第12話 再訪の国境の大樹海3 魔人との死闘
「大丈夫?ティーユ」
ユリアの優しい声に、ティーユは小さく頷き、安堵の笑みを漏らした。
「はい、レリュートさんのおかげで、もう大丈夫です。転んだだけですから」
尻もちをついて汚れた部分を払いながら立ち上がるティーユを横目に、レリュートは結界のひび割れに視線を向けていた。修復途中の光が点滅する部分を確認しながら、彼は静かに呟く。
「このまま修復できそうだな。ユリア、そのまま続けられるか?」
結界を見つめていたユリアは、不安げに唇を噛んだ。
「はい……でも」と、不安げな表情を浮かべて言い淀んだ。
レリュートは険しい表情で結界を睨みつけた。彼の目は、ひび割れの奥に隠された禍々しい瘴気の根源を探っていた。
「ああ、瘴気の濃度が異常に高い。これはただの魔物の影響じゃない。何かが意図的に結界を破壊しようとしている……」
その時、瘴気の最も濃いひび割れから、漆黒の影がぬるりと這い出てきた。それは単なる魔物ではない。人の形をしながらも、頭部からは湾曲した一対の鋭い角が天を突き、筋肉質な体躯は禍々しい紋様で覆われている。その双眸は血のように赤く、純粋な悪意と底知れぬ魔力を宿し、レリュートたちを射抜いた。
レリュートの全身に戦慄が走り、瞬時に警戒態勢へと移行する。
「まさか……魔人? なぜこんな場所にいるんだ?」
先ほどの瘴気狼とは次元の違う、圧倒的な存在感。魔人は唸り声を上げることもなく、ただ一歩踏み出しただけで、周囲の瘴気をさらに凝縮させ、空気をも凍てつかせるほどの重圧を放った。その重圧を受け、ユリアとティーユは足が竦み、全身に恐怖が走る。
ティーユは恐怖に顔を歪め、押し潰されそうな重圧に耐えかねて、か細い声で呻いた。
「な、なんて重圧……っ! これが、魔人……?」
そして、魔人の視線は、足が竦み無防備なユリアへと向けられた。
「ユリア、伏せろ!」
レリュートの叫びが森にこだますると同時に、魔人がユリアめがけて跳躍した。次の瞬間、ユリアの眼前には、すでに剛腕を振り上げ、振り下ろされようとしている魔人の姿があった。
「……っつ!」
レリュートは一瞬でユリアの前に身を滑り込ませ、黒の雷輝を構えてその一撃を防ごうとした、その時だ。
周囲の音が途切れ、景色から色が失われ、まるで自身の時間の流れが止まったかのような感覚に囚われた。その直後、彼の意識はプツリと途切れた。
次の瞬間、脳裏に響く鋭い衝撃と共に、彼の意識は唐突に引き戻された。
「なっ……!」
何が起きたのか理解する間もなく、レリュートの胸元に、魔人の剛腕が叩き込まれた。漆黒の長衣が裂け、その身体が地面に叩きつけられる。鈍い音と共に土埃が舞い上がり、激痛が肺を貫いた。魔力で強化された肉体をもってしても、その一撃はあまりにも重く、彼の意識を奪い去ろうとする。
ユリアの悲鳴が森に響く。ティーユもまた、その光景に顔を青ざめた。
「レリュートさん!?」
ユリアは、レリュートが護衛になってからの三年で、幾度も彼が戦う場面を見てきたが、彼がいとも容易く敵対者を退ける姿しか見たことがなかった。それが、自身をかばったことで地に伏している。動揺しないはずがなかった。
レリュートは激しく咳き込みながらも、血の滲む唇を噛みしめ、這うようにして体勢を立て直す。胸元からは、黒い長衣を通してじわりと温かい血が滲み出し、鈍い痛みが走った。だが、ユリアが無事なことに安堵し、その目に宿る光はより一層鋭さを増した。
「くそっ……油断した。よくも、やってくれたな……!」
咄嗟のことで防御が間に合わず、まともに攻撃を受ければ、レリュートほどの実力者であっても甚大なダメージを負う。本来は間に合っていたはずの防御が、何らかの精神攻撃を受けたせいか、まともに攻撃を受けてしまった。
(さっきの、時間が止まったような不可解な感覚は、この魔人の攻撃なのか?)
