第07話 青年と少女の出会いの話3 穿つ雷光
ユリアは穏やかな寝息を立て、深く眠りについていた。「疲れる話をさせてしまったか」と、レリュートは自嘲気味に呟き、そっと毛布をユリアの肩にかける。しかし、レリュートの意識は寸分も緩まない。研ぎ澄まされた五感が、周囲の微細な変化を捉え続けていた。やがて、崖下の暗闇から、およそ十人の武装した集団がまるで影のように音もなく忍び寄ってくるのを察知した。
レリュートは崖下の暗闇に目を凝らし、低い声で呟いた。
「――そろそろ来るとは思っていたが……さっきの連中の仲間か?」
崖上から彼らの動向を窺う。まだこちらの存在には気づいていないようだったが、時間の問題だった。レリュートは迷いなくユリアの肩を揺する。
「ぐっすり寝ている暇はなくなったようだ。すまないが、目を覚ましてくれ」
急な揺さぶりにユリアはまだ意識が朦朧としているようだったが、困惑しつつも必死に覚醒しようと努めていた。
「……あれ? 私、いつの間に眠ってたの?」
「どうやら誘拐犯の追跡部隊が到着したらしい。このまま逃げ切るのは難しいだろう。予定外だが、ここで迎え撃つ」
レリュートは腰の剣を右手で抜き放つと、左手でユリアの手を取って立ち上がらせた。長衣の懐から鞘に収まった短剣を取り出し、ユリアに差し出す。
「君に戦わせる気はないが、素手では心許ないだろう。持っておけ」
ユリアは怯えを隠せない表情だったが、レリュートから受け取った短剣を震える手で構えた。その表情には、確かな決意が宿っている。
その頃、青を基調としたローブを纏った男たちの集団が、静かにレリュートたちに歩み寄っていた。
「その娘を渡してもらおうか、傭兵」
彼らは十字の紋章が入った短剣を突きつけ、レリュートたちを半円状に包囲した。
レリュートは肩をすくめ、嘲るように口を開く。
「断る。その気取った青い十字の紋章入りの長衣から察するに、蒼清教会の人間か?なるほど、確かにあんたらならアルメキアの王位など眼中にはないだろうな?」
軽口を叩きながらも、レリュートの視線は、中心の男の挙動を寸分違わず捉えていた。
「貴様には関係ないことだ」
ローブの男が呟くと同時に、影が伸びるが如き素早い動作で短剣を抜き放ち、有無を言わさずレリュートの胸を突き貫こうと迫る。レリュートの持つ『黒の雷輝』が青白い雷光を放ち、男の短剣をいなすように受け流し、鋼のぶつかる音が響く。その刹那、レリュートの剣が残像を残すほどの速さで閃き、間髪入れずに男の胴に狙いを定めた。
ローブの男は辛うじて短剣を割り込ませ、直撃だけは避けたものの、剣閃に込められた凄まじい魔力エネルギーの衝撃に耐えきれず、宙を舞い、地面を数度転がった。
「……なっ!」
男が体勢を立て直し、辛うじて着地したその瞬間、レリュートはすでに目の前にいた。まるで瞬間移動したかのような速さで距離を詰め、輝く剣先を男の喉元に突きつける。
「そう急かすな。こちらも色々聞きたいことがある。そんな簡単に死なれても困る」
後方から、男の仲間たちがレリュート目掛けて火の魔法を放つ。迫りくる炎の弾丸を、レリュートは軽々と一足飛びで回避した。火の魔法が着弾した地面から、熱気と焦げ付く匂いが爆発的にまき散らされた。
「おいおい、森で火属性の魔法なんて使ったら、山火事になるだろう?自然愛護の精神はどこへ捨ててきた?」
レリュートは空中で体勢を立て直し、剣に魔力を集中させる。
「極光よ、全てを貫く閃光の剣となりて、魔を貫け!―――閃衝光剣!」
魔力で眩い光を放つ剣が一閃されると、純粋な魔力で形成された光の刃が、一条の光となって襲撃者たちに殺到した。狙われたローブの男たちの数人が、悲鳴を上げる間もなくこの光の斬撃に巻き込まれ、文字通り薙ぎ払われる。
