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浮気監視! 獣化潜入調査!

作者: henka

「はぁ……はぁ……」

 体の体温が上がっていく。私はこれからボタンインコに変身するのだ。体がとろけてしまうほど熱くなってくると、腕から緑色の毛が生えた。

「アツい……」

 腕に生えた毛はいくつかまとまり、羽へと形を変える。体の肉が羽へと変換されていっているようだ。肩から指先にかけて同様の変化が起きると、私は〝手に持つ〟という行為ができなくなった。両腕を広げると翼が開く。肩から先の腕が無い感覚というのに違和感がある。しかし、羽を扇ぐと風が起こり、確かに空を飛べそうだと思った。

「はぁはぁはぁ……」

 体の変化に合わせて、息が荒くなる。両足の指が固く細長くなり、一本の指が本来ある指と反対方向に向く。これで足を使って、枝に掴まることができるのだろう。足の指で物を掴めるようになったというのは不思議な感じだ。


「ヴヴヴ……」

 お尻の先に違和感を感じると、すごい勢いで羽が重なり合いながらしっぽが生えた。下半身が緑色の毛で覆われると、太ももがやたら太くなり、同時に膝から下が細く固くなる。肩から先が羽、下半身が鳥の姿。今の状態はまるでハーピーみたいだ。

「ウグァァァ……」

 しかし、体の変化はまだ続く。体が全体的に縮み始める。髪の毛が短くなり、オレンジ色に変化する。口がドンドン前に突き出し、皮膚と歯が融合し始め、赤くて固いクチバシになる。顔全体にオレンジ色の毛が生えてくる。耳が縮んで目が左右に離れる。自慢のムネが萎んでいき、緑色の毛で覆われる。少しずつ少しずつ体が縮んでいき、ヒトの大きさから小鳥の大きさに近付いていく。

「ピィィィー……」

 声帯が変化し、しゃべろうとすると、鳥の鳴き声が出る。変身は苦しみを伴うものだと初めて知った。体全体がまるっこくなり、肩の羽が背中に収まるように変化すると、私はヒトからボタンインコに変身し終えた。



「お疲れさまー、体の熱が抜けるまでしばらく休んで」

 同じ大学の友人の愛子が小さくなった私に言った。

「ピィー」

 私はわかったと言いたかったが、鳴き声しか出なかった。

「ヒトの声を出すには少し発声練習しなくちゃね。それと、空を飛ぶ練習もしなくちゃ。飛べないと踏まれちゃうわ」

 愛子がそう言って、私の頭を大きな指で撫でた。何だかくすぐったかった。

 私が何故、ボタンインコに変身したのか? すべては彼氏が浮気をしないか監視するためだ。話は数日前に遡る――



 私は同棲している彼氏とマンションの部屋でグダグダとおしゃべりしていた。

「あ、そうだ、美和子。申し訳ないんだけど、今度、友達の合コンに、頭数合わせるために出ることになったんだ」

「えぇっ! 合コン! ダメよ! 断って」

「いやー、断りたいんだけど、いろいろ借りがあるからできないんだよ……すまん、今回だけ許してくれ!」

「……それ、私も一緒に行っていい?」

「え、美和子も……いや、それは無理と思う。女の子は俺の友達が集めるって言ってたし。そこに美和子がいたら変だろ」

「変じゃないっ! だって、知らない女の子達と飲むんでしょ。そんなの嫌よ!」

「嫌って言われてもなぁ……」

 私はこの時、彼氏は私から離れたいんじゃないかと感じてしまった。私がどんなにその合コンに行きたいと言っても頑なに断わられた。いつもだったら、私の要望は何でも呑んでくれるはずなのに……私は何とかして彼氏の合コン現場に潜りこもうと考えた。