攻撃の前に受けた不可解な感覚を疑問に思いながらも、レリュートはユリアをちらりと見た。この負傷はユリアを咄嗟に庇ったが故のものであったが、彼はそれを「油断」と称し、自身の未熟さ故の負傷であるとすることで、ユリアに責任を負わせるつもりはなかった。レリュートの瞳が、怒りに燃え上がる。目の前の魔人は、普通の人間からすると強大な存在かもしれないが、彼の実力をもってすれば、致命傷を負うような相手ではないはずだった。
魔人とは、普段はコキュートスと呼ばれる孤島に生息する、魔力を暴走させて人であることをやめた人外の総称である。人知を超える力を有しており、有名な魔導師ルベルもその一種だが、彼は次元が違いすぎる存在であり、例外である。目の前の魔人はそこまで強力な力を有してはいないようであった。
しかし魔人たちはエントラルトにより、コキュートスに封印されており、外界には出てこれないはずの存在だ。それなのになぜこの大樹海にいるのかはわからないが、間違いなく、この魔人が結界のほころびの原因であることは確かだろう。
魔人はレリュートの呻き声を聞き、嘲るかのように見えた。その角張った顎が不気味に歪み、忌まわしき笑みを浮かべたかのようだった。
魔人はレリュートを見下ろし、地の底から響くような声で問いかけた。
「人間よ……何故、我の領域に踏み入った? 答えを述べよ」
レリュートは、血の滲む唇を乱暴に拭うと、不敵な笑みを浮かべた。
「それはこっちの台詞だ。なぜ、お前のような存在がコキュートスの外にいる? どうやって、この大樹海に辿り着いた?」
魔人はレリュートの言葉を無視し、苛立ちを隠すことなく言い放った。
「我が問いに答える気がないのであれば、ここで朽ちるがいい」
魔人は、再び剛腕を振り上げ、今度こそレリュートにとどめを刺そうと迫る。だが、その瞬間、レリュートの全身からまばゆいばかりの白い光が溢れ出した。胸に受けた傷が瞬く間に治療されていく。傷を負い、疲労していたはずの身体に、今、圧倒的な力が漲っていくのが分かった。彼は自身に治癒光を施したのだ。
治癒光は光属性の回復魔法である。使い手の魔力の多寡や熟練度によるが、その再生速度も速く、失われた四肢すらも回復させることが可能とされている。ゆえに高い魔力をもつ王侯貴族は、簡単には殺すことができないとされている。レリュートも高い魔力とその精度が高レベルであるため、先ほど受けた胸部の打撲程度であれば、それほど治療に時間を必要としない。
レリュートは、怒りに声を震わせながら、自嘲気味に呟いた。
「……俺は猛烈に腹が立っている。この程度の下級の魔人ごときに、手傷を負わされた自分自身にな!」
レリュートの侮蔑的な言葉に、魔人の顔が僅かに歪む。
「……この私が、下級だと……?」
レリュートは、黒の雷輝を力強く握りしめ、刀身に雷光を纏わせた。雷撃が大地を揺るがす轟音を立て、彼の周囲の瘴気を吹き飛ばし、その威力を物語る。
「―――閃衝雷光剣《ウィース・トニトルス・フルゴル・グラディウス》!」
雷を帯びた斬撃が、稲妻のように魔人へと放たれる。その速度は、肉眼では捉えきれないほど速く、魔人も思わずたたらを踏んだ。しかし、魔人はその剛腕で雷撃を受け止めたが、衝撃に耐えきれず、受けた右腕が吹き飛ばされ、わずかに顔を歪ませた。
魔人は吹き飛ばされた腕を抑え、血のような赤い瞳を大きく見開いた。
「人間……貴様、なんだその力は!?」
レリュートは、すかさず迅雷跳躍を発動。全身に雷を纏い、雷光のように縦横無尽に跳躍しながら、魔人の懐に飛び込んだ。剣から放たれる衝撃波が、魔人を容赦なく襲う。魔人は腕を交差させて防御するが、レリュートは間髪入れずに追撃の魔法を放つ。
「―――風裂斬」
風の刃が、魔人の側面から襲いかかり、その体勢を大きく崩させた。その隙を逃さず、レリュートは体勢を立て直した魔人に対し、魔力付与術で強化した剣撃と格闘術を容赦なく叩き込んだ。魔人の堅固な肉体が、彼の拳と剣によって、着実に、しかし確実に削られていく。
