その2:思いがけない依頼
「ハンターも一緒に来ない?」
「はっ?」
「わたし、王都の場所知らないの……」
「はあっ? なんで元傭兵の……」
「元じゃないんだけど……」
「……現ウエイトレスのお前が王都――ディヴァイナルの場所を知らないんだよ。王都に行くための護衛なんてよくある話じゃないか」
ハンターの言葉は的を得ていた。王都といえばこの国で一番大きな都市であり、一番人口も多い。となると、当然行商人や輸送も王都へと向かうものが多くなる。
その途中、賊やモンスターのに遭遇したときの金品と命を守るためには、どうしても傭兵や護衛を雇う必要があった。シェリーのように一人で旅を続けている行商人など、稀有な存在なのだ。
だが、シェラは自信なさげにうつむきながら、小さく首を振っていた。
「わたし、田舎育ちだからさ。田舎のほうの仕事ばっかりだったの」
「冗談だろ?」
「本当だって。ここから北にある街にはいったことがないもの」
ハンターは頭を抱えつつ、背中を壁へと預けた。ハンターも認める傭兵が、王都に行ったことがないなど予想だにしていなかったのだ。
「それなら乗合馬車にでも乗っていけばいいだろ? 御者にでも聞けば王都へと案内してくれるさ」
「一人旅って、不安が大きいんだよね。それに確実性もないし」
「おまえなあ……」
「いいじゃんかハンター。どうせ暇なんでしょ?」
両手を合わせるシェラから、無常にもハンターは顔をそらしていた。
「おれはな、ディヴァイナルへは行きたくないんだよ」
「どうして?」
「それは……どうしてもだよ」
ばつが悪そうに、シェラから顔をそらす。少し考えてから、シェラはハンターの肩を叩いた。
「わかったよ。じゃあハンターを雇うってことでどう?」
「仕事の依頼ってことか」
「そう、五日間の護衛と王都への案内込みで報酬は十万バッツってとこでどう?」
両手を開いてみせるシェラに、首をふってみせるハンター。
「二十万バッツだ」
「十一万バッツ」
「十九万五千バッツ」
「えーい、十一万五千バッツ!」
「十九万三千バッツだ」
その後数分にわたる交渉の結果、結局十七万三千四百バッツということになった。
「よし、ちょっと準備をしてくるから待ってろ」
「オッケー。外で待ってるから」
そう言うとシェラは、玄関の扉を閉めて出て行った。
着慣れた迷彩服に腕を通しながら、ハンターはため息をついていた。視界の隅には、五人でうつっている昔の写真が飾ってあった。
右端にはガタイのいい男が仁王立ちをしており、その隣で若い女性が二人、くっついてVサインを送っている。そしてそれぞれの女性の後ろには、若い男が一人ずつ。肩を組んで前にいる女性二人を指差しながら、なにやらニヤついている。
「ディヴァイナルか……もう足を踏み入れることもないと思っていたが」
写真立てをパタンと倒し二丁の拳銃に弾丸を装着すると、シェラの待つ外へとハンターは歩みを進めていった。