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婚約破棄された悪役令嬢ですが、処刑を回避するために最強魔女になったら国の上層部が震え出しました  作者: 朝陽 澄
第2部:最強魔女アリステリアと、“世界”の真相 ――断罪ゲーム、その本当の終幕へ
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第1話:予兆

世界の檻を壊し、“断罪”を拒んだ最強の魔女。

だが、それはただの“シナリオ逸脱”だった。

本当の破滅は、もっと深く、もっと静かに忍び寄っていた。


これは、誰にも裁かれぬ存在となった魔女が、

“世界の構造そのもの”に抗う物語の始まり。

夜明けの空が、不自然に赤かった。


 王都から遠く離れた山岳地帯、魔女の塔。かつて私が“亡命”して、研究に引きこもっていた場所だ。今はただの拠点の一つにすぎないけれど、それでも魔力の流れを見るには、ここがいちばん都合がいい。


「……魔素濃度、上昇値が規格外。しかも、方向性が逆?」


 空に浮かべた魔術式が、警告を鳴らしている。魔力の流れが“外から内へ”と逆流しているのだ。自然界ではありえない現象。


 まるで、世界そのものが“圧縮”されていくような――。


「アリステリア様、これは……」

 助手の一人、ベレッタが蒼白な顔で私に報告書を差し出す。元・王立魔術研究院の天才少女。今は私の研究グループの一員だ。


「この現象、近い領域だけじゃありません。

 全大陸で、“魔力の歪み”が観測されています。しかも、数日前から――共通のタイミングで」


 私は目を細めた。

 数日前。それは、私が“世界の中心で自由を宣言した日”だった。


 ――偶然とは、思えない。


「……やっぱり、“何か”が動き始めたのね」


 


 私は塔の最上階に登ると、空間魔術で王都方面を視た。通常は見えないはずの王都上空に、かすかな“ヒビ”のような歪みがある。


 裂け目。あるいは、世界そのものの亀裂。


 


 そのとき、背後に現れた黒髪の少年が、静かに言った。


「アリステリア様。ご報告を。北方辺境の“消えた村”の調査が完了しました」


「……消えた?」


「はい。文字通り、村ごと消滅。地図にも、記録にも痕跡が残っていませんでした」


 私はゆっくりと振り返る。少年の名はユアン=クロウリィ。私が拾った魔術師の卵で、記憶喪失の青年。だが最近、彼の周囲で“存在の書き換え”の兆候が確認されていた。


「ユアン。あなた自身は、何か思い出してきてる?」


 彼はしばらく沈黙し――ぽつりと呟いた。


「……あの村には、“もう一人のあなた”がいた気がします」


 ――その瞬間、私は確信した。


 


 この世界は、まだ終わっていない。


 いや、私は断罪ルートを回避しただけで、“第二の破滅”は進行していたのだ。


 そしてそれは、かつての乙女ゲームの“隠しルート”──

 プレイヤーすら知らなかった、**“裏の断罪ルート”**の発動に他ならない。


 


「おもしろいじゃない。だったら――」


 私は指を鳴らし、空中に新たな術式を走らせた。


「世界の底を暴きにいきましょうか。“最強魔女”として」


 この世界を覆う“シナリオ”に抗うために。


 私は、もう一度、立ち上がる。

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