「ユリア!ここから少し派手になるぞ!もっと下がっていろ!」
ユリアは慌てて木の陰に隠れる。
「は、はいっ!」
ユリアが隠れたのを確認すると、レリュートは二種の魔法を同時に唱えた。
「―――飛行、推進」
力属性の浮遊魔法と、指定方向への推進力を付与する魔法が発動すると、レリュートの体はふわりと宙に浮き上がった。次の瞬間、彼は猛烈な勢いで加速し、まるで矢のようにローブの男に肉薄した。宙を滑るように男の首を斬り捨てると、そのまま流れるように着地し、振り返りざまに短く詠唱した。
「―――閃衝斬波!」
レリュートの剣が空を斬った刹那、鋭い刃のような衝撃波が放たれ、狙い定めたもう一人の男の体を正確に切り裂いた。
「ぐっ……!」
男は呻き声を上げ、血飛沫を散らして崩れ落ちる。その隙を狙い、後方から別のローブの男が魔法を放った。
「おのれっ!―――灼熱炎」
迫りくる灼熱の炎弾に、レリュートは即座に気づき、防御の魔法を唱える。
「―――衝力盾」
かざしたレリュートの手のひらに、魔力で形成された半透明の盾が瞬時に生み出される。『灼熱炎』の炎弾が盾に激突するや否や、轟音と共に爆発的な炎が炸裂した。レリュートはその爆炎の中を、まるで無傷であるかのように悠然と突き進み、炎を放った術者の男を剣で一閃、その命を奪った。
「動きが止まったぞ!」
レリュートは、突き刺した剣をすぐさま抜き放つと、残る敵兵に向けて剣に魔力を込め、横薙ぎに大きく振りかぶった。
「―――風刃旋嵐!」
詠唱と共に、剣から凄まじい暴風の渦が吹き荒れる。多方向から襲い掛かってきた残りの襲撃者たちは、その圧倒的な風圧に抗うこともできず、まるで木の葉のように宙を舞い、明後日の方向に吹き飛ばされていった。
わずか数瞬の攻防で、ローブの男たちは五人が地に伏していた。およそ十人いた襲撃者は、あっという間に半数まで減らされていたのだ。その圧倒的な実力に、残されたローブの男たちはもちろん、ユリアもまた驚愕に目を見開いていた。
「……すごい……」
レリュートが、わずかに注意が散漫になったユリアに、別のローブの男が忍び寄っているのを目撃し、大声で叫んだ。
「ユリア、後ろだ!―――雷槍!」
レリュートから放たれた電撃の槍は、地面を這うように猛進し、ユリアに到達する寸前でローブの男を正確に貫いた。突然の出来事に尻餅をついたユリアを、レリュートは素早く抱きかかえる。
「大丈夫だったか?ユリア」
「……はい、ありがとうございます」
レリュートはユリアの無事を確認すると、抱きかかえたまま残るローブの男たちから距離を取り、そっと彼女を地面に降ろした。
「馬鹿な!傭兵ごときが、我々をここまで圧倒するとは……!退くぞ!」
ローブの男たちのリーダー格と思しき男がそう叫ぶと、残った者たちは一目散にその場から離れていった。
「教会の実行部隊も大したことないな」
レリュートは去りゆく敵を静かに見送り、剣を鞘に収める。ユリアは、まるで夢でも見ていたかのように、感嘆の声を漏らした。
「すごいですね!あんなにたくさんの属性の魔法を使いこなして……魔力付与術に合成属性魔法なんて、相当な高等技術だと聞いたことがあります」
レリュート・レグナスが使用できる魔法の属性は、火、風、雷、光、そして力属性の五つだ。貴族でも三系統以上の属性の魔法を扱えるのは限られた者しかいないのが一般的だが、彼は多くの属性を使いこなせる才能を有していた。
『閃衝光剣』は、魔力を指向性の高いレーザーのような斬撃に変換して放つ合成魔法と呼ばれる系統の魔法だ。光属性の攻撃魔法『光剣』に、力属性の魔法『閃衝斬波』で推進力を追加付与した合成魔法である。
