その12:朝食
「さてと、昔話は終わり。朝ごはんでも食べましょうか」
「う、うん」
シェラが窓の外に目をやると、きらびやかな日光が室内へと降り注いでいた。それが逆にレッシュのかげりを、大きくしている気がした。
階段を下りていくと、リビングではファリスがコーヒーを飲みながら、新聞に目を通していた。整った服装が相成って、大人の女性の雰囲気をかもし出している。
「おはよう、ファリス姉さん」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
新聞を折りたたみ、ファリスは二人にコーヒーを入れてくれた。二人の朝食の準備は、レッシュがキッチンで簡単に作っている。
メニューはトーストとハムエッグ。それに付け合せ程度の生野菜だった。
「よく眠れたかい? シェラ」
微笑みながら、ファリスが尋ねてくる。柔らかそうな赤髪に整った顔立ちは、改めて観察していたシェラの胸を高鳴らせた。
「えっ? あっ、はい。一応……」
「レッシュから話は聞いているが、なるほど。相当腕が立つようだ」
「そ、そんなことないです……」
「謙遜することはない。もっと胸を張って、自信を持てばいい。傭兵という仕事を一生ものにしたいのなら、なおさらだ」
すぐ横にいたレッシュに顔を向けると、レッシュはウインクをして見せた。どうやらシェラを腕の立つウエイトレスとしてではなく、傭兵として紹介してくれたらしい。
「だが、油断は禁物だぞ。特に第一部隊は命がけの勝負だ」
「はい……」
「もっとも、最初から殺しを目的とした受験生でもなければ、命を奪おうとまではしてこないがな」
「が、頑張ります」
ファリスはそれだけ告げると、椅子から立ち上がった。
「もう行くの?」
「ああ、ハンターがいるかどうかの確認もしたいからな。遅刻だけはするなよ、レッシュ」
「分かってるって、いってらっしゃい」
無邪気に手を振るレッシュに応えてから、ファリスは部屋の外へ出て行った。玄関の扉が開き、閉じる音が続いて聞こえてくる。
「さてと、それじゃあご飯を食べたら……」
レッシュが告げつつ振り返ると、シェラはすでに完食していた。口元をナプキンで拭いつつ、満面の笑みを浮かべている。
「えっ、どうかした?」
「いや、なんでもない」
レッシュは苦笑いをしながら、自分の朝食を急いで胃の中へと押し込んでいた。