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Discordia(ディスコルディア)  作者: カクテキタナカ
第一章「はじまりの否定」
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【第1話】「目覚めと風の音」

信じることに意味はあるのか。

答えを求めて、ひとりの青年は歩き出す。

これは、壊すことでしか進めなかった者の旅の記録。

 ——風が吹いていた。


 草の匂いを含んだ柔らかな風が頬を撫でる。

 遠くで鳥のような鳴き声が響いていたが、それはどこか歪で、この世界の生き物ではないように思えた。


 カイは、目を開けた。


 真っ青な空が広がっていた。白い雲がゆっくりと流れ、広大な草原が視界いっぱいに揺れている。

 そのどれもが現実とは思えないほど美しくて、同時に、現実離れしていた。


「……ここが、“アルシオン”……か」


 小さく呟いた自分の声が、やけに鮮明に耳に残った。

 そう、これは異世界だ。

 死後、あの白銀の髪を持つ女神と出会い、話を聞かされて知っていた。

 転生させられたのは、この“アルシオン”という世界だ。


 頭の中には、女神から与えられた最低限の知識がある。

 この世界には人間族、魔族、亜人族がいて、長い間戦乱を繰り返してきたこと。

 この世界には“魔力”というエネルギーが流れていて、魔法や特殊な技を生み出す源になっていること。

 そして、“英雄”と呼ばれる力を持つ者が、過去に何度も世界を救ってきたこと。


 ——それでも、カイにとっては、これが夢のように思える。

 その事実だけが、どこか突飛で現実感を欠いていた。


(こんな世界で、俺は何をすればいいんだ……?)


 死ぬ間際、あの女神がどんな言葉をかけてくれたのか覚えている。

 彼女は、カイにこの世界での“新しい人生”を与えようとした。

 しかし、その言葉の意味を実感することは、今のカイにはできなかった。


 彼女の言葉を思い出すことはできる——『信じる心が力になる世界だよ。君のような者にこそ、この世界を見せたかった』。

 その言葉の意味も、今はよくわからない。


 ——だが、こうして目を覚ました今、少なくとも一つ確かなことがある。


(少なくとも、ここはあの地獄じゃない)


 過去に自分がいた世界。

 家族に疎まれ、誰にも必要とされなかったあの日々。

 信じたところで裏切られる。傷つくばかり。

 それが、カイにとっての「現実」だった。


 そして今、こうして異世界に転生した。

 ここで何をするのか、どこに行くのか、それすら分からない。

 ただ一つ言えるのは、ここではもう、誰にも裏切られることはないということだ。


「……なんて、言ってもわけがわからないな」


 呟いた言葉は、風に溶けていった。

 ふと、ポケットを探ると、手が何か固いものに触れた。

 それは小さな短剣——もしかすると、女神が何かしらの役立つ道具として与えてくれたのかもしれないが、今はその使い道すら分からなかった。


(……とりあえず、どこに行けばいいんだ?)


 目の前に広がるのは無限の草原。

 遠くには、いくつかの木々が見えるだけ。


 他に頼れるものは何もない。


 しばらくその場に座り込んで、風を感じる。

 まるで何もかもがリセットされたような感覚。

 だが、そのリセットされた世界で自分が何をすべきかが分からない。


 そんな思考がぐるぐると回り始めたその時、ふと、遠くに動く影を見つけた。

 黒い影がいくつも集まり、こちらに向かってくる。その動きは人間のそれとは違って、鋭さを感じる。


「……何だ?」


 心臓がわずかに高鳴り、カイは反射的に立ち上がる。

 周囲には何もない。ただの草原だ。

 それでも、影は確かに動いている。


(もしや、魔物か?)


 この世界には魔物がいるという話は聞いていた。

 しかし、どうやって戦うのかも、どうすれば良いのかも、カイにはわからない。

 焦る気持ちを抑えきれず、足を動かす。


 とにかく、逃げるしかない。

 今の自分には何もないのだから。


 そんな思いを抱きながら、カイは草原を走り出した。

 逃げることしか考えられないその時、目の前に村のような小さな集落の影が見えた。


(あれは——?)


 少しほっとした気持ちがよぎる。

 村が近くにあれば、誰かと接触できるかもしれない。

 せめて、何か情報が得られるかもしれない。


 足を速めるカイ。

 その先に待ち受けているものが何なのか、今はまだわからない。


 ただひたすら、進むしかなかった。

 新しい世界で、カイの物語は、今まさに始まろうとしていた。

初めての小説執筆で、不安もありましたが全力で書きました。

この物語が、誰かの心に少しでも残れば嬉しいです。

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