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メルトラーム英雄物語 黒衣の剣士と聖剣の聖女  作者: 洲厳永寿
第一章:運命の邂逅と聖痕の秘密
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第10話 再訪の国境の大樹海1 記憶の残光

 城塞都市アルベルクの北に位置するこの樹海は、アルメキア王国とグラン王国の国境を成す天然の壁として機能している。

 両国がまだ交流していた頃に樹海を切り開いて道がつくられ、流通の一端を担っていたが、今は戦争の一歩手前だ。両国の樹海の入り口にある要塞は、張り詰めた空気の中、物々しい雰囲気に包まれていた。

 樹海の中に築かれた道は、古代遺物アーティファクトで形成された破邪の結界の力で守られており、それなりに安全ではある。しかし、樹海の深奥には危険な魔獣が潜み、戦争の一歩手前でもあるため、開拓はとうに頓挫していた。

 天然の樹海の壁と要塞により、両国は進軍が難しく、互いににらみ合う状態が長らく続いている。

 樹海の奥には旧時代の遺跡が多数存在し、その中には古代魔導具も眠るとされている。


 深く木々が生い茂る広大な樹海の中、時折射し込む陽光がまだら模様を描き出す道を、レリュートは先頭に立った。ユリアとティーユを伴い、道を進んでいく。

 かつてアルメキア王国とグラン王国が交流を持っていた頃に開かれたこの道は、古代遺物アーティファクトで形成された破邪の結界の力によって守られているとはいえ、なお魔物の気配が周囲に常に漂っていた。レリュートの瞳は鋭く、わずかな気配も見逃すまいと周囲を探っている。


 数刻後、木々の間から堅牢な石造りの砦が姿を現した。所々にグナイティキ家の旗印が翻り、見張り台には武装した兵士たちの姿があった。ここが、樹海のグナイティキ家の領邦軍の拠点なのだろう。三年前、大樹海に入ったときはこの砦以外の経路から侵入したので、正面から入るのは初めてである。


 砦の入り口に歩みを進めるさなか、ティーユが興味津々にユリアに詰め寄る。その小さな瞳はキラキラと輝き、まるで物語を聞きたがる子どものようだった。


「この砦の奥の樹海でレリュートさんに救出してもらったんですか? ユリア様!」


 ユリアは懐かしそうに微笑み、遠い目をする。


「うん、昨日の事の様に鮮明に覚えている」


 身を乗り出して、ティーユがさらに問いかける。


「えー? どんな感じで出会ったのですか?」


 ユリアの頬がほんのり赤らむ。恥ずかしそうに視線を泳がせながら、言葉を紡いだ。


「出会ったときは私は眠らされていて、目を覚ますとその……お姫様だっこされてて目が合って驚いちゃって、警戒してしまったの」


 ティーユは両手を口に当てて、目を丸くした。


「お姫様だっこ!?」


 その言葉を聞いたレリュートは、そういえばそんな出会いだったと思い出しながらも、手のひらでぐしゃりと頭を抱え、深いため息と共にうなだれた。内心の困惑を隠しきれないまま、目の前ではしゃぐ二人の少女たちを交互に見た。諦めにも似た眼差しで、彼は口を開いた。


「俺達がここに来たのは、戦闘訓練と結界のほころびの調査なんだからな。遠足気分じゃないだろうな? 俺は公爵の多岐にわたる任務をこなしてきたが、遠足の引率までやるとは思わんかったぞ」


 二人の少女たちの一人であるユリア・ルクス・グナイティキは、普段と少々趣の異なる戦衣装を身に包み、強い意志を秘めた瞳でやる気を見せている。防御の加護ルーンが刻まれた特別製の軽鎧に、グナイティキ家の家紋の入ったマントを堂々と羽織っていた。

 それは、アルメキア王国の祖であるフィーア・レス・アルメートが纏っていたとされる戦装束を模して製作された、特別製の軽鎧である。ユリアは胸を張り、ぴんと背筋を伸ばした。その表情には一切の迷いがなく、幼いながらも貴族としての責任感が滲んでいた。彼女の小さな唇から、力強い言葉が紡ぎ出された。


