「彼を自由にしてあげて下さい!」勘違い令嬢が来たので、悪役令嬢をしてみたら。
よろしければ完結済みの連載もあります。
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王宮騎士警備課リルダ『わぁあ!今日も修羅場!?』~令嬢たちの理不尽な出来事をきっちり警備します!私の婚約者が、世界を滅ぼしたループ2回目のヤンデレ魔王だとは夢にも思ってませんが~
宜しくお願い致します!
ここは帝国内では有数の学園である。
貴族達が多く通うが、優秀な者であれば身分に囚われず平民も在籍する学園だ。
爽やかな風がそよそよと吹き、若葉が青々としてきたそんな季節である。
時は放課後。場所は最上級学年の教室。
皆、帰り支度をしたりとざわついていた。
教室の丁度中央の席に見事なプラチナブランドの髪の毛に、透けるような滑らかな白い肌。
優しげな表情でエメラルドグリーンの瞳が麗しき令嬢、サリアナ・ソルティアナがいる。
ソルティアナ伯爵家の令嬢である。
学園を卒業した後は、ワスタル伯爵家の令息と結婚予定だ。
鞄の中に教科書を入れていく。茶色の表紙の帝国の歴史書、魔法書等を。
「ごきげんよう、サリアナ様。」
「ごきげんよう。」
「明日はお休みですわね。」
「ええ、…でも課題がたくさんありますから大変ですわ。」
「そうですわね…。それに平行して式の段取りもしなくてはね…。」
「フフッ。大変ですが、楽しみでもありますわよね。」
同じく学園を卒業後、結婚をする令嬢と、忙しない日常の中で、2人で穏やかにフフッと笑い合うのであった。
穏やかな時を過ごしていた、そんな時であった。
ガラガラガラ…バシンッッ
穏やかな時を切り裂くかのように、物凄い音で扉を開ける音がした、と同時にカツカツカツと足早にサリアナの方に向かってくる。
教室に残っていた数名の生徒が皆、扉の音に反応し注目する。
その正体が下級生だとわかると、皆冷たい視線を浴びせ始めた。
そんな事はお構いなしに、えんじ色のネクタイをした栗色の髪に同じ色の瞳。
栗色の髪には短い藁がついている。
赤いリボンを着けた令嬢が、教室の扉を開けるや否や、サリアナに気がつくとロックオンしサリアナに目がけて突進してきた。
サリアナの前まで来たかと思うと、机を両手でバシンと叩き、そのまま激しい勢いで、身を乗り出す。
あまりの出来事に、サリアナのエメラルドグリーンの瞳が一瞬揺れたが、頭の中でこの突飛な出来事を瞬時に整理し、相手に向き直った。
(えんじ色のネクタイ…。1年生だわ)
一瞬で相手の隅から隅までを観察する。
1年生が単身4年生の教室に乗り込んできたのだ。
不躾にジロジロとサリアナを値踏みするかのような視線を投げ掛けてきた。
「なっ、貴方。なんですか!?突然失礼ですわよ。」
サリアナの隣にいた令嬢のミリアが思わずたしなめた。
しかし、1年生の女生徒はその声に怯むことなく、サリアナを睨み付け大きな声を発する。
「彼を…!彼を自由にしてあげて下さい!」
見ず知らずの女生徒に威圧的に懇願される。
「何をっ!突然…。」
ミリアが女生徒の不躾な態度に反射的に声をあげ怒りの色を滲ませた。
見ず知らずの下級生が、突然挨拶もなく大声で
訳のわからない事を言ってくるのだ。
当然の反応であろう。
サリアナはミリアの前方に片手をソッと差し出し、軽く頷いた。
(フム…またとんでもない面倒事が来たようね。)
やれやれ…という風に一呼吸おいた。
一方的に来て、自分の主張をする、相手の事などお構いなしだ。
そう来るならば、こちらもこちらの考えで茶番に付き合おうとしましょう。
少しばかり興が乗り悪のりしてしまい、このか弱く可愛らしい女生徒を余分に傷つけてしまった…としても仕方のない事。
日々の忙しい貴重な時間を割くのだ、それ位は構わないだろう。
あの方の身から出た錆。そろそろ色々と自覚して欲しいものである。
(そうだ、最近愛読している物語の『悪役令嬢』風に接してみるのはどうかしら!?)
