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帝国の天馬乗り

 若い女の天馬乗り。ましてや見目に優れているなど作り話のようではないか。

 初めは半信半疑で聞いた噂も、地方の領主の館に女が滞在したと聞いてどうしてもこの目で確かめたくなった。最初のひと月は城へ招くため文を出したがまるで梨の礫。

 詳しく調べると立ち寄った領主が女に入れあげ食客として囲っているという。

 素性も分からぬ女がこうも容易く人の懐に入るからにはそれなりの手管を使っているのだろうが、それと聞き伝えの技量とがバルゴットの中では一致せず、とうとうその地に視察と称して密かに天馬乗りの女に会いにいくことにした。

 バルゴットが従者4人とで丘を越えその領内に入った途端、頭上に黒い影が大きかぶさり矢が放たれた。

 驚き乱れた馬を御してバルゴットが手綱を引いた時、抜き身の剣を目にも留まらぬ早さで繰りだす女が目の前に現れた。

 あっという間に手綱が切られバルゴットは姿勢を崩す。他の四人も頭や胴をすれ違い様に強打され瞬く間に鞍から地面に叩き落ちる。一瞬の出来事だった。

「……見事だ。そなたがアスタリエ・ディナーンか?私はバルゴットと申す」

 なんとか鞍を握って姿勢を正すとバルゴットは涼しい顔をして天馬に跨がる女に問うた。

 女は呆れた様子で肩をすくめた。

「なるほど。これではバルゴット殿が私に助力をこうのも頷けますわ」

 見た目通りの優美な声色だったが続く言葉は面食らうほど辛らつだった。

「軟弱なのは床の上だけではないのですね、この国の殿方は。まったく退屈の極みです。誰も私を満足させてはくださらない。あなたもそうなのですか?恋文をくださるくらいだから少しは期待してもよろしいの?」

「恋文……」

 あまりのいいようにバルゴットが絶句していると更に追い打ちをかけるようにアスタリエは小首をかしげた。

「貴方、私の敵になるか味方になるか決めてくださらない?敵ならここで斬って差し上げてよ。味方なら私を王に謁見させなさい」

 ともすれば少女のようにも見えるこの女のその傲慢な態度に思わず怯んだ。

 王との謁見は貴族階級でも幾日も前からの約束が必要である。ましてや得体の知れない女を合わせるつもりなどバルゴットにはなかったのだが。

(ここで否と応えればこの女はためらいなく私を殺すだろう)

 初めからこの女はバルゴットの事など歯牙にもかけていなかったのだ。ただ己が力をふるえば王に会うことなど容易いと確信している顔だ。

「どちらになさるの?」

 そう問う無邪気な声がバルゴットは恐ろしく感じた。


 一年後にはアスタリエはバルゴット直轄の騎馬隊を率いる騎士隊長に収まっていた。彼女が集めた天馬乗りは全部で4人。隊というにはあまりにも小さい。

 しかしたったそれだけの戦力でも空を飛ぶことができるというのは戦況に置ける要となることが出来たのだ。

 特にアスタリエは戦に出るたびに戦場で最も手強い敵の首を必ず持ち帰った。どんな相手であろうとも嬉々として単騎で敵地に飛び込む様は、羊の群れに襲いかかる凶暴な狼に例えられたほどだ。

 そしてまた、彼女は男を狩る手管にも長けていた。

 夜の宮廷では貴婦人に劣らず華やかに着飾り、気ままに殿方と手を取って軽やかに踊る。声を立てて笑い、誰憚ることなく物を言うその奔放な姿は、駆け引きとねちっこい誘惑を作法としていた貴族の女たちの顰蹙を大いに買った。

 「馬臭い田舎の女」「鞍に跨がるしか能のない野蛮人」「貴族のまねごとで男に媚びる魔女」

どれもアスタリエを見下そうとした罵詈雑言だったが、それでも多くの人間が彼女の魅力に取り付かれていったのは否定しようもない事実だった。

次回はキャラ増えます。

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