「|貴族の義務《ノブレス=オブリージュ》の一環として、魔物との戦闘訓練をするようにと、お父様がおっしゃいました! 遠足じゃありません!」


 もう一人の少女であるティーユ・クア・ティアレスは、いつものメイド服に身を包んだまま、専用の魔法杖を構えて見せた。その仕草はどこか愛らしく、見る者を和ませる。彼女はにっこりと微笑み、自信に満ちた声で答えた。


「私はユリア様のお世話係ですけど、護衛も兼ねる『戦えるメイド』を目指してます。私も訓練に参加しにきました! お世話係としてお弁当もつくってきましたよ」


 ティーユは魔法杖をくるりと器用に回し、自信満々に微笑んだ。その瞳には、強い決意とひたむきな情熱が宿っていた。レリュートは、二人の少女の様子を静かに見守っていたが、ティーユの言葉に思わずため息をこぼした。


「お弁当ね……そういう言い方されると本当に遠足に来たみたいだが、糧食は重要だな」


 ティーユは悪戯っぽく微笑み、レリュートの顔を覗き込む。


「そうでしょう? 心配しなくてもレリュートさんの分もありますよ?」


 レリュートは一瞬、言葉に詰まり、肩をすくめた。呆れたような、しかしどこか微笑ましい表情で、彼は言った。


「……そりゃどうも」


 彼は、思わずため息まじりに呆れた表情を浮かべた。その視線は、まだ二人の少女に向けられていた。特にティーユのメイド服に目を留め、眉をひそめる。


「まあ、ついでだから君も守ってやるが……ユリアはそれなりに気合の入った武装だが、君はそんな恰好で大丈夫なのか?」


 ティーユはくるりと愛らしく回転し、ひらりと舞うメイド服を見せつけるように胸を張った。その動きはしなやかで、見る者を惹きつける。彼女は得意げに胸を張り、言葉を続けた。


「一応この服、防御魔法が付与されている現代魔導器モデルヌムインストゥルなのですよ。見た目よりずっと頑丈なんですよ」


 現代魔導器モデルヌムインストゥルとは、現在の技術で作られている魔力を動力として動く道具のことを指す。単純で小規模な能力しか持たないが、量産可能であり広く普及している。日用品から武具まで様々なものがあり、内蔵している魔力蓄積装置に魔力を供給することでその機能が発動する。武具としては、刀身に魔力を纏わせて攻撃力を強化する剣から、魔力弾を飛ばす銃のような武器まで多種多様である。古代魔導器アーティファクトとの差異は、力の供給源が自給自足でないこと、扱える魔力量に限度があることである。