魔人は、予想外のレリュートの猛攻に、わずかに苛立ちの表情を見せた。
「くっ……小癪な、人間め!」
魔人は、周囲の瘴気をさらに吸収し、その体躯を膨張させた。禍々しい魔力が、あたりを覆い尽くす。レリュートの攻撃により失った右腕は生え、傷は凄まじい速度で修復を開始する。
「さすが魔人だな。とんでもない肉体の再生速度だ」
魔人となった人間は、四肢を失ったり、普通の人間であれば致命傷のダメージを受けても、簡単には死なないと言われている。その理由の一つが異常な肉体の再生能力にある。回復魔法を使用しなくても、魔力で自動的に修復されるのだ。だが、レリュートにはその再生をする暇を与えるつもりはない。
「貴様はもう黙って消えろ!!―――閃衝光破剣《ウィース・ルクス・デストルークティオ・グラディウス》!」
レリュートは渾身の力を込め、黒の雷輝に光属性と力属性の魔力を惜しみなく注ぎ込んだ。彼の剣がまばゆく輝き、巨大な光の奔流が魔人へと放たれる。それは、全てを焼き尽くすかのような、純粋な破壊の奔流であった。魔人は、咆哮を上げて光の奔流に立ち向かおうとするが、その圧倒的な威力に為す術もなく抗いきれない。
魔人は、信じられないといった様子で、血反吐を吐きながら呻いた。
「こ……この、私が……人間ごときに……!」
光の奔流が過ぎ去った後には、深々と抉られた地面と、肉体を大きく削られ、角の一部が砕け散った魔人の無残な姿があった。魔人は膝を突き、その赤い瞳からは憎悪と屈辱が滲み出ていた。しかし、その生命力が尽きかけているのは明白だった。レリュートは荒い息を吐きながら黒の雷輝を構え直す。
レリュートは魔人を見据え、冷ややかな声で言い放った。
「二度と……俺の大切な人に、手出しはさせん―――雷光一閃!」
その言葉と共に、レリュートは残る魔力と怒りを込めて、最後の一撃を魔人に叩き込んだ。雷光が煌めき、魔人の肉体を貫いた。魔人は断末魔の叫びを上げ、その巨大な体は黒い瘴気となって霧散し、完全に消え去った。
ユリアとティーユは、呆然とした様子でその光景を見つめていた。レリュートは、魔人の完全な消滅を確認すると、全身の力が抜けたように膝をついた。胸元の傷は塞がっていたが、想像以上に体力を消耗したようだった。
「レリュートさん! 大丈夫ですか!? すぐに治療を……!」
ユリアはレリュートの傷口に手を当て、震える声で叫んだ。ティーユも急いで彼の元へ駆けつける。
レリュートは、ユリアの手を優しく握り、痛みに堪えるように苦笑した。
「ああ……なんとか、な。……約束しただろう、俺が君たちを守るってな」
レリュートは、立ち上がりながら、ユリアとティーユに改めて謝るように言った。
「もう大丈夫だ。治療は終わってる。すまなかった。俺の油断で、君たちを危険な目に遭わせてしまった。完全に俺のミスだ」
ユリアは、レリュートの言葉に反論するように首を横に振った。
「そんな……! 私が動けなかったから、レリュートさんが私を庇って怪我をしてしまったのに!」
レリュートは肩をすくめ、小さく溜息をついた。
「気にするな。俺が油断しなければ、問題のない相手だった。……怒りに任せて倒してしまったせいで、なぜ魔人がこんなところにいたのか、真実を知る術が失われてしまったな。尋問をしてから始末すればよかった」
ユリアは、少し怒ったように口を尖らせた。その瞳は涙で潤んでいた。
「もう! 心配したんだから……! 私のせいで、もしレリュートさんに何かあったら、どうしようかと……!」
レリュートは、くすりと笑い、ユリアの頭を軽く撫でた。
「ふっ……格好悪いところを見せてしまったな。奥の遺跡を調べてみれば、あるいは先ほどの魔人のことが何か分かるかもしれない」
(先ほどの時間が止まったかのような不可解な感覚はなんだったんだ?……あの魔人の攻撃ではなかったのか……? あの攻撃をしてきたのは最初に一回だけだ。あのような真似ができるのなら、何回も使ってくるはずだ。他にも敵がいたのか?)