合成魔法は、その名の通り複数の属性を合成して操る魔法で、一般的にはあまり普及している技術ではない。そして力属性魔法。それは、魔力の付加や身体強化に特化した属性である。武術を修めていない魔導士が身体能力を駆使したところで、それほど有効な活用ができない属性ともいえる。だが、優れた戦士としての戦闘技術を持つ人間が使うことで、その真価を発揮する属性だと言える。人によっては「当たりの属性」といえる。だが、戦闘技術が拙い者からすると無用の長物と言わざるを得ない。とはいえ、少ないながらも衝撃波を飛ばすなどの遠距離攻撃の魔法もあるので、多様性のある属性といえる。
武器に魔力を込めて放つ技術である魔力付与術は、力属性魔法の使い手の得意分野であり、他属性の魔法を付加することも可能としている。これが、彼の戦闘能力を支える強力なアドバンテージとなっている。剣撃から短い所作で高威力を維持して放つことを可能とする『閃衝斬波』は、単純に斬撃を魔力の衝撃波として放つ魔法であるが、術者の魔力や剣の技量により多様性のある魔法であるため、レリュートが最も多用する魔法であり、それをベースにした多岐にわたる合成魔法がレリュートの基本戦術となっている。
「攻撃魔法に関しては、それなりに自信がある。……まあ、魔法談義はあとでゆっくりしてやるから、今はここを離れよう。あの程度の連中ならどうとでもなるが、数を連れてこられると面倒だ。寝起きのところを悪いが、今は君の安全を優先する」
*
追っ手を退けたレリュートたちは、別の遺跡に身を隠し、休憩を取ることにした。
ユリアは休憩中に、ふとレリュートの手元に視線を向けた。控えめに、しかし好奇心を抑えきれない様子で尋ねる。
「レリュートさん、さっきから気になっていたのですが、その黒い剣は古代魔導器ですよね?」
レリュートは、ユリアの鋭い洞察にわずかに目を細めた。隠す素振りもなく、当然のように答える。
「よく分かったな。銘は『黒の雷輝』。魔力を雷撃に変換し、帯電させる能力を持つ剣だ。雷属性の適性がなくても中位クラスの攻撃魔法を行使できる。俺は雷属性の適性もあるから、さらに威力が向上する。古代魔導器の階位で言えば中位に属するが、剣としての性能はなかなかのものだ。気に入っている」
レリュートは鞘から剣を抜き、ユリアに見せつけるように魔力を込める。黒曜石のような刀身にビリビリと青白い雷撃が走り、不気味な輝きを放った。片手剣としては長めだが、レリュートが扱えばまるで羽のように軽やかに見える。
ユリアは、その圧倒的な輝きに目を見張った。驚きと畏敬の念を込めて感嘆の声を漏らす。
「貴族でも古代魔導器を所持している方は珍しいと聞いていましたが、驚きです」
レリュートは満足げに、鞘に『黒の雷輝』を滑り込ませた。得意げな笑みを浮かべ、問いかけた。
「昔、メルトラームの遺跡の探索中に発見したものでな……そのまま拝借して使用している。俺のような傭兵が持っているのは珍しいかもな。ところで君のそのネックレスも古代魔導具じゃないのか?」
ユリアは首元のネックレスを手に取り、レリュートに見せる。少し照れたように微笑み、説明した。
「はい、古代魔導具です。一応、聖者アルメートが所持していたと言われているもので、『フヴェルケルミル』という名前だそうです」
レリュートは顎に手を当てて、深く興味を引かれたように呟いた。
「ふむ……それがフヴェルケルミルか。確か、ユグドラシルと共に聖者アルメートの武具として伝えられている古代魔導具だな。剣以外の武具は、四大貴族の家宝として所持していると聞いている」
ユリアはレリュートの博識ぶりに、目を輝かせながら、自身の知っていることを少し自慢げに披露した。