「ほう? それは結構なことだが、なんでメイド服なんだ?」


 レリュートは腕を組み、面白そうに口元を緩めて微笑んだ。彼女の自信に満ちた姿を見て、思わず笑みがこぼれた。


「え? どんな時でもかわいい普段着で居たいから特注で作ってもらったんですよ。可愛いくないです?」


 ティーユが両手を頬に当て、上目遣いに尋ねる。その愛らしい仕草に、レリュートは思わず苦笑した。


「それが君の戦装束というわけか。まあ、気に入っている衣装でモチベーションがあがるのならいいんじゃないのか?」


 「はい!お気に入りなので!」


 ティーユが満面の笑みで答えた瞬間、ユリアがぷくりと頬を膨らませ、二人の間に割って入った。


「あっ! ティーユばっかりずるい! 私の衣装も褒めてください!」


 ユリアはレリュートの前に立って、見せつけるように胸を張った。レリュートは一瞬言葉に詰まり、困惑した顔で彼女を見つめた。


「別に褒めたわけではなくてだな……君の衣装は普段の衣装とは趣が違って似合っていると思うよ。うん。……ほら、もうすぐ着くから、兵士の皆さんに聞こえてしまうぞ」


 レリュートは顔を若干赤らめ、誤魔化すように先を促した。ユリアは満足げに頷き、再び誇らしげに胸を張って歩き始めた。



 ユリアは周囲を見渡し、これから始まる未知への挑戦に、わずかな緊張と期待の入り混じった表情で頷いた。彼女の視線は砦の門を見据え、小さく呟いた。


「ここが、アルメキア側の大樹海の入り口というわけですね」


 ティーユは魔法杖をしっかりと握りしめ、警戒の色を滲ませた。彼女の目は鋭く、周囲の異変を見逃さないとばかりに光っていた。普段の愛らしい表情から一変し、真剣な面持ちで口を開いた。


「念のため、周囲の警戒は怠らないようにいたしましょう」


 レリュートは軽く笑った。彼の表情には、二人の心配を和らげようとする優しさがあった。彼は軽く肩をすくめ、安心させるように言った。


「心配ない。ここはグナイティキ家の領地だ。敵意を持って迎えられることはないだろう」


 とはいえ、傭兵である自分が、アルメキア王国でも大きな権力を持つ四大貴族の筆頭、グナイティキ公爵の娘であるユリアと共にこのような場所を訪れることに、警戒心を抱く者がいないとは限らない。

 彼の本来の所属は『エントラルト』であり、ユリアの護衛は組織からの指令でもある。表向きはグナイティキ家の専属の護衛として特務武官という役職を得ているものの、アルベルクの街ではともかく、このような砦まで彼のことが知れ渡っているかは微妙だった。

 砦の門前に近づくと、見張りの兵士たちが彼らに気づき、警戒の声を上げた。槍の穂先が僅かに揺れるのが見えた。


「止まれ! 何者だ!」


 レリュートは落ち着いた声で答えた。彼の声には、威圧感と同時に、相手を安心させる響きがあった。彼は一歩前に出て、兵士たちに名乗りを上げた。


「私はグナイティキ公爵家が公女ユリア・ルクス・グナイティキ様の護衛にして、グナイティキ家の特務武官レリュート・レグナスと申します。領邦軍の責任者の方にお目通り願いたい」


 見張りの兵士は驚愕の表情を浮かべ、慌てて砦の内部へ連絡を取るべく走り去った。その顔には、予想外の来訪者への動揺がはっきりと見て取れた。去り際に、驚きの声が聞こえた。


「ユリア様……! まさか、お嬢様がいらっしゃるとは!」


 しばらくの沈黙の後、重厚な木の門がゆっくりと開き、中から屈強な体格の男が現れた。歴戦の勇士といった風貌の精悍な顔つきには幾つもの傷跡が刻まれている。身につけている鎧は磨き上げられ、腰には武骨な剣が佩かれている。

 彼こそが、この樹海の領邦軍の責任者なのだろう。

 男はレリュートたちを注意深く見つめ、特にユリアに深く敬礼をした。その眼差しには、敬意と同時に、この状況への戸惑いが混じっていた。彼はやや緊張した面持ちで、しかし敬意を込めて言葉を紡いだ。


「ユリア様、ようこそおいでくださいました。このような辺境の地にまで、ご足労いただき恐悦至極に存じます」


 ユリアは緊張しながらも、グナイティキ公爵家の令嬢としての礼儀正しい態度で応じた。その背筋は伸び、品格が漂っていた。彼女はまっすぐ前を見据え、凛とした声で応じた。


「ご苦労様です。父のシグムント・フォン・グナイティキより、貴殿に挨拶するようにと申されました」


 領邦軍の責任者は、驚きと喜びの混ざった表情でユリアを見つめた。公爵からの直接の言伝に、その表情は感銘を受けているようだった。彼は深々と頭を下げ、感動を隠さずに言った。