レリュートは周囲を魔力探知で捜索するが、他の敵の気配を感じることはできなかった。だがこの不可解な現象の究明をする余裕もないので、先に進むことにした。
*
瘴気の濃い場所を進むと、やがて彼らは、木々に覆われた巨大な石造りの建造物、すなわち古代の遺跡の入り口にたどり着いた。その入り口は、明らかに人為的に、しかし強大な魔力によって封印されていた。古代のルーン文字が刻まれた石扉は、まるで何世紀もの時を超えて、深淵の秘密を守っているかのようだ。
ティーユが緊張した面持ちで言った。
「ここが……清蒼教会の者たちが、ユリア様をここへ連れて行こうとしていた遺跡ですね」
レリュートは石扉の前に立ち、手をかざした。彼の掌から微かな魔力が放出され、封印のルーンをなぞるように流れていく。
「間違いない。この遺跡は次元門だ」
ユリアは聞いたことのない言葉に疑問を尋ねる。
「次元門?」
「ああ、古代メルトラーム文明には特定の場所へ転移するためのゲートを創る古代魔導器があったとされている。その一つだろう」
「そんなものが実在しているなんて……」
―――次元門
メルトラーム神聖帝国の空中都市で都市間の移動手段として運用されていたという古代魔道器の一つで、指定された場所にどんな距離でも転移させるゲートを創る装置の名称にして、魔法の名前である。莫大な魔力を使用する為、単独で行使できる者は限られており、古代魔導器として幾つかを量産して、重要な拠点や地上への移動手段として設置したとされている。
他の古代魔道器と同様に現在の技術では製造不可能であり、失われた技術である。
しかし、エントラルトでは一部運用されており、レリュートにとっては見慣れた装置であったりする。
「可能性は低いが、行先はかつて栄えたメルトラーム神聖帝国の首都『エタニティーナール』かもしれないな。若しくは地上へ移動するためのゲートの可能性も高い。これが清蒼教会の目的だったのだろうな」
「これを起動させるために私が必要だったということですね」
「そうだな。見たところ封印されていて、起動できないようだな」
ユリアはしゃがみ込んで装置の起動ボタンらしきものを見つめながら尋ねた。
「レリュートさんはその封印を解除できないのですか?」
レリュートは次元門に魔力を通して動作の確認をしてみるが、作動する様子はない。
「一般的な解除魔法では難しそうだな。この封印は『失われた魔法』によるものだ。正規の手続きをしなければ解けない」
そして、彼はユリアに視線を向けた。
「……この封印を無理やり解くには、ユグドラシルが必要になるだろう。清蒼教会の目的は十中八九この封印の解除だろう」
ユリアの顔に、わずかな動揺が走った。聖剣ユグドラシルは、アルメキア王家に代々受け継がれてきた聖なる古代魔導器であり、彼女はその正当な継承者だ。ユグドラシルには「あらゆる魔術的な封印を解除する」という権能がある。そして、彼女は聖痕を共鳴させることで、剣を召喚することが可能だ。
ユリアは言葉を濁した。
「でも……ユグドラシルは、王城の宝物庫に……」
「そうだ。もしここでユグドラシルを召喚すれば、アルメキア王家に君が聖痕の継承者であることが知られてしまうだろう」
レリュートはそう言い、ユリアの抱える最大の秘密とリスクを再確認した。聖痕の存在は、王位継承権にまで影響を及ぼしかねないデリケートな問題であり、グナイティキ公爵家はこれを秘匿している。
