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黒い鉄

 その人は精悍な顔を引っさげて、何事もなかったかのように隼人たちの机の前に立っていた。

「宮殿からここまで迷ったんだろう?隼人。リステリカまで連れてきて、夜の街は危険だと思わなかったのか?」

 ユーアンは若干刺を含んだ質問を上げかけると隼人が答える前に隣のテーブルから空いた椅子を勝手に引き寄せて腰を下ろした。

「まあ、いい。こうして目的の人物たちに会えたんだ。元気そうだな、ウルネ」

「まったく、あんたって人は身一つで何処にでもいっちまう。おかげであたし等は居所を掴むのが一苦労だよ。ああ、逢えて嬉しい。これは本当だよ」

 そこまでいうと二人はにやりと視線を交わしてしっかりと握手をした。

「二人は知り合いなのか?」

 何を今更、といった表情でユーアンが机に肘をつく。見計らったように隼人たちの目の前に皮から油の滴る肉の串焼きと山盛りの胡麻パンが並べられ、勢揃いした所でみんなの手が一斉にそれらに伸ばされた。

***

 ひとしきり腹が満たされた所でウルネはユーアンに語り出した。

「この子たちがチンピラ連中に絡まれてるのを助けてやったのね。ほら、あたしって根っからの善人じゃない?それにー例の物も試しに使ってみたかったし」

「試し?使ったのか?」

「ああ、大丈夫。一発だけだよ。予想以上だったね。さすがサンルチンの技術は抜きん出てる」

「見せてみろ」

 言われてウルネは、はいよ、と無造作に机の上に先ほど不良を撃った銃を取り出した。

 密度の高い黒鉄のかたまり。銃身にあたる部分は拳銃より長く磨きの粗いそれは鈍く光り、グリップは滑らかな曲線に削られた木で出来ている。

「加工の技術が良いて言うよりもこれは弾の方が問題だ。針を刺して火薬に着火するからくりらしい。

あたしには詳しいことはサッパリだけど、着火も安定しているし、何より火薬がいい。威力があるしね」

「イフトの塩のおかげだな。火薬を作るのにはあれの調達はどの国も頭痛のタネだ」

 慣れた手つきでその鉄のかたまりと弾丸を受け取ると、ユーアンはさっさと懐のうちにしまう。

酒場の喧噪にまぎれて誰も気が付かないが、明らかにこれは武器の受け渡し。

 実物を見たことがない隼人といえどもぎょっとしてつい口を挟んだ。

「今の銃だよな」

 その言葉と同時にユーアンとウルネが隼人を振り返った。

「おまえ、これが銃だと分かるのか?異世界にも銃があるのか?」

 思い切り隼人に食い付いたのはユーアンだ。今までで一番真剣な表情で矢継ぎ早に質問する。

「いや。あることはあるけど。俺は本物は見たことも触ったこともない。普通の日本人は一生縁のない物なんだ。

……ていうか、こっちの世界に銃があることの方が驚きだな」

 迫るユーアンに隼人は慌てていい訳をする。すると心底残念そうな表情でユーアンは首を振った。

 ありがたいことに、その様子を面白そうに見ていたウルネが隼人に説明を始めた。

「好事家の間でしか出回っていないただの玩具みたいなものさ。基本的には音を出して害獣を追い払うものだけど最近は武器として一部の国が使い出してる。

そう、ギルメとかがね。あの国は戦争が大好きなんだから仕方ない」

 うんざりした様子でウルネが肩をすくめる。

 その帝国の名前に隣で大人しくしていたリステリカが強いまなざしを向けた。

「この銃を作ったサンルチンもギルメに侵略された小国の一つだ。下手に製鉄技術があるとあの様だ。哀れなものだな」

 不快そうに眉を寄せたユーアンは大きく香草酒を煽った。

「この国では使ってないってことなのか?」

 素朴な疑問を感じて隼人は首を訊ねる。

「作る技術はあるはずだがこの国はそういうことには疎くてな。だが俺は違う」

 真剣そのもののまなざしでユーアンは語る。怖い皇子様だねえ、とわざとらしくウルネが皮肉った。

「……ギルメはその武器を私の国でも使ったわ」

 ぽつりと呟かれた言葉は、しかし硬い感情に覆われていた。

 あのとき、確かにグラスレイルの城の中で火薬の匂いを嗅いだ。そして王の傷はあれは銃創ではなかったか?

 山奥にある小国が火器を持った兵士に襲われればあらがうすべはない。クルイルの誘拐だけですんだことの方がむしろ幸運だったようにすら思えてくる。

 奥歯を噛み締めたリステリカにユーアンは静かな声で告げた。

「このままギルメの横行を許せば、君の国もサンルチンの二の舞になるかもしれない。なぜならグラスレイルには……天馬がいるのだから」


次回、敵方?

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