その13:クラウディ=アルティメット
試験会場へと二人が向かうと、すでに人だかりができていた。混乱を避けるためにいくつも設置された受付も、行列が成されている。
「じゃあ受付をしたら、案内の紙をもらえるから。第一部隊の試験会場まで行ってね」
「ええ、分かったわ」
「ちゃんとベスト四まで残らないと、報酬はなしだからね?」
「ぐっ……」
一歩退くシェラのようすに、手を口元へとあてるレッシュ。
「フフッ、緊張しなくても大丈夫よ。シェラが普段の力を発揮すれば、きっと残れるから。サイクロプスを倒したときを思い出して」
「あれが普段の力だと思われても、困るんだけど……生き残るために必死だっただけ」
「たとえそうであったとしても、あれだけの力を出せるってことでしょ? ファリス姉さんも言ってたけど、シェラはもっと自信を持っていい。そうすれば、自ずと傭兵の仕事へも復帰できると思うよ」
「自信、ねぇ……」
不安げな面持ちのシェラを残して、レッシュは去っていってしまった。だが、その表情はシェラ自身よりも、シェラを信頼しているといった善意に満ちていた。
受付を済ませてから、参加証明書と案内の紙を受け取る。そこには各試験会場への道のりと、試験のルールについての詳細が記載されていた。
とりあえず会場へと向かいながら、試験内容を確認する。
「制限時間一分。どんな小さな傷でも、先に相手に与えたほうが勝ち。ただし飛び道具でつけられた傷は無効。転倒や場外は即失格。タイムオーバー時は判定に持ち込まれる……か。どうやらスピード勝負みたいね。まっ、でないとこれだけの人数、一日じゃ捌ききれないんだろうけど」
溢れかえる人員に、自然と漏れるため息。シェラは懐へと案内書を入れると、
「よし、行くか」
そのまま試験会場へと駆けていった。
第三部隊の試験会場で、ファリスは相当に焦っていた。
受付情報を総括する事務所で待機しながら、送られてくる受付情報を確認する。だが、未だハンター=バウンティという名の人物は現れていない。
「ハンター、まさか本当に?」
不安に駆られながらも、ファリスはひたすらに待つしかなかった。第三部隊の隊長という役割上、試験会場へと出向いて直接探すわけにも行かない。
次々と送られてくる受付内容に、逐一目を通すファリス。受付終了五分前、ファリスの目はようやく、一つの名前で動きを止めた。
「クラウディ=アルティメット……だと?」
お腹の底から、自然と笑みが込み上げてくる。気がつくとファリスは人目もはばからず、笑い声をこだまさせていた。
「ファリスさん?」
総括の一人が心配そうに尋ねてくるのを、軽く手で制する。目元から生まれてきた涙を拭いながら、
「わたしに対してのあてつけか? まったく、何を考えてるんだかな……」
ファリスは鼻で笑うと、事務所の出入り口へと足を向けた。
もうすぐ試験が始まる。長い一日になりそうな予感がした――。