「公爵様からそのようなお言葉を賜るとは、身に余る光栄でございます。私はこの地の領邦軍を預かるバルド・ヴァン・ファーレンと申します」


 レリュートは一歩前に進み出て、軽く頭を下げた。彼の言葉遣いは丁寧だが、その目には傭兵としての鋭さが宿っていた。彼はバルドの目を見据え、簡潔に自己紹介をした。


「バルド殿、この度は突然の訪問、ご容赦ください。私はグナイティキ家でユリア様の護衛を務めております、特務武官レリュート・レグナス中尉です」


 バルドはレリュートを一瞥し、その只者ではない雰囲気を感じ取ったのだろう、警戒の色を微かに滲ませた。彼の視線はレリュートの全身を値踏みするように彷徨った。少しの間沈黙した後、彼は口を開いた。


「あなたが、公爵様がお雇いになったという凄腕の傭兵殿ですか」


 ティーユもまた、静かにバルドの様子を窺っていた。その表情からは、バルドの真意を探ろうとしているかのように見えた。彼女の視線はバルドとレリュートの間を行き来していた。

 ユリアは、両者の間に割って入るように一歩前に出た。その行動は、二人の間に漂うわずかな緊張を和らげようとするかのようだった。彼女はバルドにまっすぐ向き合い、はっきりとした声で言った。


「バルド殿、レリュートさんはわたしにとって頼りになる護衛です。今回の訪問は、父の領地の状況を把握し、皆さまにご挨拶するため参りました」


 バルドはユリアの言葉に忠誠心を示し、再び敬礼をした。その動きは迅速で、彼女への敬意が表れていた。彼はユリアの言葉を真摯に受け止め、即座に応じた。


「ユリア様のお言葉、しかと承知いたしました。どうぞ、砦の中へお入りください。このような粗末な場所ではございますが、精一杯おもてなしさせていただきます」


 レリュートは、バルドの言葉の端々からグナイティキ家への強い忠誠心を感じ取ると同時に、自分のような平民の傭兵に対する警戒心も拭いきれていないことを察した。彼は静かにその成り行きを見つめていた。

 一行はバルドに案内され、砦の中へと足を踏み入れた。兵士たちは規律正しく訓練に励んでおり、砦全体に活気が満ちている。レリュートは、この領邦軍こそがグナイティキ家の強固な基盤の一つであると改めて感じ入った。

 バルドは、砦の中央にある簡素ながらも威厳のある建物へとユリアたちを案内した。扉を開け、中に招き入れた。


「こちらが、わたくしの執務室でございます。どうぞ、お寛ぎください」


 部屋に通されると、バルドは手際よく茶と菓子を用意させた。ユリア、レリュート、ティーユは席に着き、バルドと向かい合った。

 ユリアは改めてバルドに向き直り、穏やかな声で言った。その声には、公爵家の令嬢としての落ち着きが宿っていた。彼女はカップをそっと置き、バルドの目を見つめた。


「バルド殿、父より、この樹海の守備の状況について詳しくお伺いするようにと申しつかっております。何か最近変わった動きなどはございますでしょうか?」


 バルドは真剣な表情で頷いた。その顔には、辺境の守り人としての責任感がにじみ出ていた。彼は一呼吸置き、重々しく答えた。


「はっ、承知いたしました。最近、グラン王国との国境付近で、敵の斥候と思われる動きが散見されるようになっております。わが軍も警戒を強めておりますが、本格的な衝突も懸念される状況でございます」


 レリュートは、グラン王国との戦争の兆候に警戒を強めた。アルメキア国王レオンハルトは非常に好戦的な性格であり、いつ戦端が開かれてもおかしくない状況だった。彼は内心、今後の展開を推測していた。彼の顔には、微かな緊張の色が浮かんだ。

 ユリアは心配そうな表情を浮かべた。その眉はわずかに寄せられ、不安の色が宿っていた。彼女は小さく息を吐き、口元を引き結んだ。


「やはり、グランとの間には不穏な空気が流れているのですね」


 バルドは力強く頷いた。その目はまっすぐにユリアを見つめ、揺るぎない決意を示した。彼は拳を軽く握り、断固とした声で言い切った。


「はい。しかし、わたくしたち領邦軍は、グナイティキ公爵家への忠誠を誓い、領土と民を守り抜く覚悟でございます」


 レリュートは、バルドの言葉に揺るぎない決意を感じた。貴族社会においては、家名と忠誠が何よりも重んじられる。彼はバルドの言葉に、貴族に仕える者の誇りを見た。静かに頷き、その言葉に敬意を表した。