「詳しいですね!私の家であるグナイティキ家には首輪『フヴェルケルミル』、冠『ミーミスブルン』はセラウス家、盾『ウルザブルン』はアルトカーシャ家が所有しています。トラマティス家は魔剣ラグナルードを継承しているため、アルメートの遺品は分配されなかったようです」
レリュートは古代魔導具や魔法の話をするのが好きなので、興が乗った。愉快そうに口元を緩め、提案した。
「へえ、詳しいんだな、君とは話が合いそうだ。無事にここから脱出できたら、魔法談義とか古代魔導具の話でもしようか」
ユリアは、その言葉にわずかに頬を緩め、返す。
「そうですね。楽しみにしています」
レリュートは、真剣な眼差しをユリアに向け、忠告した。
「そのためにも、何とか君を連れ戻さないとな。さっきの蒼清教会の連中が、躍起になって古代魔導器を集めているみたいだからな。取られないように気を付けろよ?」
ユリアは不可解そうに首を傾げた。
「蒼清教会……あの人たちは、古代魔導器を回収して回っていると聞きましたが、王家や貴族が所持しているものまでは手を出さないと聞いていましたけど?」
レリュートは肩をすくめ、淡々とした口調で説明する。
「利権の関係もあって、教会は王侯貴族には古代魔導器の所持を認めているらしい。案外、俗っぽい組織なんだよ、あいつらは」
「なら、あの人たちはどうしてユグドラシルを狙っているのでしょうか?」
レリュートは淡々と答えた。
「いや、ユグドラシルというより、その権能を使用できる可能性のある君が欲しいのだろうな。蒼清教会は、古代魔導器を『神の意志に反するメルトラームの遺産』などと言って回収し、封印しているとされているが、実態はどの国よりもその能力を研究し、利用している組織だからな」
ユリアは信じられないといった様子で瞠目する。
「ええ!?そうなのですか?……教会の古代魔導器の回収に、そんな裏の理由があったなんて……。私は別に蒼清教徒ではないですが、なんだか宗教そのものに疑念が湧いてきました」
レリュートは静かに頷き、続けた。
「教会も君の持つ力、そしてユグドラシルの持つ『あらゆる魔術的な封印を無効化する力』を狙っているのだろう」
ユリアは自分の首元のネックレス、フヴェルケルミルをそっと握りしめ、小さく呟いた。
「封印を解く力……この遺跡にも何か封印されたものがあるのでしょうか?」
レリュートは遠い目をして、答える。
「可能性は高い。この樹海には、かつて天空に存在したと言われるメルトラームの民の町の一部が墜落し、遺跡となっているという話もある」
ユリアは息を呑むように、漏らした。
「メルトラーム……」
それは、かつてこの地上を支配していた、高度な文明を誇る古代超文明国家の名だった。ユグドラシルなどの神器も、メルトラームで生み出されたと言われている。
レリュートは確信に満ちた声で、断言した。
「奴らが君をここに連れて行こうとした理由もそこにあるのだろう。おそらく君の聖痕の力を使って、遺跡に施された魔術的な封印を解こうとした」
ユリアははっとしたように、合点がいったように呟いた。
「単純に魔法を切り裂く武器だと考えていましたが、そういう有用な使い方もあるのですね」
レリュートは冷淡に、しかし事実を告げるように、言い放った。
「魔法を切り裂くという能力は、思ったよりも汎用性がある。戦い以外にも有用な使い道がある、ということだ」
続けて、嘲るような口調で、付け加えた。
「奴らは『蒼き清浄なる世界のために』という思想のもと、すべての異端を消し去り、人の手に余る神秘を正しく管理する組織だと嘯いているが、実際は自分たちの都合の良いように世界を操りたいだけだろう」
「神のためって、彼らは言ってました。清浄なる世界こそが、神の御心に適う世界だと……」
ユリアの呟きに、レリュートは悲しげな表情で問いかけた。
「神か……君はそんな存在が本当にいると思っているのか?」
