あの木の下で
図書室から部屋に戻って軽めに昼食を済ませた。
今日も天気が良く、暖かな午後の日差しが柔らかく部屋に差し込んでいた。
窓枠にもたれて、ふと窓の外を見遣った。庭の芝も気持ちよさそうに日光を浴びている。そよ風が草花や木々を揺らす。
丘の上の木も風にそよいでいる。その木の下に人影が見えて、目を凝らす。
木の下へと歩いてきた人物は、この屋敷の主人であった。
これまで会った時より楽な服装で、本を片手に腰を下ろす。今までとは違う主人の一面を見たようで、何となく気になってしまい目が離せない。
主人は仕事の合間に木の下で、こうして本を読むことが息抜きになっているのかもしれない。
自分もあの木の下へ行ってみたくなり、部屋を飛び出し庭へと出ていった。
庭では使用人たちがバラの手入れをしていた。きれいな花を咲かせるために手厚く世話をしているのであった。
はじめてバラ園を見た時から気になっていた場所であったので、使用人たちに話しかけてみた。そうして話しているうちに、このバラは屋敷の主人本人が植えたもので、自ら手入れもしていると聞いた。
主人の見た目ではそんな風に見えなかったので、ますます意外な一面を知り驚いた。
当初の目的であった丘の木の下へ行くことを思い出し、また広い庭を突き進む。
ようやく丘へと到着し、木の下へと向かう。
そこに座っているはずの人影はなく、一足遅かったかと気落ちしそうになったが、更に進むと主人は木の下に仰向けに寝ころんで昼寝をしていた。その油断した姿をもっと近くで見たくなり、隣へと行って腰を下ろす。
隣を覗き込めば、主人は顔に被せた本で日差しを遮り、気持ちよさそうに寝息を立てていた。
丘の上から見える広大な領地を治める領主さまも、春の心地よさには抗えないのだと思うと、何だか可愛らしい。
主人を起こさないようにそっと立ち上がり、周囲を少し散策してみた。そろそろ屋敷の中へと戻ろうかと思った時、ふと視線を感じて振り返る。まだ寝起きで気怠さは残っているものの、澄んだ瞳が確かにこちらを見つめていた。
少し気まずくなって笑みを作って取り繕う。すると主人は優しく微笑み返した。木洩れ日に笑顔が溶けあう。何だかほんの数秒、時が止まったような気がした。
「ごめんなさい、起こしてしまいましたね。」わたしが慌てて謝ると、主人は「そんなことはありません。ちょうど起きる頃合いだったので。」と言った。
丁度よいので、一緒に屋敷へと歩くことにした。
「この丘はとても気持ちが良いですね。」そうわたしが伝えると、「子供の頃からここがお気に入りの場所でした。」と主人は話してくれた。
でもそう話した後、何かを思い出したように少し悲しい顔をした気がした。
それが何となく引っ掛かりはしたものの、そうこうしている間に屋敷に着いていた。
中へ入って、別れ際に夕食を共にする約束を交わした。部屋で少し休んだ後、支度をすることにしよう。




