌てて二人も後に続いた。作戦が成功するかどうかは五分五分だった。だが、やらないわけにもいかない。
走りつつレッシュはふと思う。この間にも、シングマス王の命は消えうせているかもしれない。
否定するようにかぶりを振り、作戦を説明する。特殊部隊の名の下に、失敗するわけにはいかないのだ。