(さながら隣に居合わせたミリア様は『悪役令嬢の取り巻き』というところかしらね。)
自分の方向性が決まったところで、サリアナはゴソゴソと鞄の中にある家紋入りの扇子を取り出し、その扇子を少しばかりわざとらしく大きな音を立て広げると口許に持っていく。
視線を下ろし正面のか弱き、小鹿のような彼女を見た。
(右も左もわからない一般的な作法もわかってもいない令嬢を打ちのめすのは可哀想かしらね。)
けれども、いくら在学中で、身分の差は関係なく平等といえども、先輩後輩の上下関係は存在するのだ。
教室に残っているクラスメートの視線が殺気立っている。
「一つ確認しておきたいのですが、『彼』とはどなたの事でかしら。」
「なっっ!!と、とぼけないで下さい!シートン先輩、シートン・ワスタル先輩の事に決まっているじゃないですか!?」
それを聞いた途端に、サリアナの隣にいたミリナがこの状況を察し、ゴソゴソと鞄の中の扇子を取り出し、それをおもむろに口に持っていった。
…ミリナもノリノリである。
最上級生の証の緑色ネクタイと、家紋入りの扇子で小鹿に立ちはだかった。
(こんな絵図、物語の挿し絵にあったような…。)
愛読書と同じ構図が取れたことに心の奥で感動する。
因みに、ミリナも同じ本を愛読中だ。
しかし、こんな意地悪そうな上級生に睨まれたら、普通は怖じけずくものなのだけれどね。
けれど、浅はかで考え足らず、思い切りだけはある下級生の勢いは止まらなかった。
4年前は自分もそうだったかしら……そんな訳ないわね。
頭の中でボンヤリと考えていると、興奮した甲高い声で「もっと、シートン先輩を自由にさせてあげてはどうですか?」
「と、言うと?」聞き返すと同時に、サリアナの扇子を持っていた指に嵌めていたルビーの指輪が光った。
怪訝な表情を少しも隠さずに、眉毛をひくつかせながら「シートン先輩は貴方に縛られて可哀想です!…、それと!そんな高価そうな指輪っ!学園に持ってきてはいけないんじゃないんてすか?」
サリアナの指輪を指差す。
それを見た隣のミリナもわざとらしく指輪をチラッとかざした。
口許を扇子で隠しながらくすっと笑う。
「何がおかしいんですか?馬鹿にしてます?先生に言いますよ!」
「あら、失敬。えっと貴方お名前は?」
「えっ!?私の名前はエリン。エリン・タースリーですけどっ。ていうか、そんな事はどうでもいいんですよ!その指輪!先生に言いますよ!」
(小鹿のエリンさんね…。)
「エリンさん、そうですわね。原則的にはアクセサリーは身につけたらいけなかったのですわね。」
そうだろうと言わんばかりにエリンは、胸を張り頷く。
「しかしながら…。これは、婚約指輪ですの。婚約指輪などは例外的に認められている筈ですわよ。1年生は、正式に婚約している方は少ないのかしらね。」
あらあらと言うように頬に手を持っていく。すると余分にサリアナのルビーの指輪が煌めくのだ、わざとらしく。
ミリナも眉尻を下げ意地悪くフフフと笑っている。勿論、自分の婚約指輪をキラキラさせながら。
ミリナも最近は学業と結婚式の準備で忙しく心が少し荒んでいるようだ。
あまりにも意地悪く笑っているものだから、正に『悪役令嬢の取り巻き』そのものに見えた。
「このルビーの指輪はワスタル家で先祖代々引き継がれている家紋入りの指輪ですの。」さっと、手をかざすと指輪がキラリと煌めいた。
「えっ、」と小さく短く驚くとエリンの顔色がさっと、青ざめた。
下をうつむき、唇がワナワナと震えている。
「いや、そんなっ…。、おかしいわっ。まだ、正式な婚約はしてない筈よ…。で、でもっ!シートン先輩は私の事、可愛いって言ってくれました!この前も2人で過ごしていた時に、もっとここに居たいとも!」
サリアナは軽くため息をついた後、カツカツと学校指定のローファーを無理にでも出来るだけ大きく音を立てながら、エリンとの間に隔たれていた机を周り、エリンの傍へと歩み寄った。
