その10:セルフィッシュ家の夜
床に敷かれた布団で目を覚ましたシェラは、大きく背伸びをしていた。時間は朝の五時。入隊試験の受付は、まだ四時間先だ。
隣のベッドでは、レッシュがまだ寝息を立てている。明日――正確には今日だが――の試験への道案内もかねて、一緒にレッシュの家へと泊まったのだ。
あまり物は多くなく、必要最低限のものしか配置されてないシンプルな部屋。レッシュの話では、滅多に家に帰らないため、必要ないという理由らしい。
やることもなくシェラは、愛用のツーハンデットソードを鞘から抜いた。途端に背後から、撃鉄を起こす音が聞こえる。
「動くな……」
両手を挙げて、シェラの動きが止まる。頭に銃口を押し付けられるも、シェラは落ち着いていた。
「あの……レッシュ?」
「ん? ああ、シェラ。どうかしたの?」
「どうかしたのじゃないよ。すぐに拳銃を下ろしてくれない?」
そこまで言われて、ようやくレッシュは我に返ったようだ。
「あっと、ごめんね。剣を抜く音が聞こえたから、つい……」
「まあ、気持ちはわかるし、わたしが不注意だったんだけど……」
頭から硬い感触が無くなり、ようやくシェラは息をついた。撃鉄を戻したレッシュは、枕の下へと拳銃を戻す。いつも使っているデザートイーグルではなく、護身用の短銃らしい。
「こんな朝早くにどうしたの? まだ五時じゃない」
「いや、いつもの習慣でね。緊張ってのもあるかもしれないけどさ」
剣を鞘へと戻しながら、シェラがぼやく。あくびまじりでレッシュが、部屋のカーテンを目いっぱいに開けた。
薄暗い空の所々に、雲がかかっている。快晴ではないが、雨の心配もなさそうだ。
「あのさ、レッシュ」
「ん?」
振り返りながら、レッシュが首をかしげる。