表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

灰色の塔の王都

荒ぶる炎のような緋色の髪を持ち隆々たるその拳で地の果てまでもその手に治めようとした男がいた。

 その名をジルエオン。赤毛と褐色の肌を持つ彼は一説には山の民フェールト人とも、海の民レテリア人とも伝えられている。

 数百年前に突如現れたこの男は、瞬く間にトラペス海を制し、トルバイスク草原を越えキサ湖の果ての遥か東方の千路の砂漠までその軍を進めた。

 彼は各地の王から娘を娶り、その血を混じり合わせ広大な国土を治めていく。信仰を強制せず、知識を与え、富と平和を約束した。

 砂漠のオアシス都市であるフェシカには彼の伝承が残っている。

 『王は言った。紺碧の都フェシカよ。葡萄はたわわに実り乙女は蝶のように艶やか。碧き瓦の神殿からは敬虔な祈りの聖歌が途絶えることはない。山羊は肥えその乳は民の肌をも潤す。そはこの世の楽園なれど、我が魂はなお東を求めん』

 征した都市にさえも惜しみない賞賛を送ると、なお未知の大地へと馬を進めたのだ。

 政は多く土地の豪族にゆだねられ、後にいくつもの都市国家に分かれることになる。

 その中でも最も古く、かつ王の威光を讃え敬ったのが現在のギルメ帝国の礎となった都市だった。

 現在のギルメの首都・灰色の塔のマキである。

 

 バルゴットが王城についた時、聖堂前の大時計が朝七つの時を告げた。王城の門からなだらかに下る道にはこの国の礎となった英雄たちの像が両脇に続いている。更にその裾野に広がる街にはいくつもの塔が曇天をつくようにそびえ立っていた。

 その中の一つがマキの街の時告げる大時計の塔だ。ごおうん、と低い響きでまだ朝靄の晴れない街を起こしている。

 いまごろ大聖堂の僧が朝の礼拝を終え、街はこれから人が活動を始める。かつては自分もあの聖堂で祈りを捧げる修行を行った。

 (もはやそれは30年も前の事になってしまった。時が経つのはなんと早い)

 なにも聖なる御堂で過ごした少年時代が懐かしかったのではない。若いというのは時に呆れるほど短絡なもので、塩気ばかりが強い聖堂の不味い食事が嫌で、腹一杯にごちそうにありつけると言う噂を聞き、バルゴットは約束された司祭の道を捨てて軍に入った。

 貴族階級の子息は長男でない限り土地を受け継ぐことはないのが通例である。敬虔な信仰心など持ち合わせていないどころか聖堂の教えのあら探しばかりしていたかつての自分は、人より出来が良いと言われる頭脳を生かして武功を立てる人生の方がはるかに向いていると思ったのである。

 実際、その判断は正しかった。30年前のギルメはクロカースとの東端リリシナ半島を巡って10年に及ぶの戦火がくすぶっていた。その戦況を打破するには是が非でも優秀な軍人が必要だったのだ。

 「おや、バルゴット殿。今日はいつにも増してお早い登城ですこと。王は昼までお出ましにならないでしょうに」

 「そなたこそ。昨日はどなたの部屋にお泊まりか?まさか王の寝所ではあるまいな」

 「そんな恐れ多い」

 お世辞にも上品とは言えない揶揄を、その女は瞳を細めて受け流す。見事な金の髪をけだるげに掻きあげ細い指を口に当ててあくびを噛み殺した。

 まったく猫のような女である。自由気ままに城の部屋を使い朝と夜が逆転した生活を送る美女。(いや、猫というのは穏やか過ぎる。この女はもっと野生に近い獣の性を持っている)

 優雅な弧を描く眉の下には人を魅了してやまない鮮やかな青い瞳がある。目の覚めるような色彩は、時として残酷な輝きを宿すのをバルゴットは知っていた。

 このアスタリエ・ディナーンが当代一の天馬の操り手として城にやってきたのはもう10年以上前になるが、そのときから彼女の容姿は変わっていない。いつまでたっても妙齢の貴婦人のようにみえるのだが、本当の年齢は誰も知る者はいないだろう。

 そしてまた戦場での彼女の青い瞳の爛々と輝く様を知る者もまた多くはいない。

 軽装の胸当てだけを身にまとい一角天馬で軽々と戦場を駆ける彼女は、その爪と牙を獲物に対してふるうことに喜びを見いだす野生の獅子によく似ている。

 

 

  

 

今回から第二部だったりします。全部で五部です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