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造作ない悪意

「ねえ、あとどれくらいなの?」

「すぐそこだよ」

 前を行く青年は気楽に答える。

 先ほどの大通りの端まで案内されると更に脇道に入る。灯りの漏れる通りを背後にリステリカの足下には自分自身の影が薄く伸びていた。

 人々のざわめきから遠のくにつれて夜はいよいよは濃い。

「歩かせちゃって悪いね。でもいい奴だから安心しな」

 しきりに振り向きながら声をかけてくるので会話が途切れることはない。

 しかし両脇に迫る建物に圧迫感を感じる。ここで何かあれば左右には逃げることは不可能だ。

 煙草と酒の匂いだろうか、淀んだ空気に混じって微かな異臭が鼻をかすめる。壁の向こうから聞こえる人の声。宿屋の裏手らしく小汚い残飯置き場から眼をそらして先に進んだ。

「本当にこの先?なんだか人がいそうじゃないわ」

「大丈夫だよ」

 振り返らずに先ほどと同じ調子で返答する青年。

 進めば進むほど人気のない細道に入り込んでいるのに不穏なものを感じてリステリカはのろのろと歩みを緩めた。

 明らかにおかしい。

「お友達はどこにいるの?私、これ以上は……」

 唾を飲み込んでその場で立ち止まると青年はおもむろに振り返る。満面の笑みだった。

「ああ?友人なら、ほら。君の後ろに」

 顎で示されてリステリカは素早く振り返った。

 建物の裏口から若い男が三人。一様に姿勢が悪く薄ら笑いを浮かべている。

 引き返そうとしたリステリカの前を男たちは無言で塞いだ。

「どきなさい」

 一番背の高い男をリステリカは睨みつける。後ろで案内をしてきた青年が口笛を吹いた。

「見かけによらず気が強いんだ。いいな」

「嘘をついたのね」

「黒髪黒目の男なんてこの街には掃いて捨てるほどいる。もちろん毎日見かけてるさ。なあ?」

 青年が仲間に一声かけると一斉に卑下た笑いがおきた。

「戻ります。こんなことしてる暇はないの。ここを退きなさい」

「もちろん戻してやる。明日の朝になあ。それまでちょっと楽しく過ごそうぜ」

 そういって男の一人がその金色の髪に触れる瞬間、リステリカの右手が閃いた。

 鋭い白刃が空を切り、伸ばした男の手のひらに赤い筋が走る。

「この女、武器を持ってるぞ!」

 男たちが一気に殺気立つのが手に取るように分かった。しかしここで引くわけにはいかない。

 これは自分の不注意が招いた危機。都人はみな豊かで幸せな生活を営んでいると常々聞かされていたから、なんとなく皆良い人たちなのだと無意識に思っていたのかもしれない。

 あるいは初めての夜の街の雰囲気にすっかりのぼせていたからかもしれない。

 リステリカは悔しさに唇を噛んだ。

 囲んでいるのは四人。あまり体術には自信がないが護身の稽古は受けている。

 腰を屈めて相手の脇をかいくぐろうと小刀を素早く突き出した。しかし次の瞬間リステリカは物凄い力で手首を掴まれあっという間に地面に引き倒される。

 力任せに握られ手首の腱が圧迫されると短い悲鳴とともに手から小刀が落ちた。

「もうおしまいか?もっと楽しませてくれよ。つまらないじゃないか」

 力の差は圧倒的でリステリカは男相手に切り抜けられるという自分の過信を認めざるをえない。

 青年が髪を引っ張って無理矢理顔を上げさせるが、リステリカは力の限り顔を背けた。

 なんて汚らわしい男。自分が相手より圧倒的に優位だと誇示することに酔った男。

 あまりの屈辱に歯を食いしばってもうっすら涙がにじんできたのが分かった。

 泣きたくなどない。絶対に屈しない。

「まったく。まだ状況が分かってないらしい。おい、この田舎娘に分からせやれよ」

 一人の男が引き倒され仰向けになったリステリカの服に手をのばした。その時。

「その女から離れろ」

 

次回、新キャラ?

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