【第2話】「迷いの村」
信じることに意味はあるのか。
答えを求めて、ひとりの青年は歩き出す。
これは、壊すことでしか進めなかった者の旅の記録。
カイはただ、走り続けていた。
見慣れぬ大地を踏みしめる感触、足元の土が心地よく感じられる一方で、どこか不安な気持ちも胸に広がっていく。
彼が今、どこに向かっているのか。それさえも分からない。ただ、目の前に現れた小さな集落に向かって進んでいた。
村の建物は、木造で素朴なもので、どこか古びた感じが漂っていた。
屋根の上に生えた苔が時を感じさせ、まるでこの村の歴史そのものが刻まれているようだった。
村人たちの姿は見えなかったが、煙突から白い煙が立ち昇っているのが見え、どうやら人々が生活していることは確かだった。
「……誰か、いるのか?」
カイは立ち止まり、周囲を見渡す。
村の中心にある広場には、古びた井戸があり、風に揺れる草がほのかに動いている。
辺りは静かで、まるで時間が止まったような感覚に包まれていた。
しかし、どこか不穏な空気も漂っている。村は荒廃しているような印象を受け、しばらく様子を見ていたが、恐れずに歩き出すことに決めた。
足を踏み入れた瞬間、村の中に溢れていた静けさが、重苦しく感じられる。
どこからともなく、視線を感じるような気がして、カイは背筋を伸ばした。
「……すみません、誰かいますか?」
声をかけると、かすかな足音が遠くから近づいてきた。
目の前に現れたのは、年老いた男だった。
その顔には深いしわが刻まれ、黒い服を着ており、少し驚いたようにカイを見つめている。
「おや、何か用か?」
男の声は低く、やや冷たく感じた。
その目には警戒の色が浮かんでおり、カイの姿をじっと見つめている。
「私は……どこかで休ませてもらえませんか? 道に迷ってしまって。」
カイは必死に、平静を保ちながら言った。
だが、男の表情には変化がなかった。
「道に迷った? ここに来る者なんて、珍しいことだ。迷うってことは、余程のことだな。」
男は言うと、やや首をかしげて、カイに歩み寄る。
その顔に一瞬、何かを隠すような怪しい感情が浮かんだが、それもすぐに消えた。
「まあ、いい。少しだけ休んで行きなさい。ただし、夜になる前に立ち去ることだ。」
男はあっさりと答え、カイに手を差し伸べる。
カイは驚いたが、ありがたく受け取って、男の後に続いた。
男が案内するのは、村の外れにある小さな家だった。
家の中には質素な家具が並べられ、食料の香りが漂っている。
火鉢の前に座ると、男は黙って食事を準備し始めた。
「ここで休むといい。夜の村は、少し変わったところだからな。」
男はそう言って、何かを意図しているようだったが、カイはその言葉を深く考えないようにした。
今は、食事と休息を優先すべきだと感じた。
しばらくして、男が用意した食事を口にした。
それは簡素でありながら、体に染み込むような温かさを感じた。
それを飲み込みながら、カイは何度か男の顔を見た。
「……あなたは、この村の人ですか?」
問いかけると、男はやや気まずそうに目を逸らした。
「俺はな、昔からこの村に住んでいる。ただ、最近は……あまり村に関わる者もいなくなったな。」
男の言葉は少し曖昧で、何かを避けているような印象を与えた。
カイは、それ以上質問を続けるのをためらった。
しかし、心のどこかで、この村に何か不穏な空気が漂っていることを感じ取っていた。
男が食事を終えると、突然その声が変わった。
「夜には、絶対に外に出るな。」
その言葉には、カイの背筋を凍らせるような冷たさがあった。
何か重大なことが隠されている——そう直感した。
「……なぜ?」
カイは思わず声を漏らしたが、男はそれには答えなかった。
ただ、言葉を続ける。
「この村に来る者は、みんな知っている。日が暮れた後に起きることを。」
男は、次第に口を閉ざし、ただ静かに火鉢の火を見つめていた。
初めての小説執筆で、不安もありましたが全力で書きました。
この物語が、誰かの心に少しでも残れば嬉しいです。