ユリアは、自分の胸元に手を当てた。そこには、聖痕の紋様が隠されている。もしここでユグドラシルを召喚し、その力で封印を解けば、父や兄が守ろうとしてきた秘密が露見してしまう。彼女は葛藤した。だが、同時に、この遺跡の奥に何が隠されているのか、そして清蒼教会が何を企んでいたのかを知りたいという、純粋な好奇心も彼女を突き動かしていた。
ユリアは、決断を彼に委ねるように問いかけた。
「……どうしますか、レリュートさん?」
レリュートはしばらく沈黙し、遺跡の入り口と、遠くの森を見比べた。彼の脳裏には、エントラルトの調停者としての任務と、ユリアを守るという個人的な誓いが交錯する。
「今は、無理に封印を解く必要はない。ここでユグドラシルを召喚して、君の存在が公に知られるのは避けたい」
レリュートは最終的にそう判断した。
「俺たちの目的は、あくまで清蒼教会の意図を探り、君の安全を確保することだ。転移先に有用な古代魔導器が封印されているかもしれんが、今回の遺跡の調査は、周辺の状況を探るに留めよう。また魔人なんぞが出てきても面倒だ。」
「……でも、せっかくここまで来たのにいいのですか?」
「ああ……清蒼教会が何を目的に君を誘拐したのかがわかれば十分だ。リスクを負う必要はない。公爵もユグドラシルの力を使うことは望んでいないだろう」
「わかりました」
一行は、封印された入り口から少し距離を取り、遺跡の周囲を慎重に調査することにした。レリュートは、古代文明メルトラームの遺物に造詣が深く、トレジャーハンターとしての顔も持っている。彼は、遺跡の壁面に刻まれた風化したルーン文字や、崩れ落ちた構造物の配置を注意深く見て回った。
レリュートは、壁のひび割れを指でなぞりながら呟いた。
「この構造は、やはりメルトラームの民の、かつての天空都市の一部が墜落したものだろうな」
ユリアも、彼の言葉に耳を傾けながら、遺跡の石畳に散らばる瓦礫や、苔むした彫像に触れた。そこには、想像を絶するような過去の物語が眠っているかのようだった。彼女が学院で学んだ歴史の知識だけでは、決して知りえない、生々しい『古代』の息吹がそこにはあった。
小一時間ほど、遺跡の周辺を調査した彼らは、これ以上の深入りは不要と判断した。封印された次元門の転移先は不明であったが、清蒼教会がユリアの聖痕の力を使って、ここに封印された次元門の封印の解除を狙っていたことはすでに明白だった。
レリュートが告げた。
「よし、引き返すぞ」
先ほどの不可解な感覚の正体がわからない以上、ここに長居をするのは危険だと判断し、彼は戻ることを提案するのだった。
帰り道、ユリアはレリュートの広い背中を見つめながら、彼の言葉を反芻していた。
『俺の大切な人』
その言葉が、彼女の胸の中で温かく、そして強く響いていた。彼の腕の中で眠りについた夜、そして今日、彼が自分を庇って傷ついたこと。それらの記憶が、彼の言葉に特別な重みを与えていた。
(私は、レリュートさんにとって『大切な人』なんだ……)
ユリアは、自分の頬が熱くなるのを感じた。それは、恐怖や不安からくるものではなく、心の奥底から湧き上がる、新たな感情だった。
続きのエピソードをカクヨムの方で連載しています。
こちらでは記載してない設定なども記載しています。
よかったらそちらの方でも読んでいただけると幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882746106