 ティーユは静かに口を開いた。その声は控えめながらも、質問の意図は明確だった。彼女は魔法杖をそっと膝の上に置き、バルドに尋ねた。


「この樹海には、旧時代の遺跡も多く存在すると聞いております。軍の守備範囲内に、何か特筆すべき遺跡などはございますでしょうか?」


 バルドは少し怪訝な顔をした。その表情には、近侍であるティーユの質問への意外性が混じっていた。彼は首を傾げ、考えるように答えた。


「遺跡、ですか……確かに、この樹海の奥深くには、未調査の遺跡もいくつか存在すると伝えられております。しかし、危険な魔物が生息している可能性もあり、安易に近づくことはできません」


 ユリアはバルドと向かい合って告げる。その瞳には、すでに固い決意が宿っていた。彼女はまっすぐバルドを見つめ、迷いのない声で告げた。


「本日は、父の命により内密で遺跡の調査に来ています。あなた達を伴って行動するとグラン王国にあらぬ疑いをかけられる可能性があります。あなた達には砦の警護の任の継続と、私たちの行先の秘匿を命令します」


 バルドは驚きを隠せない様子でユリアに尋ねる。彼の顔には、突然の命令への困惑がはっきりと浮かんでいた。彼は身を乗り出すようにして、必死に訴えかけた。


「し、しかし……ユリア様達だけであの遺跡に向かうのは危険では?」


 ユリアはレリュートにちらりと視線を向け、柔らかく微笑んだ。その視線には、レリュートへの揺るぎない信頼が込められていた。彼女はバルドに向き直り、きっぱりと言い放った。


「護衛にはレリュートさんが居ますので大丈夫です」


 バルドはちらりとレリュートを見る。彼の表情は複雑で、ユリアの言葉を受け入れがたい様子だった。彼は困惑したように眉を寄せ、別の提案を口にした。


「そ、それならば彼だけで調査に向かわせてはいかがでしょうか? ユリア様が出向くには危険だと思います」


 ユリアは毅然とした態度で自分の意思を伝えた。その言葉には、一切の揺らぎがなかった。彼女は静かに首を振り、バルドの目をしっかりと見つめて言った。


「私にしかできないことがあるのです。彼はそのための護衛。これも秘密でお願いします」


 バルドは深々と頭を下げた。彼の言葉には、ユリアへの忠誠と、レリュートへの信頼が込められていた。彼は諦めたように息を吐き、しかしその声には敬意が滲んでいた。


「……承知しました。道中、どうぞお気をつけください。レグナス殿、ユリア様の御身をどうかよろしくお願いする」


 レリュートはバルドと視線を合わせ、力強く頷いた。その表情は、バルドの信頼に応えようとする決意に満ちていた。彼は静かに立ち上がり、頭を下げた。


「本日は、お忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました。皆さまの忠誠心と領地を守る強い意志を感じることができ、大変心強く思いました。父にも、こちらの様子を詳しく伝えたいと思います」


 バルドは感激した様子で再び敬礼をした。その顔には、ユリアへの深い感謝と尊敬の念が浮かんでいた。彼は胸に手を当て、感極まったように呟いた。


「ユリア様、過分なお言葉、恐縮至極に存じます。わたくしたちは、グナイティキ公爵家のために、命を懸けて戦う所存でございます」


 挨拶を終えたレリュート、ユリア、ティーユは、バルドに見送られながら砦を後にした。樹海の緑に包まれながら、それぞれの胸には、領邦軍の頼もしさと、迫り来る動乱の予感が去来していた。彼らの足取りは、新たな冒険へと向かうように、軽やかだった。

続きのエピソードをカクヨムの方で連載しています。


よかったらそちらの方でも読んでいただけると幸いです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882746106

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