「愛子ー。どうしよう。私、変装とかしたこと無いよ」

「美和子……会って早々、何の話?」

「いやー、彼氏が友達の合コンに行くんだって」

「へぇー、珍しいこともあるのね、美和子が彼氏の合コンを許すなんて」

「許して無いわよ! でも、彼氏はどうしても参加しないといけないって……」

「あー、それで変装して現場に潜り込むとか?」

「そうそう」

「……。相当好きなんだねー。美和子とつるんでもう十年にもなるけど、彼氏に焼いちゃいそう」

「何かいい方法無いかなぁ。彼氏が浮気しないか心配で心配で……」

「〝変装〟じゃなくて、〝変身〟っていうのはどうかしら?」

「変身……? どういう意味?」

「変装だったら、美和子ってバレるかもしれないけど、何かの動物に変身していたら、絶対バレないと思うわ」

「動物に変身? そんなことできないよ」

「やる気はあるみたいね。それじゃあ、私に任せなさい」

「?」

 何でも、愛子が働いているバイト先は人間が動物に変身できる店なんだとか。私は半信半疑ながら、愛子の持ってきた飲み物を飲んでみた。すると……本当に動物に変身してしまったのだ。何の動物が好きかと聞かれていたので、ボタンインコと答えたら、それの変身薬を持ってきてくれた。


「さぁ、しゃべれるようにも、飛べるようにもなったわね。そろそろ合コンの現場に行こうかしら」

「ウン。アリガトウ、愛子」

 私は愛子の肩に乗る。彼氏の合コンが行われている場所はもう調べがついている。愛子はその店に潜入してくれるのだ。私達は現場へと向かった。

 

「あ、いたいた。あの集団ね。えーっと……近くのカウンター席に座りましょう」

「ウン……」

 鳥の目で彼氏を確認した。何だか楽しそうな顔だった。

 愛子には彼氏達のやる合コンの近くに席を取ってもらい、のんびりとくつろいでもらう。私はそんな愛子の肩から彼氏の方を見て、浮気行為をしないか監視するのだ。


「さぁ、合コン、楽しくいっちゃいましょー!」

 彼氏の友達が指揮を取って、合コンが始まった。相手の女の子のメンバーを見る。悔しいけど、なかなか可愛い子が多かった。合コンは自己紹介から始まる。私は、私がいない場所で彼氏が何て言うのか興味があった。彼氏は照れながら自己紹介をする。しかし、その自己紹介の中で、彼女がいるとは一言も言わなかった。

「私、彼女ナノニ……」

「こらこら、美和子。普通、合コンの自己紹介で恋人いるって言わないから」

 彼氏の言動を監視し、ショックなことがあったら、小声で愛子に慰めてもらう。彼氏は楽しそうだった。

「美和子は何か食べないの?」

「イラナイ。食ベル気ガシナイ」

「そう? ならいいけど」

 確かに少しお腹が空いていた。しかし、今は空腹より、彼氏を監視することの方が重要だった。


「それじゃあ、ポッキーゲームを始めましょうか! えーっと、今向かい合っている子同士で順番にお願いします」

 彼氏のところは今までにないくらい盛り上がり始めた。順番と言っていたので彼氏もポッキーゲームを目の前にいた女の子と始める。

「アワワワワ」

「こらこら、落ち着きなさい、美和子」

 彼氏と女の子が口に銜えたポッキーを少しずつ食べていく。唇と唇が近付いていく。私はその光景を見ていてドキドキしていた。キスしませんようにキスしませんようにキスしませんように……

「ダメェェェェェ――!!」

 ポッキーゲームを見ていた私は我慢できなくなり、彼氏の方に飛んでいった。

「あちゃー、美和子……」

 私は空中からポッキーを銜え、そのまま彼氏の頭に乗る。

「うわっ! 何だこの鳥!」

 頭に血が上った私はクチバシで彼氏の頭を突きまくった。

「イテテ、何だよもう。あれ? このインコ何だか美和子に似ているような」

「!」

 突くのに夢中になっていた私は彼氏に捕まった。

「イテッ、何だよあの鳥」

 私は彼氏の手を突いて放されると愛子の方に飛んでいった。

「愛子、帰ロウ」

「あれ? いいの?」

「ウン」

 彼氏は鳥になった私に気付いてくれた。それが何だか嬉しくて、浮気は大丈夫だと思ったのだ。

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