第1話:婚約破棄されました。なので引きこもって魔女になります──それは、前世でも見た光景だった。
「婚約破棄です。君のような傲慢な女性とは、もう耐えられない」
王太子アレクシスの冷たい声が、社交会場に響き渡る。
周囲の貴族たちは固唾を飲み、断罪の瞬間を見守っていた。
(あ、これ──)
私は思い出した。
自分が転生していたこの世界が、かつて前世で遊んでいた乙女ゲームの世界だったことを。
この侯爵令嬢・アリステリア=グランツは、主人公の恋路を邪魔する“悪役令嬢”ポジション。
そして、婚約破棄されたあとは魔女として断罪され、処刑される運命にある。
──冗談じゃない。
私は悪役でも、死にたくはない。
「……そう、ですか。わかりました」
私は静かに頭を下げた。
動揺するどころか、むしろ内心ではガッツポーズだ。
(よし……これで貴族社会から逃げられる。あとは……)
私は社交界から離れ、辺境領に引きこもった。
「よし、魔法陣の第七層、展開成功。次は中位魔術の並列詠唱実験ね」
──三年後。
私は森に囲まれたグランツ領の古城にて、魔術の研究に明け暮れていた。
誰にも会わず、書物と古代文献を読み漁り、魔力回路を鍛錬し続ける日々。
結果。
「ふーん、人の意識って操作できるのね」
「魂って、再構築できるのね」
「……世界って、けっこう単純なのね」
気づけば、私は“禁術”すら使いこなすようになっていた。
一方その頃、王都では。
「な、なんだこれは……! 国中の魔力測定器が、一斉に爆発した……!」
「観測値、……異常。いや、規格外……?」
「王太子殿下! どうやらグランツ領方面に……何かがいるようです!」
「グ、グランツ領? あの婚約破棄した令嬢の……?」
王国中がざわつき始めたのは、私がちょっと調子に乗って空間転移魔法を実験した直後のことだった。
私にとっては“ちょっと試しただけ”。
でも、世界にとっては“大異変”だったらしい。
「処刑を回避するために魔女になっただけなんだけど……なにか?」
世界中が私に震え出すなか、私は今日も研究ノートに魔法式を走らせていた。
だって、生き延びるには、最強になるしかないじゃない。