第6話:断罪に関わった貴族たちが一列に並び、謝罪する場を開くとかいう茶番を見せられているのだけど。
王都の中心にある大広間――「栄光の間」。
かつては王族の即位式や国賓との会談が行われていた格式高き場所。
その壇上に、ズラリと並んだ貴族たちが、揃って頭を垂れていた。
「このたびの婚約破棄および断罪劇につきまして……我々の見識不足と偏見により、
グランツ令嬢――いえ、“魔女アリステリア様”に多大なる不快とご迷惑をおかけしたこと、心よりお詫び申し上げます」
読み上げる声が震えているのは、恐怖のせいか、羞恥のせいか。
きっと両方だろう。
「よろしい」
私は観覧席にふんぞり返って座っていた。
隣にはリーネ=ラグヴァリエル、魔族の王。
さらに、なぜか“自主的についてきた”元ヒロインのセリーヌまで、ちゃっかりお茶を飲んでいる。
「……ほんとに、やるとは思わなかったわ」
「国王陛下自らが承認した以上、もはや国家行事ですね」
「うう……私、なんでここにいるのかしら……」
セリーヌは涙目でテーブルに突っ伏していた。
ちなみに、彼女も軽い謝罪文を読み上げさせられた。「悪意はなかったが空気を読まなかった」とのこと。
貴族たちの謝罪が終わると、壇上にもう一人、重たい足取りで歩み出た人物がいた。
「グランツ令嬢……いや、アリステリア=グランツ殿」
国王その人だった。
「我が王国は、あなたを……かつて、愚かにも“魔女”として断罪しようとした。
今、それがどれだけ愚かであったか、身を以て知った。
ゆえに私は、貴女に“栄誉爵位”を与えたい。王国を守る魔術の守護者、“至高魔女”の称号を──」
「却下」
「……え?」
私は即座に言い放った。
「そんなものいらないわ。肩書きよりも、私は“自由”が欲しいの。
二度と、王国の命令や貴族社会の常識で私を縛らないこと。……それが、私の望みよ」
国王は沈黙し、やがて小さくうなずいた。
「……わかった。その望み、叶えよう。貴女は、王国史上初の“独立特権者”として扱う。
誰も、貴女の行動に口出しはできない」
「交渉成立ね」
その夜。
広場で開かれた“和平と謝罪の式典”は、異例尽くしだった。
王族が下座で頭を下げ、貴族が一般市民に頭を下げる。
そして私は、式典後の記者会見で最後にこう述べた。
「かつて私は、悪役令嬢として断罪される運命にあった。
でも、抗った結果、こうして世界の中心に立っている。
言いたいのは一つだけ。“誰かに決められたシナリオ”なんて、燃やしてしまえばいいってことよ」
その発言は、翌朝には全国の新聞の一面を飾った。
“魔女様、王国に勝利す”
“前代未聞の土下座パレード、各国外交官が呆然”
“最強美少女、自由を謳う”
私の背にはもう、檻も鎖もない。
あるのは、力と、選択と、ちょっとした紅茶の香りだけ。
断罪のシナリオは終わった。
ここからは、私の物語だ。
この作品をここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
「婚約破棄」「悪役令嬢」「ざまぁ」「転生」――
一見テンプレな素材たちを、
“自力で世界を乗り越えた女の子”として再構築したいという思いから、この物語は始まりました。
アリステリアはただのざまぁ令嬢ではありません。
“正しさ”や“勝利”すらどうでもいい、“自分の人生を自分で選ぶ”という信念の体現者です。
そして、そんな彼女の物語はここで一度幕を下ろしますが、
この先には――まだまだ彼女を中心とした、より大きな波乱と真相が待っています。
人気があれば、第二部では、
・転生した世界=乙女ゲームの構造の本質
・“第二の破滅ルート”の正体
・アリステリアの力の核心(なぜ最強なのか)
などが明かされていく予定です。
読者の皆様とまたお会いできる日を、楽しみにしております!
──アリステリアと紅茶を飲みながら。