勿論、『悪役令嬢の取り巻き』ミリナも取り巻きらしく冷たい視線を放ちながら、後ろをついて行く。
ノリノリだ…。
エリンの傍に行くと頭についていた藁を、そっと取った。
「これは、ペガサス舎の藁ですわね。」
学園の美化委員がペガサス舎を、掃除している。
「エリン様も、美化委員なのですわね。そこでシートン様と出会ったと言うことですのよね。もしかして、お二人がお会いしている場所は、ペガサス舎ではなくって?」
「なっっ!そ、そうです、そうですけど!そんな事は関係ないことですよね!そんな事よりも」サリアナをキッッと睨み付ける。
「もう!!これ以上彼を縛り付けないで!」大きな声だ。顔が紅潮し肩も怒りでワナワナと震えている。
「私と先輩はそんな『家』での繋がりではなく2人の『愛』で繋がってるんです!先輩が可哀想です。」
「それは、つまりお二人にの間には、最近流行りの読み物等にある『真実の愛』があるという事ですかね。」
『真実の愛』読み物としてはサリアナも好きなワードだ。そんな物語を語る上で『悪役令嬢』という存在は必須だし。
やはりここは、悪役令嬢になりきって嫌みたっぷりに伝えてみようか…。
でないと、周りの血の気の多い令嬢が今にも下級生であるエリンに上級生として「指導」をしそうなのだ。
クラスメートの令嬢は騎士家系の家門の令嬢で、本人も騎士として日々学んでおり騎士道の精神の持ち主だ。
さばさばした性格で、気さくな令嬢であるが、それとは反面に、先輩後輩の上下関係に関する考えは他者より厳しく強く持っている。
もし、令嬢からの『指導』が入ると、とても大変なことになる。令嬢の目の奥がギラギラとしている。
まるで小動物を、今にも狩ろうとする獣だ。
今の段階では、それは小鹿にはちょっと可哀想な気もする。
それと、もう少し『悪役令嬢』役をしたいような気もするのだ。
忙しいというのに足止めをされた代償ということで。
「フフフッ。たかが美化委員での清掃中での出来事を、さも恋人同士の事のように言うなんてね。シートン様は、果たしてエリン様と同じお気持ちかしらね?」
流し目で嫌みたっぷりに…言えた…かしら?
ミリア様も「ねぇ~、その通りですわ。」だが何だか嫌みたっぷりに相槌を打っている。
「貴方は…貴方は何て何て嫌みな人なんですか!?私とシートン先輩の仲をそんな風に言意地悪く言うだなんて!羨ましいからってそんな言いがかり!」
(悪役令嬢らしい『嫌み』は、通じたようね。では、そろそろ畳み掛けると致しましょう。)
口許を隠していた扇子を閉じ、コホンと咳払いした後、とどめの言葉を発しようとしたその時であった。
ガラガラガラ…。
背がスラッと高く銀髪の男子生徒が、スタスタとサリアナの隣の自分の席に、歩いてきた。
美しい銀髪には数本藁がついていた。
シートンだ。
シートンを見るや否や、エリンはパッと顔を赤らめササッと身なりを整えた。
シートンの席は、サリアナの斜め前である。
自分の机に向かって歩いていたが、何かに気がついたようで、サリアナの顔をじっと見た。
♢
「あれっ義姉さん、まだ学園に残ってたの?」
オーマイガッ!その一言でTHE・End。
それは、わたくしが言いたかったですわーー。
この茶番『悪役令嬢とその取り巻きが、か弱きヒロインをいじめるの図』も、もうお終いだ。
はい、お開きです。閉店ガラガラ…、
ヒーローの登場の間の悪い事だこと。
わたくしと、ミリア様はすごすごと元いた場所に戻り扇子をしまった。
……不完全燃焼である。
チラリと前方の小鹿を見ると、先程の一言で大分と打撃をうけているようだ…うん、そうですわよね…
ずっとわたくしの事を、シートン様の家が勝手に決めた2人の愛を邪魔する邪魔な婚約者だと勘違いなさってましたものね。
それが義姉だなんてね。びっくりでしょ?