ユリアは言葉に詰まった。レリュートの口から、そのような言葉が出るとは、まるで冷たい水が心の奥底に染み渡るように、彼女の常識を静かに揺るがした。
レリュートはユリアの反応を意に介さず、冷徹な視線で言い放つ。
「宗教なんてものは、神などという実在しない超常の存在を信じ込ませて、人の悩みや恐れにつけ込み、心の安らぎを与えると見せかけて金儲けをしているに過ぎない」
ユリアは恐る恐る尋ねた。
「レリュートさんは、神様を信じていないのですか?」
「少なくとも、俺は神など存在しないと思っている。だが、信じるか信じないかは個人の自由だ。そこまで俺の思想を他者に押し付ける気はない。」
ユリアは複雑な感情を胸に沈黙する。その言葉は、長らく彼女の心の片隅に横たわっていた漠然とした疑問に、鋭い光を投げかけたかのようだった。その様子を見てレリュートはふと、何かを思い出したように言葉を紡いだ。
「……この世界に神がいないのならば、この俺が神となってやる」
「?」
「この世で最も有名な邪悪な魔導士が、世界に絶望した時に言ったとされる言葉だ」
ユリアはその言葉の重みに、息をのんだ。
「そ、それは……」
「この世界を支配するのは、いつだって力を持つ人間だ。その言葉を紡いだ男は、実際に力をもってメルトラーム帝国を滅ぼし、世界の支配者となり、自ら神と名乗ったのだ。」
「ルベル!魔導師ルベルですね!」
ユリアもその名を知っていた。かつて超古代文明を築き上げたメルトラーム帝国を滅ぼし、世界を混沌に陥れたとされた、その名を。
「そうだ。奴は自らを神と名乗り、人類に君臨した。だが、結局は支配者がメルトラーム帝国から、ルベルとその配下の『神の使い』を僭称する者たちが支配する世界に取って代わっただけで、救いをもたらす神など現れることはなかった。もし本当に神がいるのなら、なぜそんな世界を許した?なぜ人類を救済してくれなかった?」
「……」
「人は、いるかどうかもわからない神などという存在に救いを求める前に、まずは自らの力で行動し、困難に太刀打ちするのが、人として正しい生き方だと、俺は思っている。フィーア・レス・アルメートが実際に神に頼ることなく、魔導師ルベルの支配から世界を解放し、救済したようにな」
ユリアは反論しようと口を開きかけたが、言葉が見つからなかった。彼の言葉は、彼女がこれまで見てきた世界の輪郭を、ぼんやりとだが確実に変えていく。教会の教えが心の拠り所であったはずなのに、その根底を揺るがすレリュートの言葉に、反発よりもむしろ、拭い去れない共鳴が胸に響いた。彼女自身、教会の教えを深く信じているわけではなかったが、人々の心の拠り所となっている存在を否定するレリュートの言葉は、彼女に言いようのない衝撃を与えていた。それでも、レリュートの言うことも理解できた。
「少なくとも蒼清教会の言う蒼神とやらは、俺の中では古代の遺物の中に眠る超常の力を、神の力だと偽って利用しようとしている偶像だと思っている。だが、それが信者の心の拠り所になっているのなら、俺は否定はしない」
レリュートは話を打ち切るように立ち上がり、遺跡の入り口へと視線を向けた。たとえ趣味の話で興が乗っていたとしても、出会って間もない相手、ましてや貴族の令嬢に、自身の宗教観を押し付けるのはいかがなものかと感じたからだ。
「……つまらない話を長々としてしまったな。奴らはまた来るだろうが、心配するな。俺が全て倒して道を切り開く。君を必ず無事に家に帰してやるからな」
二人の間には、追っ手を退けた安堵感と共に、新たな戦いの予感が漂っていた。神の存在を否定する冷徹な傭兵と、王家の血を引く孤独な少女。二人の逃避行は、古代の秘密と宗教の陰謀が渦巻く、長く険しい道のりとなるだろう。




