その1:シェラの休暇
まだ日も昇っていない早朝に、鳴り響く扉の殴打音。
ハンターは眠そうに目をこすりながら、時計に目をやった。短針と長針がきれいに直角の形になっている。
「まったく、だれだよ。まだ朝三時だぞ……」
枕のしたからデザートイーグルを取り出し、あくびをしながら布団から身を起こす。玄関へと近づいていきながら、ノックの主へと声をかけた。
「だれだ? しょうもない用事なら鉛弾を食らってもらうぞ」
「わたし」
「わたしなんて名前の奴は知らん。鉛弾コースだな」
「うわわわわ! シェラだって! 鉛弾は勘弁してよ!」
ハンターは一応用心しながら、扉を開ける。確かにそこにいたのはシェラだった。
「どうしたんだこんな朝早くに。見慣れない格好して」
「あの……これ、昔だったら標準装備なんですけど」
「そうだったな。最近はエプロンばっかりだったから忘れてた」
睡眠を遮られたせいか、少しいらだった口調でハンターが嫌味を飛ばす。
確かにシェラはいつもとは違う、昔の格好だった。銀の胸当てと腰から地面すれすれまでのびるツーハンデットソード。その姿をハンターが見るのは、サイクロプスと戦って以来だった。
「で、なにか仕事か?」
「いや、ちょっと腕試しをしようと思ってさ」
「腕試し?」
聞き返すと、シェラはコックリと頷いた。
「以前ハンターが言ってたでしょ? 特殊部隊の入隊試験の話」
「ああ、したなあ。受けに行くのか?」
「うん、ちょっと一週間ばかし暇ができたんで……」
頭を掻きながら、ばつが悪そうにうつむくシェラ。
「なにかオートエーガンでやらかしたのか?」
「いや、ちょっとした出来心でアルマさんをからかったら、昨日から一週間の謹慎を言い渡されちゃってさ」
「どうりで昨日は見ないと思ったが。それにしてもアルマをからかうとは、思ってたより根性があるな」
「そんなことで感心されても、あんまり嬉しくないんだけど」
複雑な心境で頬をふくらませるシェラに、ハンターは頭をボリボリとかいてみせる。
「まあそんなことはどうでもいい。おれが言いたいのは特殊部隊の試験を受けに行くならさっさと行けばいいってことだ。おれになんの用がある」
「それがさ……」
指の先をもじもじと口の前で動かしながら、シェラはできるだけ可愛らしくつぶやいた。