仕切り直しである。
ゴホンと、大きめに咳払いをした。
「誰のせいで、残っていたとお思いですの!?」
「シートン様、貴方のせいですよ!こちらの前にいるこじ…いえコホン、エリンさんが突然この教室に押し掛けてきまして『シートン先輩を自由にしてあげて下さい!』とね、押し迫られましたの。」
「フフフッ、わたくしの事をシートン様の婚約者だと勘違いしたみたいですわ。」
わたくしは相手に相槌を入れさせないように、冷たい口調で矢継ぎ早に話した。
まだ、『悪役令嬢役』の癖が残っている。
シートンが突然来たものだから、『悪役令嬢』も突然打ちきりになり、不完全燃焼の状態なのだ。
シートンのアメシストのような紫色の大きな目が、更に大きくなった。
「え、何っ。ちょ、ちょっと待って。」
たくさんの事を一度に言われ受け止めきれないようだ。
「えっと、、俺が何、義姉さんと恋人?婚約者でって…。そんな事、冗談でも兄上の耳に入ったらぶっ飛ばされてしまうよ。」
「で、えっと…。」
シートンが、顎に手をやり、エリンに近寄って行き、エリンを穴が開きそうな位、じっと見つめ出した。
その間に、みるみるとエリンの頬が…、手が…、林檎のように真っ赤に色づく。
サリアナは、思わず手を伸ばし2人の間を遮った。
「シートン様!そういうところですわよ!」
何でも自分の思ったように行動してしまう困った義弟だ。
そうやって、委員会の仕事でペガサス舎を掃除している時も、距離感を大分と間違えて接したのであろう。
自分の性別、立場、…後、その端正な顔立ち、だと言うことをしっかり自覚して接して欲しい。
「あ、ごめん…、えっと…、うん、?この子は。あーッと。このポニーような綺麗な髪の毛は、もしかして同じ美化委員の子かな?えんじ色のネクタイの子とはそれ位しか関わらないからね。」
自分の事をあまり認識してないであろう目の前の男子生徒を、先程まで『真実の愛』の相手であると豪語し、更には憎き婚約者だと思っていた女生徒の教室。
よりによって最上級生の教室に乗り込んでしまった。
エリンの顔色は赤くなったり青くなったり……白くなったり……。
後ずさり、そのまま消え去ってしまいそう…、
と、…。それは、許されなかった。トントンとサバサバ騎士女子に肩を叩かれる。
エリンはこってりと『指導』をされた。
先ずは誠意を持ってサリアナに謝罪すること!
言葉遣いもなってない!
変な考えを持たないように身体も鍛えねば…!
エリンはその後、数ヶ月間もの間、騎士女子と走り込みをしていた。
♢
シートンはサリアナに「悪役令嬢の続きです、」と宣言され、厳しく今回の事含め叱責された。
このような事があったのは、実はエリン含めると3人目であった。
皆、美化委員の1年生。
まぁ…、他のお二人は、あんなに突飛な感じでなく、きちんと挨拶した後に控えめに聞いてきましたけどね。
色々な、事情を知らない中、美形の先輩と例え委員会の仕事ととはいえ、2人きりになり、((注)ペガサスいます。)距離感バグッて近寄られ、美しいと言われると((注)シートンはペガサスに言っているのだが。)勘違いし、思い上がるのも無理もないのだ。
本当にシートンには深く反省して欲しい。
ペガサスがとても好きだとしても。
それが、シートンの婚約者と初めて出会った時に、ペガサスに乗る婚約者に一目惚れしたきっかけだとしても。(注)正式な婚約はまだ交わしていない。)
かくして、シートンは深く反省した。
自分の目に入ってない事でも細心の注意を心がけた。
特に異性とは2人きりにならない!
距離を保つこと!肝に銘じ実践していたようだ。
その後は、わたくしの所にシートン様絡みの令嬢は一人も来なかったから。
わたくしはと言うと…。
人生で最初で最後の『悪役令嬢』を演じることが出来た。
あれから季節は一巡し、若葉が青々として来た頃。
わたくしは、あの一度きりの『悪役令嬢』をそっと胸の奥にしまい、シートン様と同じアメシスト色の瞳の夫の傍らで穏やかに過ごしている。
(終わり)
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