その14:入隊試験、始まる
シェラが会場に着くと、人だかりが闘技場を包んでいた。人数と場所の関係から、特殊部隊の試験場は各々離れた場所にある。
控え室の入り口で、受付から発行された参加証明書を提示する。中へ入ると、筋骨隆々の猛者たちが、それぞれ多種多様の武器を持参していた。
シェラのツーハンデットソードより大きな剣を持つ者もいれば、短剣を数十本、腰から下げているものもいる。
ほとんどの戦士が神経を張り詰めており、一分の隙も伺わせない。中にはヘラヘラと笑っている、例外もいるが――。
「あれ? シェラじゃない。あなた特殊部隊に入りたかったの?」
不意に声をかけられて振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。マスカーレイドで医療を営む、アクサ=ヤーナだった。
「アクサ先生! こんなところで何をやってるんですか?」
「第一部隊は怪我人が出るからね。いろんな街の医者が、毎年交代で呼ばれるのよ。今回はわたしが当番ってわけ」
「へぇ……大変ですね」
「シェラも気をつけてね。心臓を一突きにされたら、さすがにわたしでも治せないからさ」
一瞬ひるんだシェラに、クスッと微笑むアクサ。
「まあそれは冗談だけど。本当に無理しないようにね」
「ありがとう、アクサ先生」
シェラがお礼を言うと、アクサは手を振って救護室へと消えていった。
あたりの雰囲気に圧倒されていたシェラは、知り合いに出会えたことで少し気分が落ち着いていた。
会場へと参加者が集められ、簡易ステージで改めてルールを説明される。その後、プレートアーマーと二メートル近い大剣を持った、筋肉質の男性が姿を現した。
手首には見覚えのある腕輪がつけられている。ただ、ファリスやレッシュの物とは違い、赤く輝いている。
「わたしが第一特殊部隊の隊長を勤める、フランカー=ドイルである」
羨望の眼差しで、周りの人間が隊長を見上げる。だが、シェラはその人物に見覚えなどなかった。どうやら特殊部隊を目指し続ける者には、ヒーロー的存在らしい。
「予選の種目は例年通りだが、命をかけた勝負であることは間違いない。油断せずに、日ごろの成果を発揮してくれ。共に戦える日が来るのを願っている」
そういって一礼すると、ステージに背を向けて去っていった。受験者から歓声がこだまして、会場は一時混乱に巻き込まれたものの、それも例年通りなのか、係りの者の指示によってすぐさま冷静さを取り戻していった。
試合はすぐに始まり、早々と進行していく。三十分もすると、シェラの番がやってきた。
選手紹介が為されてから、ようやくシェラは相手の姿を知った。まだ幼さの残る青年だ。もしかしたら十六歳での初挑戦なのかもしれない。
「い、いくぞ!」
震える手でショートソードを持ち、シェラに向かって斬りかかってくる。シェラは半身だけ体を避けて攻撃をかわすと、青年の前に足を差し出す。
「う、うわわっ!」
あっさりとシェラの足に引っかかった青年は、そのままこけてしまった。
「勝者、シェラフィール!」
レフェリーの判定が述べられて、がっくりとうな垂れる青年の頭を撫でる。
「戦いの基本は下半身だよ? もっと頑張ってから、また挑戦してね」
悔しそうに顔をゆがめる青年の頭を撫でて、にっこりと微笑む。青年は頭を下げてから、走り去っていった。
「この調子でいければいいけど……」
まだまだ続くトーナメント表を眺めながら、自然とため息を漏らす。戦いはまだ、始まったばかりなのだ。