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その16:シェラの予選最終戦

「シェラフィール=ファインドイット、アッシュ=クウル、入場!」

 係員の声に合わせて、深呼吸する。最初の一歩を踏み出すと、背後から突然、殺気が溢れかえっていた。

「!?」

 振り向きざまに背後へと飛び、殺気の元を確認する。だがそこには、飄々としたアッシュが短剣を回しているだけだった。

 ざわめく会場の中で一人、シェラだけが現状を把握していた。

『こいつ、背後から刺そうとしてた……』

 湧き出た脂汗が、頬を伝う。ゆっくりと闘技場へと上がったアッシュと、一定距離をおいてかまえる。

「姉ちゃん、一つ言っておくがな……」

 シェラにかろうじて聞こえる声。会場の観客はもちろん、一番近くにいる審判ですらアッシュの声には気がついていなかった。

「生き残れると思うなよ? あんたみたいな上玉を殺すのが、俺の趣味なんだ」

「なんだって?」

「合法的に人を殺せるんだ。こんなにいい大会はない」

 右手に持った短剣を、おもむろに舐める。それだけでシェラは鳥肌が立っていた。

「そんなことしたら、失格になるわよ」

「俺ははなから特殊部隊に入隊する気なんてないのさ。ただアンタみたいな女を殺して、死にゆく様を拝みたい――ただそれだけさ。今回は対戦相手が男ばっかりだったせいで、こんなところまで来ちまったがな」

「あんたみたいな人間を、下衆って言うのよ」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 アッシュが短剣を逆手に持ち替えたところで、審判から試合開始の笛が鳴らされる。

 その音に気をとられた一瞬で、アッシュの姿は目の前から消えていた。

「しまっ……」

 不用意な自分に嫌気が差しつつも、シェラは冷静に対処できていた。足元から聞こえた石畳を蹴る音と、抉るように下から上がってくる風斬り音に、すんでのところで反応する。

 かまえていたツーハンテッドソードを、柄から下へと叩きつける。手に伝わる衝撃に続いて、石畳と短剣が衝突する乾いた音。背後へと一度大きく間合いを取ると、右手を押さえつつシェラを睨むアッシュの姿を、ようやく捉えられた。

「やるじゃねえか……」

「あいにく、まだ死ぬ気はないんでね」

 今度はアッシュの動きから目を離さず、警戒を続ける。腰に下げた新たな短剣を引き抜くと、再びアッシュは突っ込んできた。

 だが、今回は先ほどと違う。完全にアッシュの体を補足していたシェラは、ツーハンデットソードを片手に持ちかえ、思い切り突き出した。

 動きが止まったアッシュから、血しぶきが飛び散った。同時にアッシュの体から飛び出た小さな物体が、石畳の上を転がる。

 それは、アッシュの親指だった。

「ぐああああああ!」

 苦痛に顔をゆがませながら、アッシュは傷口を押さえつつ膝をついた。

「勝者、シェラフィール!」

 シェラの勝利を宣言する審判の声。歓声がこだまする会場内で、シェラはアッシュを冷ややかに見下ろしていた。 

「親指がなくなっちゃ、力を込められないでしょ。残念ね、大好きな人殺しが出来なくなっちゃって」

「き、貴様、覚えてろ! この恨みは必ず晴らす!」

「そういうのなんていうか知ってる? 負け犬の遠吠えって言うのよ」

 ツーハンデットソードを鞘へと収め、意気揚々と会場を後にする。これでシェラはベスト四に残ったと同時に、特殊部隊への挑戦権を得たことになる。

 同時に、シングマス五世との会食の権利も得た。

 これから始まる会食に、彼の命を狙う敵対組織が、何人いるかは分からない。

だれが敵かも分からない現状から、シングマス五世を救い出す。それが今回の依頼内容なのだ。

「おめでとうございます! 特殊部隊への挑戦は明日になりますので、今日は城でお休みください!」

 受付嬢から会食の招待状を受け取り、額にかいた汗を拭う。

これからが本番――シェラはようやく、スタートラインに立ったにすぎなかった。


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